トランプ氏が次期米大統領となることにより何が予想されるだろうか。

S. ケネス・リーチ
最高投資責任者(CIO)
市場コメント
2016年11月
要約
大統領選挙の結果を予想することは全くできなかった。一般的な理由から考えて、ヒラリ
ー・クリントン氏が勝利するものと予想していた。今や、そうした一般的な理由は何の意
味も持たない。
 本稿では、米大統領選挙
におけるトランプ氏の勝利、
ペギー・ヌーナン、ウォール・ストリート・ジャーナル
当社の 投 資テーマ、市 場
動向の要因、ポートフォリ
オのポジショニングなどに
まず始めに、大統領選挙に勝利したトランプ氏について触れる。次に、市場の反応や、価
ついて議論する。
格動向の背景にある要因、さらに当社の見解について説明する。最後に、ポートフォリオの
 予想ではトランプ氏が勝
利した場合、貿易制限や反
グローバリズムに対する懸
念により、リスク・オフの
動きが強まるとの見方が
大部分を占めた。実際には、
ブレグジット可決時と同様
に、世論調査と結果は異
なったものの、リスク・オフ
の動きが続いたのは僅か
な間だった。
構成を見直し、アウトパフォーム / アンダーパフォームしたポジションについて議論し、ポー
トフォリオの修正点について考察する。最初に、大統領選挙に至るまでの当社の投資テーマ
を振り返る。
当社では、米国と世界の両方において、緩やかながらも安定した成長が続くと考えていた。
米国では約 1.5%、世界経済では 3% 弱の成長率を前提としている。米国と世界で回復が
続いていることを踏まえ、リスク・バジェットの大部分をスプレッド商品に配分していた。緩
やかであったとしても、成長が続くならば、クレジット・スプレッドは縮小すると予想、また、
当社ではマクロ戦略も活用し、特にデュレーションのオーバーウエイトを維持した。こうした
マクロ戦略は、リスク・オフの動きが強まる時期においてポートフォリオのヘッジとして機能し
てきたし、さらに金利正常化が緩やかなペースで進んでいることからも効果を発揮してきた。
 市場では、財政刺激策に
より、米国の成長加速の見
方が強まっている。反グロ
ーバル政策やタカ派的な外
英国の EU 離脱(ブレグジット)が決定した時と同様に、今回の米大統領選挙も市場の転換
交政策で失敗がなければ、
点となり得るようなイベントであった。ブレグジットの結果から判断すると、大統領選挙も予
米国のように非常に閉鎖
想外の結果になることを容易に想定できたと指摘する向きがあったが、当社ではそうした見
的な経済において、大 規
模な財政刺激策により経
方には賛同できない部分もある。政治や統計のモデル担当者は、ブレグジットの予想を間
済状況が大きく変化する
違わぬよう努力を厭わず、これにより、より多くのシナリオが推定され、様々なシナリオ・テ
可能性がある。
 当社の基本シナリオは、米
国経済が1.5%前後の成長
トレンドを維持すると想定、
政策が変化する可能性に
留意はしているものの、実
際に見通しを変更するに
は、より多くの事象を確認
する必要があると考える。
 トランプ 次期大統領は就
任後100日計画を発表した
が、これは過去30年間続い
ていたグローバル化政策と
は明らかに一線を画す内容
となっている。これがどのよ
うな結果を招くのか、全く予
想がつかない。現在の市場
は楽観的なシナリオを織り
込んでいるが、市場の見方
は楽観的過ぎる可能性も
あるだろう。
ストが行われた。したがって、予想と実際の選挙結果がなおさら注目に値するものになった
と考えられる。
当社では、大統領選挙前に詳細な調査を行い、様々な選挙結果の可能性と、それに伴う市
場への影響について予想した。チーフ・リスク・オフィサーのケネス・ウィンストンは、ブレ
グジット可決シナリオを策定したのと同様に、トランプ氏勝利のシナリオを策定した。その
上で、この作業は非常に困難であったことを説明した。その理由として、非常に幅広い結果
が想定可能であり、さらにウォール街やその他の企業で発表されるレポートにおいて意見が
大きく異なることを指摘した。また、実際のシナリオには大きな相違があったものの、トラ
ンプ氏が勝利した場合に予想されたこととしては、貿易制限や反グローバリズムに対する懸
念により、リスク・オフの動きが強まるとの見方が大部分を占めた。しかし、実際には、ブ
レグジット可決時と同様に、世論調査と開票結果は異なったものの、ブレグジット可決時と
は異なり、リスク・オフの動きが続いたのは僅か 1 時間だけだった。
