【相談 65】薬の副作用の責任と救済制度 キーワード:医薬品等による副作用被害救済、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)、損害賠償責任 開業医です。 60 歳の糖尿病患者に投薬治療(アカルボース)を行ったところ、3 週間ほどして、高熱黄疸が出たため、 総合病院に転送したが、間もなく劇症肝炎で死亡されました。総合病院では、劇症肝炎発症は、おそらく 医薬品の副作用であるとの診断がされたようです。劇症観念の副作用については、当院でも、一応の説明 を本人にしていました。しかし、治療のための医薬品で死亡するという結果に遺族は納得していないよう です。 医薬品副作用被害救済制度の存在は知っていますが、手続きなど詳しいことはわかりませんし、また、 投薬を処方した私の責任を問われるか不安で、遺族に当該制度の存在を伝えるべきかどうか迷う気持ちも あります。薬の副作用の責任は、医師個人が負うべきものではなく、医薬品を製造販売した製薬会社や医 薬品の製造販売を承認した行政官(国)が負うものではないのでしょうか。 【回答】 ご質問を整理すると、いくつかの問題点があります。まず、開業医の責任を追及する訴訟になれば、転 送先の総合病院では医薬品の副作用が原因で劇症肝炎発症との診断がされていますが、劇症肝炎発症の原 因が総合病院の診断どおりかどうかを明確にしなければならないでしょう。総合病院の診断どおり、医薬 品の副作用による劇症肝炎発症であるとするならば、次に、医師の医薬品投与について、次の点につき開 業医の責任の有無が問題になります。つまり、1医薬品の添付文書に則った投薬をしたかどうか、2投薬 治療に際してその必要性と副作用等のリスクについて適切な説明を行ったかどうかの 2 点です。アカルボ ースの副作用としての劇症肝炎発症の危険性は厚生労働省の医薬品等安全性情報に「重要な基本的注意」 として掲載されているなど(174 号(2002 年 2 月)) 、医薬品副作用情報が出されており、ご質問をされた 医師も添付文書に従って慎重に投薬をされ、被害者に適切な説明をされていたのであれば、劇症肝炎発症 →死亡による医師の民事責任や国の責任は発生しないと思われます。 医薬品使用は有効であると同時に副作用の問題が不可分であり、国も製薬会社も副作用の発生を完全に 防止することはできません。また、製薬会社の過失(不法行為責任)や医薬品の欠陥(製造物責任)に基 づかない副作用被害もありますし、製薬会社等に民事責任があると疑われても訴訟で明らかにすることは 困難であったり、時間がかかりすぎたりします。そこで、使用に伴う副作用被害について、ご指摘のよう に被害者救済制度(医薬品副作用被害救済制度)ができております。本制度は、サリドマイド、スモン等 の医薬品等(生物由来製品感染等も含む)の副作用による重大な健康被害発生を契機に、医薬品の製造業 者等の社会的責任に基づく共同事業として、全製薬会社の拠出金により運営される健康被害者救済のシス テムです。したがって、製薬会社等の民事責任とは切り離されたかたちで社会的に救済することを目指す、 いわば製薬会社の「一種の強制保険」の仕組みとされています。本制度の手続や支給額などの詳細は、 平成 14 年に成立した独立行政法人医薬品医療機器総合機構法のもとに設立された支給機関である独立行政法人医 薬 品 医 療 機 器総 合 機 構( PMDA ) の ウ ェ ブ サ イト に 記 載さ れ て い ま すの で 、 こち らを ご 覧 く だ さ い (http://www.pmda.go.jp ホーム>健康被害救済業務>医薬品副作用被害救済制度に関する業務 又は、 1 Medical-Legal Network Newsletter Vol.66, 2016, May. Kyoto Comparative Law Center http://www.pmda.go.jp/kenkouhigai_camp/general01.html)。支給項目も一時金のみならず、遺族への年 金という形で支払われるなど、手厚い救済が図られておりますので、訴訟になるケースは少ないようです。 (回答者:寺沢知子 京都産業大学法学部客員教授) (2016 年 6 月執筆) *会員用ウェブサイトの「知恵袋(相談コーナー)」には、もう少し詳しい説明を掲載しております。 2 Medical-Legal Network Newsletter Vol.66, 2016, May. Kyoto Comparative Law Center
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