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基礎マクロ経済学(2015年前期)
4.貨幣
貨幣とインフレーション
貨幣とインフレーション
担当:小塚匡文
4.1 貨幣とは
貨幣とは何
とは何か
<貨幣の機能>
①価値貯蔵手段 ②計算単位 ③交換手段
※貨幣としての機能のし易さを流動性
流動性とよぶ
流動性
• 貨幣がなければ物々交換(実際には困難)
<貨幣の種類>
• 商品貨幣→商品としての価値がある貨幣
• 兌換紙幣→金との交換義務で裏付けられる
• 不換紙幣→政府の命令により裏付けられる
<不換紙幣の
不換紙幣の発達過程>
発達過程>
• 商品貨幣(金)は、運ぶのに苦労する
⇒一定量の金を含む金貨が発行される
⇒金証書(金兌換紙幣)が発行
⇒金と交換する人がいなくなると、不換紙幣へ
⇒価値保証が信用される限り,これで取引される
<貨幣量/
とM2>
>
貨幣量/M1と
• 現金通貨:発行済み紙幣と硬貨
• 預金通貨(要求払い預金):決済に使える預金
これらの残高を合計したものがM1
M1と準通貨(定期性預金の残高)の合計はM2
<貨幣量のコントロール>
• 利用可能な貨幣量=マネーサプライ
• これをコントロールすること=金融政策
• これを行う組織=中央銀行(日本:日本銀行)
• 多くの国々では中央銀行は政府から独立
• 中央銀行は紙幣を発行する
• 公開市場操作によって金融市場で国債を売
買し、マネーサプライをコントロールする
※厳密には、中央銀行はマネーサプライをすべ
て操作できるわけではない。しかしここではす
べて操作できると仮定する
4.2 貨幣数量説
貨幣量と経済との関係→貨幣数量説
(ここでの貨幣は、いわゆる現金通貨
現金通貨)
現金通貨
次のような恒等式が成立(定義上、必ず成立)
MV=PT (M:貨幣量、V:貨幣の取引流通速度、
P:価格、T:取引回数)
取引回数の代わりに総生産Yを用いる(ほぼ比
例する)と “ MV=PY”(
(V:所得流通速度)
<貨幣需要関数と数量方程式>
上記の式を変形し
M 1
= ×Y
P V
※kはVの逆数
M
= kY
P
d
M
  = kY
P
※いちばん右の式は実質貨幣の需要を決定する、
貨幣需要関数
ここでkは、所得1単位当たりどれだけ貨幣を保有
したいかを示す定数(Vは一定としている)
→所得が増えると取引回数が増え、貨幣が必要
→所得が増えると実質貨幣への需要が増える
<貨幣・物価とインフレーション>
物価が決まる経路は次の通り:
①生産要素と生産関数より実質産出量が決定
②マネーサプライより名目産出量が決定
③物価水準(GDPデフレータ)は名目と実質の産
出量より決定
→名目産出量の変化はGDPデフレータに反映
→よって、マネーサプライによって
マネーサプライによって物価
マネーサプライによって物価は
物価は動く
貨幣数量説に従えば、次のことが示される:
• マネーサプライを動かす中央銀行は、インフ
レ率のコントロール能力を持つ
• 中央銀行がマネーサプライを安定的に保てば
物価水準は安定、急激に増やすと物価水準
も急速に高騰する
4.3 貨幣発行収入
政府の収入源は・・・
租税、国債発行による借金 の他に・・・
貨幣発行収入
貨幣発行収入(
)
貨幣発行収入(貨幣発行特権・
貨幣発行特権・seigniorage)
(※政府=中央銀行と仮定)
政府が貨幣発行による増収を狙うと?
⇒政府は収入を得、国民は過度なインフレー
ションに直面する
⇒何が問題なのか?
⇒保有現金価値の低下と可処分所得の減少
⇒これは税金を課されているようなもの!
※(30年以上前の話だが)イタリアやギリシアで
は、貨幣発行収入は政府収入の10%以上
⇒これらの国はインフレに悩まされていた
※貨幣発行収入を得ようとすると、ハイパーイ
ンフレーションの危険がある
4.4 インフレと利子率
インフレと利子率
利子率の本質とは現在と将来をつなぐ価格
⇒インフレとの関係は?
