統計力学の基本マニュアルの具体

生物化学V
2009年
1­3 統計力学の基本的な手続き(課題3含む)
平衡系の熱力学量を 扱います。
1:取り扱い方法( 基本マニュア ル )、2:基礎的な内 容
の順で行います。
予習:高校でやった 気体分子運動 論 を、手を動かして計 算しな
おしておいてくださ い。(資料と し てウェブにも張って おきま
す。高校の教科書等 が見つからな い 方はそれを見てくだ さい。)
1­3­1:統計力学の基本マニュアルの具体例
ここでは、
『 物質の微視的 モデルか ら物質の巨視的モデ ル(状態
方程式や熱容量の表 現)への接続 が 、統計力学の目的で ある。』
としておきま す。そう思 い切って し まえば、かつ て統計力学 に
つまずいた人にも安 心の3ステッ プ
1:
分配関数を書く
> 2: 熱力 学関数に直す
> 3: 偏微分 する事で熱力学に接 続
で、初歩的だが強力 な統計力学の 取 り扱い方法を実習で きます 。
ex.) 物 質=格子気体 の場合の3段 階のステップ
1: 格子模型で W を求 める。
> 2: 熱力学関 数 S に直す。
>
3: V や U で偏微分する。
その結果、状態方程 式を得る。
これを実際にやって みましょう。
問題1­1 [理想気 体2]
PV=nkT(nは 分子数 、kはボル ツ マン定数 、nが モル数 なら、
PV=nR Tで す 。) に た ど り 着 く に は 、 気 体 分 子 運 動 論 の 他 に ど
1
んな方法があ りますか? 考えてみ て ください。そ の方法と気 体
分子運動 論の 違いを 議論し てく ださ い。( 違い を 具体化 させて
ゆく事自体、課題の 一部です 。)いや 、そもそも気体分子 運動論
でPV=n kTに たどり着いて いたので しょうか?
解答(問題1­1 ):
[方法1:格子模型]
現象の本質 を掴みたい ときには 、 格子模型は便 利なので、 そ
れでやってみましょ う。ここでは 、
ボルツ マンの原理: S = k ln W
から S を求めることにします 。( ス テップ2)ここで W は、粒
子の配置の場合の数 です。これを 求 めるのがステップ1 です。
ステップ3では、S と他 の物理量 P や V などを接続し てゆく必
要があるわけですが 、そんな時に は 、
準静的過程の時 に成り立つ式 : dU(S,V)= TdS-PdV
を思い出してもらえ ば良いです 。
( と りあえず粒子数変化 は考え
ないので、dn= 0 として、 μdn の 項は省いています 。)マニ ュ
アル編の重要 公式、法則 表を探し て もらっても良 いのですが 、
物理量 X とその 偏微分を結びつ け るには、 dX の 表現があれば
良いので、自 分で導いて みれば、 よ り明確に理解 できるでし ょ
う。そこで、 dS を左辺に移して式 を整理して、
dS =
1
P
dU + dV
T
T
と書き直します 。
(分から なければ、質問するか、戻って 復習す
るかをして下さい 。)
と こ ろ で 、 S は! U と V の 関 数 と 見 な す 事 が 出 来 る の で 、
S(U,V) の全 微 分は、( 通常 扱 う連 続 微分 可 能な 関 数な ら) かな
らず、
dS =
"S
"S
dU +
dV
"U
"V
2
!
と書く事が出来ます 。
(こ ちらは、全 微分と偏微分の数学 の問題
です。分から なければ、 大学1年 か 2年の数学( 解析学)ま で
戻るか、質問する事 。)
係数を比較すると、
"S 1
=
"U T
"S P
=
"V T
が得られます 。以上、ス
!テップ3 の 前準備です 。(ここ までは 、
大学1、2年生の内 容です。新し い 事はありません 。)
!
