平成16年度 修士論文 非線形動解析を用いた 摩擦による減衰に関する研究 指導教員芝田 京子 講師 副指導教員井上 喜雄 教授 高知工科大学大学院 工学研究科基盤工学専攻 知能機械システム工学コース 学籍番号 1075080 山本 英二 目次 1.緒言 ............................................................................................................. 1 2.変位拡大機構 ............................................................................................... 2 2.1 変位拡大機構について ............................................................................................... 2 2.2 変位拡大機構動吸振器 ............................................................................................... 5 2.3 変移拡大型動吸振器の摩擦による減衰 ....................................................................... 9 3.非線形動解析結果と実機での実験との比較 .............................................. 12 3.1 実験の概要............................................................................................................... 12 3.2 実機と同一のモデル ................................................................................................. 13 3.3 解析条件 .................................................................................................................. 14 3.4 解析結果 .................................................................................................................. 15 4.上下棒ばねの張力を一定とした解析........................................................... 20 4.1 解析条件 .................................................................................................................. 20 4.2 解析結果 .................................................................................................................. 20 5.結言 ........................................................................................................... 23 6.謝辞 ........................................................................................................... 23 参考文献 ........................................................................................................... 24 1.緒言 振動を減衰させるデバイスとしてはオイルダンパや粘弾性体などがよく用いられるが, 摩擦が存在する構造の場合には摩擦を減衰に利用することができれば,コストやメンテナ ンスの面から有利であると考えられる,摩擦力は速度と反対の方向に働くため,エネルギ を消散する性質を有しており,実際に大型の建築物の制振や免震などの減衰特性の一部を 担っていが,摩擦力は,非線形減衰力であり,例えば法線力と摩擦係数が一定であるとす れば,振動の振幅が大きくなるにしたがって減衰性能が低下して行き,本当に減衰が必要 となる大地震の時には減衰効果が期待できないことになる.