No.8「「開かれた学習」と図書館」

政策を見る眼
No.8 < 2015.11.06 >
「開かれた学習」と図書館
行政、議会、住民を問わず、地域の活性化に向
題として捉えない姿勢を克服する場ともなる。
けて価値観を共有する地域社会、そして組織体質を
こうした「開かれた学習」では、「直観」を重視する姿
形成していく上で、年齢・立場を超えた「開かれた学
勢が鍵となる。なぜならば、議会にも況してさまざまな
習」の場をいかにつくるかが重要となる。なぜならば、
立場や視点からの指摘・主張がなされ、その中から
地域や組織が価値観を形成する上で、個人では良
地域等の取組みを進化させるものを探り出す姿勢が
いアイデアをもち、状況を変え得る何かを知っているに
必要となるからである。
もかかわらず、閉鎖的・前例踏襲的な地域・組織体
直観は、いかなる状況でも、可能性を認識し得る
質が「聞くことを望まない」姿勢を強固にし、有益な情
唯一の方法である。直観を養うためには、観察と分析
報にも耳を閉ざしてしまうことが往々にしてある。こうした
に支えられた創造力を磨く必要がある。直観は単なる
体質は、地域や組織の進化を阻む大きな要因となる
「思いつき」ではない。基礎的知識や開かれた情報
からである。そこで重要となるのが「開かれた学習」で
に基づく合理的で演繹的な情報の拡張であり、合理
ある。地域の図書館は、単に情報を収集し提供する
主義の視点に立ってもこれを拒絶する理由はない。
だけでなく、「開かれた学習」を積極的に担う場として
直観は、自己内部で創造を生む重要な要素であり、
の機能を開発し向上させていく必要がある。
新しい方向へのブレイクスルーをもたらす要因ともなる。
今日のような急速かつ多様な社会経済変化の中
ただし、直観を活かすには、「リスクや間違いを犯すこ
では、個人も社会も自らの認識の枠組みを固定化し、
とを成功の本質的部分」と見なす姿勢が必要である。
新たな思考や環境の形成を排除する傾向が強まる。
加えて、通常以上に「コミットメント」、すなわち、「逆境
これを克服する場を提供していくことは、「開かれた学
や予期しなかった障害、さらには多くのエネルギーの
習」の重要な目的となる。積極的に環境の変化や揺
投入にもかかわらず、何かを起こすためにやり通す姿
らぎを受け入れ、学習姿勢を開放する個人・組織こそ
勢」が重要となる。直観は、ビジョンを形成し、地域の
が硬直性を免れる。「変化と絶え間ない創造があって
人々の間に調和を打ち立て、構造的な関係を形成
こそ、秩序と能力が維持される」のである。
する重要な要素となる。しかし、同時に直観と合理性
活力ある状態を生み出すためには、組織を動かす
をともに補うために、分析的思考の向上が求められる。
特別な挑戦、または刺激的なアイデアを特定の枠組
これは、分析力を基礎に直観を導き、合理的分析で
みや価値観によって拘束することなく、広く情報交換し
本能的洞察を確認する努力に他ならない。
相互に創造性を発揮できる場を形成する必要がある。
コミットメントを継続・充実させるには、「開かれた学
成功する地域や組織では、リスクや間違いを犯すこと
習」によるビジョンへの傾倒が求められ、継続的に周
を「成功の本質的部分」と見なす。学習の風土を有
囲にビジョンを表明し、その過程でビジョンを進化させる
する地域や組織では、1人1人を次の創造的なイノベ
とともに、他の人々の資源としても位置づける共有の
ーションの資源と理解する。そして、問題が生じた場
姿勢が必要となる。そして、コミットメントには、もう一つ
合には、特定の個人や集団にその問題を押しやるの
の側面がある。それは、「後退や不満への対応」をい
ではなく、異なった立場から複眼的に問題を捉えるこ
かに行うかである。コミットメントが充実していれば、後
とで、解決策や新たな方向性を模索し導き出す。
退や不満に流されることなく再考し進化し続ける、ある
また、「開かれた学習」の場は、悪い情報を予期し
いは代替案を探索する、そして障害が起こり得ることを
耳を傾けようとする自発的な意識を求める。そのため、
前提にそれを克服することを挑戦と見なす、そうした地
悪い情報を組織や他者の責任に転嫁し、自らの問
域や組織の体力がより強固に形成されるのである。
「政策を見る眼」No.8 <2015.11.06>
監修:宮脇淳 北海道大学大学院法学研究科教授
発行:株式会社図書館総合研究所 TRC セミナー「まちの課題を解決する図書館」事務局(担当:島泰幸)
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