﹁ ヌエのいた家 ﹂ 父 を追 う 、 ち ょ っと した感動 を覚 西村 賢太 が であ る︶ 阿部公彦 るネ ット上 での悪態 には唖然とした人も多 い えた。 小谷 野敦 だ ろう。 であ る。焦点 は母親 から父親 に移 る。病を発 何年 か前、あ る文章 の中 で小谷野敦氏 の書 そう いう ことはひとまず切り離 して考 えた い。 した母 に暴言を吐 き、 み っともな い行動 をと った父親 は、母 の死後急速 に体力 も気力 も衰 続 いて芥川賞候補 にな った小谷野氏 の自伝的 あ る。 の こも ったし つこい語り 回が、ま さにこの小 説 の魅力 とも直結 し ていると いう ことな ので な のは いかがなも のか。 でも、困 るのは、 そ んな狭量 で面倒 くさ い エゴ の強 い人 の、怨念 代ネ タもとき にやや安易 で ︵コロッケはよ か 、作品 の緊張感 を弱 めて ったが︶ いる。何 より、 ここま で自 己憐憫 が強く て他者 に対 し不寛容 す る こう した手加減 した書 きぶり のせ いで、 読者 には息苦 し い思 いを させるわり に、書 き 手が実 はど こかで楽 に呼吸 し て いるのではな いかと思わせる。頻出す るサブ カ ルネ タや時 が笑 って ﹁いま ヌ エさんそ こに いるよ﹂ と言 う場面だ。妻 は父親 に対 す る ﹁ 私﹂ の感情 を 理解 し ﹁ヌ エ﹂ と いう呼称 も採用するが、あ くま で ﹁ エ ヌ さ ん ﹂ な のであ る。絶妙 の距離 。 感 で は な い か ﹁ 私 ﹂ に かわ って父親 の面倒 を見 てき た妻 が、﹁ 私﹂ にと ってどれくら い 大 きな存在 な のか、 このひと言 でよくわかる。 不満もあ る。妻が描 かれ足りな い。 この妻、 実 はかなリデ ィープな人 では? と思わせる くら いま で書 いたらす ごか つた のに、とも思 う。最後 の妻 の科白 もまだ今 一つだ。妻 に対 ︱、オ ラ生 き てるよ︱﹂ と の は秀逸だ し、お 声 そら 小説中 く で も 数 少 な い 息 を つける箇所 は、 父親 の納棺 の場 に到着 した ﹁ 私﹂ に対 し、妻 成長 した かと いう人生 の軌跡 であ る。幼少時 心﹂ の成立 の裏事情 の回想を通 し、自身 の ﹁ ち にな ったり、呆 れたり失笑 したりしながら 私﹂がど の のは、両親 と のかかわり の中 で ﹁ よう に苛立ち、悲 しみ、怖 れ、暗浩 たる気持 点は ﹁ 私﹂ に密着。作品 の大部分 を構成 す る が見 つめると いう のが作品 の本筋 であ る。視 死 んじ え、孤独 な死を迎え る。 そ の様 子を ﹁ まえ﹂と呪 いの言葉 を吐 きながらも、それだ けには収まらな い複雑な思 いを抱 いて語り手 母 子登 型 の続編 ﹃ヌ エの いた家﹄ はその ﹃ いたも のに触 れようとしたら、担当 の編集者 母子寮前﹄ に この ﹃ヌ エの いた家﹄ は、 ﹃ 母 子寮前﹄ は雑誌 掲載時 には、 作 品 であ る。 ﹃ もちろん、小説作品をとりあげ るから には、 から ﹁ やめた方が いい﹂ と い った旨 の ことを 言 われた。細 かな ニュア ンスは忘 れたが、面 倒な こと にな るから、 と いうような話だ った。 ﹁ 迂闊 に触 れな い方が いい﹂ と アドバ イ スさ 私小説的作品 では、 いかに科白 を的確 に拾 う かが勝負 にな る。生 死 だ 不 明 と 囲 が騒ぎ 周 出 したとき に父親が電話 回で発 す る ﹁ 何だあ ず かし い父親﹂像 と重なりそう で重ならな い 微妙 なねじれが ここにはあ る。 っまり、 この作品 から にじみ出す のは父親 のしぶとさな のだ。描出 したと は言うま い。 勝手 に漏 れ出 てきた感、 であ る。語り手が罵 り、否定 し、とき には分析 したり引用 したり し ても到底、 この父親 を組 み伏 せることはで きな い。 