黒子のバスケ ―黒子テツヤの逆襲― ID:90263

黒子のバスケ ?黒子テ
ツヤの逆襲?
希亜
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︻あらすじ︼
あることをキッカケにキセキの世代から見放されてしまう黒子テツヤ。
余りに酷い仕打ちに項垂れる黒子テツヤを救ったのは⋮
第
第
3
2
話 ││││││││││││
1
18
14
11
6
1
目 次 第
話 ││││││││││││
第
4
話 ││││││││││││
話 ││││││││││││
話 ││││││││││││
第
5
第
話
彼女 はやって来ました。
"
おっとりとした話し方にその場の雰囲気を和らげる微笑み。
口元のほくろ。
黒髪のロングストレート。
珍しい時期の転校生。
中学3年の冬。
の楽しさを、勝利の喜びを噛み締めていた頃。
僕が帝光中学バスケットボール部一軍へ昇格できて徐試合にも必要とされ影として
彼等︻キセキの世代︼も同じ人間であることを。
││僕はいつの間にか忘れてしまっていたんです。││
1
"
﹁坂城 夏︿ササキ ナツ﹀です。よろしくお願いします。﹂
1
赤司君の簡単な紹介の後、艶やかな黒髪を耳に掛け会釈したその姿に心奪われる部員
も少なくは無かったようです。
僕は部活に付いていくのが精一杯な為先輩やキセキの皆の様に心奪われる事はなく
とも綺麗な人だと思いました。
然し、これが帝光中学バスケットボール部を揺るがす悪魔だとは誰1人として、思う
事はありませんでした。
それからしてある日のこと。
﹁⋮テツ君。ちょっといいかな。﹂
部活帰りのこと。
いつもならば一緒に帰ろうと僕を吹き飛ばす勢いで抱擁してくれるのですが、今日の
彼女は不安そうに僕の制服の裾を掴みそう呟いた。
只ならぬ雰囲気を感じ心配そうな黄瀬くんを宥めた後、キセキの世代の皆さんに断り
﹁⋮マジバ行きましょうか。﹂
を入れ了承した。
話をするためにそれぞれ飲み物のみ注文し店の角に腰を下ろすと静かに彼女の言葉
﹁⋮ごめんね、急に。部活お疲れ様﹂
第1話
2
を待つ。
最初は ちらり、ちらり、と僕の様子を確認する様な素振りだったがしっかりと彼女
を見据える僕の視線に決意を固めたのか大きく息を吸い込みまずは労いの言葉を掛け
てくれた。
││
決して急かさないよういつも通りに返すと漸く微笑み多少の落ち着きが持てた様で
﹁桃井さんもお疲れ様でした。﹂
彼女はゆっくりと話を始めた。
││最近入ってきたマネージャーの夏ちゃんいるでしょ
取っ掛かりは確か、そんな風だった。
始まりは、入部してからすぐの事。
﹁おかしいなぁ、部室の鍵どこ行っちゃったんだろ。﹂
﹂
?
夏ちゃんは漸く姿を見せた。
それぞれの教室で着替え体育館でアップを始めていた頃。
遅れること10分。他の部員は時間がもったいないとの青峰君と赤司君の提案の元、
﹁さつきちゃん。どうしたの
仕方なく部室前へと戻って来ていた。
放課後になり部室を開けようと鍵を職員室に取りにいくももう既に鍵はそこに無く、
?
3
﹁部室の鍵が無くて⋮知らないかな
たかな⋮﹂
﹁これかな
﹂
先に開けようと思って持ってきたんだけど迷っちゃった⋮迷惑かけちゃっ
の鍵を見せるその笑顔との差を。
一瞬の沈黙の後 思い出したかの様に自らの鞄を漁り微笑みながら取り出した部室
彼女の整った顔つきが微かに笑みに歪むその瞬間を。
最初は気のせいだと思いたかった。
?
﹁あ、それそれ
ありがとう
今度一緒に道確認しようね﹂
!
一瞬の変化を無理矢理頭から引き離すかの様に首を振ると微笑みかけながら優しく
!
るのも一苦労だったのだろう。
確かに帝光中学校は敷地が広く転校してきたばかりの彼女にとっては部室を見つけ
申し訳ないと大袈裟なまでに顔に書かれているかのような表情。
?
﹂
注意をした。
!
