北海道地区数学教育協議会 2014.10.7発行 高校サークルだより117 高校サークル事務局 記念パーティー風景 高校サークル 9 月例会(大通高校) と 高校サークル創立 20 周年記念パーティーが開催されました 2014 年 9 月 6 日(土)、大通高校で 14 名が集まり例会が持たれました。レポート数は 7 本、13:30∼18:00 まで楽しく研究交流することができました。その後、ホテルユニオンへと場所を変え 20 周年記念パーティー が催されました。 パーティーでは一人ひとり全員が短いスピーチをしました。そこからは、それぞれがサークルに集まるこ とを無上の楽しみにしていることが伝わってきました。また、次の 10 年もこのサークルを大切にしていき たいという抱負も語られました。 20 周年記念として、サークルだより集 ver.1 が CD 化され配布されました。このサークルだより集には 20 年間に発行された、サークルだより 1 号から 116 号まですべてが掲載され、20 年間のサークルの足跡が たどれるものです。 このサークルだより集は、さらにパーティーで発言された会員のサークルにかける「思い」などを加え、 ver.2 とし、100 部を作りサークル会員に普及することとしました。また、CD 制作費として、1 部 500 円程 度のカンパをお願いすることとしました。 1 次は、みんなで 合同教育研究全道集会 2014 に参加しましょう 1.期 日 2014年11月8日(土) ・9日(日) 2.会 場 札幌学院大学 3.日 程 11/8(土) 9:45 ∼12:15 テーマ討論 13:30 ∼16:15 分科会 16:35 ∼18:30 教育の夕べ 「憲法改悪と安倍『教育再生』にどう立ち向かうか」 名古屋大学大学院教授 中嶋哲彦 さん 19:00∼ 交流会(新札幌) 11/9(日) 9:30 ∼15:00 分科会 ≪これからのサークル活動予定≫ 2014 12/26・27 冬期研(大通高校) *+++++++++++++++++++++++++++++++++++* 2015 1/ 7・ 8 高校サークル総会・1月例会(大通高校) 2015 3/14・15 高校サークル3月例会(函館工業高校) 2015 6/13・14 高校サークル6月例会(幌加内高校) 9 月例会のレポートの概要 今回のレポートは、次の 6 本でしたが、その内容の概要については、次ページ以降に記載してあります。 以下の目次の後ろの四角で囲まれた番号をクリックすると、その記事の部分にジャンプします。目次に戻る ときは各記事の最後の 目次に戻る をクリックしてください。 ↓ここをクリック 1. 2. 3. 4. 5. 6. 面積図(直積表)で考える展開・因数分解・平方完成 津嶋 正顕 複素数の指導 黒田 正弘 2.1 2.2 数学ガールとの出会い 真鍋 和弘 2.3 対称性の数学 成田 收 2.4 バカロレア 2014 と日本の大学入試 渡邊 勝 「学び」のファシリテーターを目指して 藤岡 希美 2.5 2.6 数学教室原稿「え?これって算数!これでも数学?」 2 レポート概要 1 1.1 面積図(直積表)で考える展開・因数分解・平方完成 津嶋 正顕 函館工業定時制で面積図(直積表)を使って、展開・因数分解・平方完成を指導しました。中学校時代に 展開や因数分解を全く理解できていなかった生徒が、面積図で因数分解をすらすらと解いていく姿が見ら れました。また、2次関数の平方完成もきちんと定着しました。 ※さらにレポートの内容を読む場合は次の枠内の数字をクリックしてください→ 2.1 1.2 複素数の指導 黒田 正弘 数学Ⅱの複素数の授業で虚数が実生活に役立っている例として、電気工学のほか航空工学でもジューコ フスキー変換が利用されていることを話しました。生徒は、航空工学でどのように役立っているかというこ とについて興味を示しました。そこで、今回は、2年生の春休みの先取り学習の際、パソコンでジューコフ スキー変換について説明してみました。しかし、まだ十分な説明とは思われなかったので、今回、新教育課 程の数Ⅲの複素数平面の学習を深めてジューコフスキー変換を理解するためのワークシートを作成しまし た。その紹介です。 ※さらにレポートの内容を読む場合は次の枠内の数字をクリックしてください→ 2.2 1.3 数学ガールとの出会い 真鍋 和弘 真鍋さんは今年の 8 月 9 日に行われた数実研の講演を聞いてきました。