In vitro - 森下仁丹

カ ン カ ニ ク ジ ュ ヨ ウ 配 合 食 品 と 医 薬 品 の 相 互 作 用 : カ ン カ シ ン ポ ジ ウ ム 、 2008 年
11 月 27 日
長友 暁史 1,西田 典永 1,仁井本 剛 1,小崎 敏雄 1,浅田 雅宣 1,大西 憲明 3,芝田 信人 2
研究開発本部,2 同志社女子大学薬学部 生物薬剤学研究室,3 姫路獨協大学薬
学部 臨床薬効評価学研究室
1 森下仁丹株式会社
1. は じ め に
健康志向の高まりを背景に,食品が有する生体機能調節作用が注目され,様々な健康食品やサ
プリメントが開発されている.健常者が健康維持目的に利用するだけでなく,何らかの疾患をも
つ患者や高齢者が摂取することもあり,医薬品との飲み合わせに関する問い合わせは年々増加傾
向にある.食品と医薬品の相互作用により有害事象を引き起こす代表的な例として,グレープフ
ルーツジュース (GFJ) による薬物代謝酵素チトクロム P450 (CYP) の阻害作用が挙げられる.
GFJ に含まれるフラノクマリン類が CYP を阻害し,CYP により代謝される医薬品の体内動態が
変化することで副作用の発現を誘発する.このようにメカニズムが詳細に解明されている例は少
なく,日々開発される機能性食品については毒性試験などの安全性情報は取得されているものの
医薬品との相互作用に関する知見は依然不足している.そのため利用者からの問い合わせに対し
て十分答えきれていないのが現状である.食の安全が叫ばれる昨今,健康食品・サプリメントの
安全かつ適正な使用を実現する上で,相互作用情報の蓄積は必要不可欠であり,メーカーは自社
の製品に関して,相互作用という面からも安全性を確保していくことは今や社会的義務であると
考えられる.
医薬品間の相互作用の機序としては,薬物の吸収・分布・代謝・排泄過程を介し血中薬物濃度
が変化する薬物動態学的相互作用が最も多い.中でも代謝過程における相互作用は重要であり,
そのほとんどが薬物代謝酵素シトクロム P450 (以下 CYP) の阻害または誘導によるものと考えら
れている.数多くの分子種を持つ CYP のうち,特に CYP3A4 は小腸および肝臓に多く存在し,
また,臨床で使用されている薬物の約 50%の代謝に関わっているため,注意を要する分子種であ
る.
今回,我々は CYP3A で代謝される代表的な医薬品であるニフェジピン (以下 NFP) を用い,
ラット肝ミクロソームに存在する CYP3A 活性に及ぼすカンカニクジュヨウ配合食品の影響およ
び NFP の体内動態に及ぼす影響について検討した.
2. 実 験 方 法
試験食品
試験食品は,森下仁丹㈱製カンカニクジュヨウ配合食品 (K-Prep.;ヒト 1 日摂取量:カンカニ
クジュヨウエキス:300 mg,コウジンエキス:305 mg,マカエキス:200 mg) を用いた.投与量は,
ヒトの体重を 60 kg と仮定して kg あたりの用量に換算したものを常用量とし,その 10 倍用量の
計 2 用量とした.
In vitro
ラット肝臓中 CYP3A 活性は,NFP 酸化反応をモニタリングすることで評価した.すなわち,
NADPH 生成系存在下において,ラット肝ミクロソームと NFP (10 µM) を 37℃で一定時間イン
キュベートし,HPLC で代謝物 (酸化 NFP;NFPO) を定量した.コントロール群の NFPO 生成
量を 100%とし,各被験物質の添加による生成量の変化を相対値で比較した.
In vivo
Wistar/ST 系雄性ラット (9-12 週齢) に K-Prep.を単回または 1 日 1 回,4 日間経口投与した後,
NFP (1 mg/kg) を経口または静脈内投与し,頸静脈に施したカニューレより 4 時間後まで経時的
に非拘束・無麻酔下採血した.血漿中 NFP 濃度は LC-MS/MS により測定した.得られたデータ
をモーメント解析法により解析し,各種薬物動態学的パラメータを得た.CYP3A 阻害薬としてケ
トコナゾール (10 mg/kg, p.o.) を用いた.胃内容物排出機能はアセトアミノフェン法で測定した.
すなわち,ラットに被験物質を経口投与した後,エレンタール®水溶液に懸濁したアセトアミノフ
ェン (30 mg/kg) を経口投与し,頸静脈より 60 分後まで経時的に採血した.血中アセトアミノフ
ェン濃度は HPLC により測定した.
