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S. ケネス・リーチ
最高投資責任者(CIO)
市場コメント
2014 Fixed-Income Fund
Manager of the Year
2015年8月
要約
「銀行家とは、日が照っている時に傘 を貸して、 雨が降り出すと返してくれというような人
 世界の経済成長とインフレ
間だ」
動向は、政策金利が実質
マーク・トウェイン(1835∼1810年)、米国の作家
ゼロ%で維持されるか、僅
かに引き上げられるかとい
う関心よりも重要であろう。 FRBが政策金利を引き上げの是非、ならびにその時期がいつになるかは債券市場の注目材
 債券のスプレッド・セクタ
ーは大幅な圧力にさらされ
ている。米国の景気が明る
さを増す一方、世界景気の
見通しには不透明感が漂
い始めた。
料であるが、主要イベントではない。それよりも注目すべき点は、米国と世界の経済成長動
向の乖離であり、何より重要なのは「インフレ」である。インフレ率の安定化と労働市場の
持続的改善というイエレンFRB議長が掲げる利上げの条件は十分に満たされている。当社
はFRBが実質ゼロ%の政策金利を徐々に引き上げるプロセスを年内に開始するとみている。
だが、金利が実質ゼロ%維持もしくは僅かに引き上げられるかは、今後の経済成長やインフ
レの行方に比べると重要度は低い。今ここで、世界を取り巻く環境からは、経済成長やイン
フレの下振れリスクが再燃している。
 デュレーション・ロングの維
持とイールドカーブのフラッ 前回レポートを執筆した3カ月前には、金融市場の注目テーマは「リフレ」に集中していた。
ト化予想に基づくポジション 天井知らずの様相であった中国株をはじめとして株式市場は活況を呈していた。原油価格
は奏功、利益をもたらした。
 投資適格社債のバリュエー
ションはファンダメンタルズ
と比べると非常に魅力があ
るため、経済情勢が一段と
厳しさを増しても底堅く推
移すると予想する。
4
利回り (%)
 世界的なインフレと経済成
長の減速の影響をある程
度抑えつつ、米国の持続的
経済成長の恩恵を受けるに
はどうすべきかが投資家の
課題である。当社では、特
に魅力的な投資機会のひ
とつとして投資適格社債の
長期銘柄への投資が有効
だと考えている。
図表1 米国債のパフォーマンス
米国債のイールドカーブ比較(2015年6月30日∼2015年8月20日)
3
2015年6月30日
2015年8月20日
2
1
0
利回り変化 (bps)
 米国のインフレは安定化し
ているが、コモディティ価格
が広範にわたり下落した結
果、既に低下に転じていた
世界のインフレ基調にさら
に低下圧力がかかっている。
20
10
0
-10
-20
-30
-40
-50
3m
1 2 3 4 5
1
7
10
30
満期(年)
米国債の利回り変化(2015年6月30日∼2015年8月20日)
-18
-29
-38
2年
5年
10年
30年
出所:ブルームバーグ 2015年8月20日現在
© Morningstar Awards 2014©. Morningstar, Inc. All Rights Reserved. ウエスタン・アセット米国コア戦略/米国コア・フル戦略7担当者のS.ケネス・リーチ、
カール L. アイヒシュテッド、マーク・リンドブルームが2014年「年間最優秀債券マネージャー賞」受賞。上記ファンドはレッグ・メイソン・インベスター・サービ
シーズ,LLCがご提供しております。www.leggmason.com.
