これがうわさの理事長の娘… 素倉てす タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト http://pdfnovels.net/ 注意事項 このPDFファイルは﹁小説家になろう﹂で掲載中の小説を﹁タ テ書き小説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。 この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また は﹁小説家になろう﹂および﹁タテ書き小説ネット﹂を運営するヒ ナプロジェクトに無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範 囲を超える形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致し ます。小説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。 ︻小説タイトル︼ これがうわさの理事長の娘⋮ ︻Nコード︼ N7677BC ︻作者名︼ 素倉てす ︻あらすじ︼ 僕が好きになったクラスメートの西園寺さんが入院したんだ。そ れでお見舞いに行ったんだけど、それがたいへんなことになるなん て、ぜんぜん思ってもいなかったよ⋮ 1 ︵前書き︶ この小説にはえっちな部分があります。そのようなのが嫌いな方は ご注意下さい。 2 僕、ひろし、高校生。一応クラス委員。勉強もできるし︵成績い いんだよ︶、スポーツだってそこそこできるんだ。でも、気が弱い ってわけじゃないと思うんだけど、内気なせいで友達なんてあまり できないんだ。女の子ともお話なんてできないから、ガールフレン ドなんてできるわけないよ。それに、いつも何も言わないからおと なしいと思われて、なにかあるとみんな僕に押し付けるんだ。クラ ス委員だってやりたくてやっているわけじゃないんだ。みんなやり たくないから僕に押し付けたんだ。だってクラス委員なんてほとん ど雑用係で、先生に言われてプリント配ったり、重い教材を教室ま で運んだり、そんなことばかりなんだ。クラス委員は二人で、もう 一人は立野さんって言う女の子なんだけど、ずるくてさ、教材運ぶ ときなんか﹃私、そんな重いもの持てなーい﹄とか言って、結局僕 が一人で運ぶことになるんだ。図体がでかくてゴリラみたいな腕し てるくせにさ。 でもクラス委員だって悪いときばかりじゃないんだ。用事がある ときはクラスの女の子と話せるんだ︵用事を伝えるだけだけどさ︶。 こんなの情けないと思うけどさ⋮ さいおんじ そんな僕が好きになったのは、理事長の娘だとうわさの、すごい 美人のクラスメートなんだ。西園寺さんって言うんだよ。顔なんて 真っ白で、白いを通り越して青白くて、透き通っているみたいなん だ。えっ、病気じゃないかって? うん、彼女、病気みたいなんだ。 よく知らないんだけど、体育の時間はいつも見学だし、学校を休む ことも多いし、走ったりするのも止められているみたいなんだ。だ から学校の中を歩くときはいつもゆっくり歩いているし︵それがお 嬢様っぽくて、僕は好きなんだけど⋮︶、学校に来るときはいつも 高級車で送り迎えしてもらっているし⋮ きっと本物のお嬢様なん 3 だ。 だから僕はいつも遠くから見ているだけなんだ。告白なんてとん でもないよ⋮ ちょっとだけでもいいからお話なんかできたらなあ、 と思っているだけなんだ⋮ 少し前なんだけど、事件があったんだ。クラスにヤンキー︵不良︶ みたいのが二人いて、いつもつるんで︵一緒に行動して︶いたんだ。 みんなも嫌がっていたんだけど、その二人が昼休みにクラスの女の 子をいじめ始めたんだ。