最初はそういう事が多かった。
そう思える程に自然な微笑み。
⋮気のせいだったんだ。
﹁了解
第1話
4
5
ボトルの位置、ロッカーの位置、トレーニングノートの場所、ユニホームの場所⋮
入部したての彼女がミスをしてしまうことは皆が仕方ないと笑って許していた。
段々任せる事が多くなっていっても驕らず新しい事を覚える時は必死にメモを取っ
ていて部員全員から慕われる良いマネージャーとなっていた。
然し、最初に感じた違和感。
不自然な事はまだまだ起こっていく。
第
話
朝練に到着すると部室の前に人だかりが出来ていた││
ドア破壊事件の朝。
にも新しかった。
ドアが壊れていた話と桃井さんの頭上に植木鉢が落ちてきた話については僕の記憶
まるで、桃井さんをバスケットボール部から消そうとしている様な⋮
極めつけは桃井さんの頭上へ大きめの植木鉢が落下してきた事だった。
桃井さんの持ち物が次々と紛失する話
桃井さんの靴が半壊していた話
部室のドアが壊されていた話
最初に聞いた部室の鍵の話
一通りの話を聞いた。
﹁それでその不思議な事はまだ続いているんですか。﹂
2
一際目立つ黄色い髪の毛を見つけると隣に立ち見上げては尋ねた。
﹁どうしたんですか。朝練、始まってますよね﹂
第2話
6
﹁あ、黒子っち
おはよっス 朝練したいのは山々なんスけど部室のドアが壊され
!!
場で赤司君の判断を待つことにした。
勢いよく揺れる耳と尻尾の幻覚に見ない振りをすると 騒ぎに納得し大人しくその
てるらしくて赤司っちが色々と確認中っス﹂
!
﹂
!
見ると目撃情報等はなかったようだ。
赤司君は頷いて答えながら後ろに控えていた桃井さんへ聞くも首を振ったところを
﹁ああ、おはよう 黒子。情報は来たか桃井。﹂
ていた。
それはキセキの皆も同じだった様でいつしかカラフルな集いが赤司君の周りに出来
気づけば赤司君の元へ進んでいた。
﹁おはようございます。赤司君。﹂
流石は赤司君、といった所だろうか。
この数分で部室の状態を確かめ終わったらしい
全員がぞろぞろと教室へ戻っていく。
﹁はい
れば俺か桃井に伝えてくれ。﹂
﹁今日の朝練は無し。大事な時期に犯人探しに時間を割くつもりはないが情報などがあ
7
﹁もー誰なんスか。折角青峰っちと1on1の約束だったのに﹂
さっきまで楽しそうに耳と尻尾が揺れていたのはそのせいかと納得して見ると当の
本人は不貞腐れた様にしゃがみ込むと指先でボールを回していた。
﹁放課後すりゃいいだろうが﹂
答えながら大きな欠伸をしながらしゃがみ込んでいる黄瀬君の前に座っているのは
いつにも増して退屈そうな青峰君だった。
﹁本当におは朝はよく当たるのだよ。ラッキーアイテムだ、使えるか赤司。﹂
よく通る低音の声で赤司君に渡したのは⋮ドアノブ。
不貞腐れていた黄瀬君、大きな欠伸が止まらなかった青峰君でさえ動きを止め
│おは朝信者│緑間君の手の上を見ていた。
﹁⋮有難う 緑間。﹂
﹂
流石の赤司君でも驚いたのか一瞬反応が遅れながらも差し出されたドアノブを受け
取り部室へと向かっていった。
?
いた。
を食べている彼が今食べていないのは先程赤司君に没収された為からなのを僕は見て
部室へ向かう赤司君の背中を見送りながら呟いたのは長身の紫原君。いつもお菓子
﹁てかさー壊れたのドア全部だから意味ないんじゃなーい
第2話
8
﹁それは言っちゃだめっスよ
皆分かってたっス
﹂
!
押し上げていた。
黄瀬君が立ち上がり声を上げると驚いた様に緑間君は紫原君を見詰め静かに眼鏡を
!
﹂
?
恐る恐る声を掛けてきた
?
と真正面に腰掛け ある情報 を告げ帰っていった。
微笑みながら首を傾げればその1年生は辺りを確認する様にキョロキョロと見渡す
﹁お疲れ様。どうしたの
﹂
ドア破壊事件の放課後。部室で次の対戦相手の情報を纏めていると1年生の後輩が
﹁⋮あの、桃井先輩﹂
隠す理由が見当たらなかった僕は間を置くと尋ねた。
﹁それは⋮隠してた、という事ですか
﹁実は情報、あったの。知ってるのは赤司君と私だけ。﹂
縦に振ることはなかった。
確かあの時はあのまま犯人不明のまま終わったはずだった。しかし桃井さんが首を
﹁結局、情報はなかったんですよね﹂
9
﹁その内容というのは﹂
たって。﹂
﹁⋮ 事 件 の 前 の 日 忘 れ 物 を し た そ の 1 年 生 が 破 壊 し て い る で あ ろ う 現 場 を 目 撃 し ま し
1 年 生 が 言 う に は 大 き な 斧 を 振 り か ざ し ド ア を 破 壊 す る バ ス ケ ッ ト ボ ー ル 部 マ
ネージャーの姿を見た。と⋮
﹁その1年生は﹂
尋ねる内容が分かっていたのか被せるように言うと彼女は俯いた。
﹁辞めちゃったの。情報をくれた次の日に。﹂
二人の間に出来上がった沈黙を小さな声で破ったのはやはり桃井さんだった。
﹁⋮夏ちゃんかな⋮﹂
﹂
?
