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ピクテ・グローバル・マーケット・ウォッチ 2015年3月27日
新興国
Pictet Global Market Watch
モスクワ出張報告:冬のロシアに雪解けの兆し
ロシアとウクライナの停戦合意を受け、多数の犠牲者を出した戦争の終結に向けた進展が期待されます。ピクテ・ア
セット・マネジメント(ロンドン)でロシア株式の運用を担当するヒューゴ・ベイン(シニア・インベストメント・マネジャー)
と新興国社債チームのヘッド、アラン・ドゥフィーズがモスクワ出張の成果を報告します。
モスクワの経済状況をどう見るか?
ヒューゴ・ベイン(以下、HB):モスクワは気温がマイナ
ス20度を下回る厳しい寒さでしたが、私の見た限りで
は、概ね機能しているようでした。通貨ルーブルが昨年
ほぼ50%の減価を見たことから、今年のロシア経済は
5%のマイナス成長、一方でインフレ率は18%の上昇が
予想されており、プーチン大統領でさえ、ロシア経済は
史上「最も厳しい」2年を経験することになるだろうと認
めています。
一方、労働市場には、緊張の兆しが殆ど認められず、
モスクワ滞在中に面談することが出来た10人以上の企
業経営陣の中で、大量解雇を予定していた人は皆無で
した。足元の不況を耐えうる健全なファンダメンタルズ
(基礎的条件)を備えた多くの企業を見出すことが出来
ました。また、ロシアの貯蓄率はGDP(国内総生産)比
29%(注1)と、過去の危機時との比較では最も高い水準
に達していることが注目されます。
アラン・ドゥフィーズ(以下、AD):1998年や2008年が顕
著な例ですが、ロシアは過去にも経済危機に見舞われ
ており、したがって、政府ならびに民間企業の双方が
既に危機対応策を構築しているように思われます。西
欧による経済制裁の影響は、ロシア経済の一部には
及んでいるかもしれませんし、自発的な食料品輸入禁
止措置を受け、モッツァレラ・チーズが入手できない富
裕層がいるかもしれません。しかし、現実を見据えよう
との気迫が、ロシア全土に浸透しているように思われ
ます。
流動性不足の状況に耐え得る資本を十分に備え、短
期債務の4倍から5倍に相当する現金を保有しているよ
うな企業もあります。
図表1:ピクテ独自のモデルに基づく
ロシアルーブル(対米ドル)の適正価値からの乖離
80
60
%
ルーブル割高
適し価値からの乖離
40
+1標準偏差
20
0
-20
-1標準偏差
-40
-60
ルーブル割安
-80
93年 95年 97年 99年 01年 03年 05年 07年 09年 11年 13年 15年
出所:ピクテグループ
ルーブル安がロシア企業にもたらした
“恩恵”とは?
AD:多数のロシア企業、とりわけ、売上をドル建て、費
用をルーブル建てで計上する企業は、ルーブル暴落の
恩恵に与っています。例えば、金属セクターの一企業
はバランスシートに巨額の現金を保有していることから、
債券の満期に先立つ元本の返済を提案してきた程で
す。もっともピクテでは、当該社債を保有することで得
られる対価を勘案し、この申し出には応じませんでした。
このように、積み上がった現金の使途としての債務返
済は今後も増える公算が大きいと考えます。
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ピクテ投信投資顧問株式会社
巻末の「当資料をご利用にあたっての注意事項等」を必ずお読みください。
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新興国
HB:エネルギー・セクターもルーブル安の恩恵を享受し
ています。大手国営エネルギー企業の幹部の話では、
同社の設備投資の70%程度はルーブル建てで計上さ
れているとのことです。
エネルギー価格の急落にもかかわらず、ルーブル建て
の原油価格は、ボラティリティが急上昇した12月の一
時期を除き、昨年一年を通じて概ね安定推移していま
す。
また、エネルギーや鉱業セクターに属する企業の中に
は、営業キャッシュフローから設備投資額を減じたフ
リーキャッシュフローが歴史的な高水準にある企業も
認められます(注2)。
ピクテでは、原油価格との連動性が強いルーブルが、
今後一段の大幅下落を見る可能性は低いと考えます。
足元では、ロシアルーブルは米ドルに対してその適正
価値より60%も低い価格で取引されていると見ています
(前ページ、図表1参照) 。
図表2:ロシアの経済・金融危機対応計画概要
最低250億ルーブル以
上の資本を有し、主要
セクター向け貸出を増
やす意志のある銀行に
は、1兆ルーブル規模
の資本再構築プログラ
ムへの参加を許可する
ロシア中央銀行は、民
間銀行規制を緩和し、
今後、一段の緩和も検
討する
経済発展省は、政府支
援の対象となる主要戦
略企業199社を公表す
る
ロシア財務相は、西欧
の経済制裁下にあるガ
スプロム・バンク、VTB
等の国営銀行に資本注
入し、1兆ルーブルを上
限に、昨年発行の変動
利付連邦債を提供する
ロシア中銀の金融政策 : 金利とインフレ
率の上昇がロシア企業に及ぼす影響は?