その女の子は︵少しどんくさい︵のろまな︶ 感じだったけど︶まじめな普通の女の子で、いじめられる理由なん てなかったんだ。でも、いじめはすぐエスカレートして︵ひどくな って︶その女の子が泣いてしまったんだ。だから僕は止めようとし たんだ。 ﹁そんなこと、止めて下さい﹂ ﹁お前、こんなやつの味方するのかよ﹂ ﹁お前、こいつのこと好きなのか?﹂ ﹁そんなことじゃなくて、いじめるのやめてよ﹂ それでもやめないから、僕、女の子をかばったんだ。そうしたら ﹁えへへ、好きな子と一緒﹂とかふざけて、僕を殴ったり、蹴飛ば したりしたんだ。僕はあんまり恐くて、﹁やめてよ!﹂って言って 夢中で相手を突き飛ばしたら、相手は尻餅をついて、そのとき机の 角に頭をぶつけてケガをしてしまったんだ。それで、先生がきて大 騒ぎになってしまって、僕は説明したんだけど、僕が暴力をふるっ てクラスメートにケガをさせたってことになってしまったんだ。 ﹁でも先生、僕は⋮﹂ ﹁理由がどうあれ、クラスメートにケガをさせたお前が悪い。後で 職員室にきなさい﹂ ﹁でも、あの二人が女の子をいじめていたから、それで止めさせよ うと⋮﹂ ﹁ケガさせたのはお前だろう。言い訳なんかするな﹂ 4 クラスのみんなだってずっと見ていたのに、ヤンキーの二人が恐 いから知らんぷりなんだ。僕が悪いのじゃないのに、僕だけ悪いこ とになってしまってさ、泣きたくなっちゃったよ。でも、そのとき 西園寺さんが言ってくれたんだ。 ﹁先生、女の子をいじめていたのはあの二人なのに、どうしてひろ しくんだけ悪いんですか?﹂ ﹁クラスメートにケガをさせただろう﹂ ﹁でも、そうなったのはあの二人がいじめをしたのが原因なんです よ﹂ ﹁理由はどうあれケガをさせた方が悪い﹂ ﹁そんなやり方では結果的にいじめを助長することになると思いま すけど﹂ ﹁君は私の教育方針に文句をつけるのかね。そういう反抗的な態度 は良くない。職員室に来なさい﹂ ﹁ええ、行きますわ﹂ しばらくして西園寺さんは職員室から帰ってきたんだけど、ぷん ぷん怒っているんだ。 ﹁まったく頭の悪い教師だわ。自分のやっていることがわかってい ないんだから。あんなの教師失格だわ﹂ ﹁あの⋮﹂ ﹁なによ!﹂ ﹁ごめんなさい﹂ ﹁あ、あやまることはないけど、なに?﹂ ﹁すみません、助けてもらって。⋮ありがとう﹂ ﹁えっ、あっ、そうね。いいのよ。私、自分の思ったことを言った だけだから﹂ ﹁そうなの⋮﹂ ﹁まったく、なによあのくそじじいは。腹の立つ⋮﹂ 西園寺さんは、とてもお嬢様とは思えない言い方をして怒ってい たけど、大丈夫なんだろうか? 5 でも、僕の心配はすぐむだになったんだ。あの先生は担任をはず されて、新しい若い先生に代わったし、ヤンキーの二人は転校して 行っちゃったんだ。でも、うわさでは、あの先生は非常勤に格下げ されて地下の倉庫で書類整理をさせられてるって言うし、ヤンキー の二人も転校して行ったんじゃなくて退学になったらしいんだ。そ れも全部西園寺さんがお父さんに話したせいだっていうんだ。西園 寺さんが理事長の娘だっていうのは本当だったんだ。 そんな西園寺さんが入院したんだ。どうしたのかなと心配だった んだけど、なかなか退院してこないんだ。それでみんなを代表して クラス委員の僕がお見舞いに行くことになったんだ。いつものよう にみんなに押し付けられたんだけどさ。でも本当は、西園寺さんと 会えるから嬉しかったんだ。 大きな病院で、西園寺さんのいる部屋がなかなか見つからないん だ。やっと見つかったと思ったら、奥のほうにある特別室だったん だ。これじゃ見つからないよ。外からでもわかる豪華な病室で、も ちろん一人だけの個室なんだ。 ﹁ごめんなさい⋮﹂ ﹁いいわよ、入って﹂ ﹁ごめんなさい﹂ ﹁ごめんなさいじゃなくて、ごめんくださいでしょ。あやまってば かりいるんだから﹂ ﹁ごめんなさい⋮﹂ 彼女の病室に入ると、甘いようなすっぱいような匂いがしたんだ。 これは西園寺さんの匂いなんだろうか。僕は嗅いではいけない彼女 の匂いを嗅いでしまったような気がして、それで、知ってはいけな い彼女の秘密を知ってしまったような気がして、少しあわててその ことを考えないようにしたんだ。 ﹁ひろし君だけ?﹂ 6 ﹁うん﹂ ﹁ま、考えてみれば当たり前ね。ひろし君一人に押し付けて、他の 人はみんな逃げてしまったんでしょ﹂ ﹁うん。病気がうつるから嫌だって⋮﹂ ﹁ばっかみたい。私は心臓が悪いのよ。うつるわけないじゃない﹂ ﹁でも先生がカゼだって⋮﹂ ﹁カゼが悪化して入院したのは確かなの。でも、もうすっかり直っ たから大丈夫よ。もうすぐ退院できるわ﹂ ﹁そうなんだ。よかった。本当はクラス委員の立野さんも一緒に来 るはずだったんだけど、急に用事ができたって言って⋮﹂ ﹁ああ、あのカバ女はいいの、来なくて。あんなのが来たら部屋の 空気が薄くなって呼吸困難になってしまうわ﹂ ﹁西園寺さん、冗談うまいんだね﹂ ﹁冗談じゃないわ、本当よ。あんなデブ、そばにくるだけで息苦し いわ﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁じゃ、僕、帰るから⋮﹂ ﹁えっ、もう帰るの⋮ そうだ、そこに果物かごがあるでしょ。そ れあげるから持って帰って。すっかり熟してしまって匂いがたまら ないわ﹂ そうか、部屋に入ったときの甘酸っぱい匂いは、このお見舞いの 果物の匂いだったんだ。僕はかん違いしていたことに気がついて恥 ずかしくなったんだ。顔が少し赤くなったかも知れない⋮。 ﹁その桃の缶詰も持って帰って。どうせ食べられないんだもの。病 院の食事以外は食べられないの。そのお菓子も全部持って行ってい いわ。その代わり明日も来るのよ﹂ ﹁えっ?﹂ ﹁ご、ごめんなさい。明日も来て下さい﹂ ﹁うん。でも⋮ どうして?﹂ 7 ﹁ひ、ひまだからよ。悪い?﹂ ﹁いや、そんなことないけど⋮﹂ 僕は持ち切れないほどおみやげをもらってその日は帰ったんだ。 次の日行くと西園寺さんは上機嫌だったんだ。 ﹁ねえねえ、聞いて聞いて、私、退院できるのよ﹂ ﹁そ、そう、良かったね。いつ?﹂ ﹁明日パパが来るのよ。それで主治医の先生とお話して決めるのよ。 うれしいわ﹂ ﹁そうなんだ。良かったね﹂ ﹁うん。私、今日はとっても気分がいいの。そうだ、トランプしよ う﹂ ﹁うん﹂ 僕は西園寺さんとトランプしたり、お話したりしてずっと遊んで、 仲良くなったんだ。でも、いいのかな⋮。 ﹁明日も来てね。退院の日を教えてあげる﹂ ﹁うん﹂ 西園寺さんと長い間一緒にいられたし、仲良くなれたし、お話も いっぱいしたし、とても嬉しかったんだ。 でも、その次の日に病院に行くと西園寺さん黙ったまま何も言わ ないんだ。良くわかんないけど、泣いていたみたいなんだ。僕はず っとベッドのそばに座っていたんだけど、西園寺さん黙ったままだ し、帰ったほうがいいのかな、と思ったとき突然西園寺さんが言っ たんだ。 ﹁私、死ぬの﹂ ﹁えっ?⋮ どうして?﹂ ﹁だって、聞いちゃったんだもの﹂ ﹁なにを?﹂ ﹁主治医の先生とパパが話しているのを﹂ 8 ﹁えっ、でも⋮﹂ ﹁今日の昼過ぎパパが来てくれたのよ﹂ ﹁うん﹂ ﹁それでパパと先生が話して、私の退院の日を決めるんだと思って いたのよ﹂ ﹁うん⋮﹂ ﹁それで、私、トイレにいったら、女子トイレが掃除中だったから、 身障者用の大きなトイレを借りたの。あの真ん中にある広いやつ﹂ ﹁うん﹂ ﹁知ってると思うけどあのトイレは廊下のすぐそばにあるのよ。