第5学年B組 理科学習指導案

第3学年C組
理科学習指導案
授 業 者
研究協力者
1
単元名
清水
浦野
琢
弘,川村
教一,田口
瑞穂
こん虫のふしぎを調べよう
2
子どもと単元
(1) 子どもについて
「知っている昆虫をできるだけ正確に描きなさい」との指示に対し,すべての子どもがト
ンボ,チョウ,テントウムシ,カブトムシ,クワガタ,カメムシ,マイマイカブリ,カマキ
リ,バッタ,コオロギ,セミ,ハチ,ハエ,カ,アリ,ケムシ,クモ,ミミズ,ダンゴムシ,
アメンボ,ゴキブリのいずれかを描いた。しかし,はねの枚数やあしの本数,それらがつい
てる箇所はまちまちであり,種による概形的なイメージはもっているものの,昆虫の定義や
その形態への認識は浅いことが分かる。
また,「知っている昆虫を言葉で説明しなさい」との問いに対しては,「小さい」「卵から
かえる」「たくさんいる」「飛ぶ」「木や石のかげにいる」「冬はいない」「血を吸う」「蛹に
なる」「毒がある」「鳴く」「蜜を吸う」など種に応じた解答が見られたことから,生息場所
や成長の仕方,種による特徴について,ある程度の初歩的な概念をもっていることが分かる。
ただ日常生活の中で,昆虫の形態や育ち方などを意識することは稀である子どもが大半を
占めるため,「あれっ?」「どうしてだろう?」という疑問をもたせ,問題解決の必然性へ
とつなげていくための工夫が必要となる。
(2) 単元について
本単元は,「生命」についての基本的な見方や概念を柱とした内容のうち「生物の構造と
機能」,「生物の多様性と共通性」にかかわるものである。身近な昆虫について追究し,そ
の成長過程や体のつくりを比較する能力を育てること,及び昆虫の成長のきまりや体のつく
りについての見方や考え方をもつことができるようにすることを主なねらいとしている。
昆虫は動物界の中で最も種類が多く,現在知られている種の中で占める割合は過半数にも
及ぶ。また,地球上の様々な気候や環境に適応しており,その生活様式も多様性に富んでい
るため,益虫,害虫の区別によらず,生活の中で昆虫とのかかわりが皆無になることはない。
本単元で観察や考察を繰り返すことを通して,昆虫についての基礎的な科学概念を構築し,
自分なりの見方や考え方をもつことは,子どもたちにとって必要なことであると考える。
(3) 指導について
本単元では,昆虫の成長過程や体のつくりにかかわって個々が見いだした問題を共有・整
理し,その解決に向け,各々の考えを適切な方法で表現し合い,他者との反駁,同意,修正
という過程を経ながら,昆虫の成長のきまりや,体のつくりについての科学概念構築を図っ
ていく。
導入で昆虫の成長過程や体のつくりについて疑問や仮説をもつ場面では,既有の自己の考
えとのずれや他者の仮説との食い違いを視点として問題を見いだし,その解決に向けた見通
しを明確にする。「検証したい」「発展させたい」ことを具体化し学習への見通しをもたせ
ることで,発見を喜びに結び付け,追究意欲の向上を図り,問題解決への必然性を高めてい
くことができると考える。
本単元で学習する昆虫は,上述の通り,地球上で最多種を誇り,かつその生態も多様であ
る。種としての繁殖という見地に立てば,地球上で最も成功した動物種とも言える。それら
昆虫が,進化の過程で獲得してきた成長プロセスや体のメカニズムの巧みさを,実際の飼育
を通して子どもたちが実感できるようにする。こうして新たな発見により創られた個々のイ
メージが作用し合い,次々に更新された結果として,昆虫の成長過程や体のつくりについて
の科学概念を構築することができるように,「対話」の場を繰り返し設定する。自分や他者
との「科学的な根拠に基づいた対話」を通して昆虫への見方や考え方が変換していく状況を
目の当たりにした子どもたちが,自らの学びを科学の世界へと翻訳する喜びを感じ,主体的
