公会計改革と税、決算

政策を見る眼
No.24 < 2016. 8. 1 >
公会計改革と税、決算
宮脇 淳
北海道大学大学院法学研究科教授
2015 年 1 月、「統一的な基準による地方公会計の
う認識が十分浸透せず、個々の議員がマッチポンプ
整備促進について」と題する通知が総務省から提示さ
的な姿勢を続ければ、地方財政の質は改善しない。
れている。従来の総務省改訂モデルは、既存の財務
地方自治体で行政評価を行っても、評価が予算策定
データを組み替えるだけで作成できるため、地方自治
に有効に活用されない例は多い。これには議会側の
体にとって導入しやすいものであった。反面、固定資
決算に対する姿勢が働いていることも否定できない。
産台帳の整備等を必要としないことから、現金主義会
決算審査は、大半の地方自治体では 9 月から 10
計の問題点を補うという本来の目的を十分果たすこと
月頃に行われる。しかし、翌年度の予算策定は既に
はできなかった。そこで、新たな統一的な基準による
夏頃から始まることが多いため、予算編成の後追い的
地方公会計では、会計処理方式として発生主義を基
構図となっている。議会が決算を審査する秋口には既
本的に採用し、データ入力の段階から複式簿記化す
に翌年度予算の骨格はでき始めており、議会がどれほ
ることで、フロー情報とストック情報を連動させるほか、
ど真剣に決算を審査しても、翌年度予算の策定には
ICT の活用により固定資産台帳等を整備してストックマ
あまり影響しないといった実態がある。公会計の改革
ネジメント等を可能にする会計の制度体系を意図して
による財務分析の充実は、こうした予算編成と決算審
いる。これにより、公会計制度に関わる一連の改革が
議の関係にも大きく影響することになる。総務省基準
大きな進化を遂げる段階を迎えている。
モデルにより財務書類を作成している地方自治体で
地方自治体の財務分析力の充実は、予算編成や
も、その作成が決算審査に間に合うことは少なく、
政策形成・評価の質に影響を与える。同時に、自治
翌々年度に作成が終わる例も多い。総務省が統一的
財政権を強化する点では、とくに決算ベースでの分析
な基準による財務書類作成を要請するのであれば、
の充実を図ることが重要となる。それにより決算を重
地方自治体の自主性を尊重しつつ、議会審議につい
視し財政執行の説明責任を拡充していくことが必要と
ても、予算編成・決算等との関係でそのスケジュール
なっている。このことは、地方議会の決算審議の質とも
をマニュアル化し提示することも選択肢となる。
密接不可分の関係にある。地方自治体の予算は、地
..
方自治法第 211 条で「議会の議決を経なければなら
公会計改革の流れの中で注目すべき論点として、
公会計における税の位置づけの問題がある。一つは、
ない」とされ、一方、決算は、同法第 233 条で「議会の
..
認定に付さなければならない」としている。予算は議会
税収を企業会計の売上と同様に位置づけて「収益」
の議決を経なければ執行できないが、決算は認定に
と捉え、地方自治体を企業同様(公共)サービス提供
止まり、仮に認定されなかった場合にも、翌年度の予
主体として認識する。そして、税を企業の経営努力の
算策定が不可能となることはない。地方自治法上も予
成果と同様に位置づける点に特色がある。これに対し、
算重視の制度設計となっていることが分かる。しかし、
税は直接的反対給付なしに公権力で住民から一方的
横断的な視点から財政運営をコントロールするには、
に財産を徴収する行為であり、企業の収益と同様に位
予算はもとより決算についても十分な分析がなされ、
置づけることはできないとし、地方自治体の持ち分とし
次の税制や予算に結び付けることが財政民主主義に
て整理する「持分説」がある。なお、2015 年の「統一
おける「財政」の本質であり、行政評価等を含め政策
的な基準」の提示により持分説は後退している。
サイクルの有効性を高めていく上でも不可欠となる。
予算が決算に比べて重視される背景には、公会計
概念とする「収益説」である。収益説では、住民を顧客
公会計改革の目的は、地方自治体間の財務比較
を可能にし、地方財政の客観性を担保することにある。
に加え、議員の政治姿勢の問題がある。そもそも議会
税とは何か、資産・負債とは何かなど、自治や財政の
において、横断的な視点で財政をコントロールするとい
面から議論を掘り下げていくことが重要となる。
「政策を見る眼」No.24 <2016.8.1>
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