10.景気変動へのイントロダク ション マクロ経済学2(南山大学2015) 1 概要 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 今回のねらい 景気循環とは? 短期と長期の違い 単純なAD-ASモデル 短期と長期の政策効果 需給ショックと安定化政策 確認問題 マクロ経済学2(南山大学2015) 2 1. 今回のねらい • これまで価格が伸縮的な長期の経済を分析 するモデルを学んできた。 • 次回以降は価格が硬直的な短期の経済を分 析するモデルについて学ぶ。 • 今回の狙いは – 短期と長期の違いについて大ざっぱに理解する。 – 前回までの内容と次回からの内容をつなぐ。 • 今回説明する内容はあくまで概観的なもの。 特に短期分析に関する詳細は次回以降。 マクロ経済学2(南山大学2015) 3 2. 景気循環とは? • 景気循環(business cycle) – 生産や雇用の短期的な変動のことを指す。 – 長期的な趨勢のことをトレンドと呼ぶ。 • 短期と長期 – 前回までに学んだ長期のモデル:トレンド に関する分析 – 次回以降学ぶ短期のモデル:景気循環に 関する分析 マクロ経済学2(南山大学2015) 4 日本の実質GDP(四半期、原系列) 160,000 140,000 120,000 100,000 80,000 60,000 四半期ごとの特徴的な動きを「季節性」と呼ぶ。 40,000 20,000 1981Q1 1982Q2 1983Q3 1984Q4 1986Q1 1987Q2 1988Q3 1989Q4 1991Q1 1992Q2 1993Q3 1994Q4 1996Q1 1997Q2 1998Q3 1999Q4 2001Q1 2002Q2 2003Q3 2004Q4 2006Q1 2007Q2 2008Q3 2009Q4 0 出所:内閣府(http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/qe102-2/gdemenu_ja.html) マクロ経済学2(南山大学2015) 5 日本の実質GDP(四半期、季節調整済) 600,000 500,000 400,000 300,000 季節性を調整してもなお、短期的な変動が存在する。 200,000 100,000 1980Q1 1981Q2 1982Q3 1983Q4 1985Q1 1986Q2 1987Q3 1988Q4 1990Q1 1991Q2 1992Q3 1993Q4 1995Q1 1996Q2 1997Q3 1998Q4 2000Q1 2001Q2 2002Q3 2003Q4 2005Q1 2006Q2 2007Q3 2008Q4 2010Q1 0 出所:内閣府(http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/qe102-2/gdemenu_ja.html) マクロ経済学2(南山大学2015) 6 日本の実質GDP成長率 (四半期、原系列前年同期比) 15 10 サイクル部分 トレンド成長率 5 -5 1981Q1 1982Q2 1983Q3 1984Q4 1986Q1 1987Q2 1988Q3 1989Q4 1991Q1 1992Q2 1993Q3 1994Q4 1996Q1 1997Q2 1998Q3 1999Q4 2001Q1 2002Q2 2003Q3 2004Q4 2006Q1 2007Q2 2008Q3 2009Q4 0 -10 -15 実質GDP成長率(前年同期比) 平均成長率 出所:内閣府(http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/qe102-2/gdemenu_ja.html) マクロ経済学2(南山大学2015) 7 3. 短期と長期の違い • そもそも、なぜ短期と長期を分けて考える必要があ るのか? – 短期と長期で経済の性質(価格の硬直性)が異なるから。 • 価格の硬直性の違いは経済の動きの違いを生む。 • 貨幣拡張の例 – 伸縮価格(長期):価格(名目変数)のみが上昇。生産や 雇用(実質変数)は不変。 – 硬直価格(短期):価格(名目変数)が動かない。生産や 雇用(実質変数)の調整が起こる。 マクロ経済学2(南山大学2015) 8 古典派の二分法 • 価格が伸縮的な長期では、マネーサプライの 変化は名目変数に影響を与える一方、実質 変数には何ら影響を与えない。 • マネーサプライ↑⇒物価、名目賃金↑⇒実質 変数不変 – 例:物価が2倍でも名目賃金も2倍ならば、人々は これまでと同じだけの物を買うことができる。 • 価格が硬直的な短期とは、 が成立しない世界。 マクロ経済学2(南山大学2015) 9 4. 単純なAD-ASモデル • AD-AS(総需要-総供給)モデル AD曲線:需要者が買いたいと思う価格と量の組み合 わせの軌跡。 AS曲線:供給者が売りたいと思う価格と量の組み合 わせの軌跡。 AD曲線とAS曲線の交点:需要者と供給者の両方が 納得する価格と量の組み合わせ。 • ここでは(不完全だが)単純な方法でAD-ASモデ ルを構築し、短期と長期の違いに関するイメージ をつかむ。完全なモデルは次回以降。 マクロ経済学2(南山大学2015) 10 4.1 総需要(Aggregate Demand, AD) • 単純な貨幣需要関数(第8回講義ノート参照) からAD曲線を導出する。 • 貨幣需給均衡 M P M kY d M を使って整理する。 Y↑⇒P↓ Y-P平面で右下がりの曲線 マクロ経済学2(南山大学2015) 11 総需要曲線 P AD曲線 Y 0 マクロ経済学2(南山大学2015) 12 AD曲線が右下がりになる直観的理由 • 需要者は と考える。 したがって、Pが小さいときにはYが大きい。結 果、AD曲線は右下がりになる。 • 注意 ここでは単純な貨幣需給均衡式のみからAD曲線 を導いたため、この理由の意味が見えにくい。 次回以降、より厳密にAD曲線を導出し、上記の 説明が適切であることを示す。 マクロ経済学2(南山大学2015) 13 金融緩和(M↑)とAD曲線のシフト • AD曲線 • 輸出の外生的な増大 P M (kY ) マクロ経済学2(南山大学2015) 14 金融緩和(M↑)とAD曲線のシフト P AD’ AD M↑ 0 Y 金融緩和はAD曲線を右にシフトさせる。 マクロ経済学2(南山大学2015) 15 4.2 総供給(Aggregate Supply, AS) • 価格の硬直性(or長期と短期の違い)が影響 を与えるのは総供給側。 • 長期 前回までに学んだ古典派のモデル。 価格が伸縮的。生産要素が完全利用( Y Y )。 • 短期 次回以降学ぶケインズ派のモデル。 価格が硬直的。生産要素は必ずしも完全利用の 状態にない。 マクロ経済学2(南山大学2015) 16 価格伸縮性と生産要素完全利用 • 価格が伸縮的な長期で、なぜ生産要素が完 全利用されていると考えて良いか? • 労働の例 労働の超過供給が発生。 労働の価格(賃金)が伸縮的なら、賃金が下落。 企業は安い賃金でより多くの労働者を雇用。 労働は完全利用(完全雇用)される。 • すべての価格が伸縮的な世界では、生産要 素が完全利用されると考えられる。 マクロ経済学2(南山大学2015) 17 賃金硬直性と待機失業(第6回参照) 労働供給 W 待機失業 高止まりした 市場賃金 均衡賃金 労働需要 0 L 市場賃金が均衡賃金に比べて高止まりすることで失業が発生。 マクロ経済学2(南山大学2015) 18 長期のAD-ASモデル P 長期AS曲線 (LRAS) ~ P AD曲線 0 Y F (K , L ) Y Y 常に完全雇用生産量が実現(供給が需要を決める)。 マクロ経済学2(南山大学2015) 19 短期のAD-ASモデル P 短期AS曲線 (SRAS) PP AD曲線 0 ~ Y Y 硬直価格水準で需要されるだけ生産(需要が供給を決める)。 