介入ポイントはUSD/JPY100が現実的 藤代 宏一

Market Flash
介入ポイントはUSD/JPY100が現実的
2016年5月23日(月)
第一生命経済研究所 経済調査部
主任エコノミスト 藤代 宏一
TEL 03-5221-4523
【海外経済指標他】
・4月米中古住宅販売件数は前月比+1.7%、545万件と市場予想(540万件)を上回り、2ヶ月連続で増加。
先行指標の中古住宅販売成約指数が示唆していたとおりの結果で、戸建て(+0.6%)、集合住宅(+
10.3%)がともに伸びた。在庫月数(販売可能戸数÷販売件数)が15年12月の3.9ヶ月分から16年4月には
4.7ヶ月分に回復するなど、低水準ながら在庫の適正化が進捗しており、それが販売増加に繋がっていると
みられる。先行きも、持続的な雇用環境改善の下、モーゲージ金利の低位安定を追い風に好調を維持しよ
う。
中古住宅販売件数・販売成約指数
千
(百万)
6
14
販売成約指数(右)
5.5
5
4.5
中古住宅販売件数
110
12
100
10
90
中古住宅在庫
(千件)
(月)
4.5
4
3.5
販売可能戸数
8
2.5
6
4
80
3.5
2
4
1.5
在庫月数(右)
3
70
10
11
12
13
14
15
2
16
(備考)Thomson Reutersにより作成 3ヶ月平均
3
1
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
(備考)Thomson Reutersにより作成
【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】
・前日の米国株は反発。4月FOMC議事録公表後の6月利上げ観測の高まりを嫌気した売りが一巡するなか、
一部の企業決算が好感され、アジア・欧州株ラリーに追随。WTI原油は47.75㌦(▲0.41㌦)で引け。原
油は、FEDの利上げ観測が重荷となる一方、需給面の不安が後退しており、小幅な下落に留まった。
・前日のG10 通貨はGBPが最弱でそれにJPYが続き、CAD、AUDといった資源国通貨も軟調。反対にSEK、NOKと
いった欧州通貨が堅調で、G10通貨はまちまちな展開。USD/JPYはG7会合を控えて動意に乏しく、
EUR/USDもナローレンジで推移した。
・前日の米10年金利は1.838%(▲1.0bp)で引け。欧州債市場は総じて小動き。ドイツ10年金利が0.165%
(▲0.5bp)で引けたほか、イタリア(1.472%、▲0.5bp)、スペイン(1.566%、▲2.7bp)が僅かに金利
低下。一方、ポルトガル(3.109%、+1.7bp)は小幅に金利上昇。3ヶ国加重平均の対独スプレッドはほ
ぼ変わらず。
【国内株式市場・アジア・オセアニア経済指標等・注目点】
・日本株は欧米株高に追随できず、USD/JPY下落を伴って反落。G7会合では、財政出動に関して各国に温度
差があることが確認された。それが失望を誘った可能性があるだろう。日本が拡張的な財政政策を求める
一方、ドイツはそれに賛同せず、期待外れに終わった感が否めない。
・4月貿易統計によると、輸出金額は前年比▲10.1%、輸入金額は▲23.3%、貿易収支は8235億円の黒字。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
1
季節調整値では輸出金額が前月比▲1.2%、輸入金額が▲3.6%、貿易収支が4266億円の黒字となった。貿
易黒字の拡大基調は好感できるとはいえ、輸出入が共に縮小していることは経済活動のシュリンクを反映
しておりネガティブな印象。自動車大手の出荷遅延が影響しているほか、一部地域・品目の不可解な変動
がノイズとなっているため一過性の可能性も指摘できるが、それを考慮しても不安が残る。輸出を当社算
出の実質輸出でみると前月比▲1.0%と2ヶ月連続で減少、3ヶ月前比年率では▲2.2%と伸びが鈍化した。
先行きについては、本日発表の5月日経PMIで新規輸出受注が44.4と約3年半ぶりの低水準を記録。非
常にネガティブな数字だ。
PMI新規輸出受注・実質輸出
(%)
70
80
65
60
PMI新規輸出受注
60
40
55
20
50
0
45
-20
40
実質輸出
-40
(3ヶ月前比年率、右)
35
-60
30
-80
08
09
10
11
12
13
14
(備考)Thomson Reuters、Markitにより作成
15
16
・20日、21日の日程で開催されたG7財務相・中央銀行総裁会議では「為替の過度の変動は経済に悪影響を
与えうる」として、投機的な為替変動が実体経済の健全性を損なうことに対して懸念を表明。個別国の為
替を巡る議論では、日本が2月中旬やG・W中の円高について「秩序立った動きとは明らかに言えない」
として為替介入の正当性を訴えた一方、米国やフランスは「無秩序と言うにはハードルが高い」、「為替
介入の必要性は見当たらない」として為替介入を牽制。こうした発言は決して目新しいものではないが、
日本の為替介入の是非について国際的な理解を得るのが如何に困難であるか再確認させる。為替介入のポ
イントとしてUSD/JPYの105割れがしばしば指摘されているが、やはりそのレベルで為替介入に踏み切るの
は困難だろう。為替介入があるとすれば、USD/JPYがあっさりと100割れを試す場面か。その場合、日本政
府は、日本企業の窮地を救うべく、国際的な批判を覚悟で為替介入に踏み切る可能性があるだろう。
※ちなみに、2014年10月から11月(105.92→121.57)にかけて14.8%も円安が進んだのに対して、今回の円
高は1月から5月(121.14→ 106.43 Bloomberg終値ベース)にかけての12.1%。仮に為替介入に踏み切
った場合、「円安は黙認、円高は断固対応」となる。その理論武装は脆弱と言わざるを得ず、国際的な批
判を覚悟する必要がある。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
2