4.衛星測地学の基礎

4.衛星測地学の基礎
0.地表面(海、陸)、電離層のモニター
1.地心座標系からみた地上観測点の決定
-宇宙空間における三角点(水準点)としての応用―
2.地球重力場の推定・・・衛星の運動からその原動力を知る
(惑星)
3.地球回転変動の観測
全ての用途で衛星軌道(位置)が高精度に決定されている必要がある。
1960年代は 10~20m の精度だったが、現在は 1m~1cm(以下)
4.1 衛星軌道力学の基礎
2 つの質点 M と m の運動
M: 𝑟! =
𝐺𝑀𝑚
𝑟! − 𝑟!
m: 𝑟! = −
!
𝐺𝑀𝑚
𝑟! − 𝑟!
𝑟! − 𝑟! ①
!
𝑟! − 𝑟! ②
M と m の重心の位置ベクトル 𝑟! =
!!! !!!!
!!!
M から m の相対ベクトル 𝑟 = 𝑟! − 𝑟! とする
①+②より、
𝑟! =
②
!
𝑀𝑟! + 𝑚𝑟!
= 0 → 等速直線運動
𝑀+𝑚
①
− ! より
𝑟=−
𝐺(𝑀 + 𝑚)
③
𝑟!
M>>m より
𝑟=−
𝐺𝑀
③ 𝑟!
人工衛星の運動を記述
③に左から𝑟をかけて外積をとると、
𝑟×𝑟 + 𝑟×
𝐺𝑀
𝑟=0
𝑟!
!
一方、!" 𝑟×𝑟 = 𝑟×𝑟 + 𝑟×𝑟
!
したがって、!" 𝑟×𝑣 = 0である。
ここで、
ℎ = 𝑟×𝑣 面積速度
とすると、これは𝑟と𝑣で張られる平面に直交するベクトル
→単位質量あたりの角運動量
まとめると、
𝑑
ℎ = 0 ℎは一定(角運動量保存)
𝑑𝑡
衛星の運動が空間に固定された平面内で起きる。
時間 dt あたりの面積変化を ds とすると、
ds =
1
𝑟×𝑣 𝑑𝑡
2
ここから、軌道の形を求める。軌道面は2次元なので、この面内で
極座標(r, θ)を設定する。
x = rsinθ, y = rcosθ
時間で微分すると
𝑥 = 𝑟𝑐𝑜𝑠𝜃 − 𝑟𝜃𝑠𝑖𝑛𝜃
𝑥 = 𝑟𝑐𝑜𝑠𝜃 − 2𝑟𝜃𝑠𝑖𝑛𝜃 − 𝑟𝜃𝑠𝑖𝑛𝜃 − 𝑟𝜃 ! 𝑐𝑜𝑠𝜃
となるので、運動方程式は、
𝑥 = 𝑟𝑐𝑜𝑠𝜃 − 2𝑟𝜃𝑠𝑖𝑛𝜃 − 𝑟𝜃𝑠𝑖𝑛𝜃 − 𝑟𝜃 ! 𝑐𝑜𝑠𝜃 = −𝐺𝑀
𝑐𝑜𝑠𝜃
𝑟!
𝑦 = 𝑟𝑠𝑖𝑛𝜃 + 2𝑟𝜃𝑐𝑜𝑠𝜃 + 𝑟𝜃𝑠𝑖𝑛𝜃 − 𝑟𝜃 ! 𝑠𝑖𝑛𝜃 = −𝐺𝑀
𝑠𝑖𝑛𝜃
𝑟!
軌道面の x 軸はどこに設定してもよい。その方向をθ = 0とする。
(𝜃、𝜃はゼロにできない)
𝑟 − 𝑟𝜃 ! = −
𝐺𝑀
④
𝑟!
r𝜃 + 2𝑟𝜃 = 0 ⑤
!