一方,振動振幅が非常に小さ い場合には,摩擦面に働く力が最大静止摩擦力を超えなければまったくエネルギを消散し ないので,減衰効果はゼロである. そこで本研究では,前述のようにあまり望ましくない減衰特性を有する摩擦による減衰を 線形減衰と同様,振動振幅によらず一定の減衰性能を持たせること,すなわち線形化を考 える. それを達成する考え方として,摩擦力が振動振幅に比例して大きくなるような構造を作る ことができれば,振動1サイクル当たりの消散エネルギが,線形の場合と等価になること に着目し,振動により発生するばね力に比例して摩擦が発生するような構造を考える.具 体的には,上下方向の低周波の振動に対する動吸振器,あるいは上下方向の除振を意識し て,拡大機構と線材ばねを用いた構造において,ばね定数の差により振動振幅に比例した 摩擦力を発生する構造を考える. 実験ではパラメータサーベイの範囲が限られるので,ここではマルチボディシステムの動 解析プログラム DADS を用いた非線形動的解析を用いて検討する. 1 2.変位拡大機構 2.1 変位拡大機構について 拡大機構と線材ばねを用いた構造を考えるおいて,動解析に用いる変位拡大機構を用い た変位拡大型動吸振器について説明を行う. 図2-1 単純支持構造動吸振器 図2-1は質量 M をコイルばねで支持した単純支持構造動吸振器のモデルである.この系 の固有振動数fを低くするためには次式 f = 1 2π K M (1) よりばね定数kを低く設定する必要がある.しかしこの系が自重を支えるためには,ばね にある程度の強度を持たせることが必要であり,強度を下げることになるばね定数を下げ る,という方法には限界がある. そこで考えられたのが,図2-2に示す変位拡大を利用した系である. 2 図2-2 変位拡大機構 質量とばねはつりあっているものとする.この構造で質量が振動したとすれば,ばね部分 の変位に比べ質量部分の変位が大きくなることが分かる.このように,ばね部分の変位に 比べ質量部分の変位を拡大する機構を変位拡大機構と呼ぶ.また,ばね部分の変位に比べ 質量部分の変位がどのくらい拡大されたかを示す割合を拡大率と呼ぶことにする.以下に 変位拡大機構を用いることで容易に等価なばね定数を低くできることを示す.簡単のため に変位を微小とし線形の範囲で考えれば,拡大率βは β= ∆X m ∆X k = L∆θ L = l∆θ l (2) となる.質量 M の重力を F としたときのばねにかかる力 Fs は,力のつりあいより L F = F = βF s l (3) となる.同様に質量 M に力?F を加えたとき,ばね部分にかかる力の増分?Fs は, L ∆F = ∆F = β ∆F s l (4) となる.この式より,ばねにかかる荷重は図1の荷重に比べ拡大率β倍だけ大きくなって いる.したがって,ばねの素線の許容せん断応力を図 1 と同じと考えれば,強度の面から 3 ばね定数kは Fs F =β = βk Xk Xk k= (5) で表され,拡大していない場合と比べると拡大率βの分だけばね定数kを大きく取る必要 がある. ばねの微小変位?Xkは ∆X k = ∆Fs ∆F =β k k (6) となる.したがって質量部分の微小変位?Xmは, ∆X m = β∆X = β 2 ∆F k (7) であるので,質量部分での等価なばね定数 K は, K= ∆F 1 = k ∆X β 2 (8) となる.上式より質量位置での等価なばね定数は,ばね単体のばね定数の1/2β になる ことが分かる.また,式(8)に式(5)を代入すると K= 1 k β (9) となる.上式は拡大機構を用いる事により質量部分の仮想ばね定数は,単純支持構造動吸 振器のばね定数の1/βになることを示している.このことより固有振動数は,単純支持構 造動吸振器の固有振動数の1/ β となることが分かる.以下では,これを応用した変位拡 大型動吸振器のモデルを説明する. 4 2.2 変位拡大機構動吸振器 k1 Mg Mg C k2 B1 B2 図2-3 変移拡大型動吸振器 図2-3が本研究で用いる変移拡大型動吸振器のモデルである. 梁 2 本を X 型に交差させ, 自重は水平に取り付けた 2 本の線材(棒ばね)で支える構造となっている.この構造を用 いれば力のつりあいは矢印のようになり,可動部分には質量程度の力はかかると思われる が拡大効果による大きな張力はかからない.以下,この構造の系全体のばね定数を考える. 5 F X x Y F+ΔF K1 Δy T1 ΔY Δx y C ΔX l L T2 K2 F 図2-4 1/2モデル 構造全体の上下方向のばね定数は,非線形であるので釣り合い状態からの微小変位を 考えて計算する.また,構造物の対称性を考慮して 1/2 モデルで考える.まず,外力 F と T1,T2 が釣り合っている状態で l 2 = x2 + y2 (10) L2 = X 2 + Y 2 (11) α= L l = Y y = X x (12) β= x y = X Y (13) T = T1 + T2 (14) と置き,支点である C 点周りのモーメントのつりあいより T1 y + T2 y = 2 FX (15) となる.したがって 6 (T1 + T2 ) y = Ty = 2FX = 2 Fxα (16) まとめると T = 2αβF (17) となる. 