被疑者の身柄拘束 (逮捕・勾留)

2012年度冬学期「刑事訴訟法」5
逮捕・勾留(2)
ポイント
○一罪一勾留の原則
・趣旨
・常習一罪等の集合犯,包括一罪,科刑上一罪への
適用のあり方
○再逮捕・再勾留の可否
・許される場合の要件
・先行する逮捕・勾留が違法な場合
○別件逮捕と余罪の取調べ
・両者の問題の区別
・第一次(別件)逮捕・勾留の適法性の判断基準
・第一次逮捕に引き続く第二次(本件)逮捕・勾留の適法性
・余罪取調べの限界
一罪一勾留の原則(1)
○一罪の範囲では一つの勾留しか許されない(その一部を分けて,各
部分ごとに勾留を行うことは許されない)。
*勾留の個数の問題。回数の問題ではない。
○その理由・法的根拠
・形式的根拠
刑訴法60条1項「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」
同64条1項「罪名,公訴事実の要旨」の勾留状への記載
・実質的理由
・身柄拘束期間の法定
⇒事実をこま切れにして,その部分ごとに身柄拘束を認めると回避が
可能となり,身柄拘束が長期化⇒それを防ぐ
・一罪=一個の刑罰権の対象⇒一個の手続で一体として同時に処理す
べき⇒身柄拘束についても
一罪一勾留の原則(2):常習一罪等の場合
○常習一罪等・・・本来個々の犯罪を構成する事実の集合,科
刑・処罰の上で一体的な扱いをするものという見方
⇒身柄拘束は,個々の犯罪事実ごとに理由・必要を判定して行うべき
・・・「事実単位説」
*ただし,当初から判明している数個の事実をことさらに切り離して,
身柄拘束を繰り返すことは不当(福岡高決昭和42・3・24高刑
集20・2・114)
○常習一罪等も一罪⇒一個の手続で同時に処理すること想定
⇒身柄拘束についても妥当・・・「実体法上一罪説」
⇒同時処理可能な限り,一つの身柄拘束しか許されない(百選19)
*同時処理不可能なものについては例外とする余地
百選19の事案
初
め
5
・
19
①
賭
博
②
賭
博
49
・
1
・
4
2
・
2 3
・ 14
1
②
の
事
実
判
明
(
被
疑
者
未
判
明
)
③
賭
博
-
48
・
5
④
3
件
の
賭
博
2
・
18
④
に
つ
き
逮
捕
(
勾
留
)
3
・
7
4
・
1
4
・
12
4
・
27
④
に
つ
き
常
習
賭
博
等
で
起
訴
保
釈
許
可
③
の
訴
因
追
加
①②
のに
訴つ
因き
追逮
加捕
(
勾
留
)
福岡高決昭和42年3月24日・高刑集20巻2号114頁の事案
41
・
11
・
4
①
の
犯
行
11
・
14
12
・
23
①
の
起
訴
(
常
習
傷
害
)
保
釈
42
・
1
・
31
②
の
犯
行
・
現
行
犯
逮
捕
2
・
3
2
・
10
②
に
つ
き
勾
留
(
常
習
傷
害
)
②
の
訴
因
追
加
再逮捕・再勾留
○再逮捕・再勾留の可否
・法令上の根拠(逮捕)
刑訴法199条3項
刑訴規則142条1項8号
⇒勾留についても可能といえるか?
○再逮捕・再勾留の制限
・その理由・根拠
身柄拘束期間の法定
⇒身柄拘束の蒸し返しを許すことになると無意味化
一罪一勾留の原則と再逮捕・再勾留の制限との関係
○ある被疑事実についての逮捕・勾留の終了後に,その被疑事実と一罪の
関係にある事実について逮捕・勾留を行おうとする場合,同一の犯罪事実
についての再度の逮捕・勾留であるとも見える ⇒再逮捕・再勾留の問題
と混同し易い。
○一罪・一勾留の原則と再逮捕・再勾留の制限とは,
・身柄拘束期間制限の趣旨を確保するため,同一の被疑事実については
原則として一つ(1個・1回)の逮捕・勾留しか許さないものとするという
点で思想的に共通・連関する。
・しかし,論理的には,一罪一勾留の原則が先行する問題であり,問題解
決の仕方も異なる。
一罪一勾留の原則と再逮捕・再勾留の制限との関係
(承前)
①まず,一罪一勾留の原則との関係で,
後続の逮捕・勾留の理由である被疑事実が先行する逮捕・勾留の理由
とされた被疑事実と同一であるかどうかが問題となる。
⇒常習一罪の場合
・事実単位説 ⇒身柄拘束期間の制限の回避とならない限り,後
続の逮捕・勾留可
・実体法一罪説 ⇒同時処理不能の場合は後続の逮捕・勾留可
不可の場合
②次に,再逮捕・再勾留の制限との関係で,
例外的に再逮捕・再勾留が許される場合に当たらないかどうかが問題
となる⇒身柄拘束の不当な蒸し返しにならないかどうか
別件逮捕・勾留と余罪の取調べをめぐる論点
①別件を理由とする逮捕・勾留の適法性
②その逮捕・勾留中の,本件についての取調べの適法性
③その逮捕・勾留に引き続く,本件を理由とする逮捕・勾留
の適法性
④それぞれの逮捕・勾留中,及び取調べによって得られた
自白の証拠能力
別件逮捕・勾留の適法性の判定(1)
○別件基準説
逮捕・勾留の適法性
=別件(逮捕の理由とされている事件)について逮捕・
勾留の要件を充たしていたか否かで判定
本件との関係
=余罪取調べの限界を超えているか否かで判定
別件逮捕・勾留の適法性の判定(2)
○本件基準説
逮捕・勾留の適法性
=当の逮捕・勾留が実質的には本件についての身柄拘
束だと認められるか否か⇒認められる場合は違法
・逮捕時点までの捜査の状況
主な判断要素
・別件と本件の関係,軽重
・逮捕後の取調べ状況
⇒捜査官の意図を推認 or 客観的評価?
*余罪の取調べの限界の問題は別個
別件逮捕・勾留の適法性の判定(3)
○修正された別件基準説
逮捕・勾留の適法性
=別件(逮捕の理由とされている事件)について逮捕・
勾留の要件を充たしていたか否かで判定
逮捕後の取調べ状況をも考慮して,そもそも別件
について逮捕の必要性があったか否かを逆推認
本件との関係=余罪取調べの限界を超えているか否かで判定
別件逮捕・勾留の適法性の判定(3)
○川出説
別件について起訴・不起訴を決定することができるだけの捜
査を行うのに合理的に必要な期間の身柄拘束は適法
それ以降の身柄拘束は違法
余罪取調べの限界の判定方式
〔逮捕・勾留事件〕
事件単位の原則
取調受忍義務肯定
任意処分性の確保
〈強制捜査的取調べか否か〉
?
取調べの強制処分性
取調受忍義務否定
〔余罪事件〕
(旧田宮説)
身柄拘束期間の趣旨
令状主義潜脱の有無
○原則として不可
○逮捕・勾留事件の捜
査の一環or 被疑者
に利益な場合は例外
(川出説)
限定なし
(平野説)
参考文献
①村瀬均「逮捕の可否」
平野龍一=松尾浩也編『新実例刑事訴訟法[Ⅰ]』
131頁
②小田健司「常習一罪の各部分についての逮捕・勾留
の可否」『増補令状基本問題(上)』200頁
③小林充「いわゆる別件逮捕・勾留の適否」
『増補令状基本問題(上)』211頁
〔さらに深く学習したいときは〕
④川出敏裕『別件逮捕・勾留の研究』(1998年)