Economic Indicators 定例経済指標レポート

Market Flash
サプライズ慣れ
2016年3月11日(金)
第一生命経済研究所 経済調査部
主任エコノミスト 藤代 宏一
TEL 03-5221-4523
【海外経済指標他】~ECBは予想どおりサプライズ~
・3月ECB理事会では政策金利引き下げと量的緩和拡大が決定された。詳細は後述。
・新規失業保険申請件数は25.9万件と前週(27.7万件)から減少して昨年10月以来の低水準に回帰。4週移
動平均は26.8万件とこちらも昨年11月の水準を回帰した。休日に絡んだ季節調整の歪みなど特殊要因はな
く、実力ベースでの数値として評価してよさそうだ。発表元の労働省も今回発表分に特殊要因はなかった
としている。過去数ヶ月に発表された各種サーベイ指標の落ち込みから判断すると、予想外に堅調を維持
している。
新規失業保険申請件数
(千件)
400
370
340
310
280
250
12
13
14
15
16
(備考)Thomson Reutersにより作成。太線:4週移動平均
【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】
・前日の米国株は横ばい。NYダウは小幅反落となった一方、S%P500はプラス圏で引け。朝方はECBの追
加緩和を好感した買いに支えられたが、追加緩和の打ち止め感が広がると上げ幅を縮小。欧州株も総じて
軟調。ただし、銀行株は小幅高で引けるなどマイナス金利拡大の負の影響は避けられた。WTI原油は
37.84㌦(▲0.45㌦)で引け。
・前日のG10 通貨はECB理事会後に欧州通貨(EUR、DKK、CHF、SEK、GBP)が全面高となる一方、原油価
格の調整を受けて資源国通貨(CAD、AUD)が堅調。USD/JPYは当初のEUR安に追随して114を回復する場面が
あったが、EUR安一服に歩調を合わせ結局は113前半まで押し戻された。
・前日の米10年金利は1.932%(+2.7bp)で引け。ECBの追加緩和発表後に大きく上下した後、その後は
ドイツ国債の下落に追随。欧州債市場はコア軟調、周縁国まちまち。総裁会見で追加利下げの可能性が後
退するとコア国中心に金利上昇。ドイツ10年金利が0.306%(+8.2bp)で引けた一方、イタリア(1.461%、
+0.1bp)、スペイン(1.589%、▲0.1bp)、ポルトガル(3.133%、▲0.4bp)はほぼ変わらず。3ヶ国加
重平均の対独スプレッドはタイトニングした。
【国内株式市場・経済指標】
・日本株はUSD/JPY下落が重石となり大幅安で寄り付いた後、下落幅縮小。
・昨日発表の2月中国CPIは前年比+2.3%と1月から0.5%pt加速。食料品物価が前年比+7.3%と急上昇
し全体を押し上げた反面、コア物価は+1.3%へと0.2%pt減速。基調的なインフレ率は鈍化傾向にある。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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同時に発表されたPPIは前年比▲4.9%と1月から0.4%pt縮小。下落幅縮小はベースエフェクトが大き
く影響している。これでPPIの前年比マイナスは48ヶ月連続。過去の過剰投資に起因する需給の緩みが
根強く残存していることを浮き彫りにしている。
(前年比、%)
中国
物価統計
10
CPI
5
0
-5
PPI
-10
05 06 07 08 09 10 11
(備考)Thomson Reutersにより作成
12
13
14
15
16
【注目点】
・ECB理事会は3つの政策金利を全て引き下げることを決定。具体的には中銀預金金利を10bp引き下げて
▲0.4%としたほか(予想どおり)、MRO金利と限界貸出金利を5bp引き下げてそれぞれ0.0%、0.25%
とした(予想外)。また資産購入ペースを200億ユーロ増額して800億ユーロとしたほか(コンセンサスは
100億ユーロ増額)、新たに投資適格の非金融機関社債購入を決定(一部関係者が予想)。その他では新た
な枠組みのT-LTRO2を発表(一部関係者が予想)。T-LTRO2は①2016年6月から四半期毎に4回実施され、
③4年満期で2年後から早期返済も可能、④金利は実質的に0.0%以下(借り入れ時のMRO金利で固定、
その後に貸出を増加すれば中銀預金金利と同水準の▲0.4%まで下がる)という内容。従来のTLTROと比較
して調達金利が最低でも5bp(今回のMRO金利引き下げ分)下がるほか、キャリートレードが可能にな
ったという点(貸出を増やさなかった場合の早期返済義務がないため、TLRTO2を利用してゼロ金利で調達
したおカネを国債投資に使える)で特に周縁国の銀行に有利な制度設計と言える。マイナス金利拡大が銀
行収益を圧迫することに配慮したのだろう。2月にドイツ最大手の株価が急落すると、それを横目にクレ
ジット・スプレッドが拡大。負のスパイラルが生じつつあった。一方、一部の市場参加者が予想していた
資産購入期間の延長はなく、終了時期は2017年3月までで変わらず。また階層構造方式の導入もなかった。
これは追加利下げの余地が少ないことを意味すると同時に、ECB自身がマイナス金利拡大の効果に疑問
を持っているとの憶測を呼ぶ。
・昨日のユーロ高・欧州株安は市場が“サプライズ慣れ”するなか、金融政策で金融市場をコントロールす
ることの難しさを浮き彫りにしたと言える。サプライズがもはや常識となっており、市場参加者がドラ
ギ・マジックに驚かなくなっていることを物語っている。これは黒田バズーカにも共通する。
・そうしたなか、日銀は3月の金融政策決定会合で金融政策の現状維持を決定する見込みだ。2月中旬の円
高・株安を受けて3月会合におけるマイナス金利拡大の可能性が浮上する場面もあったが、足もとでは金
融市場の混乱が一服しつつあるため、日銀が動く必要性に乏しい。2月16日に適用開始となったマイナス
金利の運営から僅か1ヶ月しか経過しておらず、一部市場(CP発行市場でマイナス金利成立せず、MR
F元本補填問題で法的制約)でシステム・制度対応が追いついていないことも大きい。そうした中で日銀
はマイナス金利拡大に慎重にならざるを得ない。また、ECB理事会後の市場の反応をみて、日銀はサプ
ライズを成功させることの難しさを痛感したはずだ。それを教訓に現状維持を選択するだろう。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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<主要株価指数>
日経平均※
NYダウ
DAX(独)
FTSE100(英)
CAC40(仏)
<外国為替>※
USD/JPY
EUR/USD
<長期金利>※
日本
米国
英国
ドイツ
フランス
イタリア
スペイン
<商品>
NY原油
NY金
終値
16705.55
16,995.13
9,498.15
6,036.70
4,350.35
113.14
1.1174
0.010
1.932
1.539
0.306
0.683
1.461
1.589
(円)
16900
前日比
-146.80
-5.23
-224.94
-109.62
-75.30
16800
16700
16600
16500
(㌦)
17200
-0.06
-0.00
%
%
%
%
%
%
%
0.027
0.027
0.059
0.082
0.040
0.001
-0.001
日経平均株価 12:04 現在
NYダウ平均株価
17100
%
%
%
%
%
%
%
17000
16900
16800
114.5
USD/JPY
114.0
113.5
37.84 ㌦
1272.80 ㌦
-0.45 ㌦
15.40 ㌦
113.0
112.5
※は右上記載時刻における直近値。図中の点線は前日終値。
112.0
(出所)Bloomberg
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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