マクロ経済学2(南山大学2015) 20 5. 長期と短期の政策効果 • 長期と短期の総需要-総供給 総需要:長期と短期で変化なし。 総供給:長期に垂直、短期に水平。 • AD-ASモデルにおける政策効果(金融緩和) 金融緩和⇒AD曲線が右にシフト AD曲線とAS曲線の交点で均衡生産、均衡価格 が決定。 AS曲線の形状が異なるため、長期と短期で政策 効果に違いが生まれる。 マクロ経済学2(南山大学2015) 21 金融緩和の長期的効果 P LRAS ~ P2 AD2 ~ P1 AD1 0 Y Y Y P上昇、Y不変。所得にはなんら影響を与えない。 マクロ経済学2(南山大学2015) 22 金融緩和の短期的効果 P AD1 AD2 SRAS PP 0 ~ Y1 ~ Y2 Y P不変、Y増大。所得を増加させる効果を持つ。 マクロ経済学2(南山大学2015) 23 長期と短期の政策効果の違い • 長期と短期で金融緩和の効果が真逆。なぜ か? 長期:金融緩和⇒需要増⇒即座に価格上昇&需 要減⇒生産量(所得)不変 短期:金融緩和⇒需要増⇒価格不変⇒生産量 (所得)増大 • 価格硬直性の存在によって、長期と短期の金 融緩和の効果が乖離。 マクロ経済学2(南山大学2015) 24 「短期均衡→長期均衡」の調整 P LRAS ~L P AD1 SRAS ~S P P AD2 0 ~L Y Y ~S Y Y P不変、Y増大。所得を増加させる効果を持つ。 マクロ経済学2(南山大学2015) 25 「短期均衡→長期均衡」の調整 • 短期均衡から長期均衡への 短期的に生産が増大。 物価が徐々に上昇し、生産も徐々に減少。 長期的に生産は完全雇用水準に収束。 • 短期的な価格硬直性の存在によって、短期 均衡と長期均衡が乖離。 マクロ経済学2(南山大学2015) 26 6. 需給ショックと安定化政策 • 経済への「ショック」 需要や供給を変化させる外生的な要因を指す。 • 需給ショック 需要ショック:需要曲線を変化させるショック(例 ⇒趣向の変化、決済手段の高度化) 供給ショック:供給曲線を変化させるショック(例 ⇒生産技術の向上、農業への干ばつ被害) • 望ましくない需給ショックの影響を相殺するの が の重要な役割。 マクロ経済学2(南山大学2015) 27 需要ショック(需要増大の例) P LRAS ~L P AD1 SRAS ~S P P AD2 0 ~L Y Y ~S Y Y 金融引き締めにより短期的な景気過熱を抑えられる。 マクロ経済学2(南山大学2015) 28 供給ショック(短期的な価格上昇の例) P スタグフレーション LRAS SRAS2 ~S P SRAS1 P AD’ AD 0 ~S Y ~L Y Y Y 金融緩和により短期的な景気後退を抑えられる。 マクロ経済学2(南山大学2015) 29 需給ショックとその安定化 • 需給ショックの影響 長期:価格変化、生産不変。 短期:価格不変、生産変化。 • 需給ショックに対する安定化策 需要ショック:需要管理政策(ここでは金融政策)によ り、PとYに対する影響を完全に相殺可能。 供給ショック:需要管理政策によりYへの影響を相殺、 Pの上昇は許容。 • 現実の運営の問題はここでの議論とはまた別に 存在する。 マクロ経済学2(南山大学2015) 30 7. 確認問題 1. 古典派の二分法とは何か、言葉で説明せよ。 2. 金融緩和が物価に与える長期的な影響につい て、図を用いて説明せよ。 3. 金融緩和が物価に与える短期的な影響につい て、図を用いて説明せよ。 4. 短期的な価格上昇が物価と総生産に与える影 響について、図を用いて説明せよ。 5. 問題4で発生する短期的な景気変動に対して、 どのような金融政策が適切か答えよ。 マクロ経済学2(南山大学2015) 31
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