次に F から力が微小量増加し F+ΔF となった場合に,x は x+Δx,y は y+Δy, X は X+ΔX,Y は Y−ΔY となるとする. 式(10)と同様に l 2 = ( x + ∆x) 2 + ( y − ∆y ) 2 (18) 式(10) (18)より x 2 + y 2 = x 2 + 2 x∆x + ∆x 2 + y 2 − 2 y∆y + ∆y 2 (19) 微小項の 2 乗であるΔx2,Δy2は他の項よりも十分小さいので省略すると 2 x∆ x − 2 y∆ y = 0 (20) となる.したがって式(12) , (13)より,また α = ∆Y ∆y でもあるので ∆x = ( y x)∆y = ∆y β = ∆Y (αβ ) (21) また支点の C 点周りのモーメントのつりあいより (T1 + ∆T1 + T2 + ∆T2 )( y − ∆y ) = 2( F + ∆F )( X + ∆X ) (22) 微小量の 2 乗の項を省略し,式(15)の関係を用いれば (∆T1 + ∆T2 ) y − T∆y = 2( F∆X + ∆FX ) (∆T1 + ∆T2 ) y − T∆ Y α = 2(F∆ Y β + X∆F ) (23) (24) したがって整理すれば 2 X∆F = (∆T1 + ∆T2 ) y − T∆Y α − 2 F∆Y β (25) となる.一方線材においては式(21)より ∆T1 = K1 ∆x = K1 ∆Y (αβ ) (26) ∆T2 = K 2 ∆x = K 2 ∆Y (αβ ) (27) であるので,それらおよび式(17)の関係を代入すると 2 X∆F = (K1 + K 2 ) y∆Y (αβ ) − 2αβF∆Y α − 2 F∆Y β 7 (28) ばね定数の形にするために2XΔYで割れば ∆F ∆Y = (K1 + K 2 ) y (2 Xαβ ) − 2αβF 2 Xα − F Xβ (29) となり,したがって ( ) ∆F ∆Y = (K1 + K 2 ) y 2α 2 β 2 − βF X − F ( Xβ ) (30) となる.上下の変形を考慮し ∆V = 2∆Y を用いれば ( ) ∆F ∆V = ∆F (2∆Y ) = (K 1 + K 2 ) 4α 2 β 2 − β F (2 X ) − F (2 Xβ ) (31) となる. ここで用いたのは1/2モデルなので,左右を考慮し P = 2 F とすれば全体系のばね定 ~ 数K は ( ) ~ K = ∆P ∆V = (K1 + K 2 ) 2α 2 β 2 − β F X − F ( Xβ ) (32) つまり拡大率が大きくなれば第1項は正で小さくなり,第 2 項は負の幾何剛性で拡大率 が大きくなれば負の値で大きくなる.したがって,β(拡大率)を大きくすれば,式(17)に 示すように張力が拡大率に比例して大きくなるが,式(32)より,構造全体の上下方向のば ね定数は,拡大率の1乗に逆比例で小さくなるという特性に加えて,負の幾何剛性がある ため,低固有振動数の実現に適している. 8 2.3 変移拡大型動吸振器の摩擦による減衰 図2-3で示す構造を用いれば,振動中でも摺動部には大きい力が発生しないので摩擦に よる大きい減衰力は発生しない.一方,動吸振器の設計という立場からは,適切な大きさ の線形減衰が必要であるが,緒言でも述べたように摩擦による減衰は非線形であり,かつ 振幅が大きくなるほど減衰特性が低下するので,動吸振器の減衰にはあまり適していない. 以下,摩擦による減衰の非線形性を改善し線形減衰と等価なものが得られる構造を理論か ら示す. まず,図2-3のモデルから,系を支える線材が下側の1本のみしか存在しない場合を考 える.このような構造であれば,自重が静的に加わった時,点Cには形を維持するために 大きい力が働く.大きい力が摺動部に加わっている状態で振動により摺動部が動けば,大 きい摩擦力が発生する. 摩擦力 変位 図2-5 変位―摩擦力線図(摩擦力一定) このような静的な摩擦力が振動による摩擦力と比べて大きい場合には,図2-5のように 振動中も摩擦力はほぼ一定と考えられる.一サイクル中の消散エネルギ DF は,質量の位置 での変位振幅を X ,摺動部の相対変位を X r とすれば,図2-5より DF = 4 X r Fr = 4 XF (33) となる. 質量位置での等価粘性減衰を CE とすれば,それによる1サイクル当たりの消散エネル ギ DV は DV = πω CE X 2 (34) となり,したがって, DF = DV と考えれば,等価な粘性減衰は, 9 CE = 4 F /(π X ) (35) となり,振幅が大きくなるにしたがって等価な粘性減衰は小さくなっていく.動吸振器に おいて振幅が大きいところで減衰が減少すれば,動吸振器の振幅がますます大きくなり, ばねが強度面で非常に問題となる.したがってこのような減衰特性は動吸振器にとって, 望ましい特性であるとは考えにくい. 摩擦力 変位 図2-6 変位―摩擦力線図(変位に摩擦力が比例) そこで,摩擦力ではあっても,図2-6のようにその大きさが,変位に比例するような構 造にすれば,一周期あたりの消散エネルギは変位の2乗に比例するので線形の粘性減衰と 等価とすることは可能である. ρ を定数として,質量位置での等価な摩擦力の絶対値 F が F=ρ x (36) で表現されるような力であればよいと考えられる.