講師は公立はこだて未来大学の高 村博之氏でした。高村氏は、今年の福原賞を受賞した人です。演題は「公立はこだて未来大学における数学 の教育と福原賞受賞研究について 」でしたが、その内容の多くは、高村研究室の学生が「数学ガール」につ いての論文を書いたことを通じて、「数学ガール」の著者結城浩氏の公立はこだて未来大学での講演が実現 し、そのことが、今回「数学ガールの誕生」として出版されたことに関連したものだったということです。 真鍋さんは、「数学ガール」の魅力を紹介してくれたと同時に、真鍋さんが育てた数学ガールである英 藍高校の K さんやこれまでに出会った数学ガールである中島さち子さん、そうして今回女性として初めて フィールズ賞を受賞したイラン人数学者ミルザハニさんについて紹介してくれました。 ※さらにレポートの内容を読む場合は次の枠内の数字をクリックしてください→ 2.3 1.4 数学教室原稿「え?これって算数!これでも数学?」対称性の数学 成田 收 今年の岐阜でおこなわれた数教協全国大会に参加した際、数学教室の編集者から、12 月号の企画である 「え?これって算数!これでも数学?」の原稿執筆依頼を受けました。全国大会で私は、数学アラカルトの 分科会の担当をしていました。この分科会の目的は、指導要領に載ってはいないが数学として重要な内容を 高校生や市民に伝えるための数学教育の方法学的研究です。「え?これって数学」は数学アラカルトの分科 3 会の目的そのものと感じ、依頼を引き受けることにしました。今回、その原稿の原案が、できあがりました のでこのサークルの場で検討をお願いしたものです。 内容は、一刀切り、塩の幾何学を扱いながらそこに流れている自然界の対称性に着目するものです。 ※さらにレポートの内容を読む場合は次の枠内の数字をクリックしてください→ 2.4 1.5 バカロレア 2014 と日本の大学入試 渡邊 勝 フランスにおける高等学校卒業試験兼大学入学資格試験である 2014 年バカロレア試験が 6 月に行われま した。渡邊さんは今回この試験の哲学と数学の問題を翻訳して紹介してくれています。また、毎年行われる バカロレア試験の内容の調査から、日本の大学入試との違いを比較調査した上で、これからの日本の大学 入試のあるべき姿について提言しています。 ※さらにレポートの内容を読む場合は次の枠内の数字をクリックしてください→ 2.5 1.6 「学び」のファシリテーターを目指して 藤岡 希美 藤岡さんは今年の 3 月まで高校の数学の教員でしたが、4 月からは今年北大にできたオープンエデュケー ションセンターに勤めています。現在はオープンエデュケーションのシステムの中核となる学習管理システ ムを作成するための Moodle という言語の勉強をしているということです。 今回の藤岡さんの報告で、北大の動きとともに、世界で、無料オンライン授業、MOOC(Massive Open Online Course の頭文字で、巨大でオープンなオンラインの授業)、オープンエデュケーション等の動きが 活発になってきていることがよくわかりました1 。 ※さらにレポートの内容を読む場合は次の枠内の数字をクリックしてください→ 2.6 9 月例会参加者 (近況報告の様子) 1 ところで、以上の内容をご本人に確認したところ、次の指摘を受けましたので、報告します。 ・概要にある Moodle についての説明ですが、言語ではなく教育者が質の高いオンライン学習過程(コース)を作ることを助けるパッ ケージソフトといわれています。 うちのセンター自体が「学内の教員向けにOERを活用した教育・学習支援を行い、OERに関する研究開発を推進すること」を 目的としていますので、Moodle はシステムの中核とまではいかないかと思われます。 4 2 2.1 2.1.1 レポートの内容 面積図(直積表)で考える展開・因数分解・平方完成 津嶋 正顕 展開 はじめに展開を扱います。(x + 6)2 の展開は下 の図のように行います。 すなわち、直積を作るようにかけざんを行い、そ れらをすべてたしたものが (x + 6)2 の展開式にな ります。 2 2 2 したがって、(x + 6) = x + 6x + 6x + 36 = x + 12x + 36 となります。また、2 乗の計算では点線に対し て対称になることにも注意します。 