ステップ1から順 に始めます。 例 えば、右辺が P/ T であ る
2式目を使う事にし て、エントロ ピ ー S を体積 V の関数とし て
記 述 で き れ ば 良 い 事 に な り ま す 。 そ の 為 に 、 W(V) を 求 め る 必
要があります。[図:気体の 格子模型] の黒丸が理想気体分 子で、
その数が n 個であるとして 、マス目 の総数が N 個ならば(注意:
この N は体積に比例する。)、比較 的簡単に W(V) は計算で きま
す。
図:気体の格子模型
!"#$%&'
!()*"+&,
!-"*"+&.
!)*/%01&.2,
理想気体分子 は互いに相 互作用し な いので、互い に重なって 配
置しても良い とします 。(『重なっ て はいけない』 として計算 し
ても希薄な気 体なら同じ 結果にな り ます。スター リングの公 式
を使えば簡単 ですが、物 理的考察 で 『重なっても 良い』とし た
場合と同じ式になり ます。)この時 、n 分子の配置の場合の数は 、
W(N)=N n / n!
3
です。ここで 、同種分子 は位置が 入 れ替わっても 状態として 区
別できないので、n! で割っ てありま す。
(分からなけ れば、3粒
子の場合に3 !で割らな ければな ら ない事を、絵 を描いて確 か
めて納得して下さい 。)こ こで、1 マスの大きさが v と すると
dV=vdN
と変数変換が出来ま す。従って、
dS 1 " dS %
= $ '
dV v # dN &
となり、ボルツマン の原理: S= k ln W
!
を使 って、
n
"
%
d$k ln N n! '
dS
#
& nk
=
=
dN
dN
N
( )
となります。 よって、上 のエント ロ ピーの体積微 分の式を用 い
て P/T=nk/vN=nk/V と 計算でき ました。これ は、理 想気体の
!
状態方程式 PV=nkT で す。よく考 えてみると、新しい 知識は
ボルツマンの原理 S= k ln W だ けです。(高 校までの算数 は
前提にしています 。)
課題3:上記 の場合の数 は、理想 気 体分子が重な っても良い と
仮定して計算されて いた。
2 ­ 1 : も し 、 気 体 分 子 同 士 が 重 なっ て は い け な い 場 合 は 、 場
合の数はどのように 記述されるか ?
2 ­ 2 : そ の 場 合 の 数 を ス タ ー リ ング の 公 式 を 用 い て 適 切 に 近
似し、状態方程式が PV=n kT と な る事を示せ。
2­3:スターリン グの公式が適 用 できる条件を考察す る事で 、
なぜ結果が PV=nkT で一致する の かを考察せよ。
[問題1­2]
同じ格子模型ともう 一つの関係式
"S 1
=
"U T
4
!
について考えよ。
解答(問題1­2 ):
今、格子模型を使って導 いた S は、U に完全に独立です。従っ
て、
1/T=0
すな わち T=?、、、多分 無限 大と な りま す。 矛盾 では な いが、
今の理想気体 の模型が、 不完全な 模 型に過ぎない 為に起こる 問
題点です。熱力学関数 S ( U, V, n )に 問題があるのです。今、我々
は理想気体の S を求めるにあ たり、分子の配置のエント ロピー
にしか興味を 持たなかっ た。つま り 、分子の運動 量に関する 情
報をいっさい 無視しまし た。状態 方 程式に関して はそれでか ま
わなかったの です。しか し、エネ ル ギーに対する 分配も考え る
必要があります。
掟破りです が、いきな り結論か ら 見てみます。 エネルギー が
0から E までの間にあ る場合の数を 書き出せば、
3n /2
3n /2
Vn
Vn
(2"mU )
W (0,U) =
=
*
$3
'
$3
' n!
h 3N n!#& n + 1) h 3N #& n + 1)
%2
(
%2
(
(2"mU )
これは、複雑 なかたちを している 様 に見えますが 、配置に関 す
る場合の数と
! 運動量に関 わる部分 が 完全に独立で ある事を示 し
ています。従 って、状態 方程式の 情 報には運動量 に関わる部 分
は無 関係 と 言う 事に な りま す。 実 際 、 x>>1 で使 え るス ター リ
ング式
"( x + 1) ~ x x e#x
と 、( い わ ゆ る ス タ ー リ ン グ の 公 式 x!= x xe"x の 連 続 関 数 版 ) を 使
えば、
!