そ の証拠 に父親 の死 に目を ﹁ 私﹂ は 知 らな い。 き っとど こかでまだ生き ていて、 ﹁ウ ナギ、 バ ナナ、刺身、塩辛、渡稜 草 ﹂ な どと食 べた いも のを ファ ック スで送 ってくる に違 いな い。 愛 人 さえ いたら し い。﹁ 私﹂が か つ て れ 憧 た のかもしれな い異人種 だ。 な の 江 が 藤 淳 ﹃ 成 熟 と喪失﹄ で描 こうとした、近代 日本 の ﹁ 恥 ら れな い凡庸 で いじ けた男。 でも、﹁ 私﹂ と は違 って若 い頃 は美男 子 で スポー ツも得意、 くとらえど ころのな いわ かり にく い存在。暴 君 でも権威 でもな い。 むしろみ っともなく て 情 けな い、学歴もな いし、知性も品格も感 じ は、他 でもな い父親 であ る。父親 に対 し ﹁ヌ エ﹂と いう呼び名 を使 って いる こと からもわ かるよう に、﹁ 私 ﹂ にと っての父親 はど にか いうも のかと思 ったほど であ る。芥川賞 は候 補止まりだ ったが、受 賞 した西村賢太が、自 分 のは ﹃ 母子寮立 型 には かなわな いと思 った、 あの などと受 賞後 の エッセイで書 いて いて ︵ ったが、主人公 の決 して格好よくはな い生き 様 の向 こう に母親 と の関係が見事 に浮 かび上 がり、 一生 に 一度 し か書 けな い作品 とは こう んだ記憶が ある。母親 の闘病を描 いた作品だ 読 み終 わるのが惜 し いほど の気持 で大事 に読 れ る人物 はときどき いる。 たしかに反論があ ったり意見が合 わな か ったり したとき に電話 を かけて相手 に文句を言 ったり、裁判沙汰 に 近づ かな い したりと い った行動をと る人 は ﹁ 面倒臭 い﹂ と い った印象 を与 ほうが い い﹂﹁ え るも のだ。公 にな った著作 に対す る批判 は 正当な権利だ ろうが、小谷野氏 の場合、事実 誤認 の指摘 など的 を射 て いる こともあ る反面、 揚げ足取り や単な る恨 み節 と思えるも のもあ る。芥川賞落選後 の選考 委員 や受賞者 に対 す に何と か言葉 を与 え整 理しよう とす る語り手 の悪戦苦闘 ぶり から小説 の力 が生まれ る。単 行 本化 に際 しあらためて読 み返 したが、や つ ば り いい小説だ と思 った。雑誌掲載時 には ラ スト に不満があ ったが、修 正 され てよくな っ た。 もち ろん、決 して爽快 な作品 ではな い。 ど こか荒涼 とした気 配を感 じさせる北関東 の町 を舞台 に、裕福 とは言えな い家 の長男が、家 族 の期待 を背負 いながら高学歴を得、やが で 両親 の つか った安 っぱ い文化 に違和感 を覚 え ながらも自 身の中 にそ の痕跡 を認 めな いわけ には いかな い、そんな経過がど こか決 め つけ 的 で息苦 し い文章 で強引 に語られる。読者 と し て見 ると、 エゴ むきだ し で気難 しく面倒臭 い、自身 の弱 さ には こだ わ るのに他者 の弱 さ には冷淡、神経質 で、狭量 で、記憶 の力だ け は異様 にあ る執念深 い書 き手 に付 き合 わされ ていると いう印象 であ る。 なんだ、 これ では小谷 野敦氏そ のま んま で はな いか、 とも思う。 でも、小説とな ると これが いいのだ。 そ こ が小説 の怖 いと ころだ。 おそらく このような 書きぶりをとる ことで可 能 に な るのは、フと のこわば っ た 声 の 隙 間 か ら 異 質 の何 かを漏 れ 出 させる こと であ る。そ の ﹁ 異質 の何 か﹂ と 111… 繭 ‖ ⅢⅢ欄Ⅲ躙棚‖ IⅢ 22 フ 文學界図書室 フ〃 文藝春秋 1300円 +税
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