同様に、(a + b + c)2 の展開は下の図のように計算して、 (a + b + c)2 = a2 + b2 + c2 + 2ab + 2bc + 2ca であることがわかります。 2 乗計算ばかりではなく、2 つの因子のかけざんでは同様に計算することができます。 (x + y + 2)(x + y − 2) の展開は、x + y を A とおいて、 (x + y + 2)(x + y − 2) = (A + 2)(A − 2) = A2 − 4 = (x + y)2 − 4 = x2 + 2xy + y 2 − 4 と計算することなどが教科書で紹介されていますが、生徒はこの方法を手順が複雑であるとして嫌う傾向 があります。しかし、直積法によれば、単純な手順の繰り返しであることと、同類項が斜めの点線に対し対 称な位置に来ることから見つけやすい利点があります。 とすれば、図から、(x + y + 2)(x + y − 2) = x2 + 2xy + y 2 − 4 となることが直接読み取れます。 5 2.1.2 因数分解 x2 − 8x + 7 の因数分解を考えます。 点線の位置に x2 と 7 を置きます。すると、直積図の外側の因数のうち、x2 の辺にあたる部分が x,x と決定 します。 7 に対応する辺には、7 , 1 または −7 , −1 の可能性がありますが、直積図の中を埋めて同類項を整理する と、もとの式に一致するのは、−7 , −1 であることがわかります。 したがって、x2 − 8x + 7 = (x − 7)(x − 1) であることがわかります。 x2 + 2xy + y 2 + 3x + 3y + 2 の場合は初めに直積図の斜線部分に x2 ,y 2 ,2 を配置します。すると、直積図 の外側の因数がほぼ自動的に決まります。 最後に、直積図の中を埋めて同類項を整理したとき、もとの式に一致することを確認して、 x2 + 2xy + y 2 + 3x + 3y + 2 = (x + y + 2)(x + y + 1) がわかります。 2.1.3 平方完成 この方法は平方完成にも応用されます。 y = x2 + 6x + 5 を平方完成する方法は次のようなものです。 x2 と 6x を半分にした 3x 二つを下の左の図のように配置します。 すると、中央の図の様に、外側に配置されるのは x と 3 であることがわかります。 このことから、直積図の (D) の位置に配置される数は 9 となりますが、これらをすべてたすともとの式と 4 だけ異なります。 直積図の外側の (E) の部分に −4 をおいてこれらの和を計算するともとの式に等しくなります。(右の図) この右の図から、y = x2 + 6x + 5 は y = (x + 3)2 − 4 と平方完成されることがわかります。 この方法は、誰でも、どんな式でも(2 次式であれば)平方完成ができるという強みを持っています。 6 例えば、係数に分数が現れる場合、すなわち、y = x2 + 3x − 1 の様な例であっても同一手順で平方完成で きます。 − 13 9 の計算は、 とあわせてもとの式の定数項 −1 に等しくなる数として計算してもよいし、 4 4 9 9 9 をいったん − でキャンセルし、もとの式の −1 を戻すので − + (−1) としても計算できます。 4 4 4 ここまでが、レポート内容でしたが、レポートの内容についての議論の中で、さらに、x2 の係数が 1 以 外の数のときも同様であること検討されました。 例えば、y = 3x2 + 8x + 5 の様な場合についても、直積図の (B), (C) の位置には 8x の半分 4x を置けば よいことになります。 ( 4) その後、3x と何をかけると 4x ができるかがわかり、3x + 4 = 3 x + であることが見えるように、4x 3 3 · 4x を 4x = と書き直して扱います。 3 ( 3 · 4 )( 4) 1 すると、同じ手順で上の図ができ、これから、y = 3x2 + 8x + 5 = 3x + x+ − となります 3 3 3 ( ) ( ) ( ) 2 3·4 4 4 1 2 が、 3x + =3 x+ ですから、y = 3x + 8x + 5 = 3 x + − となることがわかります。 