そ れで、パパと主治医の先生が立ち話をしているのが聞えたのよ﹂ ﹁うん、それで⋮﹂ ﹁細かいことはあまり良く聞えなかったんだけど、先生が何度も﹃ ⋮あなたのお嬢さんは死ぬんですよ﹄ってはっきり言っていたわ﹂ ﹁えーっ!﹂ ﹁そのあとパパが病室に戻ってきたんだけど、深刻そうな顔をして 何か考え込んでいたみたいなの。それで何も言わずに帰ってしまっ たのよ。間違いないわ。私、退院できるどころかもうすぐ死ぬのよ﹂ ﹁えーっ、でも⋮﹂ ﹁だからそばにいて。帰ったりしたら一生うらむからね。呪い殺す からね﹂ ﹁う、うん⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁キスして﹂ ﹁えっ?﹂ ﹁キスしてって!﹂ ﹁えっ? いいの?﹂ ﹁いいから! キスして﹂ ﹁こ、こう?﹂ 9 ﹁いいのよ、好きなだけしても。どうせ死ぬんだから﹂ ﹁で、でも⋮﹂ ﹁あなた、私のこと好きだったんでしょう。いつも私のこと見てい たもの﹂ ﹁うん⋮﹂ ﹁だったらいいでしょ。好きな女の子とキスできるんだから﹂ ﹁でも⋮﹂ ﹁いいのよ、どうせ死ぬんだから。好きなだけしていいよ。舌入れ てもいいし⋮﹂ ﹁でも⋮﹂ ﹁ええい、じれったいわね。こうするのよ!﹂ ﹁うっ、うーっ、うぐぐぐぐ⋮﹂ ﹁うーん⋮⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁ぷふぁー⋮﹂ ﹁ぷふぅー⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁わたし、生まれたときから心臓に穴があいているの﹂ ﹁えっ、そうなんだ﹂ ﹁だから運動なんかできないの。心臓に負担がかかるから﹂ ﹁そう⋮﹂ ﹁それで、私、成長して体が大きくなったでしょ、それでよけい心 臓に負担がかかるようになったの。体の方にも。だから、心臓も体 も限界になっているのよ。走ったりしたら死にますよ、っていつも 言われていたわ﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁抱いてくれる⋮﹂ ﹁えっ?﹂ 10 ﹁抱いてって言っているのよ!﹂ ﹁う、うん⋮ こう?﹂ ﹁なにしてるの。バッカじゃないの。ふとんの上から抱いてどうす るのよ。抱くというのはね⋮ 二人で裸になって、それで抱き合っ て⋮ 私のあそこにあなたのあれを突っ込んで⋮ うわーっ、言っ てて恥ずかしいったらないわ﹂ ﹁僕だって聞いてて恥ずかしいよ。どうしてそんなこと⋮﹂ ﹁だって、あなたはこの先そんなことを好きなだけできるのよ。ま あ、あなたじゃ知れてるだろうけどね⋮ でも、私はできないのよ、 死んじゃうんだから。そんなの不公平でしょ。だから、できるうち にするのよ﹂ ﹁で、でも⋮ なんで僕なの?﹂ ﹁バッカじゃないの︵これで二度目だわ︶。ここに誰がいるのよ。 私とあなたしかいないじゃない。それで偶然とはいえあなたは男な んだから⋮﹂ ﹁えーっ、でも僕の代わりにクラス委員の立野さんが来ていたら⋮﹂ ﹁バッカじゃないの︵これで三度目だわ︶。あんなカバ女と裸で抱 き合ってプロレスでもしろって言うの? 冗談じゃないわ。私、重 みでつぶされてしまうわ﹂ ﹁そりゃそうだけど⋮﹂ ﹁とにかく、今晩来なさいね﹂ ﹁えーっ、でも⋮﹂ ﹁逃げたりしたらどうなるかわかっているでしょうね﹂ ﹁えっ?﹂ ﹁あなたがむりやり私にキスしたって言うわよ﹂ ﹁えっ、でもあれは⋮﹂ ﹁パパが黙っていないわ。あなたは退学確定ね。他の学校にだって 入れないわ。あなたは働くこともできず一生ホームレスになるのよ。 