MADOCAを用いたリアルタイム水蒸気解析実験

MADOCA プロダクトを利用した可降水量リアルタイム解析実験
Real Time PWV Analysis Experiment using MADOCA Product
小司禎教*1,佐藤一敏*2
Yoshinori Shoji*1, Kazutoshi Sato*2
*1 気象研究所, 2* 宇宙航空研究開発機構
*1 Meteorological Research Institute, *2 Japan Aerospace Exploration Agency (JAXA)
1.まえがき
JAXA の 複 数 GNSS 対 応 高 精 度 軌 道 時 刻 推 定 ツ ー ル
MADOCA (Multi-GNSS Advanced Demonstration Orbit and
Clock Analysis) による軌道情報のリアルタイムインターネ
ット配信を利用し,国土地理院に協力いただき,30 点の
GEONET 点の高頻度可降水量(PWV)リアルタイム解析(1
秒間隔で観測後 1 分以内)システムを気象研究所に構築し
た.解析された可降水量を,近傍の高層ゾンデ観測と比
較したところ,RMS で 3mm 程度と高い一致を示した.
一方,幾つかの観測点では鉛直座標が時間と共に数十
センチ程度ずれていく現象が見られた.鉛直座標のドリ
フトが大きい場合,天頂遅延量にもバイアスが生じてお
り,修正する必要がある.サイクルスリップの可能性を
考え,閾値を変更して実験を行ったが,効果は得られな
かった.
図 1 2015 年 1 月の比較結果.赤:00UTC,青:12UTC.
2.解析概要と結果
GNSS 解 析 に は オ ー プ ン ソ ー ス の RTKLIB ver. 2.4.2
(http://www.rtklib.com/)のツール rtkrcv を利用し,衛星軌道
と時計情報は MADOCA リアルタイムプロダクトを利用し
た.最低仰角は 5 度,等方マッピング関数は GMF を用い
た.国土地理院サーバーからストリーミング配信される 1
秒間隔データを精密単独測位(ppp-static)によりリアルタ
イム解析し,天頂遅延量,大気遅延勾配,及び視線遅延
量を逐次解析した.
高層ゾンデ観測点近傍の GNSS 観測点で解析された
PWV と高層ゾンデによる PWV との散布図を図 1 に示す.
GNSS PWV はゾンデの放球時刻から 30 分間平均した.過
去の同様の検証調査では,00 と 12UTC の比較で BIAS に
違いが見られたので,00 と 12UTC の比較を独立に行った.
比較を行った7箇所全てで RMS は 3mm 未満,バイアス
も半数以上で 0.5mm 未満であった.
図 2 には実験を行った 30 点の 24 日間の鉛直座標解析値
の変動を示す.多くの点で,座標が安定した後,変動は
1cm 程度で推移しているが,5 地点(0225,1062,3016,
3018,3019)では 10~数 10cm の変動が発生し,これらの
点では天頂遅延量が後半ほど小さな値で解析されている.
表 1 には今回の解析地点のアンテナと受信機を示す.
TPSCR.G5 と TPS NETG3 の組み合わせの点で鉛直座標の
ドリフト発生地点が多い.
原因の可能性としてサイクルスリップの検出特性が考
えられたので,rtkrcv の slipthres パラメータをデフォルト
の 50mm から 10mm 単位で減らして解析してみた.図 3 に
3019 の結果を示す.変動の幅に変化は見られるが,大き
な効果は得られない.他の地点でも同様の傾向にあり,
今後他の原因を探る必要がある.
図 2 解析された鉛直座標変動(2015 年 3 月).解析開
始後 1 時間の鉛直座標からの差を示す.
表1 アンテナ機種,受信機機種による地点の分類
図 3 rtkrcv の slipthres パラメータの値を変化させた
場合の鉛直座標解析値の変化.3019 点の例.(デフォ
ルトは 50mm)