狙った犯行のもの。
それはもう一つ僕の記憶に新しい 桃井さんの頭上に植木鉢が落ちてきた明らかに
││あの出来事││
可能性がある以上断定は出来ないものの可能性としては大きい。 ﹁可能性はありますね。あの後に起こったのがあの出来事ですか
第2話
10
第
話
も小さかった。
あの時。
植木鉢事件約1ヶ月前
﹁すまねぇ、テツ。最近さつきがよ あーなんて言うんだ
大ちゃんの馬鹿ッ﹂
﹂
思い出させてしまったのかスカートを強く握り締め絞るように発せられた声はとて
﹁⋮⋮あの時はごめんね。テツ君⋮﹂
3
現れていた。
溜息をつきながらも桃井さんの頭に手を乗せ頼む彼の顔には長年幼馴染みの表情が
あって俺が行けない時さつきの事頼むわ﹂
﹁う ッ せ ぇ な ぁ ⋮ あ ー 最 近 さ つ き の 物 が 無 く な っ た り 靴 壊 さ れ た り し て ん だ。何 か
た頃だった。
峰君と桃井さんに階段の下小さな空間へ頼み事があると引き込まれ早くも数分がたっ
何度先生に言われても直さない着崩した制服を桃井さんに言われ漸く直し始めた青
﹁私に言わせるの
!?
?
11
﹁分かりました。気を配っておきます。﹂
﹁おうッ。テツなら安心だろ﹂
頷き快く了承すれば 青峰君も歯を見せる様に笑い 面倒臭いとかうるさいなどと
言っておきながらもほっとしたのかいつものように大きな欠伸をしている。
1番不安で安心したのは桃井さんのはず。
﹁ありがとう⋮テツ君﹂
微かにその大きな瞳に涙を浮かべながら青峰君の服の裾を掴んでいた。
そんな約束を忘れかけていた頃。
ちょうど約束をした1ヶ月後の話
赤司君の元へ資料を持っていきたいと僕のクラスを尋ねた桃井さんと共に赤司君の
クラスへ向かうも赤司君は居なかった。
クラスの人へ所在を桃井さんが尋ねると黄瀬君に連れられ体育館へ向かったとのこ
とだった。
桃井さんと僕は顔を見合わせ苦笑いを浮かべると体育館へ向かっていた。
けていた。
体育館へ入る前体育館履きを履くと何か違和感を感じて数歩下がり靴紐を見ると解
﹁あれ。先行ってて下さい。紐が⋮﹂
第3話
12
﹁テツ君大丈夫
﹂
﹂
│ バスケットボール部マネージャーの姿 │
所を震えながら見つめるふたりを見た後上を見上げればそこに居たのは
呆然と立ち尽くすも舌打ちをし体育館へ走り込んでいく青峰君と先程いた自分の場
もしれない⋮
この植木鉢が頭上に落ちていれば即死とはならなくても何かしらの障害が残ったか
﹁だ、だいちゃ、ん⋮テツ君⋮﹂
﹁ンだよこれ⋮﹂
飾ってあったそのまま落下してきていた。
さっきまで桃井さんが立っていた場所には大き目の植木鉢が花と土ごと即ち校舎に
││ ガシャン ││
彼女の腕を引き自らに覆い被させると
﹁桃井さんっ﹂
聞き慣れた桃井さんの呼び方。
低めの少し掠れた声。
﹁さつき危ねぇ
先に行っていいと言ったものの靴を覗き込む様に僕の前へ立った時 ││
?
!!
13
第
話
なってしまう。
?
⋮ッてどうしたんスかこれ
﹂
!
頷くだけだが反応を示してくれた。
また1on1邪魔されたっス
!?
在に気付き慌てふためいていた。
ぶつぶつと文句を垂れ流しながら現れた黄瀬君は植木鉢を踏みそうになる直前で存
!