ああ、かわいそう⋮﹂ ﹁そんなの⋮ ひどいよ﹂ 11 ﹁なにもひどいことしようとしてるわけじゃないのよ。今晩来てく れればいいんだから。それだけでいいのよ﹂ ﹁⋮﹂ ﹁ごめん。謝る。言い過ぎた。言い直します。今晩来てください。 それで私を抱いてください。お願いします。⋮ これでいい?﹂ ﹁でも、どうして、そこまで⋮﹂ ﹁私、淋しいのよ、一人で死んでいくなんてつらくて⋮ 淋しくて 耐えられないわ。死ぬなんて、なんか怖いし⋮ それなら好きな人 に抱いてもらって⋮、いや、その、あの⋮。えっと⋮ あなたが好 きってわけじゃないのよ。誤解しないでね。嫌いでもないけど⋮、 そうね、平均点ね。⋮でも平均点じゃかわいそうね。76点くらい だってことにしてあげる、それでいいでしょ﹂ ﹁よくわかんないけど、それって、僕のことが好きってことなの?﹂ ﹁だ、だから76点だって言ってるでしょ﹂ ﹁う、うん﹂ ﹁看護士さんの最後の巡回が8時なの。その後は呼び鈴のボタンを 押さないと誰もこないの。だから、8時過ぎたらきてね。誰にも見 つかっちゃだめよ。面会は夕方6時までなんだから。でも、そこら へんはあんまりうるさくないから大丈夫よ。待ってるから、必ずく るのよ﹂ ﹁うん⋮﹂ その晩西園寺さんの部屋に行くと、中は真っ暗だったんだ。 ﹁起きてる?﹂ ﹁うん、明かりをつけちゃだめよ。服脱いでそっと入ってきて。私 はもう脱いでおいたから、すぐできるわよ﹂ ﹁うん⋮﹂ ﹁へ、変なとこ触ったら殴るからね﹂ ﹁えーっ、そんなこと言ったって⋮﹂ 僕は彼女のふとんの中にもぐりこんで、彼女を抱いたんだけど、 12 気のせいだったんだろうか、西園寺さんの体は火のように熱かった んだ。 ﹁いいわよ、上に乗って。していいわよ﹂ ﹁足閉じたままじゃできないよ﹂ ﹁えっ、足開くの﹂ ﹁うん⋮﹂ ﹁こ、こうかな? うーっ、恥ずかしい﹂ ﹁もう少し⋮﹂ ﹁えーっ、恥ずかしくてたまんないわ。この位でいい?﹂ ﹁足を少し立ててくれる?﹂ ﹁ええい、もう、好きにして。はい、立てたわよ﹂ ﹁入れるよ﹂ ﹁まっ、まさか失敗しないよね﹂ ﹁うん、一度出してきたから⋮﹂ ﹁じゅ、準備がいいのね。いいわよ、入れて⋮﹂ ﹁うん⋮ あれ、入んない⋮﹂ ﹁場所が違うみたい﹂ ﹁えっと⋮、ここかな﹂ ﹁違う⋮﹂ ﹁えっと⋮、ここは﹂ ﹁そこも違う⋮﹂ ﹁えーっ、わかんないよ﹂ ﹁いいわ、入らないなら。こうやって裸で抱き合っているだけでも したみたいなものだから﹂ ﹁うん⋮﹂ 二人ともなんか疲れてしまってあきらめたんだ。 ﹁しばらく抱いててね⋮﹂ ﹁うん⋮﹂ ﹁⋮﹂ ﹁あっ、ここかな﹂ 13 ﹁うん、そうみたい。できる?﹂ ﹁できると思う。うんっ﹂ ﹁痛ったー! うーっ、痛い痛い痛い。たまらないわ。涙が出てき た﹂ ﹁や、やめようか?﹂ ﹁いいの、続けて。痛いのは生きてる証拠だから。死んだら痛いの だってわからないのよ⋮。ちょ、ちょっとたんま﹂ ﹁どうしたの?﹂ ﹁あまりの痛さにハナ水が出てきたわ。目をつぶって。見たら殺す﹂ ﹁真っ暗だもの、見えないよ﹂ ﹁いいの、目をつぶっていて。いまハナをかむから。はじめてする のがこんなにかっこ悪いだなんてちっとも思わなかったわ。⋮はい、 いいわ﹂ ﹁痛くない?﹂ ﹁あまりの痛さに頭がボーっとして、あまり感じなくなったわ。や るなら今のうちよ﹂ ﹁う、うん。じゃ⋮﹂ ﹁うん⋮﹂ ﹁うん、うん、うん、うん、うん、うん⋮﹂ ﹁う、う、う、う、う、う、⋮﹂ ﹁も、もう出そう﹂ ﹁いいわ、そのまま出して。どうせ死ぬんだからかまわないわ﹂ ﹁うーっ!﹂ ﹁ふぅー⋮﹂ ﹁ふぅー⋮﹂ ﹁まだできる?﹂ ﹁うん⋮﹂ ﹁いいわよ、 できるだけして⋮ 好きなだけ⋮﹂ ﹁うん⋮﹂ 僕は彼女の上で何度も体を動かし、何度も放出したんだ。