No.5「ふるさと納税の拡充と法人課税への適用問題」

政策を見る眼
No.5 < 2015.08.18 >
ふるさと納税の拡充と法人課税への適用問題
ふるさと納税をめぐっては、2008 年度法改正・導入
税とともに地方自治体間の税源の偏在性を是正し財
以降、納税者側の関心が比較的高く、過疎自治体
政力格差の縮小を図るために、2014 年度の地方税
において地場産品の提供等を通じた財源確保等で
法の改正により法人住民税法人税割税率を引下げ、
救世主的成果を生み出している例も見られる。
その引下げに相当する分を国税たる地方法人税とし、
北海道上士幌町では、ふるさと納税に対して特産
地方交付税の財源として従業員数等に応じて地方
の牛肉等を提供し始め、2012 年度の寄附額は約
自治体に配分する制度である。④法人事業税は、
1,600 万円であった。その後、ふるさと納税ポータルサ
法人の行う事業に対して課する税金であり、従業員
イト「ふるさとチョイス」への広告掲載等により寄付の件
数等に応じて地方自治体に配分する制度である。
数が急増、2013 年度は約1万 3,000 件で 2 億 4,000
国税の法人課税を地方自治体へのふるさと納税
万円、2014 年度は約 5 万 4,000 件で 9 億 7,000 万
制度の対象とする場合、①国の税金について納税
円に達した。人口 5 千人弱の町ながら、2014 年度の
者の意志で納税先を決定することは、財政配分(歳
ふるさと納税額は全国第 3 位である。地元住民税を
出)と同様の性格を実質的にもつため明確な理論形
大きく上回る財源をもとに、少子化対策として 2013 年
成が必要となること、②国税である以上、国が何らか
度に「上士幌町ふるさと納税・子育て少子化対策夢
の基準で予算を通じて配分することが基本であり、納
基金」 を創設し、多年度にわたる基金を形成している。
税者の自由選択ではなく、従来の地方交付税や地
具体的には、「子育て」「教育」の指定寄付を同基金
方譲与税等とは異なる配分基準や制度での対処が
に積み立て、幼児向け図書や DVD ソフトの購入、少
必要となること等が課題となる。とくに現行の地方交
年団への備品購入、老朽化したスクールバスの更新
付税や地方譲与税に納税者の意志を反映させる要
や保育所用車両の購入などに充てている。
因を組み込むとすれば、恒久的制度、あるいは本来
一方、ふるさと納税をめぐっては、地場産品の提供
と絡んで、制度的には財政と市場の中間的位置づ
の制度趣旨との関係を明確にする必要がある。
なお、ふるさと納税は寄付行為であり、現行制度で
けとなり、変動リスクや市場間競争、また非都市部で
も法人が地方自治体に同様の寄付を行うことは可能
の地域間財源格差を生む等の課題も浮上している。
である。納税者が国や地方自治体、特定公益増進
こうしたふるさと納税制度は、2015 年度に拡充され、
法人などに特定寄附金を支出した場合には所得控
さらに国の 2016 年度予算編成に関連し、その対象を
除を受けることができる。所得控除方式を税額控除
現行の個人住民税から法人関係税にも拡大できな
等に拡充する必要があるか等も、企業の資金の外部
いか、政府部内での議論が展開されている。
流出の構図とともに議論すべき点となる。さらに、地
現行制度上、法人関係課税の地方自治体への
方税を対象として企業のふるさと納税を新たに制度設
配分は、①地方法人特別税、②法人税、③法人住
計する場合にも、個人住民税のふるさと納税と同様
民税法人税割、④法人事業税の四つが基本となる。
に税額控除する必要性の根拠と現行制度の損金算
①地方法人特別税は、地方事業税の都道府県間
入制度で留めることの政策的意義、経営陣の判断
の偏在が大きいため、法人事業税の一部を国税とし
による納税先の決定と株主等との関係、法律による
て徴収し、人口及び従業員数等を基準に国が都道
基準設定で納税者の意向を代替し納税先を分割す
府県に対し地方譲与税として再配分するものである。
る法制の可能性など多面的な検討が必要となる。
②法人税は、国税として徴収し、その一部を地方交
いずれにせよ、ふるさと納税は地方間、そして国と
付税として個別需要等に応じ一定のルールに基づい
地方の財源配分に大きな影響を与える制度となりつ
て地方自治体に配分する国税と地方財政の制度で
つある。地方財政においても、使途を含めていかに向
ある。③法人住民税法人税割は、地方法人税特別
き合っていくか、検討していく必要がある。
「政策を見る眼」No.5 <2015.08.18>
監修:宮脇淳 北海道大学大学院法学研究科教授
発行:株式会社図書館総合研究所 TRC セミナー「まちの課題を解決する図書館」事務局(担当:島泰幸)
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