未だ震えたまま僕に掴まる彼女をそっと撫でれば多少なりとも落ち着いたのかただ
﹁⋮桃井さん、大丈夫ですか
﹂
らかのペナルティを課すかも知れない。それは桃井さんの身を余計に危ぶめるだけに
今赤司君に説明をしてしまっては彼の洞察力ならば坂城さんの犯行だと気付いて何
ようとしている
体育館に目を向ければ青峰君が黄瀬君と赤司君の1on1に割り込み事情を説明し
ジャージをはためかせ屋上から姿を消してしまった。
静 か に 見 詰 め 続 け て い れ ば 彼 女 は 狂 気 的 な 笑 み を 浮 か べ 僕 を 見 つ め 少 し す る と
︵⋮あれは坂城さん︶
4
﹁もーなんなんスか
第4話
14
青峰君は赤司君の前で事を整理している様に見える。止めるならば今しかない。
﹁桃っち
大丈夫
﹂
?
﹂
!
⋮赤司君。明日の放課後の部活後お話があります。大丈夫ですか﹂
﹁青峰君、桃井さんに付いていてくれませんか。今は黄瀬君が相手をしてくれています。
このままでは混乱が混乱を呼ぶだけに過ぎない⋮
峰君。
青峰君では拉致があかないと思ったのか僕に尋ねる赤司君を必死の形相で止める青
﹁だからその事なんだよ赤司
﹁大きな音がしたがどうしたんだ。黒子。﹂
と2人はこちらを向いてくれた。
漸く纏まったのか今にも話しそうな青峰君とそれを静かに待つ赤司君を呼び止める
﹁青峰君、赤司君﹂
いた。モデルのそれは伊達では無く、桃井さんの顔色も少しばかり良くなっていた。
手招きをすればすぐ様様子に気が付き 任せてくれ と言わんばかりに頷き宥めて
﹁⋮大丈夫っスよ桃っち。﹂
﹁きーちゃん⋮﹂
!?
﹁黄瀬君、少し桃井さんお願いします。﹂
15
﹂
青峰君に外へ出るように誘導すれば少し不機嫌そうにしつつも頷き外の二人の元へ
かけて行く。
﹁⋮そこで全て話してくれるな
﹁はい。﹂
﹁じゃあ明日言うの
﹂
﹁はい。語弊の無いように、って⋮桃井さん、体調大丈夫ですか
﹂
この時の判断を僕は後悔し、感謝する事になるなんて思いもよらなかった。
︵やはり言わなくて良かった︶
何度瞳を交えてもこの緊張感だけは慣れることが出来ない。
が威圧感を含んで僕を射貫く。
入部当初⋮いや、見初められた時から変わらない 真実と正当なる答えを導き出す瞳
?
大丈夫と呟くその呂律さえ少し危うい。
悪いようにも見えた。
今までの振り返りを終え長い話を飽きることなく耳を傾けた彼女の顔色は心なしか
?
?
﹁ありがとう、テツ君﹂
﹁帰りましょうか。送りますよ﹂
第4話
16
││ 翌日 ││
朝練に来ると桃井さんは居らず普段通りに坂城さんがマネージャーの席で着席して
いた。
﹂
!
﹁あの⋮黒子君。お昼休みに少し良いかな
﹂
いつも通りの笑顔。了承すれば微笑み呼ばれた緑間君の元へと歩いていった。
﹁坂城さん⋮いいですよ。﹂
ドリンクを飲みに1人キセキの皆から離れた時だった。
?
がらボールを弄る青峰君が伝えてくれた。
桃井さんは、案の定体調を崩して休んでしまったらしい。側で騒ぐ黄瀬君をかわしな
えるつもりだったのだが赤司君が急遽遅刻なんて珍しい。間に合うだろうか
副部長である緑間君が号令をかけるといつも通り朝練が始まった。今日の放課後伝
メニューは届いているから通常通りやる。ストレッチ開始
﹁赤司が急ぎの用で遅刻。桃井が体調不良にて休みだ。坂城、サポートを頼むのだよ。
17
第
話
と勢い良く顔を上げて笑った。嗤ったのだ。
彼女は少し小走りで駆けてきた。俯きながら詫びの言葉を言い何度か深呼吸をする
﹁いえ、大丈夫です。﹂
﹁ごめんね。待たせちゃったかな﹂
君に伝えること無くここへ来たのだから。
秘密と言われていなくともあの瞳を見れば分かる。だからこそキセキの皆さんに、赤司
秘 密 の 話 を す る の な ら 屋 上 で は な く 中 庭。中 庭 と は 名 ば か り の た だ の 裏 道 だ か ら。
くために校舎が立ち並ぶ横の中庭へやって来た。
ただでさえ少ないお昼ご飯を少し早めに食べ終わり、外靴へと履き替え彼女の話を聞
││ お昼休み ││
5
﹂
!?
