7. 貨幣とインフレーション(1) マクロ経済学2(南山大学2015) 1 概要 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 今回のねらい 貨幣とは何か? 金融政策としての貨幣供給 貨幣量の測定 貨幣数量説 貨幣発行収入 確認問題 マクロ経済学2(南山大学2015) 2 1. 今回のねらい • 第4~6回の講義では、GDPと失業の理論 的な決定について学び、それぞれのデー タの概観を行なった。 • 第7~8回の講義では、もう一つの重要指 標である物価に関する理論的決定を学ぶ。 • 特に今回の狙いは – 貨幣とは何か理解する。 – 金融政策としての貨幣供給について学ぶ。 – 貨幣量と物価との関係について理解する。 マクロ経済学2(南山大学2015) 3 2. 貨幣とは何か? • 経済学における貨幣の定義は「取 引・決済に即座に使用できる資産 のストック」。 • 貨幣には様々な機能、便益、種類 がある。 マクロ経済学2(南山大学2015) 4 2.1 貨幣の機能 • – 購買力を現在から将来へと持ち越すことが出来る。 – 例:今月稼いだバイト代を来月の旅行に使う。 • – 異なる財を同じ尺度で比較することが出来る。 – 例: 200万円のプリウス> 6万円のiPad。 • 交換手段 – 貨幣を常に他の財と交換できる。 – 例:コンビニにうまい棒6本を持って行ってもガリガリ君 は買えないが、60円持って行けば買える。 マクロ経済学2(南山大学2015) 5 2.2 貨幣の便益 • 物々交換経済 Aさん クツが欲しい シャツがいらない 一致! 一致! Bさん シャツが欲しい クツがいらない AさんのシャツとBさんのクツを交換して取引成立! Aさん クツが欲しい シャツがいらない 不一致! 一致! Bさん シャツが欲しい 帽子がいらない Aさんはシャツの対価に帽子をもらうのでは不満。取引は不成立! 物々交換経済では「欲望の二重の一致」がなければ取引が成立しな い! マクロ経済学2(南山大学2015) 6 貨幣による「欲望の二重の一 致」問題の解消 • 「何とでも交換できる」貨幣が存在すれば、 欲望の二重の一致問題は発生しない。 • 貨幣の存在が取引を円滑化。 マクロ経済学2(南山大学2015) 7 2.3 貨幣の種類 • 不換紙幣 – 内在的な価値を持たない貨幣。現在は専らこ ちら。 – 「価値がある」と信じられているから価値があ る貨幣。 – 例:一万円札の製造コストは16円。 • 商品貨幣 – 内在的な価値を持つ貨幣。過去多く存在。 – それ自体に商品としての価値がある貨幣。 – 例:金貨、小判、兌換紙幣。 マクロ経済学2(南山大学2015) 8 3. 金融政策としての貨幣供給 • – 経済に存在する利用可能な貨幣量。 – 中央銀行が総量を管理。 – マネーサプライの量をコントロールして経済に 影響を与えることを金融政策と呼ぶ。 • 金融政策の決定と実施 – (日本では)日本銀行の政策委員会が方針を 決定、公開市場操作により実施。 マクロ経済学2(南山大学2015) 9 金融政策の決定 ~日銀金融政策委員会~ • 総裁、副総裁(2名)および審議委員(6名) の計9名。 • 審議委員は民間有識者や学者で構成され、 両議院の同意を得て内閣が任命(任期5 年)。 • 原則月2回の「金融政策決定会合」(金融 政策について審議・決定)と、原則週2回 の「通常会合」(金融政策以外の重要事項 を審議)を行う。 マクロ経済学2(南山大学2015) 10 金融政策の実施 ~公開市場操作~ • 市場における国債の売買でマネーサプラ イを調整する(公開市場操作)。 – 国債:国家が発行する債券で、リスクの低い 金融資産。 • 国債の – 売りオペ:国債を売る⇒民間主体が貨幣で国 債を買う⇒貨幣総量は減る⇒金融引き締め – 買いオペ:国債を買う⇒民間主体が貨幣を受 取る⇒貨幣総量は増える⇒金融緩和 マクロ経済学2(南山大学2015) 11 4. 貨幣量の測定 • 先ほど貨幣を「取引・決済に即座に使用で きる資産のストック」と概念的に定義した。 • 具体的に「貨幣」と言ったとき、何を指すの か? • 具体的に「マネーサプライ」は何で測定さ れているのか? 注)日本のマネーサプライ統計は2008年にマネーストック統計に鞍替えし た。 マクロ経済学2(南山大学2015) 12 日本の「貨幣」の定義 ~マネーストック統計~ • • • • • • • • 現金:銀行券発行高+貨幣流通高 預金:要求払い預金-対象金融機関保有小切手・手形 M1:現金+預金(M2対象金融機関+ゆうちょ他) M2:現金+預金 M3:M1+準通貨+CD CD:譲渡性預金 準通貨:定期預金+据え置き貯金+定期積金+外貨預金 広義流動性:M3+その他金融商品(国債等) 日銀(http://www.boj.or.jp/type/exp/stat/exms.htm)に詳しい。 