質量位置での変位振幅を X ,このよう な力による1サイクル当たりの消散エネルギ DF とすれば DF = 2 ρ X 2 (37) となり,式(34)の DV と等しいとすれば CE = 2 ρ /(πω ) (38) となる.したがって, ω の関数ではあるが,振幅には影響されない.このような ω に逆比 例する形は,損失係数で表現される複素剛性によるヒステリシス減衰と同じ形である. このような特性を実現するためには,摺動部に加わる法線力が変位に比例するように設定 すればよい.そこで,外観は図2-2と同じ構造で,自重により発生する2つの線材のばね 10 力は等しくなるように設定する.したがって静止時には,点Cにおける法線力はゼロである. ここで図2-2の状態とは違って,2つの線材のばね定数を等しくせずに少しずらすことを 考える.すなわち k1 ≠ k2 (39) であるとする.梁の剛性は,線材のそれと比べて十分剛であるとすれば,自重による釣り 合い位置からの線材の伸びは2つのばねで共通であるので,それを δ とすると,水平方向の 釣り合いより,C部では, PA = (k1 − k2 )δ (40) で表現される水平力が発生する.したがって,摺動方向の反対向きに,その絶対値が次式 の Fr で表現される摩擦力が発生する. Fr = µ ( k1 − k 2 )δ (41) 質量部上下方向の等価な F と Fr の間には,比例関係があるので,それを仮に F = α Fr (42) と表現し,質量部分の上下方向の変位 x とたわみ δ の間には x = 2 βδ (43) なる関係が存在するので,整理すると F = α Fr = αµ ( k1 − k 2 ) x /(2 β ) = {αµ /(2 β )} (k1 − k2 ) x (44) で表現され,これが速度と反対方向に働く.これは式(37)と同形であり,図2-6のような 特性を有する摩擦力である.等価粘性減衰係数 CE は CE = αµ k1 − k2 /(πβω ) (45) となる.ここで注目すべき点は, k1 − k2 が係数に含まれていることである.構造の形は与え られていたとしても,線材の k1 , k2 の選定の仕方で,減衰係数を自由に調整することがで きることになる. 11 3.非線形動解析結果と実機での実験との比較 3.1 実験の概要 これまでの実験から,X 型動吸振器の摺動部での摩擦力を上下の線材ばねのばね定数の調 節によって線形減衰と等価にすることが可能であることが分かっている.本節の実験はそ の線形減衰の最適化をこれまで実験に用いてきた図の変移拡大型動吸振器ではなく,機構 解析ソフトの DADS を用いて動解析によって調べることとした. これまで実験に用いてきた動吸振器は,棒材の初期角度による振動の違い等様々な実験 を行うことを想定していたため,形状が X 型動吸振器のモデルで考えていたものと違って きている.他にも C 点以外のジョイント部にも微小な摩擦は生じているはずであり,これ らが実機での測定実験に与える影響は未知である.この実験をさらに理想的な状態の下で 行い理論の検証を行うことが,DADS を利用する意図である. 実験は,実機の動吸振器と同一のモデルで解析を行い動解析からも似通った理論から導 かれるとおりの減衰が観察できるかの確認を行う. 12 3.2 実機と同一のモデル 図3-1 拡大機構を有する動吸振器 図3-2 変移拡大型動吸振器の DADS モデル 13 図3-2が図3-1の実機を模して作成したモデルである.Pro/Engineer によりモデルの 部品形状作成を行い,DADS に取り込んだ後各部品同士の結合,関節の作成,ばね要素・摩 擦要素の取り付けを行った.各ジョイント部の摩擦係数は,理想的な状態を考え,C 点以外 は回転・並進共に全て0としてある.これにより,実機での測定結果より減衰の特徴が強 調された結果が現れるはずである.また C 点での摩擦係数は 0.2 とした.鍼の初期角度は 15 度,30 度,45 度と変更が出来るが,あまり角度を大きくするとシミュレーションとの誤 差が大きくなる可能性があるので,最も小さい角度の 15 度で解析を行うこととした. 3.3 解析条件 実験1 下側の棒ばねのみ 線材:チタン合金 直径 1.5[mm] (等価なバネ定数:737981[N/m]) 実験2 上下に同じ棒ばね 線材:チタン合金 直径 1.5[mm] 実験3 上下の線材のばね定数が異なる場合 線材上部:SUS304 Φ1.5[mm] K=1265k[N/m] (等価なバネ定数:1333783 [N/m]) 下部:チタン合金 Φ1.5[mm] K=700k[N/m] 14 3.4 解析結果 実験1 図3-3 実験1 解析結果 1.5 1 加速度 0.5 0 -0.5 -1 -1.5 0 1 図3-4 2 3 時間 [s] 実験1 実機での測定結果 解析結果・実機の測定結果共に直線的な減衰を示している.これは摩擦特有の減衰であり, 構造物の制振等に利用するには向いていない. 