Economic Indicators 定例経済指標レポート

Market Flash
日銀はとても慎重
2017年1月31日(火)
第一生命経済研究所 経済調査部
主任エコノミスト 藤代 宏一
TEL 03-5221-4523
【海外経済指標他】
・12月中古住宅販売成約指数は前月比+1.6%と市場予想(+1.0%)を上回り、2ヶ月ぶりに増加。実際の
販売件数に1-2ヶ月の先行性を有するこの指標は2015年央以降、高水準横ばいとなっているが、速報性に
優れたNAHB住宅市場は高水準を維持しているほか、その他関連指標も堅調な領域にある。住宅市場は堅調
との評価が妥当だろう。
・12月米名目個人消費支出は前月比+0.5%と強く伸び、実質ベースでも+0.3%と堅調。実質個人消費支出
は3ヶ月前比年率でみれば+2.5%へ減速しているが、前年比でみると最近は再加速している。また、最近
の消費者マインドの著しい改善に鑑みると一段と加速する可能性が高い。個人所得は前月比+0.3%、前年
比+3.5%と堅調。貯蓄率は5.4%に低下した。
120
4
2
1
0
-1
-2
-3
実質消費支出
CB信頼感期待指数
(6ヶ月先行、右)
-4
05
07
09
11
13
(備考)Thomson Reutersにより作成
6
販売成約指数(右)
5.5
110
80
5
100
60
4.5
40
4
20
3.5
100
3
中古住宅販売件数
90
80
3
0
15
中古住宅販売件数・販売成約指数
(百万)
千
個人消費支出・消費者信頼感指数
5(前年比、%)
70
10
17
11
12
13
14
15
16
17
(備考)Thomson Reutersにより作成 3ヶ月平均
【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】
・前日の米国株市場は反落。トランプ大統領が「テロ懸念国家」としている国々に対し、入国を制限する大
統領令に署名したことが一因となり利益確定売りが誘発された。WTI原油は52.63㌦(▲0.54㌦)で引け。
ベーカー・ヒューズ公表の米稼動リグ数増加が原油需給の悪化懸念に繋がった。
・前日のG10 通貨はGBPが最弱でそれにUSDが続いた。他方、JPYは欧米株式市場がリスクオフに傾斜する下
でショートポジションが巻き戻される展開に。USD/JPYは114を割り込んだ。
・前日の米10年金利は2.488%(+0.4bp)で引け。米指標が堅調だった一方、株式市場がリスクオフに傾斜
したことなどから売り買い交錯。欧州債市場(10年)はコア堅調、周縁国軟調。逃避需要からドイツ
(0.449%、▲1.3bp)が金利低下となった反面、イタリア(2.328%、+10.1bp)、スペイン(1.630%、
+4.3bp)が大幅に金利上昇。その他ではポルトガル、ギリシャ金利の上昇も目立った。周縁国の対独スプ
レッドはワイドニング。
【国内株式市場・アジアオセアニア経済指標・注目点】
・日本株は欧米株下落を受けて安寄り後、下げ幅拡大。なお、後場寄りは一段と下落幅が拡大したが、日銀
の決定とは無関係であろう。今回、日銀の追加緩和期待はほとんど生じていなかった(12:40)。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
1
・12月鉱工業生産は前月比+0.5%と市場予想(+0.3%)を上回り、2ヶ月連続の増産。3ヶ月前比年率で
は+8.5%と好調なモメンタムを維持した。12月データでは、出荷が前月比▲0.2%、在庫が+0.2%、在庫
率が+0.9%とややバランスは崩れたが、何れも過去3ヶ月程度の反動という色彩が強く、一過性のものと
判断される。実際、速報性に優れた日経製造業PMIに目を向けると、1月もヘッドラインが52.8、生産
指数が53.3、新規受注が54.1と引き続き高水準にあり、増産傾向が示唆されている。生産予測指数では1
月+3.0%、2月+0.8%と2ヶ月連続の増産計画が示された。これを基に経済産業省が独自に試算した1
月の生産指数は+0.5%と、1-3月期の順調な滑り出しを示唆。これはPMIが示していた増産傾向とも
整合的で信頼性が高い。当面の生産は堅調な推移が見込まれる。
日本 PMI生産・製造業生産
120
(%)
70
鉱工業生産指数
60
65
PMI生産
60
110
20
55
在庫率指数
50
100
45
40
90
生産指数
0