で持続的な「対話」を重ねつつ科学する心の胎動を増していく,そのような姿を期待したい。
3
単元の目標 <記号は本校の資質・能力表による>
(1) 昆虫について,成長のきまりや体のつくりに着目し,追究しようとする。
〈ア-1,3〉
(2) 昆虫には,幼虫の姿のまま成虫になるものと蛹を経て成虫になるものがあること,食性と
生息場所には密接な関係があることについて,種による差異点や共通点を比較しながら,図
や文章を用いて説明することができる。
〈イ-1,2〉
(3) 昆虫の育ち方や体のつくりを観察し,自分の仮説を検証しながら,その過程や結果を記録
することができる。
〈ウ-1d,3,4,5〉
(4) 昆虫の育ち方には一定の順序があること,その体は頭,胸,腹の三つの部分からできてい
て,頭には目や触覚,口があること,胸には3対6本のあしがありはねのついているものが
あること,腹はいくつかの節からできていることが分かる。
〈エ-6,7〉
4
単元の構想(総時数7時間)
時間
1
2
3
4
学習活動
教師の主な支援
評価〈本校の資質・能力との関連〉
(1) 昆虫の育ち方や体 ・ 問題意識が高まるように,野外 ・ 昆虫の成長のきまりや
のつくりについて,
で採集した昆虫を実際に観察させ
体のつくりに着目し,共
疑問や仮説をもち,
る。しかし種が限られる場合は,
有した問題を分類,整理
調べる方法及び順序
映像や標本等の資料も提示する。
しながら,それらの解決
を考え,単元の見通
また観察の際は,それぞれの共通
方法を考え,追究の見通
しをもつ。
点や差異点を視点として与え,個
しをもっている。
々の疑問や仮説につなげていくこ
〈ア-1,3〉
とができるようにする。
・ 見いだした疑問や仮説を解決す
るための見通しをもつことができ
るように,問題として整理・共有
し,解決に向けた方策を意見交換
しながら検討していく場をもつ。
<問題1>
昆虫はどのような体のつくりをしているのだろうか。また,種類によって違いはあ
るのだろうか。
(2) 昆虫の体のつくり ・ 共通点や種による違いを比較し ・ 昆虫の体のつくりを観
の共通点や種による
ながら解決していくことができる
察し,自分の仮説を検証
差異の理由について
ように,体のつくりに影響を及ぼ
しながら,その過程や結
仮説を立て,観察を
していると思われることと関連付
果を記録している。
通して検証し,結論
けながら仮説を立てさせる。そし
〈ウ-1d,3,4,5〉
をまとめる。
て,その仮説を検証するためには,・ 昆虫の食性と生息場所
どのような視点をもって観察を行
には密接な関係があるこ
えばよいのかを共通理解できるよ
とについて,種による差
うにする。
異点や共通点を比較しな
・ 調べた結果をもとに自分なりに
がら,図や文章を用いて
思考し,次段階で仲閒と互いにイ
説明している。
メージを更新し合いしながら結論
〈イ-1,2〉
をまとめていくことができるよう ・ 昆虫の体は頭,胸,腹
に,個の時間と他者との「対話」
の三つの部分からできて
の時間を確保する。
いて,頭には目や触覚,
・ 具体的な事実に基づいて意見交
口があること,胸には3
換することができるように,デジ
対6本のあしがありはね
タルカメラやデジタル顕微鏡を用
のついているものがある
いて対象となる画像を映し出し,
こと,腹はいくつかの節
全員に共有させる。
からできていることが分
かる。
〈エ-6,7〉
<問題2>
昆虫はどのように育つのだろうか。また,種類によって育ち方は違うのだろうか。
5
6 (3) 昆虫の育ち方の共 ・ 体のつくりや生息場所等の既習 ・ 昆虫の育ち方を観察し
本時
通点や種による差異
事項,そして新たに得られた観察
自分の仮説を検証しなが
