ラマンライダーによる 対流圏エアロゾルの 光学的性質の系統的解析 交通電子機械工学専攻 2003320 和田 勝也 研究背景 ライダーによる対流圏エアロゾルの長期動 態観測(モニタリング)の重要性(鉛直分布、 季節変化) ラマンライダーでは定量的に消散係数σ、後 方散乱係数β、水蒸気混合比を求めることが 可能である(本研究により本学では開始) ライダー比S(=σ/β)はライダーの解析上及び エアロゾルの光学特性上、重要なパラメー ターである 研究目的 大気エアロゾルの定量的な光学的性質の季節変 化などの動態把握 ライダー比の観測値(気候値)と数値シミュレー ションの比較検討 ラマンライダーの性能評価(他の測器との比較な ど) 本研究では解析上の簡便さ等から紫外光 (355nm)を使ったラマンライダーの解析のみを 行った エアロゾル 大気中に浮遊している液体や固体などの微小な 粒子状物質 大きさは数nm~10μm 人為起源のエアロゾル – 自動車の排ガス、工場排出物 自然起源のエアロゾル – 土壌粒子、海塩粒子 人為起源の エアロゾル 自然起源の エアロゾル 粒径 (μm) ライダー(LIDAR) LIght Detection And Rangingの略 レーザー光を大気に 向けて送出し、観測対 象の散乱光を受光す ることで、その距離、 密度等を遠隔計測で きるリモートセンシング 手法及び装置を呼ぶ 大気中の分子と微粒子による光散乱 レイリー散乱 ミー散乱 光の波長に対して粒子 の半径が十分小さい場 合に起こる(∝λ-4) 光の波長に対して粒子 の半径が同程度以上の 場合に起こる(∝λ-0~-2) ラマン散乱 分子の振動、回転状態 を変化させることにより 生じる散乱。散乱光の波 長が変化。(ミー、レイ リーより3桁以上効率が 低い) νi νi ± R エアロゾルの光学的性質 消散係数(単位:m-1) 光学的厚さ(無次元) 太陽光の立場からエアロゾルの層が厚いかどうかを 示す量(光学的厚さが1のとき太陽光は1/e(≒0.368)倍 になる)。消散係数を高度積分することで求められる 後方散乱係数(m-1sr-1) 光が物質によって吸収、散乱することによって単位長 さ当たりに消えて無くなる割合を表す係数 物質に対して入射した光が180°逆向きに散乱される 効率 ライダー比(sr) ミー散乱ライダーの解析で仮定して用いられる量で、 消散係数と後方散乱係数の比で与えられる ライダー方程式 距離zからの光受信信号強度P(z)は z P( z ) C ( z ) Y ( z ) exp[ ( z)dz] / z PB 2 0 ここで、 C:装置定数 β(z ):後方散乱係数 Y (z ):幾何学的効率 α(z’):消散係数 PB:背景光強度 Fernald の方法による ライダー方程式の解 大気分子とエアロゾルの2成分を考慮し距離2乗補正したライ ダー方程式は次式のように表わせる。 z X ( z ) C{1 ( z ) 2 ( z )}exp[2 {1 ( z) 2 ( z)}dz] 0 ここで X(z):(P(z) – PB)z2 α1:エアロゾルによる消散係数 α2:大気分子による消散係数 β1:エアロゾルによる後方散乱係数 β2:大気分子による後方散乱係数 1 ( z) S11 ( z) 2 ( z ) S2 2 ( z ) S1:エアロゾルの消散係数と後方散乱係数の比(ライダー比) S2:大気分子の消散係数と後方散乱係数の比 (=8π/3;レイリー散乱理論より) が成り立つと仮定し方程式を解けば次式が得られる S zc X ( z ) exp2 1 1 2 ( z)dz S1 S2 z 1 ( z ) 2 ( z ) S2 S1 zc zc X ( zc ) 2 X ( z) exp2 1 2 ( z)dzdz z z S S2 1 ( z c ) 1 S 2 ( z c ) 2 S1: 観測波長、粒径分布、複素屈折率、形状に依存 本学多波長ラマンライダーシステム 2号館8-9階 UV-ラマンライダーシステム レーザーパワー 繰り返し周波数 望遠鏡口径 視野角 干渉フィルター Mie-Rayleigh N2-Raman H2O-Raman 100mJ 10Hz 355mm 2mrad 中心波長 354.8nm 387.0nm 407.6nm 3000ショット毎に積算して収集 観測は、雲がほとんど無い日没後に2~3時間 半値幅 0.8nm 3.3nm 0.9nm ラマンライダー方程式 P0 ( z ) K 0 P ( z ) 2 z K N2 N2 PH2O ( z ) m ( z ) a ( z )exp 2z ( z)dz ( z ) exp 0 0 z N ( z ) exp ( z) ( z) dz 2 z K H O 2 z z 2 2 H O 2 λ0:レーザー光の波長 λN2:窒素分子によりラマンシフトした波長 λH2O :水蒸気分子によりラマンシフトした 波長 P: 受信光強度 K: ライダーの光学的効率 0 z0 N2 z z0 0 ( z) H2O ( z) dz β(z),α(z)は後方散乱係数、消散係 数を表し、後方散乱係数の添え字 はそれぞれmが大気分子、aがエア ロゾル、N2が窒素分子、H2Oが水 蒸気分子からの寄与を表している。 