個人的にも、当社全体としても、大統領選挙は接戦となるものの、クリントン氏の勝利を予
想していた。12 名から成る米国ブロード戦略委員会では、ポートフォリオ・マネージャーのマー
ク・リンドブルームだけがトランプ氏の勝利を予想していた。私は最近「番狂わせが起こった
のはいつか?」
「トランプ氏の勝利を確信したのはいつか?」といった質問をしている。
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市場コメント
私の場合、大統領選挙当日の午後 5 時頃(米東海岸では午後 8 時頃)時点での出口調査では
ヒラリー氏が予想を上回っており、当選の確率は 92:8 となっていたため、一息ついていたとこ
ろだった。その後、統計と政治のエキスパートである息子からのメールがきて「大変だ。トラン
プ勝利の確率が 70:30 に跳ね上がった。
」とあった。 私はすぐに「どういうことだ?」と返信した。
「開票速報は出口調査とは全く異なる結果で、トランプ氏がリードしている。
」との返事だった。
トランプ氏が勝利する確率が高まるに従い、市場は 2 つの反応を示した。最初はリスク・オフの
反応で、S&P500 指数は 100 ポイント下落し、米超長期債先物は 4 ポイント上昇した。しかし、
翌日の市場では正反対の展開となり、リスク・オンの動きが優勢となり、株式市場は上昇、債
券先物は 7 ポイント下落し、24 時間以内に 11 ポイントも変動した。
市場では現在、財政刺激策の実施により、米国の成長が加速するとの見方が強まっている。さ
らに、経済成長を妨げている規制が撤廃となれば、企業や経済成長にとって良好な環境が整う
と予想されている。反グローバル政策やタカ派的な外交政策で失敗することがなければ、米国
のように非常に閉鎖的な経済において(すでに完全雇用に近い状態にある)
、大規模な財政刺
激策により経済状況が大きく変化する可能性がある。具体的には、経済成長が加速する可能性
があり、利上げを望んでいる米連邦準備制度理事会(FRB)は「低金利政策の長期化」から脱し、
より積極的に利上げを行える環境が整うと見込まれる。さらに、ディスインフレがインフレに転じ、
金利の上昇要因となり、インフレ連動債(TIPS)が名目米国債よりも高いパフォーマンスになる
と予想される。銀行やエネルギー、軍需関連企業の業績が改善し、米ドルが上昇する一方、エマー
ジング市場にとっては厳しい状況になる可能性がある。
しかし、そのような楽観的なシナリオ以外の展開に備える必要はないのだろうか?世界の経済
状況が非常に悪い中で、米国の成長を加速させることは非常に困難であることは、ここ数年を
見れば明らかである。また、トランプ氏の貿易政策自体がそもそも世界経済の成長を妨げる要
因となる恐れもある。さらに、中国を為替操作国に認定し、貿易障壁を築けば、ここ 5 年間に
わたり繰り返された世界的なリスク・オフの動きがさらに加速する可能性すらある。
最も重要なことは、市場における楽観的な成長見通しの論拠となっているのは、トランプ氏の
将来的な政策であり、それらはあくまでも今後 12 ヶ月で実施される「可能性のある」政策に過
ぎないということである。しかし、債券市場はすでに利上げを織り込んでしまっている。はたし
て世界経済と米国経済は本当に好調を維持できるのだろうか?米国の経済成長に対する楽観的
な見方が浮上し、
「2016 年に FRB が 4 回の利上げを実施する」と言われていた時期から、まだ
1 年しか経過していないにもかかわらず、
中国経済の減速懸念や、
世界経済の成長懸念などを受け、
図表2 グローバル・インフレ率
FRB の予想とは全く異なる結果となっていることに留意する必要がある。
当社は、債券市場が経済成長やそれに伴う利上げをあまりにも早く織り込み過ぎていると考えて
いる。トランプ氏の経済政策の行方が極めて重要であり、まだまだ予断を許さない状況である
と言える。
では、状況が大きく変化し、政策をめぐる不透明感が高まっている中で、ポートフォリオではど
のようなポジションを構築すべきだろうか?ディスインフレの環境において、リスク資産と高格付
け債券が負の相関関係にあることは、ポートフォリオを構築する上で大きなメリットになると考
えられる。反対に、テーパー・タントラム(量的緩和縮小をめぐる市場の混乱)や、インフレ環
境への急速な転換が起きる際には、正の相関に転じる可能性がある。必ずしもそうなるとは限
らないが、その可能性は高いため、ポートフォリオの構成を再調整し、デュレーション・リスク
