政策を見る眼 外部委託等パートナーシップの進化 No.7 < 2015.10.26 > 宮脇 淳 北海道大学大学院法学研究科教授 公立図書館の外部委託等をめぐって、愛知県小 上で最適なマネジメント手法を自ら形成していくことに 牧市の住民投票をはじめ、政治的課題となっている なる。ここでのマネジメント能力はリーダーシップを支え 自治体が散見される。指定管理者等民間委託は、 る大きな柱であり、前述のマネジメント能力と区別して 行財政の効率化や公共サービスの質的改善をめざ 「創造的マネジメント能力」と位置づける必要がある。 す取り組みである。公立図書館にあっても地域への この創造的マネジメント能力は、一般的に①注意力 公共サービスの質を持続的に進化させていく仕組み のマネジメント、②意味のマネジメント、③信頼のマネ の確立が求められる。昨今の公立図書館の外部化 ジメント、④自己のマネジメント、の 4 つで構成される。 をめぐる議論でも、民間化の手法自体を否定するの ①「注意力のマネジメント」は、時間や空間をより広く ではなく、民間化に対する行政と民間、すなわち官民 深く捉えてマネジメントする能力である。パートナーシッ を通じたパートナーシップの進化のあり方を、どれほど プの複雑なシステムでは、様々な問題に対して官民 徹底して検証できるかが問われているのである。 そして利用者等が提示した解決策を含め混沌とした 指定管理をはじめとしたパートナーシップの進化は、 議論の中で、パートナーシップ本来の意図と異なる予 「成功するマネジメント能力」と「成功するリーダーシッ 期せぬ結果をもたらすことが少なくない。なぜならば、 プ能力」の構築によってもたらされる。 解決策の課題への働きかけとその効果の帰着とが、 「マネジメント能力」とは、パートナーシップにおいて、 認識し得るほどには時間的、空間的に近接していな 既に存在する目標や計画、ルールなどにいかに行動 いことが多いためである。こうした問題を克服するに を合わせていくかの基盤的能力である。たとえば、目 は、時間や空間の情報に対する注意力を、パートナ 標値を設定し、その達成率を高めていくために、人的 ーシップを構成する官民がいかに形成し涵養している 資源や資金をいかに有効活用するか、従来の請負 かが鍵を握る。単にたくさん知っているだけでは不十分 型マネジメントで求められる能力である。これに対して、 である。情報を知るほどに、より広く深い注意力が不 「リーダーシップ能力」とは、「過去に存在しなかったも 可欠であり、それがなければ、混乱するばかりである。 のを実現する能力」であり、自らの行動の源泉となる ②「意味のマネジメント」は、自らのパートナーシップ 価値自体を形成することである。すなわち、既に存在 行動に対して常に価値付けを行い、一定の価値に基 する価値に合わせて物事を管理し遂行していくのが づく行動を励行することである。パートナーシップで確 「マネジメント能力」、過去に存在しない価値を生み出 保すべき要件として、構成する官民の組織や地域に し行動実現していくのが「リーダーシップ能力」である。 対して価値観の共有を図ることが上げられる。前提は 両者は本質的に大きな違いを有するが、同時にパー 自らの行動への意味づけを常に行うことである。それ トナーシップを進化させる両輪ともなる。たとえば、公立 により、リーダーシップ能力とマネジメント能力とが一体 図書館の機能充実とは何かを常に積極的に考え続 化し、組織としての価値観の共有が可能となる。 けることは、パートナーシップの原点となる。 ③「信頼のマネジメント」は、共有された価値観をベ パートナーシップにおいて、リーダーシップ能力には ースに自ら学習する環境を創造することである。具体 過去に存在しない価値を生み出すだけでなく、自ら生 的には、パートナーシップの仕組みの中で「システム み出したものを現実のものとしていくマネジメント能力が 思考」を発展させることである。これは、外部環境も含 不可欠である。通常の請負型マネジメントでは、マネ めシステムを構成する異なる部分との相互作用によっ ジメント行為の前提となる枠組み自体を、マネジメント て問題が生じることを重視し、組織を全体として理解 当事者が創り出す必然性はない。しかし、リーダーシ するための多様な考え方や見方を合成する力をいう。 ップ能力では、自ら新たに生み出した枠組み自体を ④「自己のマネジメント」は、①~③の機能をより発 前提として、それを実現する新たなマネジメントの枠組 みを創造することが必要となる。つまり、パートナーシッ プを通じて、自ら生み出した価値や枠組みを実現する 「政策を見る眼」No.7 <2015.10.26> 揮するために自己コントロールを実現することである。 パートナーシップは、単なる請負の構図を脱して、 自ら進化する段階を迎えている。 監修:宮脇淳 北海道大学大学院法学研究科教授 発行:株式会社図書館総合研究所 TRC セミナー「まちの課題を解決する図書館」事務局(担当:島泰幸) 〒112-8632 東京都文京区大塚 3-1-1 Tel.03-3943-2221 E-mail: [email protected] *バックナンバーは、http://www.trc.co.jp/soken/ をご覧ください。
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