民間委託と庁内資源の最適化

政策を見る眼
No.22 < 2016. 6. 24 >
民間委託と庁内資源の最適化
宮脇 淳
民間委託では、指定管理に比べて、行政からのより
密度の高いガバナンスを必要とする。地方自治体では、
北海道大学大学院法学研究科教授
化」も、業務に対する観察・分析の思考を通して、より
良いイメージを形成することに他ならない。
厳しい財政状況下にあって職員数の削減を図る中、
地方自治体では、窓口業務をはじめ、様々な業務
質の高い公共サービスを効率的に提供するために、
が民間委託されている。しかし、各部門が個別に民間
広範な分野で民間委託を進めている。それらの中に
委託を行うため、統合的にガバナンスを確保する仕組
は、民間委託時の法令遵守体制に問題がある事例や
みは構築できていないのが現状である。例えば、地方
業務ノウハウが維持・確保できない事例など、本質的
自治体の情報システム分野では、民間委託が広範に
な課題も散見される。
取り入れられており、ガバナンスの確保が極めて重要
自治体業務の民間委託について考え方を整理する
な課題となっている。そのため、この分野では、CIO
と、①交付決定等の「判断」は公務員が実施すること、
(Chief Information Officer 最高情報責任者)や CIO
②「判断」以外の付帯作業は民間委託が可能である
補佐等の人材を確保するとともに、PDCA サイクルを
が、請負契約では公務員からの直接指示を禁止(業
確立する取り組みが進められている。
務責任者との定期打合せは可)とすること、③公務員
同様の課題は、情報システム分野以外の民間委託
と事業者従事者との交わりは限定すること、等となる。
でも生じている。縦型ネットワークの統合的ガバナンス
これら①~③の考え方を踏まえて、地方自治体の業
機能の劣化に対しては、縦型ネットワークの構成要素
務の流れと事業者との役割分担を構築すれば、民間
である「標準化」の質を向上させることが求められる。
委託の適法性の基礎は確保される。
民間委託を継続的に行えば、地方自治体のノウハウ
役割分担を適切に構築するには、「担い手最適化」
は民間事業者に移転し、新たなノウハウの蓄積・活用
を図ることが必要である。担い手最適化とは、自治体
が地方自治体側では困難となる。この状況は、民間
業務に関する処理・執行プロセスを構成要素・工程毎
委託に関する形式的知識情報と非形式的知識情報
に段階的に分解し、各段階の行動を「専門性(高・低)」
の標準化によって克服していく必要がある。
の軸と「定型性(高・低)」の軸の観点から整理すること
形式的知識情報とは、業務手順書など言語によっ
である。これによって、専門非定型業務は正規職員、
てマニュアル化することが可能な業務ノウハウである。
専門定型業務は民間委託・嘱託職員・再任用職員、
民間委託においては、少なくとも業務終了時には受託
単純非定型業務は嘱託職員・臨時職員、単純定型
者である事業者がマニュアルを作成し、委託者である
業務は民間委託・臨時職員などと業務を類型化し、
地方自治体と共有する仕組みを構築することが不可
民間委託について業務内容と人員配置の最適化を図
欠である。一方で、言語によるマニュアル化等が困難
ることが重要な選択肢となる。
な非形式的知識情報については、指定管理と民間委
一般的に、政策思考では、重要なプロセスとして
「分析」がある。分析は、観察した事象を構成している
要素を分けることであり、分けられた要素間の共通事
託とを問わず、官民の協働による定期的な体験共有
による標準化等が不可欠となる。
指定管理・民間委託ともに、地方自治体と民間との
項、類似事項、相違事項を認識し、新たな資源配分
官民連携のガバナンスをどのように再構築していくか
等の枠組みをイメージする段階にある。「担い手最適
が極めて重要な課題となっている。
「政策を見る眼」No.22 <2016.6.24>
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