8. 貨幣とインフレーション(2) マクロ経済学2(南山大学2015) 1 概要 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 今回のねらい 名目利子率と実質利子率 貨幣需要と物価水準の決定 インフレーションの社会的コスト ハイパーインフレーション デフレーション 確認問題 マクロ経済学2(南山大学2015) 2 1. 今回のねらい • 第7回の講義では物価やインフレ率の 決定を学ぶため、貨幣量と物価の関 係について考えた。 • 今回の狙いは – について理 解する。 – インフレーション、デフレーションの社会 的影響について理解する。 マクロ経済学2(南山大学2015) 3 2. 名目利子率と実質利子率 • GDP同様、利子率にも名目と実質がある。 – 名目利子率:預金等に付く額面の利子率 – 実質利子率:利子付与に伴う購買力の増加率 • 実質利子率=名目利子率-インフレ率 • 例:預金金利3%、インフレ率1% – 名目利子率i=0.03(3%) – 実質金利r= マクロ経済学2(南山大学2015) 4 実質利子率の意味 • 例:100円を預金。預金金利3%、インフレ率1%。 財は今年100円のガムだけ。 • 預金残高は一年後に103円。 – 素直に喜んで良いか?(3円増は実質的な得か?) • 100円のガムは来年101円。 – 利子受取り後、ガムを買ったら残るのは3円でなく2円( 購買力の増加額)。 • 名目利子率-インフレ率=実質利子率:実質的な 購買力の増加 マクロ経済学2(南山大学2015) 5 フィッシャー方程式 • フィッシャー方程式 it 1 rt 1 t 1 • – (貨幣数量説より):マネーサプライ1%増→インフレ率 1%上昇 – (フィッシャー方程式より):インフレ率1%上昇→名目 金利1%上昇 – マネーサプライ1%増→名目金利1%上昇(フィッシャー 効果) マクロ経済学2(南山大学2015) 6 日本のインフレ率と利子率 (%) 35 30 25 20 15 似通った動きをしている 10 5 0 48 951 954 957 960 963 966 969 972 975 978 981 984 987 990 993 996 999 002 005 -5 9 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 2 2 -10 CPIインフレ率 国債利回り 出所)International Financial Statistics マクロ経済学2(南山大学2015) 7 事前的実質利子率によるフィッシャー 方程式の修正 • 名目利子率=実質利子率+インフレ率 – 実質利子率:当期に決定。 – インフレ率:来期に決定(当期には未知)。 – インフレ率の実現値は未知であるため、当期の 名目利子率に反映されるのは期待インフレ率。 • 厳密なフィッシャー方程式 マクロ経済学2(南山大学2015) 8 3. 貨幣需要と物価水準の決定 • 単純な貨幣需要関数 M d t P t kYt – 所得↑⇒消費↑⇒貨幣需要↑ – 貨幣需給均衡 M td M t 、完全雇用条件 Yt Y を使って 整理。 – 貨幣残高が物価水準を決定(貨幣数量説と同様の示唆)。 • 貨幣数量説は単純な貨幣需要関数を仮定した物価 の決定理論としても解釈可能。 マクロ経済学2(南山大学2015) 9 貨幣需要と金利の関係 • 貨幣需要はそれほど単純か?追加的に金 利を考える。 • 金利を考慮した(一般的な)貨幣需要関数 M d t P t L ( it 1 , Yt ) kYt li t 1 – 所得↑⇒消費↑⇒貨幣需要↑ – 金利↑⇒貨幣保有の機会費用↑⇒貨幣需要↓ マクロ経済学2(南山大学2015) 10 一般的な貨幣需要関数と物価水準 • 一般的な貨幣需要関数から得られる物価水準 Pt M t ( kYt li t 1 ) or – 所得↑⇒消費↑⇒貨幣需要↑⇒物価↓ – 実質金利↑⇒名目金利↑⇒貨幣需要↓⇒物価↑ – 期待インフレ率↑⇒名目金利↑⇒貨幣需要↓ ⇒物価↑ • インフレが起こると人々が思うと物価が上がる。 マクロ経済学2(南山大学2015) 11 と物価上昇 • • • • 将来インフレが発生すると予想 名目金利が上昇すると予想 貨幣保有の機会費用が増えると予想 現在の貨幣需要が減少(「今のうちか ら売っておこう」という心理が働く) • 現在の貨幣価値が下落、現在の物価 が上昇。 