【相談 55】理不尽な要求を行う患者家族や退院を拒否する患者への対応

【相談 55】理不尽な要求を行う患者家族や退院を拒否する患者への対応
キーワード:威力業務妨害罪、不退去罪、患者家族への対応、禁煙区域での喫煙、退院拒否患者への対応、未収金回収
病院事務をしている者です。
入院患者の家族に暴力団に関係のある人物がおり、病棟での理不尽な要求や退院・転院への非協力があ
り、対応に苦慮しています。同じ内容を大声で何度も訴えたり、繰り返し禁煙区域での喫煙をされます。
こちらも怖いのでそれほど強く言えないからかもしれませんが、何度注意をしても聞いてくれません。ま
た、治療が終わったので医師が退院を告げましたが、退院希望日を提出してくれませんし、医療費請求を
しても支払ってくれません。警察や弁護士に相談することも考えていますが、まずはどのように対応する
のがよいのか教えてください。
【回答】
本件の事案を整理すると、①病棟での理不尽な要求を行う患者家族への対応、②同じ内容を大声で何度
も訴える患者家族への対応、③禁煙区域での繰り返し喫煙を行う患者家族への対応、④退院を拒む患者へ
の対応、⑤医療費を支払わない患者への対応が問題となります。
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①病棟での理不尽な要求を行う患者家族への対応について
まずは、相手方の要求が理由のあるものなのかどうかを確認することが重要です。その上で、相手方の
要求が理不尽なものである場合は、毅然と対応することが必要です。その際には、一人で対応せずに組織
的に対応するようにしてください。また、患者家族が暴力団関係者とのことですので、警察との連携・協
力・連絡が重要となります。
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②同じ内容を大声で何度も訴える患者家族への対応
相手方の要求内容を理解することが重要であること、一人ではなく複数で対応するべきこと、警察との
連携・協力・連絡が重要であることは、上記①と同様です。また、相手の話を聞き、丁寧に説明したにも
かかわらず、聞き入れてもらえない場合は、相手の行為は威力業務妨害罪(刑法第 234 条)に該当するこ
とが考えられますので、警察へ出動要請を行うことになります。
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③禁煙区域での繰り返し喫煙を行う患者家族への対応
当該患者家族に口頭・文書で注意するとともに、禁煙区域での掲示を行うことが考えられます。それに
もかかわらず、喫煙を行う様であれば退去してもらう旨を勧告することになります。退去勧告にもかかわ
らず、喫煙を続け、退去しない場合には、敷地の管理権に基づいて退去命令を行うことになります。
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④退院を拒む患者への対応
入院患者が、既に通院できる程度に回復し、入院を継続する必要がない場合には、入院診療契約が終了
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Medical-Legal Network Newsletter Vol.56, 2015, Aug. Kyoto Comparative Law Center
することとなりますので、入院患者に入院を伴う診療契約の終了を告げて、退院を命じることになります。
それでも入院患者が退院しない場合は、調停の申立て、訴訟の提起、仮処分の申立てなどの法的手続きを
検討することとなります。
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⑤医療費を支払わない患者への対応
入院中の患者本人に請求する場合は、まずは文書を交付して請求することが考えられます。それでも支
払いに応じない場合は、保証人へ請求することとなります。患者及び保証人が請求に応じない場合は、調
停、支払督促、少額訴訟、通常訴訟等の法的手続きを採ることとなります。
(回答者:荻野伸一
弁護士)
(2015.8 月執筆)
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