Economic Indicators 定例経済指標レポート

Market Flash
次の追加緩和は“最後の追加緩和”
2016年5月11日(水)
第一生命経済研究所 経済調査部
主任エコノミスト 藤代 宏一
TEL 03-5221-4523
【海外経済指標他】
・3月JOLTS求人件数は575.7万件と2015年7月に記録した過去最高水準に比肩。4ヶ月連続の増加で企業の
旺盛な採用意欲が窺える。転職活動の活発化を計測する上で注目される離職率は2.03%と2月の2.02%か
らほぼ変わらなかったが、均してみれば上昇基調にある。入職率も3.68%と2月の3.84%から低下したも
のの、こちらも基調は上向き。労働市場の質的改善は緩慢ながらも着実に進捗しており、これは最近の賃
金上昇トレンドと整合的。
・4月NFIB中小企業楽観指数は93.6と3月から1.0pt改善。4ヶ月ぶりの改善だが、基調的な弱さからは抜け
出せていない。サブ項目は雇用計画(+9→+11)が改善、設備投資計画(+25)が横ばいとなった一方、
人件費計画(+16→+15)が軟化。
(百万件)
NFIB中小企業楽観指数
JOLTS求人件数
6
103
5.5
101
5
99
97
4.5
95
4
93
3.5
91
3
89
2.5
87
2
85
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(備考)Thomson Reutersにより作成
10
11
12
13
14
15
(備考)Thomson Reutersにより作成 太線:3ヶ月平均
16
・3月独鉱工業生産は前月比▲1.3%と市場予想(▲0.2%)を大幅に下振れたうえ、2月分も▲0.7%へと
0.2%pt下方修正された。1月に+2.3%と強く伸びた反動が残存している模様だが、8日に発表された製
造業受注が反発したほか、この日発表された輸出も+1.9%と強く伸びており、先行きは増産が期待できる。
PMIも4月にかけて持ち直しており、こうした見方をサポート。
・4月BdFビジネスセンチメント指数は99と3月から1pt軟化。仏中銀は2Qの実質GDP成長率の予想
を前期比+0.3%とした。
120
115
110
105
100
95
90
85
80
75
70
独 製造業受注・製造業生産
07
08
09
10
11
12
(備考)Thomson Reutersにより作成
115
製造業受注
仏 BdFビジネスセンチメント
110
105
製造業生産
100
95
90
85
13
14
15
10
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(備考)Thomson Reutersにより作成
16
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15
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本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】
・前日の米国株は上昇。NYダウ、S&P500がともに1%強上昇し、WTI原油も44.66㌦(+1.22㌦)と前日
の下げを全て取り戻した。米国株はエネルギー、建機株が反発。欧州株も全面高。
・前日のG10 通貨はJPYが最弱でそれにCHFが続き、反対にAUD、CADといった資源国通貨が堅調。USD/JPYは
リスク選好度が強まるなかで109を回復。EUR/USDも1.14割れを維持。一方、AUDは資源価格持ち直しとサプ
ライズ利下げ後の反動から買い戻し優勢。
・前日の米10年金利は1.761%(+1.1bp)で引け。米株高・原油高にもかかわらず、米国債は小動き。欧州
債はコア堅調、GIPS軟調。ドイツ10年金利が0.124%(▲0.2bp)で引けた一方、イタリア(1.508%、+
4.6bp)、スペイン(1.640%、+5.6bp)、ポルトガル(3.353%、+5.0bp)が金利上昇。3ヶ国加重平均
の対独スプレッドはワイドニング。
【国内株式市場・アジア経済指標等・注目点】
・日本株はUSD/JPY上昇を好感して続伸スタート。
・昨日発表の4月中国CPIは前年比+2.3%と市場予想に概ね一致して3月から横ばい。豚肉(+33.5%)
を中心に食料品価格(+7.4%)が上昇した一方、コア物価は+1.5%と2012年以降のレンジ内で推移。他
方、4月PPIは前年比▲3.4%と3月から0.9%pt下落幅が縮小。全人代前後に政策期待が高まるなか、
一部の財で需給懸念が緩和したことが背景。実際、鉄鉱石の先物価格は3月から4月にかけて急上昇して
いた。
中国
(前年比、%)
物価統計
10
CPI
5
0
-5
PPI
-10
05 06 07 08 09 10 11
(備考)Thomson Reutersにより作成
12
13
14
15
16
・4月28日の金融政策決定会合で日銀はゼロ回答を貫いた。2%目標の達成に向けて日銀が最重要視する予
想インフレ率について「やや長い目でみれば全体として上昇しているとみられるが、このところ弱含んで
いる」として3月の判断分を踏襲。金融市場で計測するBEIやインフレスワップが昨年12月頃から急低
下し、そのリスクを認識していたにもかかわらず、それを黙認した格好だ。ここに原油価格下落という不
可抗力的な要素が含まれていることは確かだが、2014年10月のサプライズ緩和の際は「原油価格の下落は、
やや長い目でみれば経済活動に好影響を与え、物価を押し上げる方向に作用する。しかし、短期的とはい
え、現在の物価下押し圧力が残存する場合、これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延する
リスクがある」として追加緩和に踏み切った経緯があるので、今回のゼロ回答は理論の一貫性が疑われて
も仕方がない。当時の市場参加者は「物価下落の主因が原油だろうと何だろうと、実際の物価が下がるこ
と自体がリスク。それなら追加緩和で対応!」という日銀の強い意気込みを高く評価していた。しかしな
がら最近の日銀は2%目標の達成に対するコミットがややトーンダウンした印象だ。
・それでも筆者は、黒田総裁がこのまま物価目標の下振れリスクを放置するとは考えていないので、11月
(為替次第では7月)の追加緩和を予想している。ただ、今回、日銀が物価の下振れリスクを認識したに
もかかわらず追加緩和を見送ったことで、日銀の緩和オプションの限界を感じた市場参加者が増加したと
みられることは軽視できない。そうした市場参加者は、次回の追加緩和を“最後の追加緩和”と看做し、
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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皮肉にも“Sell the Fact”で反応する可能性が高いだろう(初期反応はさすがに円安が見込まれるが)。
日銀の力でUSD/JPYを反転上昇させるのは難しい。USD/JPY上昇は米経済の回復を待つ必要があるとの見方
を維持する。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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