だ笑み、光の無い瞳。
少々興奮気味で話す彼女から感じたのは恐らく桃井さんが感じたそれと同じ 歪ん
い
﹁黒子君、黒子君も昨日見たよね。もう少しで当たったのに凄く勿体無かったと思わな
第5話
18
﹁どうして桃井さんを部から追い出すような事をしたんですか。﹂
腹が立ったとはいえ顔に出してはならない。手の内が分からないのなら尚更。赤司
君に言われ習得したものがここで活きるとは思わなかった。
﹂
?
は落ち着いていた。
﹁はい。とても。坂城さんはどうですか
何の気なしに聞いたつもりだった。
?
﹂
﹁どうして貴方ばかりなの
ンスも無いのに
どうしてさつきちゃんばかりなの
大した役割も、顔もセ
?
が自らの意思を持ち発せられているかの様な感覚に陥る、錯覚。
地響きの様な低い声かと思えば今度は耳が劈く様な、高く鼓膜に響く声。感情の昂り
!
?
が全て造り物だったのかと自らの耳を疑う程の圧倒的な恨みの声。
普段の笑顔、声色は、どこへ消えたのかと思う程の地響きの様な低い声。今までの物
﹁⋮⋮最っ悪。﹂
﹂
胸騒ぎとして僕の胸を侵食していく様な感覚に一瞬強く目を瞑り、開けると幾分胸騒ぎ
いつの間にか普段の笑顔に戻ると到底この中庭で話す必要の無い様な話題が小さな
しい
﹁まぁまぁ、それはその内分かるから急かさない急かさない。ところで黒子君。部活楽
19
﹁⋮だからね、私考えたの。どうしたら皆に私だけを見てもらえるか。﹂
彼女は呟くと自身の胸ポケットからカッターを取り出し自分のYシャツを引き裂き
そのカッターを僕に押し付けるまでの自然な流れを僕は呆気に取られながらただ見て
﹂
いる事しか出来なかった。
﹁い、一体何を⋮﹂
﹁きゃーっ、誰か助けて
﹁なっちゃん
どーしたんスか⋮ってこれは⋮⋮
﹁どうした⋮坂城⋮黒子⋮
?
⋮⋮事情を説明してもらおうか、黒子⋮﹂
﹁どーしたの⋮って黒ちん⋮﹂
?
やがて小さなその声が聞こえてしまった。
その彼女を護るように立ちはだかるキセキ
緑間君のブレザーを羽織り蹲って泣く彼女
﹁こちらに来い。坂城。﹂
﹂
いつの間にか普段の声色へ見事に変貌を遂げていた声が中庭から全校舎へ響き渡る。
!!!
﹁うるせぇなぁ、鼓膜が破れちま⋮﹂
?
﹁強姦野郎だな。﹂
﹁⋮最悪。﹂
第5話
20
キセキの世代を筆頭に現れる全生徒。
一瞬の惨劇に立ち尽くす僕の視界は楽しく過ごしてきたはずの仲間達、クラスメイ
ト、キセキの世代で埋め尽くされてゆく。
植木鉢事件の時のあの瞬間を。
酷くあの時の選択を後悔した。
それとも、もう少し早く僕が赤司君にこれまでの事を報告出来ていたならば。
桃井さんがこの場に居たのなら変わったのだろう。
︵ああ 、全て仕組まれていた。こうなることは誰も避けられなかったんですね。︶
その刹那、僕は見てしまった。大きな紫原君に隠れこちらを嘲笑う彼女が。
てもこの状況では意味が無くただ黙って俯く他なくなってしまった。
緑間君が眼鏡を押し上げ告げれば、もう僕に逃げ場はない。いくら影が薄いとは言っ
﹁それでは坂城本人がシャツを切り裂いたことになるのだよ。それはおかしい。﹂
普段お昼を食べる場所とは違い体育館の側だった意味を。
彼女がカッターを僕に押し付けた意味を。
生憎、僕はそこで気付いてしまった。
﹁違うんです⋮僕は。やっていません﹂
﹁黒子テツヤ。何か弁解の余地があるのなら今ここで証言するんだ。﹂
21
﹁⋮ました。﹂
﹁黒子っち⋮
﹂
?
彼ら︻キセキの世代︼も人間であることを
この瞬間、僕は 思い出した 。
﹁僕がやりました。﹂
第5話
22