皮肉なことに英国債が受け皿に 藤代 宏一

Market Flash
皮肉なことに英国債が受け皿に
2016年6月10日(金)
第一生命経済研究所 経済調査部
主任エコノミスト 藤代 宏一
TEL 03-5221-4523
【海外経済指標他】
・米新規失業保険申請件数は26.4万件と、前週から0.4万件減少。4週移動平均では27.0万件と前週時点から
0.7万件減少。5月雇用統計でNFPは過去分の下方修正を伴って減速したが、これは(結果的に)失業保
険申請件数の動向と整合的だ。こうした見方に基づけば、6月雇用統計は持ち直す可能性が高い。
新規失業保険申請件数
(千件)
400
370
340
310
280
250
12
13
14
15
16
(備考)Thomson Reutersにより作成。太線:4週移動平均
【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】
・前日の米国株は小幅に反落。8日までに3日続伸した後とあって、当初は利益確定売りが膨らんだが、米
金利低下が株式市場をサポートするなか、下落幅を縮小。WTI原油は50.56㌦(▲0.67㌦)と4日ぶりに
反落。主要通貨に対するUSD高が原油に打撃。
・前日のG10 通貨はNZDが最強となった反面、その他通貨は総じて軟調。日本時間早朝はRBNZの政策金利据
え置きを受けてNZDが買われた一方、その他通貨は小動き。その後、日本時間午後になるとEUR売りが加速
するなかでUSD/JPYも反発を開始。USD/JPYは107を回復し、EUR/USDは1.13を割れた。
・前日の米10年金利は1.687%(▲1.5bp)で引け。アジア時間に堅調に推移した米債は、欧州時間から欧州
債ラリーに追随。欧州債市場は総じて堅調。ドイツ10年金利が0.033%(▲2.2bp)で引けて過去最低を更
新したほか、イタリア(1.384%、▲0.8bp)、スペイン(1.422%、▲0.6bp)、ポルトガル(3.067%、▲
0.9bp)も小幅な金利低下。ただし、3ヶ国加重平均の対独スプレッドはワイドニング。
【国内株式市場・アジアオセアニア経済指標・注目点】
・日本株は、特段の材料に欠けるなか、欧米株安に追随して安寄り後、下落幅拡大。
・昨日発表の5月中国CPIは前年比+2.0%と市場予想(+2.2%)を下回り、4月から0.3%pt減速。食料
品価格の減速が目立った反面、コアCPIは+1.6%へと0.1%pt加速。同時に発表された5月PPIは前年
比▲2.8%と4月から0.6%pt下落幅が縮小。市場予想(▲3.2%)を大幅に上回った。51ヶ月連続下落とい
う異例の事態であるものの、過剰投資に起因する需給の弛みが解消に向かいつつあるのかもしれない。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
1
中国
(前年比、%)
物価統計
10
CPI
5
0
-5
PPI
-10
05 06 07 08 09 10 11
(備考)Thomson Reutersにより作成
12
13
14
15
16
・6月23日の英国民投票を控え、為替市場ではGBPの下落が加速してきたほか、債券市場では英国10年金利が
過去最低付近に低下。皮肉なことに英国債は、EU離脱問題を嫌気して流れ着いた資金の受け皿になって
いる(※飽くまでグローバルな金利低下の流れの中での話だが)。仮に「離脱」で決着した場合のファー
ストリアクションは、為替市場で大規模なGBP売りが予想され、金融市場全般では、漠然とした先行き不透
明感からリスクオフの展開が予想される。IMMポジションを見る限り、GBPのショートポジションが膨ら
んできているとは言え、空前の水準に積み上がっている訳ではない。「離脱」となれば、ショートポジシ
ョンが一気に積み上がる可能性があるだろう。
・とはいえ、EU離脱の直接的な影響が貿易や投資の分野で表面化するには、相当の時間がかかるのも事実。
そもそも、英国および相手国の双方にデメリットが生じうる場合、個別に協定(EPA等)を結ぶことで
ある程度の対応が可能だ。つまり悪影響一色という訳ではない、故にEU離脱派に勢いがあるのだろう。
仮に「離脱」となった場合、市場参加者は当初リスクオフで反応した後、「離脱」の具体的な手段・時
間・影響を精査すべく様子見姿勢に移行しよう。パニック的なGBP暴落や英国株の壊滅的打撃に繋がる可能
性は低いだろう。比較対象に相応しくないかもしれないが、ギリシャのユーロ離脱問題よりはパニック的
な混乱を招く可能性が低いと判断される。
(%)
英10年金利
(10億㌦)
80
3.4
IMM
GBPネットポジション
60
3
1.7
40
20
2.6
GBP/USD(右)
0
2.2
-40
-80
ネットポジション
-100
1
13
14
(備考)Thomson Reutersにより作成
1.4
-60
1.4
15
12
13
14
(備考)Thomson Reutersにより作成
16
1.6
1.5
-20
1.8
1.8
1.3
1.2
15
16
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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