AD:銀行セクターでは既に緊張が見られますが、中央
銀行は2014年の1年間でおよそ12%もの利上げを行っ
たわけですから、当然だと考えます。出張中に面談の
機会を得た企業幹部は異口同音に金利上昇の弊害を
訴えていました。また、農業セクター企業の経営陣は、
顧客の一部は、製品購入のための資金調達に支障を
きたしていると話していました。
出所:ピクテグループ
HB:ロシア中央銀行は、1月、主要貸出金利を17%から
15%に引き下げていますが、このことは、中銀の優先課
題が、インフレ抑制から成長支援にシフトしたことを示
唆するものだと考えます。
AD:ロシア政府は、2008年ならびに2012年と同様、350
億ドル規模の「経済・金融危機対応計画」を発表してい
ます。これは、ロシアの国民総所得の70%程度を稼ぎ
出し、労働人口の約5分の1を雇用する主要戦略企業
199社に対して、政府支援を約束するものです(図表2
参照)。
エリヴィラ・ナビウリナ総裁率いる中銀は、最近、人事
異動を行っており、経済成長の低迷等の状況に対処す
る現実的な路線に軌道を修正しているようです。また、
政府役人の話を総合すると、6.5%の利上げを伴った昨
年12月実施の緊急金融引き締め策は近日中にも解除
されるのではないかと考えます。
ルーブル安と自らが課した食料禁輸措置によって急騰
していたインフレ率も、経済の低迷などを受けて、今年
中には落ち着きを見せると考えられます。したがって、
中央銀行は経済成長を下支えするための金融政策を
取りやすくなるでしょう。
ロシア政府の金融危機対応策
当計画は、エネルギー、鉄鋼、鉱業等の主要セクター
を支援するものと考えますが、一方、ロシア経済の約
25%(注3)を占める中小企業の資金繰りについては引
き続き厳しい状況が続くものと見ています。
HB:出張中に訪問した企業の中では、景気敏感セクタ
ーに属する企業を中心に、より現実的な想定に基づき、
事業計画の練り直しを行っているとのことでした。
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2015年のロシア投資の見通しと、市場の
下落リスク
HB:ロシアの株式市場は、世界の市場の中でも投資妙
味が最も高い市場の一つとなっていることから、海外
からの投資資金は徐々に還流してくるものと考えます。
ロ シ ア 中 銀 は2015 年年 間 の ネ ッ ト の 資金 流 出 額を
1,180億ドル程度と予測していますが、この大半は外貨
建て社債の元利金支払いと見られます。
ロシア株式のバリュエーション(投資価値評価)は割安
な水準にあります。また、多くの海外投資家のポート
フォリオにおいて、ロシア株式の投資比率は低く、新興
国株式のベンチマークに対してアンダーウェイトの状態
です。こうした中で、ピクテでは特に、ルーブル安の恩
恵に与る輸出型企業や割安度が際立つ企業に注目し
ています。
一方、国内市場で売上を計上する内需型消費関連銘
柄には注意が必要です。
東部ウクライナでの停戦が、時間を要しつつも実現す
る可能性が浮上しつつあるとはいえ、政治リスクにつ
いては、引き続き注視が必要です。西欧は追加の経済
制裁の可能性を示唆しており、これがロシア経済を下
押すこととなる可能性も否めません。
AD:ロシアの外貨準備高が昨年のうちに4分の1程度
減少したことを勘案すると、ルーブルには引き続き下押
し圧力がかかる状況が続く一方、中央銀行には減価の
スピードを弱める手立てしか残されていないと考えます。
エネルギー売上は、ロシアの輸出代金の70%程度、政
府税収の50%程度を占めており、国庫が短期間のうち
に補填される公算は低いと考えます。
図表3:小売セクターに見られる改善の兆し
ロシアの食品小売最大
手、マグニットは、別会
社設立のため株式を一
部売却。海外投資家の
強い需要を受け、98億
ルーブルを調達。2015
年は、過去最大の新規
店舗開設を計画してお
り、利益率の大幅低下
なしに、危機疲れの消
費者の購買力回復に自
信を示している。
アゼルバイジャンを拠
点とするPNNグループ
は、4月末までに、モス
クワのショッピングモー
ル内に2店舗(床面積
850平方メートルならび
に900平方メートル)を出
店 予 定 。 ま た 、 2020 年
までに10店舗以上の出
店を計画。スーパードラ
イ・ブランドの衣料品の
販売を予定している。
米国のフォードは、新モデル6機種のロシア市場への
投入を年内に予定している
出所:ピクテグループ
発行体の健全な企業ファンダメンタルズを勘案すると、
リスクとボラティリティを取る対価は十分に魅力的だと
いえるでしょう。
ロシアは投資の好機を提供していると考えます。同国
のことわざにもあるように、「どんなに激しい嵐もいつか
は止み、明るい太陽が顔を出す」からです。
昨年2014年12月の時点でロシア債券の売却を控えた
投資家が、足元、売却に転じる可能性は低いと考えま
す。ロシア社債の割安度が際立つ状況は、ロシア企業
に内在する堅固なファンダメンタルズと長期的な景気
回復期待を見込んだ投資の好機を提供するものと考
えます。
割安銘柄は多数散見されます。一例として、国内経済
の苦境の影響を不当に受けた石油関連銘柄が挙げら
れます。当該銘柄の格付けはBBB-ですが、格付け会
社スタンダード&プアーズとムーディーズ・インベスター
ズ・サービスの両社がロシアのソブリン債格付けを投
資不適格に引き下げたため、当該銘柄は国債の格付
けを上回っています。また、イールド・スプレッド(利回り
格差)は350ベーシス・ポイント、(発行体等による期限
前償還等を考慮した)最低利回りは7%を上回っており、
ピクテ投信投資顧問株式会社
注1 出所:国家統計局、2013年
注2 出所:ブルームバーグ
注3 出所:欧州投資銀行
※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内
容が変更される場合があります。
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