© Western Asset Management Company 2015. 当資料の著作権は、
ウエスタン・アセット・マネジメント株式会社およびその関連会社(以下「ウエスタン・
アセット」
という)に帰属するものであり、
ウエスタン・アセットの顧客、その投資コンサルタント及びその他の当社が意図した受取人のみを対象として作成
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ることや転載することを禁じます。
市場コメント
は1バレル当たり約60ドル近辺で安定的に推移し、ハイイールド社債がアウトパフォームし
ていた。米国債利回りは上昇し、グローバル市場では特にドイツ国債の金利上昇に注目が
集まった。市場楽観派は、金融緩和効果への期待が主な関心であった。冴えない経済指標
トレンドにもかかわらず、市場は先行きの経済活動が上向くと見越していた。
当社は当時、ある程度の警戒は必要としつつも「景気回復」シナリオを維持していた。そし
て景気に対する楽観的見通しが実現しない場合は、米国債利回りの上昇を利用したデュ
レーションの長期化が有効と考えていた。また、イールドカーブのフラット化予想に基づく
ポジションも選好していた。過去数十年間の傾向を見ると、イールドカーブはFRBの利上
げサイクル前にスティープ化し、実際の利上げ開始後にはフラット化していることが多い
からだ。上向かないインフレ水準ではフラットニング取引が魅力的となり、このポジション
により、オーバーウエイトしているクレジット資産に対するリスク・ヘッジの機能も果たす。
結果はどうであったか。当社が警戒姿勢をとったのは正解ではあったが、警戒姿勢が必要
な状況が現実化したことは残念ではあった。図表1 (前頁) では、6月末以降の米国債のイール
ドカーブのパフォーマンスを示している。それによると、長期米国債利回りは約40ベーシス
ポイント(bps)低下しているが、短期金利は上昇している。
引き続き、債券のスプレッド・セクターに大幅な圧力がかかっている課題は依然としてある。
米国の景気が明るさを増す一方で、世界の景気見通しには不透明感が漂い始めた。米国
のインフレは安定化しているが、コモディティ価格が広範にわたり下落した結果、既に低
下に転じていた世界のインフレ基調にさらに下押し圧力がかかっている。その証拠として、
図表2に主要コモディティの価格動向を示す。
中国の突然の通貨政策変更は、世界中の市場と政策当局に衝撃を与えた。これまで中国人
民銀行が決定していた人民元のドルペッグを見直し、管理変動相場制に移行してきた。4%
という大幅な切り下げ幅には驚かされたが、それ自体は世界景気の見通しを脅かすもので
はなかった。問題は今年既に様々な金融緩和策を打ち出してきた上に、自国通貨の柔軟性
拡大に動いたことであり、中国株式市場の急落後というタイミングであったことも、中国の
経済成長が十分でないとの市場の懸念がさらに深まったのは明らかである。
図表2 主要コモディティの価格トレンド (USドル)
10,000
銅
鉄
200
金
1,900
2,800
アルミニウム
9,000
165
1,720
2,560
8,000
130
1,540
2,320
7,000
95
1,360
2,080
6,000
60
1,180
1,840
5,000
2010 2011 2012 2013 2014 2015
25
2010 2011 2012 2013 2014 2015
1,000
2010 2011 2012 2013 2014 2015
1,600
2010 2011 2012 2013 2014 2015
120
WTI 原油
石炭
160
ゴム
300
240
105
140
250
200
90
120
200
160
75
100
150
120
60
80
100
80
45
2010 2011 2012 2013 2014 2015
60
2010 2011 2012 2013 2014 2015
350
コーン
小麦
400
310
350
270
300
230
250
190
200
150
2010 2011 2012 2013 2014 2015
150
2010
50
2010 2011 2012 2013 2014 2015
砂糖
30
240
200
15
2013
2014
2015
10
2010
コーヒー
280
20
2012
40
2010 2011 2012 2013 2014 2015
320
25
2011
綿
160
2011
2012
2013
2014
2015
120
2010 2011 2012 2013 2014 2015
ドルベース 出所: indexmundi.com 2015年7月31日現在
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2015年8月
市場コメント
市場の関心はリフレからデフレへと一変した。エマージング市場やハイイールド社債は、コ
モディティ価格に特に影響を受けやすい銘柄を中心に相応にアンダーパフォームしており、
投資適格社債やモーゲージ債も弱含んでいる。株式市場は最近まで高値圏で推移してい
たが、世界中に突然広がった不安心理から同様に激しい調整に晒されている。
当社は前四半期に市場の楽観論が過度なものであると感じたように、現在の悲観論も行
き過ぎている可能性があるとみている。当社は現在の世界景気の下振れは、景気後退に
つながることはないと確信している。世界の経済成長やインフレ期待が下振れしても、世
界的な景気回復というテーマは健在である。米国の緩やかな成長と欧州の景気改善は続
くだろう。金融政策は依然として極めて緩和的だ。中国の経済成長は管理可能であり、さら