④式で従属変数 r からu = ! へ、独立変数 t からθへ変更する
ℎは z 成分のみ h = x𝑦 − 𝑥𝑦 = 𝑟 ! 𝜃 ⑥
④式から !
𝑑! 𝑢
𝐺𝑀
+ 𝑢 = ! ④
!
𝑑𝜃
ℎ
1
𝑑𝑢
1
u = とする = − ! ⑦
𝑟
𝑑𝑟
𝑟
t からθへの変更には、⑥より
dt =
𝑟!
𝑑𝜃 ⑧
ℎ
du 𝑑𝑢 𝑑𝑟 𝑑𝑡
1
𝑟!
𝑟
=
=− !∙𝑟∙ =−
dθ 𝑑𝑟 𝑑𝑡 𝑑𝜃
𝑟
ℎ
ℎ
𝑟 = −ℎ
𝑑 𝑑𝑢
𝑑𝜃 𝑑 𝑑𝑢
𝑑! 𝑢
= −ℎ
= −ℎ! 𝑢! ! ⑨
𝑑𝑡 𝑑𝜃
𝑑𝑡 𝑑𝜃 𝑑𝜃
𝑑𝜃
ここで、④’はu′ = u −
!"
!!
とすると、
𝑑 ! 𝑢′
+ 𝑢′ = 0 と同等
𝑑𝜃 !
u′ = Acos θ − ω ただし、A, ω は実数
u=
1
𝐺𝑀
= A cos 𝜃 − 𝜔 + ! ⑩
𝑟
ℎ
これは、楕円の方程式の極座標表現である。
楕円の式
𝜉 ! 𝜂!
+
= 1 ⑪
𝑎! 𝑏!
P の位置
ξ = ae + rcosν, η = rsinν
これらを⑪へ代入すると、r に関する2次方程式になり、解くと、
r=
𝑎(1 − 𝑒 ! )
⑫
1 + 𝑒𝑐𝑜𝑠𝜈
θ−ω=ν
A =
h=
𝑒
⑬
𝑎(1 − 𝑒 ! )
GMa(1 − 𝑒 ! )
ω:近地点引数、ν:真近点離角
a:軌道長半径
e:離心率
i:軌道傾斜角
Ω:昇交点経度
ω:近地点離角
M:平均近点離角
第3法則
楕円の面積 S=πab
公転周期を P とする。
面積速度は
𝑑𝑠 1
= ℎ
𝑑𝑡 2
よって、
!
S=
!
P=
𝑑𝑠
1
𝑑𝑡 = ℎ𝑃
𝑑𝑡
2
2𝜋𝑎𝑏
=
ℎ
2𝜋𝑎𝑏
𝐺𝑀𝑎(1 − 𝑒 ! )
b = a 1 − 𝑒 ! より、𝑃 =
n=
!!
!
2𝜋
𝐺𝑀
(公転の角速度)平均運動を用いると、
𝑛! 𝑎! = 𝐺𝑀 ⑭
4.2 摂動(Perturbation)を受けるとどうなるか?
𝑟=−
𝐺𝑀
𝑟+𝑘
𝑟!
!
𝑎!
𝑘 = 地球の重力の平均 ― 有限の大きさ + (月、太陽から引力/潮汐力)
+(大気抵抗)+(太陽放射)+地球放射
二体問題(ケプラー問題):𝑘 = 0 のとき
①3本の2階微分方程式→6個の積分定数(←軌道要素/ケプラー要素)
⇕
6本の1階微分方程式
𝑑𝑎 𝑑𝑖 𝑑𝑒 𝑑𝛺 𝑑𝜔
𝑑𝑀
=
=
=
=
= 0, = 𝑛 𝑛 =
𝑑𝑡 𝑑𝑡 𝑑𝑡
𝑑𝑡
𝑑𝑡
𝑑𝑡
𝐺𝑀
𝑎!