マクロ経済学2(南山大学2015) 12 参考)インフレターゲット • 人々の期待インフレ率に働きかけてイ ンフレ率を操作しようとする手法。 • 中央銀行が具体的な目標インフレ率 を発表し、期待インフレ率を通じて現 実の物価水準、インフレ率に働きかけ る。 • 多くの先進国が導入してきた。 マクロ経済学2(南山大学2015) 13 4. インフレの社会的コスト • インフレーションの何が悪いのか? • 予想されているインフレの場合と、予 想されない不意のインフレの場合でコ ストは異なる。 • 一般に予想されないインフレのコスト の方が高いと考えられている。 マクロ経済学2(南山大学2015) 14 予想されたインフレのコスト • – インフレ⇒名目利子率↑⇒貨幣需要↓。 – インフレの反面、貨幣需要(手元貨幣残高)が減少。 預金をおろす回数が増える(取引コストの増大)。 • メニュー・コスト – 物価上昇⇒価格改訂の手間 – 価格硬直性の一つの原因。 • – インフレによる実質的な納税額の変化。 マクロ経済学2(南山大学2015) 15 予想外のインフレのコスト • 予想外のインフレと名目金利変化 ↓ • 予想された返済額と実際の返済額に 乖離が発生。 ↓ • (危険回避的な経済主体にとって)不 確実性がコストになる。 マクロ経済学2(南山大学2015) 16 5. • 1か月あたり50%を超えるようなインフレー ション(通貨価値の急激な下落)。 • ドイツ(W.W.I後)、ボリビア(1985年)、ジン バブエ(2009年)等が経験。 • ハイパーインフレ下では当然、先のインフ レのコストが非常に大きくなる。 • ハイパーインフレの害悪については経済 学者の間でもコンセンサスがある。 マクロ経済学2(南山大学2015) 17 としてのハイパーインフレ • ハイパーインフレ発生の典型的経路 – 財政赤字が発生。 – 政府はシニョレッジで赤字を補填しようとして 貨幣を増刷(インフレ税)。 – 貨幣価値の下落とハイパーインフレの発生。 • ハイパーインフレの多くは財政問題が発端 で、終焉も財政再建による。 マクロ経済学2(南山大学2015) 18 6. デフレーション • ケインズ政策の発展以降、インフ レの経験に比べてデフレの経験 はきわめて少ない。 • 日本は1990年代後半以降デフレ 局面にある。 マクロ経済学2(南山大学2015) 19 CPIで見る日本のインフレ率(年次) 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 デフレ傾向 2009 2007 2005 2003 2001 1999 1997 1995 1993 1991 1989 1987 1985 1983 1981 1979 1977 1975 1973 1971 0 -0.05 出所:統計局(http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001015975&cycode=0) マクロ経済学2(南山大学2015) 20 デフレスパイラルとは? • 現在のデフレが将来のデフレを誘発 し、連続的にデフレが進行していく状 態を指す。 • 「物価下落⇒ ⇒ 買い控え⇒需要の減少⇒物価下落⇒ ・・・」により、自己実現的なデフレが進 行。 マクロ経済学2(南山大学2015) 21 デフレーションのコスト • 先に触れたメニュー・コスト、税制上の コスト、不確実性のコストはデフレにも 当てはまる。 • とりわけデフレスパイラルのような状 況では、需要の連続的な減少が企業 収益、雇用、所得といったマクロ経済 に悪影響を及ぼす。 マクロ経済学2(南山大学2015) 22 7. 確認問題 1. 2. 3. 4. 5. 名目利子率が3%、インフレ率が1%のと きの実質利子率を求めよ。 金利が上昇すると貨幣需要が減少する 理由を、言葉で説明せよ。 インフレ期待が物価水準に与える影響 を、数式で説明せよ。 インフレターゲット政策について説明せ よ。 デフレスパイラルとは何か、答えよ。 マクロ経済学2(南山大学2015) 23
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