原油とハイ・イールド債のエネルギーセクターについての考察

J. ギブソン・クーパー
リサーチ・アナリスト
原油とハイ・イールド債のエネルギーセクターについての考察
 原油先物カーブは、ギリ
シャや中国の問題が浮上
し、そのリスクがヘッドラ
インを賑わせるまでは、フ
ァンダメンタルズの改善を
背景に徐々に上方にシフ
トしていた。
 懸念の対象が原油の供
給から需要へ移り、7月
6日の原油先物カーブは
3月に記録した低水準に
戻している。
 業界は現行の低い価格
水準では持続しえない。
このため、底値が視野に
入るまでは、資金はグロ
ーバルに引き揚げられ続
けると予想される。
 E&P企業のハイ・イール
ド債については、複数の
テーマが今年後半に出
てくると予想する。例え
ば、M&A、買収/分割、債
務管理が継続することが
考えられ、コモディティ
価格の低迷やヘッジ利
益の減少が企業存続に
向けた経営陣の意思決
定に大きな影響を及ぼす
と予想される。
本レポートでは、原油価格の過去数ヵ月の動き(特に7月6日の下落)について当社の見解
をアップデートするとともに、ハイ・イールド債のエネルギーセクターに対する当社の評価
を提示する。まずニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)の原油先物カーブを2015
年の複数の時点で見てみよう(図表1)。3月中旬の安値(緑色のライン)は今年の期近限月
のボトムで、当時は米国の増産が続き、かつ、精製需要が季節的に底水準にある中で、市
場が米国の在庫状況をことのほか懸念していた時期だった。しかし、在庫リスクが顕在化
することはなく、これ以降のデータポイントでは今後の需給逼迫を展望して全体的に強気
になっている(需給逼迫が予想される背景は、原油の主要供給地域の景気減速、米国と
世界全体の需要増、世界的に高水準の精製マージン、複数の国における供給面の新たな
混乱など)。米国のリグ数の持続的な減少や、世界的に上流の設備投資の減少が見込ま
れることもあいまって、原油先物カーブは、ギリシャや中国の問題が浮上し、そのリスクが
ヘッドラインを賑わせるまでは、ファンダメンタルズの改善を背景に徐々に上方にシフトし
ていた。イランの核開発疑惑に対する制裁が解除され、同国から日量70万バレルが追加供
給される恐れは短期的逆風として対処可能とみられ、また、サウジアラビアが長期的に日
量1,100万バレル超を持続的に供給可能かについては懐疑論が色濃い。
図表1 70
原油先物価格(1バレルあたり、米ドル)
要約
65
2015年6月17日
60
2015年7月10日
55
2015年3月16日
50
45
40
1年
2年
3年
4年
5年
出所:ブルームバーグ 2015年7月10日現在
では、原油先物カーブは何を物語っているのか。過去数ヵ月、WTI先物の2016年と2017年
の限月はいずれもバレル当たり65ドル超えで苦戦しており、その主因はエネルギー企業
によるヘッジの可能性が高い。2015年4∼6月期決算が間もなく明らかになれば、エネル
ギー企業が原油先物を大量に売り、2015年後半と2016年のヘッジを追加で行っていたこ
とが示されよう。当社はこの情報を探鉱・生産(E&P)分野のハイ・イールド債発行体から
© Western Asset Management Company 2015. 当資料の著作権は、
ウエスタン・アセット・マネジメント株式会社およびその関連会社(以下「ウエスタ
ン・アセット」
という)に帰属するものであり、
ウエスタン・アセットの顧客、その投資コンサルタント及びその他の当社が意図した受取人のみを対象として
作成されたものです。第三者への提供はお断りいたします。当資料の内容は、秘密情報及び専有情報としてお取り扱い下さい。無断で当資料のコピーを
作成することや転載することを禁じます。
原油とハイ・イールド債のエネルギーセクターについての考察
このところ幾度も耳にしており、こうした企業は設備投資拡大のためではなく、2016年の
生き残りを確実にするためにヘッジを行っている。7月6日の原油先物カーブ(黄色のライ
ン)は、懸念の対象が供給(価格低迷、時間が不均衡を是正するとの観測)から需要(ギリ
シャが世界経済につきつけるリスク、中国のバブル崩壊など)へ移る中で、3月の安値に戻
している。こうした様々なノイズにもかかわらず、1つ確実なことは、現在の低価格ではE&P
企業は国内的にも国際的にも立ち行かない事実である。E&P企業の一部は保有在庫の一
部で「稼ぐ」ことができるが、大まかに言って業界は現行価格では持続しえない。このため、
底値が視野に入るまでは、資本はグローバルに引き揚げられ続けよう。これには時間を要
する。2014年の設備投資予算の残りが2015年1∼3月期に使われたため、2015年4∼6月期
がE&P企業にとって喧伝されていた設備投資の削減を行う初の四半期となり、業界からの
資金流出は向こう数四半期に急速に加速しよう。
E&P企業のハイ・イールド債については、原油先物カーブの期先限月が心理的に重要な
70ドル/バレル超えを拒んでおり、複数のテーマが今年後半に出てくると予想する。例え
ば、M&A、買収/分割、継続的な債務管理(担保付資金調達/債務交換)が考えられ、コ
モディティ価格の低迷やヘッジ利益の減少が企業存続に向けた経営陣の意思決定に大
きな影響を及ぼすと予想される。
それでは、ハイ・イールド債のエネルギーセクターのパフォーマンスはどうなのか?興味深
いことに、図表2が示すように、格付けやセクターには特に短期的に突出しているものはな
いが、例外的にE&P企業のCCC格銘柄は手控えが続いており、特に米国の重要な原油供給
地域(パーミアン、イーグルフォード、バッケン)以外への関心は薄い。債務交換提案や担