3 3 3 3 さらに、この方法は文字係数の場合にも有効で、2 次方程式の根の公式(解の公式)の導出の際にも心理 的負担を軽くすることができます。 y = ax2 + bx + c を平方完成します。(B), (C) に bx の半分 7 bx abx bx を配置し = と変形します。 2 2 2a ( ab )( b ) b2 となるので、y = ax2 + bx + c = ax + x+ − + c となりますが、 2a { 2a } 4a ( ) ( ) 2 2 ab b b b 4ac b2 − 4ac ax + =a x+ で、− +c=− − =− となりますから、 2a 2a 4a 4a 4a 4a ( ) 2 b 2 b − 4ac y = ax2 + bx + c = a x + − であることがわかります。 2a 4a 目次に戻る 2.2 複素数の指導 黒田 正弘 ジューコフスキー変換は、複素数変数の複素数 値関数で f (z) = z + a z で定義されるものです。こ の変換で、原点の近くの点を中心として原点を内 部に含む円上を z が動くとき、w = f (z) として定 義される点が飛行機の翼の断面の形によく似た図 形を表します。 この関数の変換が角度を保つ変換であることな どから、円のまわりの空気の流れを解析すること によって、飛行機の翼のまわりの空気の流れを解 析できるということで、古くからこの変換が航空 工学で使われているということです。 2 5 その形は、a = のジューコフスキー変換において、z が中心 c = − + i で半径 1 の円 z = c + eiθ 13 13 上を動くとき、次のような形になります。 10 13 3 平面 平面 円 2 1.0 1 0.5 -1.0 -0.5 0.5 -3 -2 -1 1 2 3 -0.5 -1 長さ 中心 -2 -3 黒田さんは、このことを伝えるための教材プランとして、ワークシートを作り始めました。 その構造は、 ①複素関数の定義として、複素数 z を複素数 w に対応させるものとし、そのことの理解として、複素数平 面を前面に出し、z 平面の点を w 平面の点に対応させるものと考えることを強調します。 ②複素数の計算の確認。特に、 z1 の計算の確認。 1 ③ w = f (z) = が z 平面の直線を w 平面の円にうつすことを次のように確認します。 z 8 1 1 1 z 平面上の直線 z = 1 + ti , t ∈ R の上の点 1 − i, 1, 1 + i, 1 + i, 1 + i, 1 + 2i が w = f (z) = でどのよ 3 2 z うな点に写るかを w 平面上で確認。 1 ④ w = f (z) = で z = 1 + ti, t ∈ R がどのような図形になるかを計算で確認2 。 z ⑤この結果を、パソコン上のグラフィックで確認。 そうして、 ⑥ジューコフスキー変換 w = f (z) = z + ことを確認3 。 a2 で、z 平面上の原点を中心とする円が w 平面上の楕円になる z という手順になっています。 あと一押し、ジューコフスキー変換で飛行機の翼の断面があらわれる場面の解説は今回はお預けになって しまいました。 次回に期待したいと思います。 目次に戻る 2.3 数学ガールとの出会い 真鍋 和弘 結城浩氏の「数学ガール」が 22 万部も売れているそうです。4 数学書では異例のこだといいます。結城氏 の「数学ガール」シリーズはこれまでに 5 冊出版されています。 5 冊は ①数学ガール(オイラーの数学に取材したもの) 2 冊目からは、一つのテーマを扱ったもので副題が ついていて、 ②数学ガール/フェルマーの最終定理 ③数学ガール/ゲーデルの不完全性定理 ④数学ガール/乱択アルゴリズム ⑤数学ガール/ガロア理論 です。 ①はオイラーの数学の中でも、コンボリューション、カタラン数、分割数、母関数などを扱っています。 ②∼⑤は困難で大きなテーマを扱いながら、読後にある意味の「数学的納得」と著者の独特の世界に浸るこ 1 1 1 − ti 1 − ti 1 −t = = = = + i となるので、w = x + yi とおくと、 z 1 + ti (1 + ti)(1 − ti) 1 + t2 1 + t2 1 + t2 “ ” “ 1 ”2 2 1 −t 1 x= , y= となります。