を調べ,それぞれの
結果など,事実に基づいた説明と
ら,その過程や結果を記
利点について自分な
なるよう,明確な根拠を示すよう
録している。
りの結論をまとめる。 促す。
〈ウ-1d,3,4,5〉
・ 互いの考えを補い合い更新し合 ・ 昆虫には,幼虫の姿の
うことで,より科学的な結論をま
まま成虫になるものと蛹
とめていくことができるように,
を経て成虫になるものが
個の時間と他者との「対話」の時
あることについて,種に
間を確保する。
よる差異点や共通点を比
・ 多様な見地から,蛹化の有無に
較しながら,図や文章を
よるそれぞれの利点を考えること
用いて説明している。
ができるように,思考の起点とな
〈イ-1,2〉
り得る画像資料等を準備し,必要 ・ 昆虫の育ち方には一定
に応じて提示する。
の順序があることが分か
る。
〈エ-6,7〉
7 (4) 調べて分かったこ ・ 互いに考えを補完,補強し合い
とを「昆虫のふしぎ」 ながら結論に到達したことを実感
と題してまとめる。
できるように,ふしぎ発見者を「○
○科学者」のように表記させる。
5
本時の実際
本時(6/7)
(1) ねらい
蛹化の有無によるそれぞれの利点について,昆虫の体のつくりや育ち方と関連付けなが
ら自分なりの見方や考え方をもち,根拠を示して説明することができる。
(2) 展
時間
開
○:「対話」の機能を生かすための手立て
学習活動
教師の支援
評 価
<問題>
蛹になる昆虫と蛹にはならない昆虫,それぞれの育ち方のよさは何なのだろう。
10分 ① 蛹の特徴を確かめる。
・ 「どうして蛹になるのか(ならないのか)」につ
(蛹の特徴)
いて,思考の根拠となりそうな情報を共有させるた
・ ほとんど動かない。
めに,主な特徴を確認する。
・ 何も食べない。
・ 「蛹の中身はどうなっているのだろう」という問
・ 中身はどろどろ。
いが予想されるので,蛹を解剖した映像資料を準備
(神経・呼吸系の組織以外)
しておく。その際,複数種を提示し,共通点をとら
・ 繭,蛹室,そのまま等,形態
えることができるようにする。
の違いがある。
15分 ②
蛹になる,またはならない ・ 蛹化の有無による利点を,体のつくりや生息場所
ことの利点を予想する。
等,種による特徴と関連付けて考えることができる
【自分との対話】 ように,蛹になるものとならないものの画像資料を
(予想される見方や考え方)
グループ分けして複数提示する。さらに,それぞれ
蛹になるもの
の成長プロセス(卵→幼虫→蛹→成虫等)や住環境,
・ 大変身する。
生命サイクルなど,かかわってくると思われる他の
・ 食べ物や生活場所が変わる。
情報も把握しやすくなるように板書を構成する。
・ 幼虫や蛹で越冬する。
・ 複数の情報を比較しながら自分の仮説を立てるこ
蛹にならないもの
とができるように,蛹になるもの(ならないもの)
・ 大変身しない。
の共通点,蛹化の有無による差異点を視点として与
・ 食べ物や生活場所が変わら
える。
ない。
・ 半信半疑であった考えに自信をもったり,自分一
・ 大きな羽をもつ。
人では気付くことができなかった情報に触れたりす
・ 卵で越冬する。
ることで,さらに追究意欲を高めることができるよ
(春に生まれて秋に死ぬ。)
うに,適宜情報交換の場を設ける。
15分 ③
蛹になる,またはならない ・ 考えた過程をふり返ることができるように,大切
ことの利点について考えを聴
と感じたことはノートに記録するよう指示する。
き合い,問題に対する結論を ○ 具体的な事実をもとに結論へ迫ることができるよ
出す。
う,子どもの考えの根拠となる映像資料を準備して
【仲間との対話】→【自分との対話】
おき,必要に応じて提示する。
(予想される見方や考え方)
○ 全員が,自分の考えを表現したり相手の考えを受