どのく 14 らいかわからなかったけど、何時間も経ったような気がしたのは、 時間の感覚が狂ってしまっていたんだろうか⋮ ﹁な、なんか少し良くなってきたような気がするわ。恥ずかしい⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮﹂ ﹁ご、ごめん。もうできないよ﹂ ﹁うん、ありがとう、もういいわ。たくさんしてもらったもの。で も、まだ帰らないでね。そのままそっと抱いたままでいて。私、そ のうち寝てしまうと思う。私がぐっすり眠ってしまったらそっと帰 ってね。起こしちゃだめよ。それなら、さよならを言わなくてすむ わ﹂ ﹁うん⋮﹂ ﹁もうこないでね。きてもらっても泣いてばかりいると思うわ。泣 き顔を見られるのは嫌なの⋮﹂ ﹁うん⋮﹂ 病院から戻ると僕はご飯も食べないで部屋にこもってぐずぐず泣 いていたんだ。 お母さんが心配して、﹁ご飯、どうするの?﹂って何回か聞きに きたんだけど、僕は返事もしなかったんだ。それでお母さんも最後 は怒ってしまって、﹁ご飯いらないんならさっさとお風呂に入りな あかし さい!﹂って怒鳴るんだ。お風呂場で服を脱いでみたら僕のあそこ が真っ赤なんだ。びっくりしたけど、それは西園寺さんの処女の証 だったんだ。指先につばをつけてこすって見ると、指先が少し赤く なったんだ。なめてみると、かすかに西園寺さんの味がしたようで、 それで、僕はまたわーっと泣いてしまったんだ。 それから毎日ぼーっとして過ごしたんだ。 西園寺さんが死んでしまうなんて信じられないよ。でも、死んで しまうんだ。彼女とキスしたことも、あんなことをしたことも本当 15 にあったことなんだろうか。全部夢のような気もするけど、でも、 本当だったんだよな⋮ 西園寺さんのことを考えると涙が出てくるから、考えないように しているんだ。だけどどうしても考えてしまうんだ⋮ 悲しくて⋮ 淋しくて⋮ たまらないよ⋮ しばらく暑い日が続いて夏休みの話しなんかも出るようになった ある日、先生からお話があったんだ。 ﹁えーと、長い間入院していた西園寺さんですが⋮﹂ そうか、とうとう彼女、死んだんだ⋮ ﹁無事退院して来週から来られることになりました﹂ えーっ! ﹁入院が長かったので勉強も遅れています。皆さんで助けてあげて、 一刻も早く普通の生活に戻れるように⋮﹂ 先生のその後の話なんかどうでも良かったよ。信じられないよ⋮ でも、⋮。 それで次の週になったら、あいつ、平気な顔して登校してきてる んだ。顔色もすっかり良くなって、頬なんてピンク色だし、みんな とキャッキャッ言って騒いでるし、前よりぜんぜん元気なんだ。 えーっ! なんなんだよ。 ひとけ 放課後、人気のない旧校舎の裏で話したんだ。 ﹁どうすんだよ?﹂ ﹁なによ、それ。ひとがせっかく生き返ってきたんだから、お祝い の言葉くらい言ってくれてもいいでしょ﹂ ﹁た、退院、おめでとう⋮﹂ ﹁ありがとう。なんか誠意がこもってないけど、まあ、いいわ。と ころで⋮、どうしよう?﹂ ﹁僕と同じこと言ってるじゃないか。いったいどうなっているんだ 16 よ﹂ ﹁しょうがないでしょう、手術したらすっかり直ってしまったんだ から⋮﹂ ﹁えーっ、そうなの。そうなんだ⋮ でも、あんなことしてしまっ たんだよ。どうするの?﹂ ﹁どうしよう?﹂ ﹁どうしようといわれても⋮﹂ ﹁とりあえず⋮﹂ ﹁とりあえず?﹂ ﹁キスしよう﹂ ﹁うん!﹂ なんかごまかされたみたいだけど、いっぱいキスして気持が落ち あと 着くと、急に嬉しくなったんだ。 ﹁ぷふぅー﹂ ﹁ぷふぁー﹂ ﹁うふふ⋮﹂ ﹁うふふ⋮﹂ ﹁そうだ、手術の痕みる? すごいわよ、ほら﹂ ﹁わっ! ブラジャーしてないの?﹂ ﹁傷がすっかり治るまではつけられないの。