これから、t を消去して整理すると、 x − + y2 = がえられ、t が実数全体を動 1 + t2 1 + t2 2 2 1 1 くとき、w は中心 ( , 0) 半径 の円を描くことがわかります。 2 2 3 今回は、パソコン上のグラフィックスの動きで確認することのみでしたが、複素数の z = reiθ = r(cos θ + i sin θ) の表現と、楕 円の方程式について取り扱う余裕があれば、次のようにして簡単に楕円となることがわかるということです。 “ “ a2 a2 a2 −iθ a2 −iθ a2 ” a2 ” w = x + yi = z + = reiθ + iθ = reiθ + e = reiθ + e = r+ cos θ + i r − sin θ となることから、 z re r r r r “ “ a2 ” x2 a2 ” y2 cos θ , y = r − sin θ したがって、 “ x= r+ ” +“ ” = 1 となり、楕円となることがわかります。 2 2 2 2 r r r+ a r− a 2z = 1 + ti のとき、w = r r 4 「2014 年度日本数学会 出版賞」を受賞した段階で 26 万部ともいわれる。 http://www.softbankcr.co.jp/ja/news/info/2014/0318 002453/ 9 とができる「安堵感」を与えるものとなっています。しかも、その納得が、比喩などではなく、数学を正面 から扱って得られる「納得」になっているところが、この著者の非凡なところです。 真鍋さんは、これらの作品の特質を伝えるために、彼の作品群から 3 カ所の引用をしています。 それらは、ⓐ最近の著作である「数学ガールの誕生 」 から 1.4 数学ガール(2007 年)の章 ⓑ数学ガール(第 1 巻)から 3.1「図書室にて」の章 ⓒ WEB 版数学ガールから「女の子」 です。 ⓐは数学ガール(第 1 巻)がオイラーを特集したものであること、その中で、ゼータ関数や分割数、母関 数などを扱っていることが紹介されています。ⓑでは数学をよく知っている登場人物であるミルカさんが、 回転の数学から加法定理が生まれることを解説する不思議な雰囲気を持った女の子であることを紹介して います。ⓒでは、電車の中で数学書を読む女の子を描写する中で、その数学書に使われているオイラーフォ ント5 の魅力を伝えるものとなっています。 コンボリューションからの抜粋 (一部改変)をオイラーフォントで記述すると次のようになります。 目次に戻る 5 クヌース博士の作った独特の雰囲気を持った数学用フォント 10 2.4 数学教室原稿「え?これって算数!これでも数学?」対称性の数学 成田 收 原稿の内容は、数学教室を読んでもらうことと して、ここでは、対称性を深めて 2 次曲線の成り 立ちを解析することにより、 「一刀切り」と「塩の 幾何学」に通底する数学を切り出すことができる かというテーマについて考えてみます。 外から力を加えると縮んでしまうけれど、力を 弱めるとふくらんでしまう円を考えます。この円 のふくらみを制限する図形が一本の直線 ℓ と、小 さい円 C のとき、その中心の軌跡としてどのよう な図形が現れるでしょう。 押す この間を円が通る 実際にいくつかそのような円を書いてみましょう。中心はどこにあるでしょう。 そう、放物線のような形をした曲線が現れます。 じつは、この曲線は正に放物線であることがわかります。 固定円 C を小さく縮めるのと同時に同じだけ直線 ℓ を下にずらします。 すると、ℓ と C に接していたふくらむ円は中心をずらすことなくそのぶんふくらみます。 そこで、固定円 C を中心の点(この点も C と呼ぶことにします。)とまちがえるほど小さくします。 11 すると、ふくらんだり縮んだりする円は、点 C と直線 ℓ に接する円となります。この円の中心が描く図 形は、「定直線と定点からの距離が等しい点の軌跡」となり、放物線であることがわかります。 このことは、次のようにしてもわかります。 C から ℓ に垂線をおろし、その垂線の足を H とし CH の中点を原点 O として、座標を入れます。C(0, 14 ) と し、ふくらむ円の中心を (x, y) とします。 √ すると、(点と中心の距離) = (直線と中心の距離) から x2 + (y − 41 )2 = y + 1 4 となります。これを 2 乗し てルートをはずし整頓します。 (√ ( 1 )2 )2 x2 + y − 4 ( 1 )2 2 x + y− 4 ( 1 )2 1 2 2 x +y − y+ 2 4 1 2 x − y 2 x2 ( = = = = = 1 )2 4 ( 1 )2 y+ 4 ( 1 )2 1 2 y + y+ 2 4 1 y 2 y y+ となります。 この式は y = x2 であり、放物線の式です。 これと、同じ操作で、互いに外部にある、大きさの異なる 2 つの定円に接して動く円の中心は双曲線に なり、大きい円が小さい円を含んでいるとき、この二つの定円に接して動く円の中心は楕円になることがわ かります。 つまり、「外から力を加えると縮んでしまうけれど、力を弱めるとふくらんでしまう円」が「一刀切り」 と「塩の幾何学」に通底する数学を切り出しているかということが問題です。 目次に戻る 12 バカロレア 2014 と日本の大学入試 渡邊 勝 2.5 渡邊さんは、今回 2014 年に行われたフランスの バカロレア試験の数学の問題と解答を翻訳して紹 介してくれました。 フランスのバカロレア試験は、一般バカロレア、 専門バカロレア、工業バカロレアに別れていて、そ のうちの一般バカロレアも、理系、文系、経済・社 会系と分野別に分かれています。今回紹介してく れたのは、理系のものです。すべてのバカロレア 試験に哲学の問題が出題され、今回の理系のバカ ロレアには次の問題が出題されています。 ①我々は幸せになるために生きているのか? ②芸術家はその作品の主人なのか? ③デカルト『精神指導の規則』の抜粋の解説 このように、卒業試験に必ず哲学の問題が出るということですから、フランスではすべての高校生が、こ のような哲学を議論する教育を受けていることになります。 今年の数学の問題は、4 題で解析、確率統計、複素数、幾何、行列による解析から出題されています。 ∫1 問題1(解析)は fn (x) = x + e−nx および、In = 0 fn (x)dx を問題にし、In の極限を幾何的に推測させ、 In+1 − In の n → ∞ の収束を議論することによって確かめさせる問題です。 問題2は病気を発見するある検査において、 病気の人が検査で陽性になる確率が 0.99 健康な人が検査で陽性になる確率が 0.001 であるとき、研究所は、検査結果が陽性であった人が病気になっている確率が 0.95 以上の時に、この検査 を商品化することに決めた。総人口中、病気にかかっている人の割合を x とするとき、研究所が検査を商 品化するのは x がいくらのときか?などの実践的な問題です。 問題 3 は方程式 z 4 + 4z 2 + 16 = 0 · · · (E) の解についての考察です。後半では、複素数の共役について、 z1 z2 = z 1 · z 2 などを証明させた上で、(E) が z を解に持てば z も解であることを証明させるなどしていま す。 問題 4 は問題中に図は示されていませんが、下図のような設定になっています。 四面体 ABCD は頂点 A に直角二等辺三角形の面が集まってでき D ています。E, F, G は辺の中点です。H は A を通り DF に垂直な平 −−→ −→ 面 P と DF の交点です。M は DF 上の点で、DM = tDF となる点 です。 A E H M F B G C このとき、直線 DF や平面 P の方程式を求め、H の座標を求め た上で、∠EHG を求めることが最初の問題です。 次に、∠EMG が最大となるときの M の位置を求めることを問題 にします。 そのときに、要求されるのは、① ME2 = (3/2)t2 − (5/2)t + 5 を証明し、②三角形 MEG が M において 13 √ 等辺であることを証明し、∠GME = α として、ME sin(α/2) = 1/(2 2) を導かせます。③ α は sin(α/2) が最大の時に最大となることを証明させ、④ α は ME2 が最小の時に最大になることを導かせた上で、⑤結 論を述べさせます。 (問題④には行列教育を受けたもののみに対する漸化式の問題が別に用意されています。) このように、「ひねった」問題、「複雑な」問題は存在せず、基本の概念を問う問題が出題されています。 また、そのすべてが記述式で答えるようになっていて、問われる内容も、「証明せよ」「導け」「確かめよ」 「推測せよ」「真偽は?」