マクロ経済学2(南山大学2015) 13 経済学的なマネーサプライ • マネーサプライの概念的定義:取引・決済 に即座に使用できる資産のストック • マネーストック統計の 。 – マネーサプライ統計ではM2+CDが対応(マ ネーストック公表前はこれで見る)。 • 注意 – 金融商品の多様化に伴い、M3も注目傾向。 – マネーサプライの定義は国によっても異なる。 マクロ経済学2(南山大学2015) 14 5. 貨幣数量説 • 貨幣量(マネーサプライ)が経済(所得や物 価)に与える影響を知りたい。 • (貨幣)数量方程式 貨幣量 ( M ) 流通速度 (V ) 価格 ( P ) 取引数 (T ) – M、V、P、Tの関係を与える恒等式。 • 数量方程式は必ず成り立つ式。 マクロ経済学2(南山大学2015) 15 数量方程式の例 • 一年で100円のパンが50個生産・販売され た(P=100、T=50)。取引総額は5000円。 貨幣量を1000円(M=1000)とする。 1000 流通速度 (V ) 100 50 • 一年に5000円の取引総額が1000円の貨 幣で実行されるためには、貨幣は5回所有 者を変えねばならない。 マクロ経済学2(南山大学2015) 16 販売T→生産Yへの書き換え • 生産されたものが販売される。したがって 販売量と生産量は密接に関係。 • 数量方程式の販売Tを生産Yに書き換える。 貨幣量 ( M ) 流通速度 (V ) 価格 ( P ) 生産量 (Y ) • 今後はこの関係を使う。 マクロ経済学2(南山大学2015) 17 流通速度(V)一定の仮定 • 先の例:M、P、Yが与えられてから、Vが受 動的に決定(M、P、Y変化→V変化)。 • 経験的にはVは一定であることが多い。 – V V で一定と仮定する。 マネーサプライが名目GDPを決定する。 マクロ経済学2(南山大学2015) 18 実質GDP(Y)の決定 • 第4~5回で想定した通り、実質GDPは完 全雇用水準で決まっているとする。 – Y F (K , L ) Y – これを前スライドの式に代入。 M V PY マネーサプライが物価水準を決定する。 (貨幣数量説の主張) マクロ経済学2(南山大学2015) 19 変化率への書き換え • 前スライドの式は以下のように書き換えら れる。 M V P Y , M 1V P1Y M M 1 M V M 1V P Y P1Y M 1 P P1 P1 V ( M M 1 ) Y ( P P1 ) V ( M M 1 ) V M 1 Y ( P P1 ) Y P1 マネーサプライ変化率 =インフレ率 マクロ経済学2(南山大学2015) 20 貨幣数量説の帰結 • 物価水準はマネーサプライによって決定 P V Y M • インフレ率はマネーサプライ変化率によっ て決定 価格が伸縮的な長期を想定していることに注意! マクロ経済学2(南山大学2015) 21 日本のインフレ率とマネーサプライ成長率 (長期データ) 正の相関 教科書より抜粋 マクロ経済学2(南山大学2015) 22 米国のインフレ率とマネーサプライ成長率 (長期データ) 正の相関 教科書より抜粋 マクロ経済学2(南山大学2015) 23 6. 貨幣発行収入 • 政府による3つの資金調達方法 – 国民から税金をとる。 – 国債を販売して民間からお金を借りる。 – 政府が直接紙幣を印刷する。 • 一万円札印刷の便益 – 収入=1万円、費用=16円。利潤は9984円。 – これが貨幣発行収入(シニョレッジ)。 マクロ経済学2(南山大学2015) 24 インフレ税としての紙幣印刷 紙幣印刷、貨幣供給増大 貨幣数量説より 物価上昇、国民に負担 紙幣印刷による資金調達は インフレ税とも呼ばれる マクロ経済学2(南山大学2015) 25 7. 確認問題 1. 貨幣による「欲望の二重の一致」問題の解決に ついて説明せよ。 2. 国債の買いオペは金融引き締めか、金融緩和 か答えよ。 3. 日本のマネーサプライは一般に何で測られるか 答えよ。 4. 貨幣数量説に基づけば、マネーサプライの増大 は物価水準をどのように変化させるか。 5. シニョレッジとは何か、答えよ。 6. インフレ税とは何か、答えよ。 マクロ経済学2(南山大学2015) 26
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