それでこのガーゼをベ リッとはがすと、こうよ﹂ ﹁うわーっ﹂ ﹁すごいでしょ、どう?﹂ ﹁うん、きれいなおっぱいだったよ﹂ ﹁すけべ。どこ見てんのよ。手術の傷跡を見れって言ったのよ。一 刀両断って感じでしょ﹂ ﹁どういう意味?﹂ ﹁刀でばっさり切られたみたいでしょ﹂ ﹁うん、すごいね。だいじょうぶなの?﹂ ﹁目立たなくなるまで十年くらいかかるらしいわ﹂ 17 ﹁ふーん。でも、僕に胸なんか見せていいの? もう見ちゃったけ ど⋮﹂ ﹁あれだけやっちゃったんだから、あとの細かいことはいいのよ。 胸見れて嬉しかったでしょ﹂ ﹁うん!﹂ ﹁素直にそう言われるとなんだかなあ⋮ またこんど見せてあげる ね﹂ ﹁うん、ありがとう﹂ ﹁もう一度キスしようか?﹂ ﹁うん﹂ それで、またいっぱいキスしたんだ。 ﹁でも、あの死ぬって話はどうなっているの?﹂ ﹁あれはね、このすごい傷跡と関係があるの﹂ ﹁うん⋮﹂ ﹁私の心臓には穴が開いていたから、いつかは手術してふさがなけ ればならなかったの。でも、パパは手術するとすごい傷になるのを 聞いていたから、なかなか手術に同意しなかったのよ。でね、とう とう私の体がもたなくなってしまって、主治医の先生が﹃このまま ではあなたの娘さんは死ぬんですよ﹄って何べんも言ってパパを説 得したのよ﹂ ﹁うん⋮﹂ ﹁だから私が聞いたのはこの﹃あなたの娘さんは死ぬんですよ﹄っ てところだったのよ﹂ ﹁そうなんだ⋮﹂ しばらくして西園寺さんの家に遊びに行ったんだ。知らなかった きずもの んだけど西園寺さんって一人っ子だったんだ。どうりでわがままい っぱいだと思ったよ。 ﹁このたびは、大変でしたね﹂ ﹁そうなんだよ、娘もすっかり傷物になってしまって⋮ 娘の将来 18 のことを思うと不憫で不憫で︵ふびん:かわいそうと思うこと︶⋮﹂ ﹁あなた! なんてこというの、傷物だなんて。まるで娘がろくで もない男と間違いを起こしたみたいじゃありませんか﹂ ︵ぎくっ!︶ ︵ぎくっ!︶ ﹁そ、そうだ、ひろし君、君は娘と親しそうだし、いっそのこと娘 をもらってくれんかね。生活に困るようなことはさせんから。そう だ、持参金をたくさんつけよう、できるだけのことはする。それな らいいだろう﹂ ﹁えっ、パパ、私に持参金つけてくれるんだ。いくらくらい?﹂ ﹁そ、そりゃ、一生困らんくらいは⋮﹂ ﹁やった! 決まりね。ひろし君、私と結婚しよう。それで持参金 を山分けよ﹂ ﹁ほらほら、あなたがそんなことばかり言っているから、娘にまで バカにされて﹂ ﹁そんなことを言ったって、あの傷跡を見れば誰だって﹂ ﹁裸で外を歩く訳じゃなし、誰も気付きませんよ﹂ ﹁でも、プールとか、海水浴とかあるだろう﹂ ﹁プールはちょっとね⋮ 本人が気にしなくても周りの人がね⋮ 気持悪いと思うかも⋮ でも、プライベートビーチならいいでしょ う、誰もいないんだから。あなた、借りれるでしょう﹂ ﹁そんなもの借りようと思えばいくらでも⋮﹂ ﹁無事退院できたんだから、お祝いに二人で遊びに行っていらっし ゃい。でも、まだ無理しちゃだめよ。ひろし君、娘をお願いします ね﹂ ﹁はぁ⋮﹂ ﹁うわーっ、嬉しい。海に行けるんだ。ありがとう、パパ、ママ﹂ ﹁うん。いいぞ、そのくらい。今までなにもできなかったからな。 ゆっくり遊んでおいで。でも、無理はだめだぞ﹂ 19 次の週末、僕たちは二人きりでプライベートビーチのある別荘で 思いっきり遊んだんだ。 わな ﹁でも、よく二人だけで来るの許してくれたよね﹂ ﹁うーん、これはきっと罠ね﹂ ﹁えっ? 罠って?﹂ ﹁罠と言うか、これはきっと二人の計略なのよ。