3n /2
! *
2/3
4 "mU # V & )5/3 W (0,U) = , 2 % ( e /
+ 3h n $ n '
.
よって、
!
# 3 4 "m U
V 5&
S = kn% ln 2
+ ln + (
$2 3h n
n 2'
5
!
これを U で偏微分してみると 、
"S
3
= kn
"U
2U
よって、
!
3
U = knT
2
これは、(定 積)熱容量が
!
3
CV = nk
2
である事を意味しています。なお、この本当の S を求める
! ば、例え ば 久保亮五の統 計力学の教 科
課題は、もし 関心があれ
書(共 立出 版) に書 いて あり ます。(註: Γ (x )は 、ガ ンマ 関数
といういわば、x!の変数が実数になった関数。この特殊関数
は、おそらく ご存じない 方が多い の でここでは、 完全なエン ト
ロピーの表現を求め なかったので す 。)
とりあえず は鷹揚に『 粒子の配 置 の場合の数を 勘定すれば 、
状態方程式について は議論できる 。』と言う事で 良し としまし
ょう。だって 、配置をキ チンと考 慮 できれば、状 態方程式が 求
められ、状態 方程式が求 められれ ば 、相図が議論 できるので す
からそれだけでもか なりのもので す 。
[解答と解説終わり 。]
1­3­2:ミクロカノニカル集団と
カノニカル集団
(ここから分子数に n でなく N を使います。)
実は、ここ まで考えた のはミク ロ カノニカル集 団です。そ れ
以外にカノニ カル集団等 がありま す 。これら統計 集団を選ぶ と
言う事は、熱力学で、熱力学関 数とし て、U ( S, V, N )を 選ぶのか、
F ( T, V, N )を 選 ぶ の か 、 G ( T, P, N ) を 選 ぶ の か 、、、 と い っ た 事 と
同じ事です。
この3章では、カ ノニカル集団 に ついて考えます 。
『ミクロ カ
ノニカル集団 だけでいい じゃない か ?』と言う方 もいるかも し
6
れません。で も熱力学の 時にも適 切 な熱力学関数 を選ぶのが 現
象を理解する 上で大事だ ったと思 い ます。それと 同じです。 た
だし、もう少 し別の理由 もありま す 。それは例え ば、前の章 で
出てきたΓ( ガンマ)関 数の様な 小 難しい関数を 扱わずにす む
方法を与える ためでもあ ります。 特 殊関数の直感 的理解は難 し
いですから。
ここまで、 等重率の原 理など、 正 統派の統計力 学ならきち ん
と学ぶべき基 礎をすっ飛 ばしてい ま すが、実は、 理想気体な ど
の実例を見ればすご く当たり前に 見 える仮定です。
基礎をおろ そかにして も、統計 力 学をソコソコ に利用でき る
のですが、以 下では、や や正統派 よ りの説明をし て、おろそ か
にした部分をいくら かでも埋めて お きましょう。
[ミクロカノニカル 集団]
理想気体で物事を 考えた時に 、S = k ln W としました 。まず、
エントロピー S は 、 S ( U , V )です。 エントロピーは示量 的だっ
た事を学んだはずで す。
( これも基 礎化学熱力学)だか ら、エン
トロピーは粒 子数に比例 します。 つ まり、粒子数 を指定しな け
れば、エントロピー は決まらない の で、 S ( U , V, N )と書くべ き
でしょう。
さてミクロカノニ カル集団とは 、 U , V, N を 指定する事で 決
まる統計集団です。ある ( U , V, N )が 指定された時に、図の様 に
起こりうるす べての状況 を考え、 そ れらがすべて 等しい確率 で
実現されてい ると言う仮 定をおき ま す。これが等 重率の原理 で
す。
図:等重率の
原理。これら
の配置の出現
7
確率は皆等しいとす る。
模式図を書き にくいので 、図では 、 2章の課題と 同じく配置 し
か考えていま せんが、運 動量につ い てもあり得る すべての場 合
を考え、等重率の原 理をおきます 。ただし、
『内 部エネルギー =
(運動エネルギーと 位置エネルギ ー の総量)は 、U である場 合
のみを考える 。』という縛りが あり ます。(実際は、δU の幅の
中に押さえ込む様な 数学的操作を 考 えますが。)
その結果、 分配関数= 確率分布 の 規格化定数は 、古典論的 な
粒子の場合、
"0 (U,N,V ) =
1
h
3(N )
$
N ! ( H =U )
d#
となります。これは、H=U の条件下 で積分するので簡単 にはい
きません。た だし先ほど
の理想気 体 の様な場合は 、相互作用 を
!