𝑘 ≠ 0 だけど小さいとき
6つの積分定数がゆっくりと時間変化する。
(定数変化法の考え方、微分方程式の解法)
参考 木下宙「天体と軌道の力学」
𝑘のうち最大の効果:地球の偏平度 𝐽! = −𝐶!"
𝑑𝑎 𝑑𝑒 𝑑𝑖
=
=
=0
𝑑𝑡 𝑑𝑡 𝑑𝑡
𝑑𝛺
3𝑛𝑅!!
= −𝐽! !
𝑑𝑡
2𝑎 1 − 𝑒 !
𝑑𝜔
3𝑛𝑅!!
= −𝐽! !
𝑑𝑡
4𝑎 1 − 𝑒 !
!
!
𝑐𝑜𝑠𝑖 軌道面の歳差運動
1 − 5𝑐𝑜𝑠 ! 𝑖 近点引数の歳差運動
𝑑𝑀
= 𝑛 + 𝐽!
𝑑𝑡
3𝑛𝑅!!
4𝑎! 1 −
!
𝑒! !
(3𝑐𝑜𝑠 ! 𝑖 − 1)
Langrange の惑星方程式
昇交点経度Ωは、
0<i<90 → 西向きに摂動
90<i<180 → 東向きに摂動。地球の自転・公転と同じ向き
→Ωの移動の観測から、J2 などが求まる。
・なぜ、軌道面が歳差運動か?
回転するコマの角運動量H
軌道面はHと直交する。そこに外力トルクLを与える
コマをたたいた時の運動は
𝐿 = 𝑟×𝑓
→Hの向きも変化
人工衛星 m に働く地球の重力ポテンシャルV(𝑟)によるトルク𝐿は
𝐿 = 𝑟×𝑚∇𝑉
∇Vを、𝑟, 𝜑, 𝜆を単位ベクトルとする球座標で表すと
∇V = 𝑟
𝜕𝑉
1 𝜕𝑉
1 𝜕𝑉
+𝜑
+𝜆
𝜕𝑟
𝑟 𝜕𝜑
𝑟𝑠𝑖𝑛𝜑 𝜕𝜆
𝐿 = 𝑟×𝑚∇𝑉だから、第一項は𝐿に寄与しない
𝐺𝑀
𝑅!
V 𝑟 =
1−
𝑟
𝑟
!
𝐽! 𝑃! 𝑠𝑖𝑛𝜑
とすると、λには無関係だから、第三項は𝐿に寄与しない。よって、
1 𝜕𝑉
3𝐺𝑀𝑚𝑅!! !
𝐿 = 𝑟×𝜑
= −𝜆
𝐽 𝑠𝑖𝑛𝜑𝑐𝑜𝑠𝜑
𝑟 𝜕𝜑
𝑟!
𝜆方向へのトルク、公転の角運動量ℎ
→コマとの類推で歳差運動となる。
4.3 いろんな人工衛星の軌道
4.3.1 太陽同期軌道
J2 摂動による軌道面歳差を利用する。
GM=3.9686×105
km3/s2、 Re=6380km,
J2=1.08×10-3
𝑑𝛺
= 0.9863 /day
𝑑𝑡
ほぼ1年でΩが 2πになる。
メリット① 全地球をカバー
② 軌道面から見た太陽の方向が一定
→同じ緯度を年中同じ太陽時に通過
→太陽光の反射を利用しやすい
4.3.2 地球同期軌道(以下摂動は考えない)
n=
2𝜋
23ℎ56𝑚4𝑠
より、a=42615km とすれば、地球同期する。
① 静止衛星、e=i=0
たとえば、ひまわり
欠点)高緯度が見にくい
② 8の字衛星 e=0, i≠0
メリット:高緯度でも見える
デメリット:片側半球が無駄
③ 準天頂衛星―みちびき(日本版 GPS 衛星)e≠0, i≠0
北半球に遠地点がくるように e を設定
→北半球側の滞在時間が長い
→高い仰角(真上に近い)に見える