3. 結 果 お よ び 考 察
カンカニクジュヨウ配合食品およびその構成生薬がラット肝 CYP3A に及ぼす影響
K-Prep.は,用量依存的に NFPO の生成を抑制した.また,その構成生薬のうち,カンカニク
ジュヨウエキスおよびコウジンエキスに阻害活性が認められた.このことから,K-Prep.は CYP3A
の阻害活性を有し,それはカンカニクジュヨウエキスおよびコウジンエキスに起因することが示
唆された.
カンカニクジュヨウ配合食品の単回投与がニフェジピンの体内動態に及ぼす影響
K-Prep.を経口投与し,その 30 分後に NFP を投与したところ,NFP の Cmax の低下傾向およ
び Tmax の延長傾向が認められた.しかし,AUC には変化は認められなかった (Fig. A,Table).
この結果から NFP の吸収が遅延していることが疑われたため,胃内容物排出機能を調べたところ,
顕著な変化は観察されなかった.また,NFP を静脈内投与して K-Prep.が肝臓のニフェジピン代
謝能に及ぼす影響を検討したが,何ら変化は認められなかった.
カンカニクジュヨウ配合食品の 4 日間連続投与がニフェジピンの体内動態に及ぼす影響
ラットに K-Prep.を 4 日間連続投与し,NFP の体内動態に及ぼす影響を検討したところ,用量
依存的な Cmax および AUC の増加傾向,t1/2 および MRT の延長傾向が観察された.しかし,いず
れも有意な変化ではなかった (Fig. B,Table).NFP を静注した時の体内動態にも有意な変化は
認められなかった.
2
Control
13.4 mg/kg
134 mg/kg
Ketoconazole 10 mg/kg
A
1.5
**
3
2.5
**
**
2 **
**
**
1
**
1.5
**
0.5
**
**
0.5
*
**
**
**
0
**
1
**
0
Control
13.4 mg/kg
134 mg/kg
Ketoconazole 10 mg/kg
B
0
1
2
3
4
0
Time (h)
1
2
3
4
Time (h)
Fig. Effects of Single (A) and Continuous (B) Oral Treatment with K-Prep. and Ketoconazole on
Plasma Concentration of NFP after Oral Administration to Rats
Each point represents the mean±S.E.M. of 5-6 rats. Significantly different from the control group, *P <0.05,
**P <0.01.
Table. Pharmacokinetic Parameters of NFP after Oral Administration of NFP with K-Prep. to Rats
K-Prep.
Ketoconazole
Parameter
Control
13.4 mg/kg
134 mg/kg
10 mg/kg
(Single Administration)
Cmax (µg/mL)
Tmax (h)
t1/2 (h)
AUC0—∞ (µg・h/mL)
MRT (h)
λ (/h)
1.20
0.25
1.09
1.73
1.69
1.26
± 0.21
± 0.06
± 0.56
± 0.35
± 0.78
± 0.29
0.75
0.54
1.28
1.73
2.05
0.70
± 0.10
± 0.10
± 0.24
± 0.16
± 0.33
± 0.19
0.79 ± 0.11
0.58 ± 0.14
1.23 ± 0.26
1.57 ± 0.20
1.93 ± 0.31
0.94 ± 0.41
1.53
1.25
1.63
4.98
2.77
0.45
± 0.13
± 0.17**
± 0.17
± 0.44**
± 0.25
± 0.05
0.75
0.40
1.18
1.60
1.85
0.83
± 0.06
± 0.07
± 0.41
± 0.16
± 0.48
± 0.17
0.85
0.44
1.12
1.61
1.73
0.75
± 0.12
± 0.13
± 0.21
± 0.15
± 0.27
± 0.15
0.68 ± 0.12
0.48 ± 0.12
2.35 ± 0.73
2.35 ± 0.51
3.61 ± 0.96
0.53 ± 0.16
2.41
0.67
1.10
5.38
1.90
0.79
± 0.26**
± 0.15
± 0.22
± 0.50**
± 0.31
± 0.17
(Continuous Administration)
Cmax (µg/mL)
Tmax (h)
t1/2 (h)
AUC0—∞ (µg・h/mL)
MRT (h)
λ (/h)
Each value represents the mean±S.E.M. of 5-6 rats. Significantly different from the control group, **P <0.01.
以上のことから,K-Prep.は in vitro においては CYP3A 阻害活性を示すものの,in vivo では
単回・連続投与時でも NFP の体内動態に顕著な変化は及ぼさず,また胃内容物排出機能にも影響
しないことが明らかになった.K-Prep.はニフェジピンに代表される CYP3A 基質医薬品の体内動
態に対し,深刻な影響を及ぼす可能性は低いことが示唆され,K-Prep.は安全性の高い機能性食品
であることが示された.
我々は今後も,食品–医薬品相互作用についての知見を取得し,情報を蓄積して広く発信してい
くことで,より安全な健康食品をアピールし,人々の健康増進に貢献していきたいと考えている.