15 実験2 図3-5 実験2 解析結果 1.5 1 加速度 0.5 0 -0.5 -1 -1.5 0 1 図3-6 2 3 時間 [s] 実験2 実機での測定結果 実機での結果も減衰が少ない傾向を見せていたが,解析結果は減衰が極端に少ない結果と なった.これは張力が棒ばねで釣り合い,摺動部に法線力がかからなかった為と思われる が,理想状態を考え,C 点以外の摩擦力を無くした事による影響も大きい.しかしながら理 想状態では C 点での摩擦が無くなり,減衰が起こらない結果となることが予想されていた. 16 図3‐7 モデルの非対称性 これは図3-7に示すような,モデルの非対称性が原因と考えられる.構造上 X 型梁と上下 梁で左右に向かって右側の上下の梁が長くしてある,上部の梁に分布加重をかけると,右 側の方が大きく振動する.これにより C 点に僅かな法線力がかかり,一定の摩擦が発生し たと思われる.この摩擦は理想状態ではない実機では,解析より大きくなると思われる. この問題を軽減することも実用化を行う場合の課題の1つである. 17 実験3 図3-8 実験3 解析結果 1.5 1 加速度 0.5 0 -0.5 -1 -1.5 0 1 図3-9 2 3 時間 [s] 実験3 実機での測定結果 実機の測定結果では実験1,2の結果と比べ線形減衰の傾向を示しているが,解析結果で は非線形な減衰となっている.これは実験条件で上下棒ばねのばね定数に差を付けた為に よるものと思われる.ばね定数に変化を付けた場合,下図3-10のようにばね定数の大き 18 な棒ばねにはもう一方より大きな張力が静止時に働くことになる.これにより3章で示し た式に適合した結果が得られなかったと思われる. 図3-10 棒ばねにかかる張力 19 4.上下棒ばねの張力を一定とした解析 3 章で行った解析で線形な減衰が得られなかった理由として,2 本の棒ばねの張力が等し くなっていなかったことが考えられる.そこでばね定数の大きい棒ばねは本来より少し短 いものを用い,初期状態で少し伸ばしてあるものとして,等しい張力がかかっている状態 を作ることにする.逆にどちらかを縮めた状態は,実機で実現することが難しいと思われ るので,省略する. 4.1 解析条件 線材上部:ステンレス(SUS304)直径 0.9 [mm] 長さ 273.6[mm] (等価なバネ定数:480162[N/m]) 下部:チタン合金 直径 1.5[mm] 長さ 275[mm] ここで,上部線材は下部より短いものを伸ばして固定してある状態である.273.6[mm]とい う値は長さが一定である場合から 0.1[mm]ずつ短くしていき,動解析を行って内部の張力を 観察する,といった方法で求めた. 4.2 解析結果 図4-1 張力一定下での解析結果 上図4-1のように,これまでの実験結果に比べて明らかに線形性のある減衰となった.こ のときの棒ばねにかかる張力を調べたものが,下図4-2であり,また上部棒ばねの張力か ら下部棒ばねの張力を引いたグラフが下図4-3である. 20 図 図4-2 図4-3 棒ばねにかかる張力 上部棒ばねにかかる張力−下部棒ばねにかかる張力 この2つの図から,ばね定数に差をつけ,かつ張力を一定にしたとき,その張力の差に 酷似した線形減衰が現れる事が分かる.しかし線材ばねを伸ばした状態で固定する,と いった方法は,その線材の種類にもよるが許容できる範囲があまり大きくはないため, 解析を用いて設計を行う時にはそれを念頭に置き,無闇にばね定数の差を大きくしたり, 線材ばねを長く伸ばして張力を合わせたりしないよう,注意する必要がある. 最後に,この解析を様々な条件下で試み,最も線形減衰に近かった結果を下図4-4に 示す. 21 図4-4 SUS304 直径 1.5[mm] 長さ 272.3[mm], SUS304 直径 0.9[mm] 長さ 275[mm] 22 5.結言 以上のシミュレーション結果から振動により発生するばね力に比例して摩擦が発生する ような構造を利用することにより,摩擦による減衰の線形化が可能であることと,非線形 動解析がその最適モデルの構築に有効であることを示した.しかし実機で摺動部やその他 の関節部の摩擦係数を測定することが困難なことから,解析で求めた固有振動数や変位な どが正確とは考えにくい.よって今の段階では,この解析方法からは減衰の傾向を掴むこ とが可能といった結論にとどまった.しかし逆にこの理想状態の解析結果と実機の実験結 果を照らし合わせて理論を構築することで,実機の各関節部の摩擦係数を求めるといった 利用方法が考えられる. 6.謝辞 本研究を行うにあたり,ご指導を賜りました井上喜雄教授,芝田京子講師に深く感謝い たします.また Pro/E モデル作成に協力していただいた玉井聡志氏,解析に関してご教授 いただいた山崎陽平氏,並びに本研究に関わった多くの方々にも深く感謝致します. 23 参考文献 (1)井上喜雄,甲斐義弘 拡大機構を用いた上下方向動吸振器に関する研究 (2)井上喜雄 他4名,機講論 No.00-6,2000,353. (3)日高照晃 他6名著 機械力学 (4)日本機械学会 金属材料の弾性係数 (5)サイバーネット HP http://www.cybernet.co.jp/ 24
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