平成 25 年度 日本大学文理学部個人研究費 研究実績報告書 学科・資格 物理生命システム科学科・教授 申請者氏名 間瀬 啓介 研 究 課 題 ㊞ カイコ染色体置換系統の作出とそれを利用した笹繭発現遺伝子の解析 報 告 これまで量的形質など複数の遺伝子が関与する形質の解析は極めて困難であり、その原因遺伝子の 解明や発現制御メカニズムはむろんのこと、関与する遺伝子の同定もほとんどなされていない。カイコの 繭色のバリエーションは多様であり、その発現に関わる幾つかの遺伝子は同定されているものの、まだ未 研究目的 同定な遺伝子もあり、それら相互の関係や遺伝様式については不明な点が多い。しかしながら、この形質 は、複数の遺伝子が関与しているものの比較的客観的に評価できるため、複雑な発現様式の形質を解 明するモデルとしても有用である。 お よ び 一方、性状の異なるカイコ 2 系統間の連続戻し交配と分子マーカーによる選抜によって、特定染色体 のみが置き換わった染色体置換系統を作出中であり、その過程において上記笹繭形質に関わる幾つか の変異系統を見出すことに成功している。そこで、その変異系統の解析ならびに変異遺伝子領域を同定 研究概要 することによって原因となる候補遺伝子を見出し、カイコ繭色発現に関わる遺伝子制御メカニズムの解明 につなげる。また、同時に染色体置換系統の作出をすすめ、繭色発現以外の複雑な遺伝様式を示す形 質の関連遺伝子についても調査を進める。 の 研 究 概 の 結 果 一対の大造染色体が日 01 号染色体に置換した染色体ホモ置換系統を(表 CSL)を、Z 染色体を除く2 8系統において完成させた。また、その逆の一対の日 01 号染色体が大造染色体に置換した染色体置換 系統(裏 CSL)の作出も進行中である。つぎに、これら染色体置換系統作出過程で見出した笹繭発現遺 伝子について、カイコゲノム情報を用いて予測遺伝子を選出し、それらの系統間や各器官における発現 状況を調べて、目的とする笹繭形質発現の原因遺伝子の候補を絞り込んだ。また、同作出過程で見出し た笹繭緑繭化遺伝子についてもその原因解明が進み、プロリン合成経路に関わる酵素の、ピロリン5カル ボン酸還元酵素の活性が低下することによってピロリン5カルボン酸が蓄積し、これが笹繭の色素成分で あるケルセチンに付加することによって緑繭化していることが明らかになった。さらにこの酵素の活性低下 は、この遺伝子の発現レベルにおける異常が原因であることを突き止めた。 要 研 究 の 染色体置換系統の作出に関しては、系統内多型によって生じる置換染色体の誤識別を注意しながら 再作出を含め進めていく。また、笹繭関連遺伝子の絞り込みと共に、今回明らかになった笹繭緑繭化遺 伝子についても詳細に異常原因を調べ、繭形質における遺伝的変異メカニズムの一端を解明する予定 である。 考 察 ・ 反 省 研究発表 学会名 発表テーマ 年月日/場所 研究成果物 テーマ 誌 名 巻・号 発行年月日 発行所・者 日本蚕糸学会 カイコ緑繭系統大造の P5CR 遺伝子の構造と発現異常 平成25年3月10~11日/日本大学生物資源科学部
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