考える必要がないの で、
『 場合の数』になって簡単な計算 ですむ
わけです。量子論的 な場合の方が 分 かりやすいかも知れ ません 。
マニュアル編も見て 下さい。
[カノニカル集団]
それに対して、カ ノニカル集団 は 、 T , V, N を指定する事 で
決まる統計集 団です。つ まりやは り 基礎化学熱力 学で学んだ ヘ
ルムホルツの自由エ ネルギー F ( T , V, N )に対応していま す。(ヘ
ルムホルツの自由エ ネルギーは、 A ( T , V, N )と書 かれる事もあ
ります。)確 率分布関数と してボル ツマン分布をとりま す。古典
論的な場合の分配関 数は、
ZN =
1
3N
N !h
%e
" #H N
d$
となります。ここで HN は N 粒子系 のハミルトニアン( 勿論、
古典力学のハ ミルトニア ン)です 。 やはり量子系 もマニュア ル
!
を参照してみ て下さい。 ハミルト ニ アン∼全エネ ルギーは、 粒
子間相互作用を u ( x 1 , x 2 , x N )として 、( x 1 , x 2 , x N は、それぞれ
の粒子の位置ベクト ルです。 )
N
pi 2
+u(x1,x 2 ...x N )
2m
i
i=1
H N (p1,p2 ...pN ,x1,x 2 ...x N ) = "
8
!
です。ですから、分 配関数の積分 の 部分は、
* 1 $
'...x
)
1
2
N )/ d0
% i=1
(.
+
3 3
3
* 1 N p2= 1 1 2 2 2 1 exp," # i /dp1dp2 ...dpN
+ kT i=1 2mi .
"3 "3
"3
N
pi 2
1 exp," kT &# 2m +V (x ,x
!
* 1
111 exp,+" kT u(x ,x ...x
1
2
V
N
)/ dx1dx 2 ...dx N
.
です。一見して分か るのは、配置 x の積分と運動量 p の 積分は
独立して行え ると言う事 です。こ れ が最大のご利 益です。そ れ
だけではありません 。運動量 p の部 分の積分には、ガウス関数
の公式
#
$ exp[ax ]dx =
2
"#
%
"a
を適用して簡 単に実行で きます。 そ して運動量の 形は、液体 だ
ろうが気体だ ろうが変わ
らないの で 、公式として 求められる 事
!
になります。その一 方で困難はす べ て、 x の積分つまり配置 積
分に押し付けられま す。
課題3­1[理想気体 2]
理想気体のミ クロカノニ カル集団 に ついて分配関 数を求め、 さ
らに状態方程式を求 めよ。
解答3­1
ま ず 、理 想 気体 は 相互 作 用し ま せん 。 従 って 、 u ( x 1 , x 2 , x N )
=0 です。従って、粒 子配置の積分 に関する部分は、
"""
dx1dx 2 ...dx N = V N
V
と、簡単に実 行できてし まいます 。 一方、運動量 に関する積 分
は、ガウス関数の公 式を使って 、( すべて粒子の質量は m とし
!
て。)
+
3N
% 1 N p 2(
i
2
"
"
"
exp
#
dp
dp
...dp
=
2
kTm
(
)
'
*
$
,, ,
1
2
N
& kT i=1 2m )
#+ #+
#+
+ +
!
9
と、やはり非常に 簡単に求める 事が 出来ます。これら を使って、
理想気体のカノニカ ル分配関数
ZN =
3N
1
N
2 V
2
"
kTm
(
)
3N
N !h
が、求められ ます。意外 に簡単で し た。これを巨 視的な物理 量
と関係づけま す。マニュ
アルの方 を 見てもらえば 分かる様に 、
!