-20
製造業生産
(3ヶ月前比年率、右)
-40
35
30
80
10
11
12
13
14
(備考)Thomson Reutersにより作成
15
16
-60
08
09
10
11
12
13
14
15
(備考)Thomson Reuters、Markitにより作成
17
40
16
17
・12月失業率は3.1%と市場予想に一致して11月から横ばい(小数点2位では3.08%→3.13%)。失業者数が
前月から4万人増加すると同時に就業者数(+31万人)、雇用者数(+43万人)が共に増加。ヘッドライ
ンの失業率は横ばいで、失業者数も増加したが、非労働力人口が35万人減少し、労働参加率が上昇してい
ることを踏まえると内容は良い。労働市場の厚みが増している。求人関連指標は有効求人倍率が1.43倍、
新規求人倍率は2.18倍と共に11月から大幅に上昇し、今次サイクルのピークを更新。バブル期並みの水準
に回帰した。加えて、景気の先行指標として有用な新規求人数が前月比+5.4%と順調に増加したことも好
感される。労働市場の質的改善という面ではパートを除いた有効求人倍率が1.29倍へと直近1年で0.17pt
も上昇したことが注目される。このことは、労働市場の回復が女性のパートタイムから男性の正社員に広
がりつつあることを映し出しており、景気回復を象徴する。こうした労働市場の逼迫を示す一連のデータ
は人口減少に起因する人手不足によって誇張されている面があるとはいえ、本質的には企業の前向きな姿
勢を反映している。
・12月家計調査によると実質消費支出は前年比▲0.3%と下落幅こそ縮小したものの、10ヶ月連続の減少とな
った(11月:▲1.5%)。季節調整値では前月比▲0.6%、振れの大きい住居等を除いたコア消費でみても
前月比▲2.1%と弱い姿に変わりはない。購入頻度の高い生産野菜の高騰が引き続き消費者マインドを冷や
したほか、一頃に比べてガソリン代などエネルギー価格が上昇していることが影響した可能性がある。
6
5.5
(%)
日
雇用関連統計
(倍)
115
2.1
新規求人倍率(右)
1.8
5
4.5
有効求人倍率(右) 1.5
4
1.2
3.5
0.9
3
110
105
100
0.6
失業率
2.5
07
08
09
10
11
12
(備考)Thomson Reutersにより作成
0.3
13
14
15
実質消費支出
16
17
95
90
05
07
09
11
13
15
17
(備考)Thomson Reutersにより作成 家計調査ベース、コア
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
2
<#日銀
#現状維持 #成長率見通し引き上げ #物価は慎重>
・日銀は大方の予想どおり金融政策の現状維持を決定。一部市場参加者が削除を予想していた長期国債の
「保有残高の増加額年間約80兆円」という文言も残され、主要政策パッケージに変更は加えられなかった
(貸出支援基金、被災地オペは1年延長)。例によって、木内、佐藤両委員がYCC、長国買い入れ、E
TF購入等について反対票を投じた。
・事前の観測報道にあったとおり、実質GDP成長率は16年~18年度にかけて上方修正された。ただし、日
銀が展望レポートの中でその理由を「GDP統計の基準改定に伴う上方修正に加え、海外経済の上振れや
為替相場の円安方向への動きなどを背景」としていたことは、日銀が国内経済の自律回復になお慎重な見
通しを貫いているという点において注目される。国内経済回復の理由を、テクニカルかつ外的要因に求め
たことは、最重要視している内生的インフレのモメンタムがさほど強まらない(と日銀が予想している)
ことを意味していると考えられる。成長率見通しの引き上げにも拘らず、2017-18年度のCPI見通しが据
え置かれたのは、そのためだろう。
・以上を踏まえると、日銀は物価に対する慎重姿勢を貫くことが予想される。2016年11月以降の円安・株
高・海外金利上昇を受けて、一部市場関係者は日銀が出口に舵を切るとの見方を示した。しかしながら、
筆者は日銀が慎重な判断を維持すると予想。日銀は、当分の間、現行の政策パッケージを維持しよう。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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