Economic Indicators 定例経済指標レポート

Market Flash
FEDの利上げを阻む意外な人たち
2016年8月25日(木)
第一生命経済研究所 経済調査部
主任エコノミスト 藤代 宏一
TEL 03-5221-4523
【海外経済指標他】
・7月米中古住宅販売件数は前月比▲3.2%、539万件と市場予想(551万件)を下回った。もっとも、弱さの
主因は振れの大きな集合住宅が▲12.3%と急減したことであり、主力の戸建て住宅は▲2.0%と4ヶ月連続
で増加した後、僅かな減少に留まっている。住宅市場が堅調との見方に変更を迫るものではない。既発表
の新築住宅販売件数、NAHB住宅市場指数など他の住宅関連指標の強さに鑑みれば、今後も住宅市場の力強
さが続く見込み。
中古住宅販売件数・販売成約指数
千
(百万)
6
14
販売成約指数(右)
5.5
5
110
100
4.5
中古住宅販売件数
90
(月)
4.5
4
12
3.5
10
販売可能戸数
8
80
2
4
1.5
在庫月数(右)
3
2
70
10
11
12
13
14
15
1
07
16
(備考)Thomson Reutersにより作成 3ヶ月平均
3
2.5
6
4
3.5
中古住宅在庫
(千件)
08
09
10
11
12
13
14
15
16
(備考)Thomson Reutersにより作成
【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】
・前日の米国株は反落。高値警戒感が燻る中、原油価格の下落を手掛かりに利益確定売りが優勢。他方、欧
州株は底堅く推移。イタリアの地震被害が懸念されたものの、主要国株価指数は軒並みプラス圏で引けた。
WTI原油は46.77㌦(▲1.33㌦)へと下落。予想外の原油在庫増加が背景。
・前日のG10 通貨はまちまちの動き。ジャクソンホール講演を控えて動意に乏しいなか、主要指標の公表や
要人もなかった。USDはJPYやEURに対してやや買われ、USD/JPYは100前半、EUR/USDは1.13を割り込んでの
推移となった。
・前日の米10年金利は1.561%(+1.5bp)で引け。欧州債市場(10年)は総じて小動き。ドイツ(▲0.089%、
+0.6bp)、イタリア(1.126%、+0.6bp)、スペイン(0.932%、▲0.3bp)がナローレンジで推移、ポル
トガル(2.975%、▲3.6bp)は3%を挟んでの一進一退が続いている。3ヶ国加重平均の対独スプレッド
は僅かながらタイトニング。英国(0.553%、+0.9bp)は小幅に金利上昇。
【国内株式市場・アジアオセアニア経済指標・注目点】
・日本株は、USD/JPY上昇が支えとなったものの、ジャクソンホール講演を控えた様子見姿勢から売り買い交
錯。小幅安で推移している(9:15)。
・FEDの初回利上げからおよそ9ヶ月が経過。昨年12月の初回利上げ時において2016年は4回の利上げが
計画されていたが、その後の度重なるリスクオフを経て、今や年内1回の利上げがコンサンサスとなって
いる。2017年・18年に至っては、FEDがそれぞれ3回を見込み(ドットチャート中央値)、エコノミス
トはそれぞれ2回程度を見込む向きが多いようにみえる。これは初回利上げ時の姿から大きく下方にシフ
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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トしている。そうした利上げ計画の下方修正は、たった25bpの利上げが予想以上の引き締め効果をもたら
したことを浮き彫りにしているのだろう。
・それにしても何故、このようなオーバー・キルを招いたのだろうか?資金流出に脆弱な新興国経済の弱さ
も一因だが、本質的には米国が「唯一の引き締め国」であることが大きい。前回の引き締め局面にあたる
2000年代半ばはECB、BOE等多くの中銀が揃って政策金利を引き上げたほか、日銀ですら量的緩和・
ゼロ金利政策を解除していたため、利上げによる通貨高の痛みを一手に引き受けることがなかった。実際、
USDの実効レートは引き締めサイクルの後半から下落に転じていた。しかしながら、今回は先進国の多くの
中銀が追加緩和を模索しているため、金融政策のベクトル相違が意識され易く、どうしても通貨高の痛み
が米国に集中する。また、実際に利上げを実施せずとも、FEDが利上げシナリオに自信を持つと、その
こと自体が引き締め効果をもたらし、それはUSD高という波及経路で企業業績を蝕み、景気回復の足かせと
なる。
・このことは日銀、ECB、BOE(以下3中銀)が追加緩和バイアスを保つ中でFEDのみが引き締めに
舵を切ることが如何に困難であるかを物語っているだろう。3中銀が追加緩和を模索している間、すなわ
ち先進国経済全体が金融引き締めを必要とする状態に転じるまで、FEDの複数回かつ断続的な利上げは
難しいということになる。3中銀の緩和バイアスがFEDの利上げを阻害していると換言できる。
USD実効レート
170
150
名目実効レート
130
110
実質実効レート
90
80 81 83 84 86 87 89 90 92 93 95 96 98 99 01 02 04 05 07 08 10 11 13 14 16
(備考)Thomson Reutersにより作成。実質化はユニットレーバーコスト
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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