Z N は、ヘルムホルツの自 由エネル ギー F ( T, V, N )と
F ( T, V, N )=­ kT ln Z N ( T, V, N )
で結ぶ事が出 来ます。一 方、基礎 化 学熱力学とそ の後の物理 化
学でやった様に、
dF = "SdT " PdV
(+µdN )
で、ありまた数学的 に、
!
# "F &
# "F &
dF = % (dT + % (dV
$ "T '
$ "V '
# # "F & &
% +% ( dN (
$ $ "N ' '
なので、
!
# "F &
% ( = )P
$ "V '
が得られます。こ の F に分配関 数 から求めた F ( T, V, N )を代 入
し て V で 偏 微 分 す れ!
ば 、 た ち ど こ ろ に 理 想 気 体 の 状 態 方程 式
PV = N k T が得 られます 。F の T 微分 の方もやってみると 良いの
ですが、今回 は比較的容 易に理想 気 体を完全に特 徴づける巨 視
的物理量の関 係式をすべ て得る事 が 出来ました。 これが、カ ノ
ニカル集団を考える ご利益の実例 で す。
[ミクロカノニカル 集団からカノニ カル集団へ]
折角なので 、利用方法 だけでな く 、便利で使い やすいカノ ニ
カル集団をミクロカ ノニカル集団 か ら導きだしてみよう 。
(ここ
だけちょっと数学的 に難しいかも 知 れません。)基礎化学熱力 学
で考え た様 に、孤 立系 (U, V, N )一 定の前 体系 を考え て、 その
10
一部が着目す る系だと考 えます。 図 に示した様に 周囲の系が 十
分大 きい とす ると 、周 囲の 系を 、あ る温 度の 熱 浴 であ るか の
ごとく見なす 事が出来て 、着目系 は 等温定積系と 考えられる 事
になります。まとめ れば、
全系=ミ クロカノニカ ル 集団として扱える。
着目系 =カノニカル 集 団として扱える。
となります。
(78/09:;23425$%'()*
!"#!$%&'( )&*
(+,-./01234251$%6'()6*
図:孤立系( ミクロカノ ニカル) の 中にエネルギ ーをやり取 り
できる壁で出来た着 目系(カノニ カ ル)がある。
少し前に述べ た様に『等 重率の原 理 』からミクロ カノニカル 分
布 Ω で扱えば 良い。ミク ロカノニ カ ルでは内部エ ネルギーが 固
定されている 一方で、カ ノニカル で は温度が指定 されていて 、
エネルギーの ずれは許さ れていま す 。そこでその ずれを見積 も
ります。
十 分巨 大な 熱 浴 部 分の エネ ルギ ーを E B とし て、 熱 浴 ( E B )
+ カ ノ ニ カ ル 系 ( E l )で エ ネ ル ギ ー 一 定 の ミ ク ロ カ ノ ニ カ ル の 系
(エネルギー E ) を作っている とし ます。従って、
E B + E l = E = 一定
11
です。
ここで、系が状 態 l に見 いだされ る確率は、等重率の 原理か
ら
P l Ω (E-E l )= e x p[ln Ω (E-E l ) ]
これ E の周りでテ ーラー展開し て(キュムラント展開と 言うべ
きか)
ln Ω (E-E l ) = ln Ω (E) - E l d ln Ω/dE + ・・・
とできます。 この2項目 まで考慮 す ると、マニュ アル編を参 照
すれば、
"=
#ln$
#E
なので、温度 と関係づけ る事がで き ます。これを 展開式第2 項
に入れて、更にそれ を P exp[ ln Ω (E-E l ) ]式に代入 して整理す
!
れば、
Pl " exp(#$E l )
という、カノ ニカル分布 (ボルツ マ ン分布)が出 てきます。 も
ちろんこれの総和を 取れば、分
配関 数 Z N になりますし、古典的
!