蛹になるもの
け止めたりしながら自他の共通点や相違点に気付く
・ 春先から成虫として活動でき
ことができるように,まず少人数のグループで暫定
る。→外敵に食べられにくい。
的な考えを紹介し合う場を設定する。その後,自分
・ 成長や活動の時期や場所を大
の考えが他者の考えと創造的に作用し合い,変換・
きく広げられる。
更新されていく過程を実感し,そのよさを自覚する
・ 幼虫は成長に(速く+大きく), 場として,全体で結論を導き出していく場を設定す
成虫は繁殖に(広く+遠く=異
る。その際,一人一人の表現を結び付け,全体とし
性と出会いやすい,新天地に子
ての結論に導いていくために,共通点やずれに着目
孫を繁栄させやすい)適してお
した意見交換を意識させる。
り,無駄がない。
蛹にならないもの
・ 飛ぶ能力の高いはねをもつ。
・ 食べ物を変えなくてもよい。
5分 ④
本時で取り組んだことと考
えたことを二文日記に記録し
て学習をふり返る。
蛹になる,またはならないことによってもたらさ
れるそれぞれのよさについて,住環境や生活サイク
ル,体のつくり等の具体的な根拠と関連づけながら,
自分なりの見方や考え方を説明している。
〈イ-1,2〉
(発言の内容,ノートの記述内容)
(3) 「仲間との対話」を通して新たな価値を創造する子どもの姿
《学習活動③において》
【協働して追究する「問い」】
「蛹になるよさは何なのか。蛹にならないよさは何なのか。」
子どもの姿
・
・
・
蛹になるものは,チョウのように大変身する。
蛹になるものは,冬も生きている(幼虫・蛹)。
蛹にならないものは,食べ物(生活場所)が変わらない。
とらえが表層的で,「なぜそうなるとよいのか」という科学的な
見地には立っていない。
仲間との対話
【教師の手立て】
・ 科学的な手続きを経て,本質に迫るための発問。
発問:「大変身すると,チョウにとってどんないいことがあ
るのかな」
発問:「冬も,蛹や幼虫になって生きていると,卵でいるの
に比べて何がいいのかな。」
発問:「食べ物や生活場所が変わるのと変わらないのでは,
昆虫の生活は,どう違ってくるんだろう。」
・ 根拠となる映像資料の提示。
幼虫,成虫それぞれの体のつくりを複数種で比較できるよ
うな写真提示。トンボにしかできない飛び方(はねの動かし
方)の映像資料の提示。
・
春から成虫になるということは,卵や幼虫でいるのに比べ
て,鳥や他の虫たちに食べられにくいはずだ。
・ 寒くなっても死なないでいられるから,長生きできて,そ
の分大きくなれる。それに,育つことができる場所も広がる
と思う。
・ 幼虫には,口と腸と触角しかない。餌を食べて大きくなる
ためだけの体のつくりをしている。
・ 成虫は,飛ぶことができるものが多い。幼虫に比べて,動
ける範囲がとても広がっている。
・ 飛べるとオスメスが出会いやすくなるし,今までその虫が
いなかったところまで飛んで行って,卵を産むこともできる。
・ いきなり加速したりピタッと止まったりできるトンボのよ
うな動きができるはねは,蛹の中で作るのは難しいのでは。
目指す
子どもの姿
根拠と事実が適合しているかを視点とした科学的な思考を通
して,次の蛹化の有無による差異を自分なりに結論付けている。
・ 幼虫は,早く大きく成長するための体のつくりで,成虫は
多くの子孫を残すための体のつくりというように無駄がない。
蛹になることで,体の大改造を行うことができる。
・ 蛹を経て成虫になると,春先から成虫として活動できるの
で,成長や活動の時期と場所を大きく広げることができる。
・ 蛹にならないトンボは,チョウやハチと違って4枚のはね
を別々に動かすことができるので,飛ぶ能力がとても高い。
このように細かな動きのできるはねを蛹の中で作り直すのは
難しいようだ。