心肺蘇生と血液ガス動態 諏訪邦夫 2001年10月日本蘇生学会 蘇生における血液ガスと 酸塩基平衡:テーマ • 蘇生と二酸化炭素産生とPco2 – 二酸化炭素呼出は血流の指標 – アシドーシスで二酸化炭素産生が増す?! • 蘇生に重そうを投与するか • 蘇生時のカプノグラムが血流の指標に なる理由 蘇生とPvco2 • 事実:心蘇生時にPvco2 が高値になる – 心蘇生・ショック・極端な低心拍出量時 – 個々の臓器の虚血でも • 最初の記載は1970年前後 • 1990年頃から研究の対象に • 説明が不十分 組織の二酸化炭素量は多い • 組織の二酸化炭素量は多い • 大部分は重炭酸イオンとして • 24 mEq/L⇔53.28 ml/dl – (註:赤血球の中はやや少ない) • 通常はあまり意識していないが・・・・ 酸素と二酸化炭素の含量 動脈血 組織液 総量 (単位 ml/dl) 酸素 20 二酸化炭素 48 0.2 55 1 L 50 L Vco2(組織)≠Vco2(肺) • 降水量と川の流れと ダムなし→降水量=河川流量 酸素はこれに近い:ダムは1L ダムあり→降水量≠河川流量 二酸化炭素はこちら:ダムは50L 降水量(酸素消費量、二酸化炭素産生量) は200~250ml/分 Vco2(組織)≠Vco2(肺) • 組織の二酸化炭素産生と肺の二酸化炭 素呼出は「短時間には」一致しない • 二酸化炭素の「ダム」は50~100L • 二酸化炭素産生は200ml/分 – 時定数は6~10時間と長い • アシドーシスによる二酸化炭素産生は 「ダムから放流」のようなもの 蘇生とPvco2 上昇: 三つのメカニズム • 動静脈Cco2 (含量)較差の拡大 – 二酸化炭素産生=Q(Cvco2 - Caco2 ) • みかけの二酸化炭素産生の増加 – HLA+HCO3- →CO2 +LA- (HLA 乳酸) • 血液の二酸化炭素運搬能の低下 – ⊿Cco2/⊿Pco2 が小さくなる 蘇生とPco2 上昇: メカニズムの1. • 動静脈Cco2(含量)較差の拡大 – 二酸化炭素産生=Q(Cvco2 - Caco2 ) • 正常値:Caco2 48ml/dl – – – – – Cvco2 52 ml/dl 較差=4 ⊿Cco2/⊿Pco2 =4/6 心拍出量半減で,Cvco2 は52→56 つまり較差=8 Pvco2 46→52に 蘇生とPco2 上昇: メカニズムの2. • みかけの二酸化炭素産生の増加 HLA+HCO3- →CO2 +LAつまり H+ +HCO3- →H2O+ CO2 • アシド-シスの発生は細胞内 – 細胞膜をH+は通りにくCO2は通りやすい • 膨大なCO2が産生される – [HCO3-]貯蔵量多く,H+ 産生量が多い 蘇生とPco2 上昇 メカニズムの3. • 血液の二酸化炭素運搬能の低下 – ⊿Cco2/⊿Pco2 が小さくなる – 正常値は4/6 – アシド-シスで平坦化 アシドーシスによる二酸化炭素解離曲線の変化 70 Cco2 ml/100ml 60 50 40 30 Cco2 BE=0 Cco2 BE=-10 Cco2 BE=-20 20 10 0 0 20 40 Pco2 mmHg 60 80 蘇生とPco2 上昇: 対応と治療 • 診断への利用:状況により有用 – 虚血の直接の指標に? • 治療への応用:簡単明瞭な解答なし – アシド-シスの補正 – 過換気で代償するか? » データは? » 臓器によって異なり過ぎる 蘇生に重そうを投与するか • 歴史 • 従来の理論とメカニズム • 新しい議論 • いずれの理論も根拠は薄弱? • 「重そう投与が無効」のデータは多い • 仮説 蘇生に重そう投与は無効? アシド-シス仮説 • 重そうでアシド-シスが起るか? • 一部臓器のアシド-シスを全身に広げ る • 水素イオンのままならアシド-シスは 特定組織に限定されているが • 重そうで二酸化炭素に変わると,全身 のアシド-シスを招く 蘇生に重そう投与 アシドーシス仮説の矛盾点 • ハイポキシア組織は血流が乏しい • ノルモシキア組織は血流が豊か • 「血流の乏しい組織」の影響が「血流の豊 か」な組織に及ぶか? • 重そう→CO2には,H+ が必要 • CO2 は組織に戻るよりも肺から出る? – これは正しくない(一部しか呼出されない) 蘇生に重そう投与は無効? アルカローシス仮説 • 重そうによるアルカローシスの障害 • Ca++ と蛋白の結合はpH依存性 – 心筋収縮の悪化と末梢血管の収縮攣縮 • HPV(低酸素肺血管収縮反応)悪化→Pao2 低下 • 酸素とヘモグロビンの親和性増→末梢 の酸素放出が悪化 • HFK(ヘキソフルクトカイネース)の活性異常亢進 重そうの問題は未解決 • 動物丸ごとの実験データは多い • それ以上メカニズムに踏み込んだ – データは乏しい – 理論も明確でない • この点は「重そうを投与せよ」側にも 「投与するな」側にも当てはまる • 異なるアプローチの理論と実験が必要 蘇生時カプノグラムは 血流の指標になる • 一般にはPETco2 と心拍出量は平行しな い・・・・その理由 • 蘇生時にはPETco2 と心拍出量は平行す る・・・・その理由 • 心拍出量が極端に下がると、PETco2 が 心拍出量依存性になる 心拍出量の極端な低下で、 PETco2 が心拍出量に依存する • 心拍出量の極端な低下で、PETco2 が心 拍出量に依存するメカニズム • PETco2 が心拍出量に依存する心拍出量 のレベルは? – 5 ml/分 – 50 ml/分 – 500 ml/分 – 2000 ml/分 ? ? ? ? PETco2 が心拍出量に依存する 心拍出量のレベルは? 血流(ml/分) CO2流(ml/分) PETco2(mmHg) 100 50 0.1> 500 250 1~2 1000 500 ~5 2000 1000 10~15 3000 1500 20 以上 (Pvco2≒46 として計算、実際はPvco2>>46 なので、PETco2 もこれより高い) 心肺蘇生と血液ガス動態:結論 • 心肺蘇生と血液ガス動態の関連は興味 深い問題があり,一部は未解決である. • 二酸化炭素呼出は血流の指標になる. • 蘇生に重そうが有効でないらしいが,メ カニズムは明確でない. • 蘇生時のカプノグラムは血流を示す.
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