2015 年度前期 有機化学演習 第7回 非局在化電子を持つ化合物・芳香族性 1. 次の事実を説明しなさい。(1) 4-ニトロフェノールはフェノールよりも酸性度 が高い。(2) 3,5-ジメチル-4-ニトロフェノールは 4-ニトロフェノールよりも酸 性度が低い。 (ヒント:3,5-ジメチル-4-ニトロフェノールのニトロ基は、メチ ル基の立体障害のため、ベンゼン環に対して垂直である。) (1) 4-ニトロフェノールの共役塩基は下のような共鳴構造を持つ。無置換の フェノールは一番右の共鳴寄与体が存在しないため、安定化エネルギーが小 さい。従って、共役塩基がより安定な 4-ニトロフェノールの方が強い酸であ る。 O O O N O O N O O O O N O O N O (2) 3,5-ジニトロフェノールは、ニトロ基がベンゼン環に対して垂直である ため、ニトロ基を含む電子の非局在化ができない。ニトロ基の N‒O π結合が、 ベンゼン環のπ結合と垂直になり、重なり合うことができないためである。 O ベンゼン環のπ軌道(手前/奥方向) 重なり合わない N ニトロ基のπ軌道(左右方向) OO 2. ホルムアミド(右図)は平面分子であり、C–N 結合は室温では自 由回転できない。理由を説明しなさい。 下の共鳴式に見られるように、N のローンペアはカルボニル炭素の H N H H O p 軌道に非局在化している。分子が平面構造の時に、N の p 軌道と C の p 軌道 は平行になり、非局在化の効果は最も大きくなる。C‒N を回転させると非局在 化の効果が失われるため、不安定になる。つまり、回転するための活性化エ ネルギーは大きくなり、室温では自由回転できない。 H O C N H H H O C N H H 3. アニリンはシクロヘキシルアミンよりも弱い塩基である。理由を説明しなさ い。 NH2 NH2 アニリン シクロヘキシルアミン アニリンは N 上のローンペアがベンゼン環に非局在化することによって、安 定化エネルギーを獲得できる。N にプロトン化を受けると、ローンペアがなく なるため、この非局在化エネルギーは失われて不安定化する。一方、シクロ ヘキシルアミンでは、非局在化が起きないため、このような不安定化は起こ らない。従って、アニリンはシクロヘキシルアミンよりもプロトン化を受け にくく、弱い塩基である。 NH2 NH2 NH2 NH2 4. (1) 1,3,5-シクロヘプタトリエン(右図)に Br2 を反応させると、1,6付加体が得られた。この付加体の構造式を書きなさい。(2) この付加 体を強熱すると、HBr が発生して組成式 C7H7Br の固体が得られた。 この固体は水に溶け、低極性の有機溶媒には溶けないことがわかった。また、 この固体の水溶液に硝酸銀の水溶液を加えると、AgBr の沈殿が直ちに得られ た。これらの実験結果を説明しなさい。 (1) Br (2) Br Br Br Br H H H + Br– – HBr Br Br– シクロヘプタトリエニルカチオンは芳香族性を持ち極めて安定なので、生 成物はイオン性の物質である。イオン性の物質は水によって強い水和を受 けるため、水に溶けやすい。一方、低極性の有機溶媒中では溶媒和が起き ないため、正負のイオン間の引力が優先し、溶解しない。水溶液に硝酸銀 の水溶液を加えると、Ag+ と溶液中の Br– が反応して AgBr を生成する。 5. (1) 3-クロロ-1,4-ペンタジエン(下図 A)は、極めて容易に SN1 反応を起こ す。理由を説明しなさい。(2) 5-クロロ-1,3-シクロペンタジエン(下図 B)は SN1 反応を極めて起こしにくい。理由を説明しなさい。 Cl Cl A B (1) Cl–が脱離して得られるカルボカチオンは下のような共鳴があるため、大き な安定化を受けるから。 (2) Cl–が脱離したカルボカチオン(下図)は、4π の反芳香族性分子であるた め、極めて不安定であるから。
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