第5回 黒体放射とその応用

第5回
黒体放射とその応用
東京大学教養学部前期課程
2015年冬学期 宇宙科学II
松原英雄(JAXA宇宙研)
1
黒体放射とは?
• 放射吸収する物質と熱平衡にある放射のこと。黒体放射
する物質の量・表面の性質は関係ない
黒体
の壁
全く同じ放射
• 黒体=完全吸収体
黒体
黒体
放射
背後から来る光は
完全に吸収
一部が透過
背後から来る光
物質からの放射
通常の物質
2
キルヒホップの法則
• 放射輸送の式(4.24)で左辺=0とおく:
S  j /   B T 
(5.2)
• 天井も床も同じ温度Tの箱を考えましょう。天井は黒体、下の箱の
床は反射率がRの物質でできているとします。
床Bからの反射光+床Bの放射光=天井Aの放射光
R・B(T)+IB=B(T)
黒体天井 (温度T)
IB=B(T)ーR・B(T)
B(T)
=(1-R) ・B(T)
=E・B(T)
床から放射される光 E・B(T) は
同時に床が吸収する光の量に
等しい:(吸収率をAとすると)
A・B(T)= E・B(T)
IB
R・B(T)
床 B (温度T)
3
振動数の光子の量子状態の数
• 一辺がLの立方体を考え、その中にある光子の量子状態数をもとめましょ
う。量子力学では光子が箱の中で安定な波になっていると考えます。その
条件は x、y、z の各方向で辺長 L が波長の整数倍になることです。
L/λX = 1,2,3、...、
L/λY = 1,2,3、...、
L/λZ = 1,2,3、...
• ですが、電磁波には2成分の偏光があるので2倍して、L3の箱内の安定
な光子の量子状態の数 ΔNBox は、
ΔNBox = 2Δ(L/λX)・ Δ(L/λY)・ Δ(L/λZ)
• で与えられます。単位体積当たりの状態数 ΔNUnit は、箱の体積で割っ
て
ΔNUnit = ΔNBox/L3 = 2Δ(1/λX)・ Δ(1/λY)・ Δ(1/λZ) です。
• 光子の密度を振動数ν空間で考えると ( ΔVν 振動数空間での体積要
素)
ΔNUnit =(2/c3)Δ(c/λX)・ Δ(c/λY)・ Δ(c/λZ)
= (2/c3)Δ(νX)・ Δ(νY)・ Δ(νZ)= (2/c3) ΔVν
球座標で書くと ΔVν = ν2dΩdν
よって ΔNUnit = (2/c3) ν2dΩdν
 (5.10) 式
4
参考: http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html
黒体輻射の数値表現
h=6.626×10-34 Js,
x
k=1.381×10-23 J/K,
h
hc 1.4388


kT kT mT4


T 
 m 
, T4  4 
1m
10 K 

B ( , T )
2h 3
 2
c
B ( , T )
1
 h 
exp
 1
 kT 
2hc2

5
x3
 1.33510 T
exp x   1
19
3
3.973107
m
W/m2 /Hz
3
x
 1.33510 T
exp x   1
7

c=2.998×108 m/s
3
1
W/m2 /Hz
 ch   1

kT



exp 
8
1.191 10

5
m
Jy
 1.4388
 1
exp

 mT4 
3.9731019
1

Jy
3
 1.4388
m
 1
exp

 mT4  参考:
3
1
1
 1.4388
 1
exp 
 T 
 m 4 
W/m
2
/m
5
http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html
Planck Spectra
T=6000K
T=6000K
波長 (cm)
振動数(Hz)
http://www.shokabo.co.jp/sp_e/optical/labo/bb/bb.htm
6
黒体輻射
25
レーリージーンズ領域
log B(ν、T) [Jy]
20
T=30000
T=10000
T=3000
T=1000
T=300
T=100
T=30
T=10
T=3
T=1
傾き一定、
強さはTに比例
15
10
ウィーン領域
5
傾きと強さが
大きく変化する
0
-2
-1
0
1
log λ(μ)
2
3
4
7
http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html
天体からの(近似的に)黒体放射の例
赤外線でみた
燃えるマッチを
持つ人
8
黒体輻射スペクトルの例
天体
典型的な温度
宇宙開闢の頃
1032 K
高温降着円盤
109-13 K
低温降着円盤
107 K
中性子星表面
107 K
太陽中心
107 K
白色矮星表面
10000 K
高温度星表面
10000 K
太陽表面
6000 K
宇宙の晴れ上がり
4000 K
星間雲
10 ‐100K
現在の宇宙背景放射
2.74 K
http://www.shokabo.co.jp/sp_e/optical/labo/bb/bb.htm
9
第5回の問題
• 問5-1. 黒体放射のフラックスは
BT   
2
0
 /2 
 
0
0
B T d cos sin dd
で与えられる。これを計算して
4


B T  T
となることを示せ。ただし
2 5 k 4

15c 2 h 3
(シュテファン・ボルツマン定数)
また次の関係は使って良い。


0
x3
4
dx 
x
e 1
15
ところで、
天体からの放射はどういうときに黒
体放射になるのか?
注: 放射物質が熱平衡だからと
いって放射が黒体とは限らない。
11
放射が黒体になる条件(1)
物質が熱平衡にあること
• 源泉関数S=B(T)が成立すること。
– 必ずしも、物質の温度と放射場の温度が同じとは限
らない。
– 放射場は非熱的な場合もある:レーザー/メーザー
– 以下の場合には動力学的な温度=放射場の温度
が成立
• 条件① 系の大きさが平均自由行程よりも十分に大きい
こと
• 条件② 平均衝突時間が系の年齢よりも十分に短いこと
• 条件③ 物質が放射場光子を非弾性散乱する機能を持
12
つこと(色々な光の振動数に変換できること)
放射が黒体になる条件(2)
光学的に十分に厚いこと
• I = I(0)exp(-t) + B (T) (1 - exp(-t))
なので、 t >> 1が必要。
星間塵のように、波長によって光学的厚みが著しく異なる場
合、近赤外線ではBlackbodyでも、遠赤外~サブミリ波では
I = tB (T)~b B (T) (b=1-2) となる
★天体(特に希薄な宇宙空間)は一様温度とは限らない:
– そのときでも局所的になりたっている場合が多い(局所熱力学的平
衡:LTE)
– 熱平衡を達成するには衝突緩和時間に比べて十分長い時間が必要。
– 銀河間空間のプラズマ: 電子と陽子で温度が違う可能性がある:
teq(e,e) ~ 3.1×105 (Te/108K)3/2(ne/10-3cm-3)-1 yr
teq(p,p) = √(mp/me) teq(e,e)
~ 1.3×107 (Te/108K)3/2(ne/10-3cm-3)-1 yr
13