パパとママがこん なに甘いのおかしいもの﹂ ﹁よくわかんないよ﹂ ﹁若い二人が二人きりで誰もいない海に遊びに来て一晩過ごせば、 間違い起こすに決まってるじゃない、夏の海なんて開放的だし、水 着なんて裸みたいなものなんだから﹂ ﹁うん⋮﹂ ﹁それで一度そうなれば、後は放っておいてもずるずると⋮﹂ ﹁うん⋮﹂ ﹁それで、無事私をあなたに押し付けられる、と言うことよ﹂ ﹁僕⋮ それでもいいよ⋮﹂ ﹁決まってるでしょ、もう間違いなんて起こしちゃっているんだか ら﹂ ﹁じゃ、どうすればいいの?﹂ ﹁いいのよ、せっかくきたんだもの、好きなだけ遊んで、間違い起 こしましたって顔して帰ればいいのよ。間違い起こしたことには間 違いないんだから﹂ ﹁言ってることがよくわかんないけど⋮ 間違い起こしましたって、 どんな顔すればいいの?﹂ ﹁バッカじゃないの、帰って二人で仲よさそうにベタベタしていれ ばいいのよ。パパもママもすぐ気付くわ﹂ ﹁でも、いいのかな⋮﹂ ﹁いいのよ。パパは私のことが心配でしょうがないのよ。この傷跡 のせいでお嫁に行けないんじゃないかと思って。だから私とあなた が間違いを起こせばパパは安心するのよ﹂ 20 ﹁そうなのかなぁ⋮﹂ ﹁だから今日も間違い起こしてね﹂ ﹁えっ?﹂ ﹁だ、だから、抱いてねって言ってるのよ。ああ、恥ずかしい﹂ ﹁うん! いいよ﹂ ﹁そう嬉しそうに言われるとなんだかなあ。でも、するだけだから ね、へんなとこ触ったりしたら殴るからね﹂ ﹁うん⋮﹂ ﹁触ってみたい?﹂ ﹁い、いや、いいよ。我慢する⋮﹂ ﹁いいわよ、少しくらいなら⋮ だけど、少しだけだからね﹂ ﹁うん!﹂ 僕たちは夕日の見えるテラスで裸になって抱き合ったんだ。真っ 赤な夕焼けの中で僕は彼女の上で何度も体を動かし、彼女の中にな んども放出したんだ︵避妊はしたけど︶。それはあの病院のベッド の上でしたときと全く同じように繰り返されたんだ。でも違ってい たのは⋮ 彼女はもう泣いてはいなくて、にこにこと嬉しそうにし てたんだ。 ﹁僕たち、どうなっちゃうんだろう?﹂ ﹁べつに、どうもならないわよ。結婚して、子ども作って、おじさ んとおばさんになるだけよ﹂ ﹁そうなんだ⋮﹂ ﹁結婚するまでは、好きな人と結婚できなきゃ死ぬとか大騒ぎする けど、結局そんなに変わらないと思うわ、誰と結婚しても﹂ ﹁ふーん⋮﹂ ﹁私は好きな人と結婚できることになったからそう思うのかもしれ ないけど⋮﹂ ﹁やっぱり、僕のことが好きだったんだ﹂ 21 ﹁う、うるさいわね、76点だって言ったでしょ。それ以上何か言 ったら殴るからね﹂ 終わり 22 PDF小説ネット発足にあたって http://ncode.syosetu.com/n7677bc/ これがうわさの理事長の娘… 2012年9月6日07時52分発行 ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。 たんのう 公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、 など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ 行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版 小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流 ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、 PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。 23
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