消散係数 a ( z ) 0 d N R ( z ) m m ln ( z ) 0 N2 ( z ) dz X N 2 ( z ) 0 1 N 2 k Ref. Ansman, A, et al., Appl. Phys., B55, 18-28, 1992. NR (z): 空気分子の密度 (舘野 21:00JSTのラジオゾンデのデータを利用) XN2(z): 窒素分子によるラマン散乱信号強度の距離二乗補正値 αm(z): 空気分子の消散係数 k : オングストローム指数(粒径に関係したパラメータ) λ0 : レーザーの波長 λN2: ラマンシフトした波長(387 nm) 下限高度: 600m 後方散乱係数、水蒸気混合比 R( z ) m ( z) a ( z) m ( z) R( z ) Rq ( z, z0 ) X ( z) R( z0 ) X N2 ( z) a ( z) R( z) m ( z) 1 w( z ) C w ( z0 , z ) w q X H 2O ( z ) X N2 ( z) Ref. Whiteman, D. N., et al, Appl. Opt., 31, 3068-3082, 1992. Cw: 装置定数 R(z): 散乱比 βm (z) : 分子の後方散乱係数 βa (z) : エアロゾルの後方散乱係数 Rq ( z, z0 ) : 大気分子と、エアロゾ ルによる 355nmと387nmでの大気透過率の補正 項 wq ( z, z0 ) : 大気分子と、エアロゾ ルによる 387nmと408nmでの大気透過率の補正 項 z ( z , z0 ) R q exp( N ( z)dz) z0 z 2 exp( 0 ( z)dz) z0 z ( z , z0 ) w q exp( N ( z)dz) z0 z 2 exp( H2O ( z)dz) z0 下限高度: ~100m 解析結果(例) 解析結果(黄砂飛来時) 光学的厚さ Ref. 斎藤泰治、平成16年度東京商船大学修士論文 スカイラジオメータ ライダー ライダー、スカイラジオメータの両方で夏季に高く、冬に低い値を示している。 また、11月付近でも高い値を示した。 水蒸気混合比 Ref. 川上、橋本、平成14年度東京商船大学卒業論文 地上気象データ ライダー 地上気象データとライダーから得た水蒸気混合比の季節変化は、共に冬季に小 さい値、夏季に大きい値をとり、変化の傾向がほぼ同じである。 ライダー比 高度: ~2.5 km 平均値:51.9 ± 10.4 sr 最頻値:40~50 sr 複素屈折率に対するライダー比の変化 スカイラジオメータによる単散乱アルベド 単散乱アルベド 散乱係数 消散係数(散乱係数 吸収係数) 秋と冬は吸収が大きい Ref. 斎藤泰治、平成16年度東京商船大学修士論文 秋はライダー比が大きい 光吸収が大きい(単散乱アルベド) 冬はライダー比が小さい 乾燥しているエアロゾルが多い(水蒸気混合比) ライダー比と相対湿度、消散係数の相関図 OPACによるシミュレーション結果(大陸型のエアロゾル)とライダーから得られたライ ダー比(~1.5 km)の傾向比較 OPAC: ミー散乱理論を利用し、波長などのパラメータを入力することでエアロゾル や雲の光学特性を求めることができるソフトウェア。粒径分布や複素屈折率が データベース化されている 黄砂(2004年4月9日) 時系列データ 偏光解消度: 粒径が大きいときや、非球形の粒子のときに大きい値を示す S1= 50.5 ± 4.65 sr (5-7 km) B.A.E = 0.23 ± 0.05 D.R = 14.3~20.6 % z 532 B. A.E. ln 355 ln z 355 532 まとめ 光学的厚さは、夏に大きい値、冬に小さい値にな り、11月頃には、秋の他の月に比べて大きい値 を示した。 水蒸気混合比は、1月が最も低く、夏に大きくなっ た。 ライダーで得られたデータが、本学の放射計や 地上気象観測と同様の結果が得られている ライダー比の平均値は51.9 ± 10.4 srで、頻度分 布による最頻値は40~50 srとなった ライダー比は秋に大きい値をとり、冬に小さい値 をとる ライダー観測によるライダー比と相対湿度、 消散係数の関係が数値シミュレーションと 同様の傾向を示した 黄砂観測でのライダー比は過去の532nm でのデータと同程度の値を示していた 今後の展望 355 nm、532 nm、1064nmで観測したデータを解析 すれば、消散係数、後方散乱係数、ライダー比の 波長依存性が得られる(黄砂や森林火災によるエ アロゾルなど) 355 nm、532 nmの二つの波長による消散係数、 後方散乱係数からオングストローム指数の鉛直 分布を求めれば、粒径の大小の季節変化が得ら れる オプティカルパーティクルカウンターを使用して得 られる粒径分布や、ミー散乱理論と他の測定器に よって推定される複素屈折率の季節変化などを 得ることで、ライダー比についてより正確な議論が 期待できる
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