には E l の部分が、古 典のハミルト ニ アンに置き換わるだ けです 。
いろいろや った様です が、本当 に 新しく憶えな いといけな い
ことと言えば、ボル ツマンの原理 く らいです。
少 し統 計力 学の 王 道 に 寄り 道し まし たが 、こ の王 道の 部分
が分からない と先には進 めない、 と いう講義では ありません 。
とりあえず、ここは 鷹揚に考える 事 にして、
1:相互作用 を考えずに すむ現象 で あれば、配置 の数だけを 数
えれば、対数 を取ってエ ントロピ ー にするだけで も議論をず い
ぶん楽しめる事、
また、そのアンサン ブルの
2:スナップ ショットの 一枚、一 枚 はほとんど意 味を成して い
12
ないけれども 、たくさん 重ね合わ せ ることで、熱 力学で扱っ て
いる対象に対する分 子論的描像の 出 発点である事、
この2点を理解して いただければ 、 まずは結構です。
いわゆる相互 作用を考え なくても 良 い系ならば、 これはかな り
有効な考え方です。
[では、統計力学ミ ニマムはなんで あったか?]
勿 論 、『 等 重 率 の 過 程 + ボ ル ツ マ ン の 原 理 あ た り か ら 、 ミ ク
ロ・カノニカル集団を作 って、後は カノニカル集団、グラン ド・
カノニカル集団に広 げる。そし て、マ ニュアルの表を使い 回す。』
といった所で す。ただし 、実用上 は カノニカル・ アンサンブ ル
が楽なのでそこを出 発点にする事 に しておいて、
1. モデルを立てる。
(例:格子模型)
2. 数 学 的 に 扱 い 易 い カ ノ ニ カ ル 分 布 を 当 て は め る 。 ( 相 互
作用を書き出すだけ 。)
P " exp(#$H)
3.カノニカル分布 の規格化の式 = 分配関数を求めて、
自由エネルギー!に直す。
分配関数
1
ZN =
!
N !h
13
3N
%e
" #H N
d$
ヘルムホルツの 自由エネルギ ー
F( T,V,N) = −kT ln ZN( T,V,N)
4.あとは、熱力学 。
(熱 力学の講義 は別にあったと思う ので省
略。)
+1.相互作用がな い場合は、ボ ル ツマンの原理で
エントロピー を計算するの も 得策。
S = k ln W
+2.ガウス関数の 積分を覚えて お く。
#
$ exp[ax ]dx =
2
"#
%
"a
+3.スターリング の公式を覚え て おく。
x!= x x e"x
!
以上の事を、 式を含めて 記憶し、 理 解しておくと 良いと思い ま
!
す。
ただ、1.に 関しては、 他人のモ デ ル化から学ん だり、例題 を
解いては自分で考え る、、、、という、いわゆる演習が学習 上不可
欠でしょう。
●他の所で集中講義 等をした時に 指 摘された事。
1:
格子模型(格 子気体 )の分子の配 置 の図ですが、例えば 、
『一 番
目の図を90 度回転した ものも同 じ 配置と考えな いのか?』 と
いう質問を受 けました。 答えは『 考 えません 。』です。 しかし 、
面白い質問だ と思いまし た。なぜ な ら、こういう 疑問を考え て
みると、いつ もは暗黙のう ちに仮定 している『空 間』の 性質が、
あらわになる からです。 端的に言 え ば『二つの粒 子が接して い
るのは、左側 の壁であっ て、右側 の 壁ではない。 しかし、我 々
はどの二つが 押している か?と言 う 事を区別する 事はしてい な
い。それが空間に張 り付いた壁の 立 場だ。』と言 う事だと思い ま
す。
14
●[ここまで予習し た人には考えて おいて欲しい事]
理想気体の(定積) 熱容量が
3
CV = Nk
2
である、とさ らりと述べ てしまい ま したが、これ って第3法 則
に抵触してい ないですか!?熱力学 第 3法則を復習 して、この 熱
容量と第3法 則の関係を 考えてお い て下さい。ま た、現実の 系
を捉えるにあたり、どうすれば良 い のかも考えておいて 下さい 。
15