を削減する必要があると考える。また、エマージング市場にとって望ましい環境が崩れつつあ
るため、エマージング市場のオーバーウエイトについても見直す必要がある。
ウエスタン・アセット
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図表2 5年先物 ブレーク・イーブン・インフレ率
一方、イールドカーブに関しては、市場コンセンサスに誘導される形で、既に大幅にスティープ
化の動きが見られるため、投資機会が生じる可能性がある。すなわち、市場の見方では、長
期金利が上昇する中でも、FF 金利が非常に低水準にとどまると予想されるため、イールドカー
ブが大幅にスティープ化する可能性があると考えられおり、当面は、この考え方は妥当である
と思える。しかし、イールドカーブは過去の形状と比べてすでに大幅にスティープ化しており、
FRB の政策がそれほど大きく変化しないとの予想から、短中期ゾーンの利回りが過度に低下し
ている。新大統領・新体制のもと、はたして成長が加速するのか、または成長が鈍化するのか、
状況は依然不透明である。しばらく前までは、世界経済の減速懸念を受け、イールドカーブ
はブルフラット化していた。実際に、前回のレポートでは、ブレグジットの可決を受けて、米
国債利回りが低下したため、イールドカーブのフラット化から収益が得られるポジションのオー
バーウエイトを削減したと述べた。仮にトランプ氏の政策により成長が大きく加速すれば、金
利の正常化だけでなく、イールドカーブの正常化も予想より早く進むと考えられる。
長期的に見ると、金利やクレジット・スプレッドは、経済成長やインフレ動向などのファンダメ
ンタルズに沿って変動する傾向がある。当社では、世界や米国の回復により、最終的には成
長が加速するとの楽観的な見方をしているが、スローペースで段階的なプロセスを辿る可能性
が高いと見ている。つまり、しばらくの間は緩やかな成長が続くと予想している。こうした低
成長の環境においては、スプレッド商品は米国債やその他国債よりも高いリターンを生み出す
と考えられる。さらに、もし世界や米国の経済成長がより大幅に加速した場合であっても、ス
プレッド商品は大幅にアウトパフォームすると予想される。
本稿では米国の成長見通しが変化する場合に、何がパラメーターとなり得るのかについて議
論してきた。ただし、この議論は現段階では完全に憶測の域を出ないものである。当社の
基本シナリオは、引き続き、米国経済が 1.5% 前後の成長トレンドを維持すると想定しており、
米国の政策が変化する可能性に留意はしているものの、実際に見通しを変更するには、より
多くの事象を確認する必要があると考える。
当社では、米国を除く世界経済の成長について懸念を持っている。例えば、中国経済の減速
について憂慮しており、中国当局が大規模な景気刺激策を終了したことで、今年はさらに景
気が減速したように思われる。また、中国を除くエマージング諸国の経済はこれまで改善して
いたものの、米国の貿易政策や FRB の金融政策が変化することになれば、今後は厳しい状
況に直面する恐れがある。さらに、欧州経済はこれまで 2 年間にわたり好調を維持してきた
が、ブレグジットが決定したことや、イタリアの国民投票を控え、反グローバル化の動きが続
く可能性があることから、不透明感が高まっている。
つまり、米国内外における現在の低成長・低インフレ環境は変化していないと言える。市場
は、米国経済が近いうちに急激に改善する可能性を織り込んでいる。当社では、その可能性
がないとは考えていないものの、予想が外れた場合には市場が大きく混乱する恐れがあると
見ている。米国経済が堅調に推移するシナリオを踏まえ、ポジションを微調整する方針である
が、その他のシナリオにも対応できるように、柔軟な姿勢を維持することがより重要であると
考えている。
トランプ次期大統領は就任後 100 日計画を発表したが、これは過去 30 年間続いていたグロー
バル化政策とは明らかに一線を画す内容となっている。これがどのような結果を招くのか、全
く予想がつかない。現在の市場は楽観的なシナリオを織り込んでいるが、大きなリスクが内包
されおり、市場の見方は楽観的過ぎる可能性もあるだろう。
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リスク・ディスクロージャー
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