保付資金調達の加速を背景に、エネルギーセクターのCCC格で既に大きく売り込まれてい
る銘柄は投資家に避けられ続けている。こうした銘柄には、よりシニアな債券が新たに発
行される可能性があり(結果的に既発債の弁済順位が低下し倒産時の回収率にも悪影響
が予想される)、リストラクチャリング・リスクが多分にある。パフォーマンスの表を見れ
ばボラティリティの高さは顕著で、原油と天然ガスのファンダメンタルズに何が起きてい
るかにかかわらず、今後もハイ・イールド債の資金フローや原油価格に左右され続けよう。
図表2 バークレイズ米国ハイ・イールド・エネルギー・インデックス 月次の格付け別リターン (%)
合計
BB格エネルギー
B格エネルギー
CCC格エネルギー
1月
2月
3月
4月
5月
6月
年初来¹
-0.59
1.61
-1.88
-3.62
5.49
3.14
6.99
10.11
-2.39
-1.26
-2.38
-6.03
3.97
2.47
5.20
7.79
0.49
1.06
0.77
-2.20
-2.41
-2.13
-2.66
-2.84
4.35
4.87
5.75
2.14
バークレイズ米国ハイ・イールド・エネルギー・インデックス 月次のサブセクター別リターン (%)
合計
探鉱・生産
石油サービス
中流
石油精製
1月
2月
3月
4月
5月
6月¹
-0.59
-1.52
-3.94
2.50
0.14
5.49
7.29
5.60
2.24
6.10
-2.39
-3.46
-2.63
-0.46
0.29
3.97
4.60
6.48
1.83
1.55
0.49
-0.43
3.03
0.76
1.10
-2.41
-3.32
-2.71
-0.71
-0.91
年初来¹
4.35
2.71
5.44
6.27
8.42
出所:バークレイズ 2015年6月30日現在
ウエスタン・アセット
2
2015年7月
原油とハイ・イールド債のエネルギーセクターについての考察
図表3
11
ハイ・イールド債 エネルギーセクター²
利回り(%)
¹
10
9.13%
9
8
7
6
5
6.25%
5.83%
ハイ・イールド債 非エネルギーセクター³
5.60%
4
14年1月 14年3月
14年5月
14年7月
14年9月
14年11月
15年1月
15年3月
15年5月
15年7月
出所:バークレイズ 2015年7月9日現在
1 発行体等による期限前償還を考慮した最低利回りであるイールド・トゥ・ワースト
2 バークレイズ 米国ハイ・イールド・エネルギー・インデックス
3 バークレイズ 米国ハイ・イールド・除くエネルギー・インデックス
図表3は、7月初めまでのハイ・イールド債インデックスのエネルギーセクターと非エネル
ギーセクターの利回りを示している。5月までは、エネルギーセクターの利回りは2014年
12月の高い水準から非エネルギーセクターの水準に向けて低下し、その差は100bp近く
に迫っていたが、6月と7月初めに約72bp上昇し、7月9日にはその差は287bpとなり、3月
中旬に記録した年初来で最も乖離した水準に戻っている。
中国・ギリシャ・イランを巡る新たな地政学的リスクと、その結果、ハイ・イールド債セク
ターから過去2ヵ月間に大量に資金が流出したことにより、エネルギーセクターとハイ・イ
ールド債インデックス全体の利回り格差は年初来で最も拡大した水準に戻っている。短
期的には厳しいマクロ状況は継続するが、当社は現在の低い原油価格によって、世界的
にエネルギーセクターの活動が削減され、需給の不均衡を長期的に是正するとの見方
を据え置く。ただし、このプロセスには複数年を要しよう。
関連ホワイトペーパー
原油市場のボラティリティはバリュー投資の好機
ウエスタン・アセット
3
2015年7月
リスク・ディスクロージャー
© Western Asset Management Company 2015. 当資料の著作権は、
ウエスタン・アセット・マ
ネジメント株式会社およびその関連会社(以下「ウエスタン・アセット」
という)に帰属するもので
あり、
ウエスタン・アセットの顧客、
その投資コンサルタント及びその他の当社が意図した受取人
のみを対象として作成されたものです。第三者への提供はお断りいたします。当資料の内容は、
秘密情報及び専有情報としてお取り扱い下さい。無断で当資料のコピーを作成することや転載
することを禁じます。
過去の実績は将来の投資成果を保証するものではありません。当資料は情報の提供のみを目的
としており、作成日におけるウエスタン・アセットの意見を反映したものです。
ウエスタン・アセット
は、
ここに提供した情報が正確なものであるものと信じておりますが、それを保証するものではあ
りません。当資料に記載の意見は、特定の有価証券の売買のオファーや勧誘を目的としたもので
はなく、事前の予告なく変更されることがあります。当資料に書かれた内容は、投資助言ではあり
ません。
ウエスタン・アセットの役職員及び顧客は、当資料記載の有価証券を保有している可能性
があります。当資料は、お客様の投資目的、経済状況或いは要望を考慮することなく作成されたも
のです。
お客様は、
当資料に基づいて投資判断をされる前に、
お客様の投資目的、
経済状況或いは
要望に照らして、
それが適切であるかどうかご検討されることをお勧めいたします。お客様の居住
国において適用される法律や規制を理解し、それらを考慮する責任はお客様にあります。
ウエスタン・アセット・マネジメント株式会社について
業務の種類: 金融商品取引業者(投資運用業、投資助言・代理業、第二種金融商品取引業)
登録番号: 関東財務局長(金商)第427号
加入協会: 一般社団法人日本投資顧問業協会(会員番号 011-01319)
一般社団法人投資信託協会
ウエスタン・アセット