なる金融および財政刺激策が実施されよう。長期インフレ率の低下は、低金利の一段の
長期化を意味する。コモディティ価格の下落は、世界的な需要減退の兆候ではあるもの
の、プラスの影響もないわけではない。コモディティ価格の下落により、世界のGDPの多
くを占める諸国へ富が移転する可能性も指摘される。
当社は引き続きスプレッド・セクターは国債をアウトパフォームするとみている。しかし、現
在の強力なディスインフレ環境の悪影響を考慮し、デュレーションのロングを維持し、値ご
ろ感のある低格付けのポジションをヘッジ無しとする。
買い増す判断としたセクターに選んだのは、リスク・リターンの観点から特に有利とみられ
る投資適格社債である。急激な回復局面におけるパフォーマンスは低格付けセクターに見
劣りするものの、バリュエーションはファンダメンタルズと比べると非常に魅力があるため、
投資適格社債は経済情勢が一段と厳しさを増した場合でも底堅く推移するとみられる。
具体的に見てみるとする。投資適格社債は最近大幅なストレスにさらされている。特にBBB
格、中でも年限が長い銘柄ほどその傾向は強い。実際、スプレッドの水準が現在の長期社
債市場を上回っていたのは、2000∼2002年(景気後退期)、2007∼2009年(金融危機)、
2011年(景気後退/ユーロ圏崩壊懸念)だけで、これらはいずれも金融市場が著しいスト
レスにさらされていた時期である。社債発行額の急増と低水準の米国債利回りが重なっ
たことが、スプレッド拡大の直接の原因というのが大方の見方である。また、流動性懸念
もスプレッド拡大の一因である。しかし、こうしたテクニカル要因と関係なく、基本的な
金融原理も作用する。それは、債券がデフォルトしない限り、債券保有者は上乗せした利
回りを得られるというものだ。
図表3 (次頁) に長期社債のバリュエーション機会を2つの形式で示している。上段の図は、
市場が織り込む5年累積デフォルト率と、実際の過去のデフォルト率を単純に比較したも
のだ。市場は長期BBB格社債のデフォルトの確率を19.57%と織り込んでいる。これは過
去に例がない高さであるだけでなく、世界大恐慌中のデフォルト率の2倍の水準に相当す
る。もちろん、トータルリターン投資家にとって、長期社債のイールド・スプレッドの変化は、
過去のデフォルトと同様にリターンに影響をもたらす可能性がある。通常、イールド・スプ
レッドの変化の影響が短期的に長期社債の追加キャリーのほとんどを占める。この問題
を検証するため、下段の図に最近のデフォルト率と回収率を前提に損益分岐イールド・ス
プレッドを示した。ここから分るように、5年間に、社債が米国債をアウトパフォームしな
いためには、イールド・スプレッドは2008∼2009年の金融危機の最中にしか経験したこと
がない水準に達する必要がある。
金融市場では、現実に乖離が進んでいるように思える。クレジット市場が直面する著しい
ストレスは、景気悪化懸念を強く示唆している。しかし、米国の経済指標のトレンドを見
ると経済を取り巻く環境は明るさを増している。投資適格社債はそうした市場の乖離の
ウエスタン・アセット
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2015年8月
市場コメント
最たる例と言える。具体的に、米国の景気が利上げを正当化できるほど堅調であると言
われる一方で、大恐慌時のようなデフォルト率を吸収できるほどの潤沢なイールド・スプ
レッドが続いている。よって、長期の投資適格社債については、リスク・リターンの観点か
ら特に魅力があると当社は考える。
図表3 5年累積のデフォルト率とOASスプレッド
25
Baa格債券5年間の累積デフォルト率 と現在のブレーク・イーブン・デフォルト率
ブレーク・イーブンデフォルト率 (19.571%)
現在のロングクレジットOAS 268 bps
と過去のリカバリー率で計算 (38.5%)
パーセント
20
15
5
0
Baa格社債の
5年累積デフォルト率
実績
Baa格社債
5年累積デフォルト率
予想
10
1930
1940
1950
1960
1970
1980
1990
2000
2010
満期ごとのOASスプレッド
6
パーセント
5
4
3
バークレイズ
ロングクレジット
ロングクレジットの2020 年ブレーク・イーブン・スプレッド (296 bps)
2
1
0
1988
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
2014
出所: 上図: ムーディーズ、ウエスタンアセット 2015年8月11日現在 下図: バークレイズ 2015年7月31日現在
現在、金融市場はかつて経験したことのない局面にある。実験的な政策がこれほど大き
なスケールで実施されたことはない。そのため投資家は将来予測の不確実性による変動
の大きさを認識し、熟慮の上で経済状況の変化への対応が必要となろう。現在、ディスイ
ンフレ圧力が強く立ち込めており、それによる景気の下振れリスクが高まっている。こうし
た状況から、インフレを醸成させ将来的なグローバルでの経済成長を促す政策が世界的
に打ち出されている。当社は引き続き現在のリスクを十分に認識しており、長引くクレジッ
ト弱気の市場でもポートフォリオに寄与するようなマクロ戦略を採用している。しかし、前
途はさらに有望との見方は変わらない。スプレッド・セクターは一段の弱気市場を織り込
んでいるようだが、当社はそうした状況には至らないと考えている。
ウエスタン・アセット
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リスク・ディスクロージャー
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