「表現せよ」「解釈せよ」「問題となるか」「説明せよ」など多彩です。もちろん日 本の試験と同様の「求めよ」「解け」も見られます。 翻って、日本のセンター試験の問題は、①誘導型のため多様な解答方式、独創的な解答を排除します。与 えられたものにすばやく対応することが要請されても、自ら創り出す力は要請されないため、その後の知 的活動で悪弊が出てきます。「マニュアル人間」の造出を嘆く人が多いのもこのあたりに原因があるかも知 れません。 ②問題が値を求めることに偏り、証明など論理的思考を表現する力が育たない。 ③短時間で大量に処理することを求めるため、「パターン学習」が蔓延する。 などの問題があり、早急な改善が必要です。 やはり、時間を十分かけて採点する側の労力を惜しまず、記述式で多様な思考や論理過程を大切にするこ とが必要でしょう。 また、鍛錬主義一辺倒の現在のあり方を排し、差別・選別の道具として「数学」を使うことを止めること が求められます。 フランスでは、バカロレアに合格すれば(一部の大学を除き)どの国立大学で学ぶことも可能だというこ とですから、大学入試に差別と選別が必ずしも必要なわけではありません。教育の健全さを担保しながら、 進路保障をする道をさぐるべきでしょう。 という主旨のレポートであり、たいへん共感できる内容でした。 目次に戻る 2.6 「学び」のファシリテーターを目指して 藤岡 希美 北大はオープンエデュケーションセンターを 2014 年 4 月に開設しました。 オープンエデュケーションとは、大学に所属し ていなくともネット上で大学の授業が受けられる というものの総称のようです。 2001 年にマサチューセッツ工科大学 (MIT) が 講義で使われている全ての資料をネット上に公開 することを宣言したことが始まりで、世界中にこ の動きが広がってきています。 14 2005 年には日本においても日本オープンコースウェア連絡会が発足し、大阪大学、京都大学、慶應義塾 大学、東京工業大学、東京大学、早稲田大学が設立メンバーとして参加しました。北大も 2005 年 12 月に は参加を決定しています。現在も日本オープンコースウェア・コンソーシアム (JOCW) として活動してい ます。 最近では、MOOC(Massive Open Online Courses) と呼ばれる「大規模公開オンラインコース」が世間 を賑わせています。インターネット上で学習コースを無料で公開し、受講したい人は誰でも自由に受けるこ とができる取り組みです。 その一つの動きであるコーセラ(英名:Coursera)は、スタンフォード大学コンピュータサイエンス教授 Andrew Ng と Daphne Koller によって 2012 年創立されたました。世界中の多数の大学のコースのいくつ かを無償でオンライン上に提供するものです。2012 年 11 月の時点で 196 カ国から 1,900,241 人もの生徒が 一つ以上の授業に登録をしました。東大は 2013 年秋からコーセラで授業の一部を公開しています。 また、エデックス(edX)は、マサチューセッツ工科大学とハーバード大学によって開始されたオンライ ンコースで、世界中に無償で、大学の授業を公開しています。2012 年秋に開始されました。日本では、こ れに京大が呼応し、2013 年から一部の講義が公開されています。 北大もこれらの動きに呼応し、2015 年には一部の講義を公開する予定で動いているようです6 。 目次に戻る 6 ところで、以上の内容をご本人に確認したところ、次の指摘を受けましたので、報告します。 ・概要にある Moodle についての説明ですが、言語ではなく教育者が質の高いオンライン学習過程(コース)を作 ることを助けるパッケージソフトといわれています。 うちのセンター自体が「学内の教員向けにOERを活用した教育・学習支援を行い、OERに関する研究開発を推進 すること」を目的としていますので、Moodle はシステムの中核とまではいかないかと思われます。 ・レポート内容のオープンエデュケーションについての説明ですが、一般的には「高等教育機関が、講義や教材な どインターネットを使って配信することで、社会に大学で生まれた知を還元する世界的な教育活動のこと」をさしてい ます。 15
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