公立図書館の目的と機能を考える

政策を見る眼
シリーズ:行動志向型の公立図書館(第 1 回)
公立図書館の目的と機能を考える
No.10< 2015.11.25 >
宮脇 淳
北海道大学法学研究科・公共政策大学院教授
公立図書館は、地域の教育機関として自治体の教育
る。排他性が弱く(コスト負担を求めずサービス提供する
委員会の下に図書館法第2条に基づいて展開されてい
度合いが高い)、競合性が弱い(同様のサービスを提供
る。しかし、情報通信革命(ICT)の進展など公立図書館
する主体の存在が少ない)ほど、公共サービスとしての一
を取り巻く外部環境は、自治体と同様、構造的に変化し
般的性格・優先度が高く、排他性が強く(コスト負担がな
ている。その中で、①公立図書館が自治体の一部である
いとサービス提供しない度合いが高い)、競合性が強い
ことへの認識とそれに基づく機能転換、②公立図書館の
(同様のサービスを提供する主体の存在が多い)ほど、
地域貢献の目的についての恒常的な問いかけが図書館
公共サービスとしての性格は弱く民間に任せるべきサー
の進化を図る上では重要となっている。ここで進化とは、
ビスとなる。
継続的な構造変化であり、自治体の一つの機能として地
例えば、図書館法の規定に基づき、住民ニーズに合
域に果たす役割は何かの追求である。この追求に不可
わせてベストセラーなど一般書店で販売する書籍を中心
欠なのが公立図書館の管理志向型から行動志向型へ
に整備した公立図書館では、排他性は弱く、競合性は強
の発展である。この点について、数回に分けて整理する。
いことになる。この場合、民間でも提供している書籍サー
第1回は、公立図書館の目的と機能について考える。
ビスに、直接的受益者に必要なコストを負担してもらわず
管理志向型とは、図書館をはじめ自治体の継続業務
財政で負担して提供することの正当性を明確にしなけれ
や義務的業務を中心に、目標を着実に達成するため、
ばならない。この正当性が明確化されなければ、仮に貸
基本的な目的・機能や枠組みを堅持しながら進行管理
出率等のモニタリング指標で高位にあっても、本来、公
することである。管理志向型は、環境変化が少ない中で
共サービスとして提供する性格が弱い分野に財政負担し
の進行管理には適するが、反面、①施策・事務事業いず
ていることとなり、政策評価では高位は望めず、公共サー
れのレベルでも新たな手段の構想には結び付きにくく、②
ビス提供の優先順位も低くなる。
環境変化に伴う未経験な現象を対象として取り扱う視点
しかし、図書館法の枠組みだけでなく、地域住民が集
が不足し、③既存の枠組みを堅持し容易に選択できる範
まり地域のことを知り考え、地域生活のハブとなるシティ・
囲で代替案を構想しやすい。目的達成に向けて手段の
ホールとして図書館の目的・機能を多様化させた場合、
見直しが必要な時にも、手段の維持を優先し目的を見
ベストセラー書籍による貸出率の向上もシティ・ホール機
失う「計画の逆機能」(形式的に計画を守ろうとする発想
能を達成する手段となり、最終的なモニタリングや政策
が計画を機能不全にすること)を発生させやすい。
評価の結果は、前者とは異なったものとなる。
管理志向型から行動志向型への発展は、①まず「行
また、図書館を地域の福祉機能の一部として位置づ
政内部あるいは特定の利用者」から「地域」に視点・視野
ける場合には、まず福祉とは何かの明確化が求められる。
を変えること、②常に民間機能との比較において自ら担う
一般的に福祉とは、地域の最終的なセーフティネットであ
行政としての機能を検証することが重要となる。
り、民間機能等に歪みがあれば、それを最終的に補い地
具体的に行動志向型の公立図書館の運営を考える
域の持続性を確保することをいう。図書館にそうした福祉
場合、第1に、公立図書館が担う自治体の公共サービス
機能を求める場合、排他性・競合性を含めた視点から検
としての意義・目的の明確化と、第2に、それに基づく公
討すること、そして福祉政策には所得再分配(所得の高
立図書館の機能に対する地域の視点からのモニタリング
い人から低い人への実質的所得移転)政策が実質的に
指標の設定が重要となる。まず、第1の点においては、当
組み込まれることが多く、この面での機能を検証すること
該公共サ―ビス機能の排他性・競合性の検証が改めて
が必要となる。一般的な書籍を市民に区別なく全て貸し
必要となる。排他性とは、税または利用料負担がなくても
出すことになれば、所得再分配の観点では逆進性が強く
財政で全部または一部を負担し提供すべきサービスであ
なり福祉機能は低下する。図書館としての機能を福祉面
るかの判断であり、競合性とは、同様のサービスを提供し
から担保するには、何を対象としたセーフティネットかの
ている組織が官民を問わず存在していないかの判断であ
明確化が求められる。
「政策を見る眼」No.10 <2015.11.25>
監修:宮脇淳 北海道大学大学院法学研究科教授
発行:株式会社図書館総合研究所 (担当:TRC セミナー「まちの課題を解決する図書館」事務局 島泰幸)
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