<2種類の利子率>
• 利子率が8%であれば、資金を1年間預けれ
ば現金が1.08倍になる
• 物価も8%上昇すれば、買える財の量は変わ
らない
銀行の支払う利子率=名目利子率(i)
預金者の購買力の増加率=実質利子率(r)
関係式は r=i-π (πはインフレ率)
<フィッシャー効果>
i=r+π (フィッシャー
•
フィッシャー方程式
フィッシャー方程式)
方程式
• 実質利子率は貯蓄と投資の均衡で決まる
• インフレ率は貨幣量成長率により決まる
⇒貨幣量伸びは名目利子率を上昇させる
⇒これをフィッシャー
フィッシャー効果
フィッシャー効果とよぶ
効果
<2つの実質利子率>
事前的実質利子率(予想インフレ率による)
事後的実質利子率(実際のインフレ率による)
の2つのインフレ率がある
⇒予想インフレ率と Eπ と表記
4.5 名目利子率と
名目利子率と貨幣需要
<貨幣保有のコスト>
もう1つの貨幣需要の決定要因=名目利子率を
考慮すると・・・
• 現金は利子を生まない
• 預金や国債保有により名目利子率に相当する
利子収入を得られる
• 現金を保有すると、この利子収入を放棄する
☞現金を保有すると利子収入分の機会費用が
発生⇒貨幣保有のコスト
• 貨幣保有のコスト=名目利子率
i=r+Eπ
• これを変形すると i=r-(-Eπ)
☞投資によって、実質利子率 ”r” の分だけ実質
収益を得られ、貨幣保有によって“–Eπ “ だけ
の追加的な収益(実際は損失)を得る
⇒これらをコストとして払うこととなる
• 貨幣需要は、貨幣保有の価格(コスト)にも依
存するので、貨幣需要関数は次の通り:
(M P )
d
= L(i, Y )
• Y(所得)が増えると貨幣需要 (M
P)
は増加
• i(名目利子率)は貨幣保有のコストで、これが
増えると貨幣需要は減少する
d
<将来の貨幣と現在の物価>
• 将来の貨幣供給増加が予想
⇒予想インフレ率上昇・名目利子率上昇(フィッ
シャー効果)
⇒貨幣の需給均衡式
(M P ) = (M P )
d
= L(r + Eπ , Y )
より、物価Pが上昇する必要がある
※現在の名目貨幣供給
供給量(M)は一定であり、
供給
i = r + Eπ が増えると貨幣需要は減少するから
⇒マネーサプライが物価に影響するもう1つの経
路
4.6 インフレーションの社会
インフレーションの社会コスト
社会コスト
インフレが進むと何が問題なのか?
<ある見方>
• 物価が上昇すると生活が苦しくなる?
⇒物価とMPLは同じように動くから、これはない
⇒緩やかなインフレならむしろ問題はない
<インフレーションの利点>
• インフレが進んでいるときは、心理的な抵抗
のある名目賃金引き下げをせずに済む
⇒インフレが進んでいれば、名目賃金を下げな
くても、均衡実質賃金より低く抑えられるから
• その結果、失業者が出なくなる
<予想された高いインフレがあるときのコスト>
①現金を持たず、頻繁に預金から引き出す
☞その手間=靴底コスト
②価格変更を頻繁に行うコスト=手間がかかる
☞メニューコスト
③価格を頻繁に変更できず、相対価格が適切
でない ☞非効率な資源配分を招く
④キャピタルゲイン課税
☞キャピタルゲインが物価上昇分より低いと実
質収入がマイナスとなるのに、課税される
⑤物価が変わるため、支出計画が困難になる
練習問題3
予想外のインフレーションのコストとして何があ
るか?
①資金貸借があるとき
②定額年金を受けているとき
練習問題3 解答
①資金貸借があるとき
資金を貸している人は、インフレーションにより、
実質の利子収入が減少する
②定額年金を受けているとき
インフレーションにより、実質の年金の価値が
減少する
☞以上のことより、恣意的な資源の再配分を促
す
4.7 ハイパーインフレーション
定義:50%/月 以上のインフレーション
<ハイパーインフレーションのコスト>
先述のインフレーションのコストに加え・・・
• 貨幣管理に費やすエネルギーが大きい
• 価格が財の希少性を反映しない
• 実質税収が減少する
• 貨幣の役割が毀損され、物々交換が復活
<原因>
• 貨幣発行収入を得るためマネーサプライを急
増させ、税収の実質価値が低下
• さらに貨幣の増刷し、ハイパーインフレが進む
4.8 古典派の
古典派の二分法
• 実質変数…量や相対価格で測られる変数
⇒生産水準や配分を物価水準を使わずに説明
名目賃金に触れずに労働市場を説明
• 名目変数…貨幣を単位として測られる変数
⇒実質変数と名目変数を分離して説明できる
⇒古典派の二分法 とよぶ
• ここでは、貨幣量と実質変数は無関係である
• これを貨幣の中立性とよぶ
※しかし短期的にはそうでないことに注意!