神経系

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生物学 | 人間
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神経系
神経細胞と情報伝達
脳と脊髄
を統御し、また心臓の動き、呼吸、循環の
調節に役立っている。
外部から受けた刺激は、神経細胞によって脳へと送られる。
この情報が脳で処理されると、必要に応じて、神経を経由して
筋肉の収縮などの反応が促される。
人間の脳は、驚異的なまでに複雑な器官で、
体内に入ってくるすべての情報の統合を担っている。
脊髄では、体と脳の間の情報のやりとりが行われる。
神経系の機能と構造を担う最小単位は神
かなすき間(シナプス間隙)がある。このた
神経生物学者たちは長年にわたり、人間
積を増やし、その機能を向上させている。 維の束が伸び、脊柱内ではこれらが合流し
経細胞(ニューロン)だ。人間の体には、約
めに、刺激を受けた神経細胞の活動電位
の脳を理解するためにさまざまな努力を続
大脳皮質は、意識、知覚、思考、感情、行
て脊髄神経を形成している。脊髄の神経細
1000 億個以上のニューロンがある。
は、隣の静止状態にある神経細胞に直接は
けてきた。脳という臓器は極めて高性能で、 動をつかさどる大脳の一部だ。大脳はいく
胞は、全身各所や中枢神経系から送られる
神経系を通じて届けられるあらゆる知覚情
信号の転送を担っている。
中枢神経系の一部をなす脊髄は、脳幹か
ら出て脊柱を通り、腰まで続いている。脊髄
からは、等しい間隔をおいて多数の神経繊
H 大脳皮質のニューロン。ニューロンは大きな細胞体
を持ち、細胞体からは数本の長い突起が伸びている。
報の処理を担っている。脳の組織は、神経
気的な信号を、いったん化学
ぶ。神経細胞が刺激を受けると、細胞膜内
やその内側を覆う膜、また髄液などによ
的な信号へ変換して情報伝
に存在する細孔の構造が変化し、2ミリ秒間
って守られている。
呼ばれる化 学 物 質によって
細胞とグリア細胞からなる。脳は、頭蓋骨
行われる。つまりここでは電
神経細胞 | 情報伝達 | 脳 | 脊髄
神経系
達を行っていることになる。
神経系は、体内の生命機能を統制するだけでなく、
刺激を感じ取り、判断し、記憶することによって、
人間と周囲の世界との仲立ちをつとめている。
神経系には、脳と脊髄からなる中枢神経系と、
全身にくまなく張りめぐらされた神経繊維からなる
活動電位と静止電位
末梢神経系とがある。
だけNa + を通す。結 果、一 時
べてプラスの状態となる(脱
分極)。続いてK +が再び外
半球と右半球の間は神経繊維によ
へ流出し、Na +の拡散によっ
って接続されている。脳の左半球は
生じるなどの、膜
電位の変化をき
+
う。こうしてNa の
流入とK +の流出が
言語や分析的な思考をつかさどり、
っかけとして起こる。こうした
起きている間に、
手の小指ほどの厚さの大脳皮質で、ここに
作用に不可欠な要素が、細胞
膜電位が +30mV
はニューロンが最も密に集まっている。大
脳皮質に見られる多くのしわは、脳の表面
膜の選択的なイオン透過性と、
に達し、神経イン
細胞膜上に局在するイオンポ
パルスが生じる。
る役割を担い、周囲にさや(髄鞘)を持つも
ンプと呼ばれるタンパク質だ。
この一瞬の膜電
のもある。髄鞘は絶縁体として働くほか、軸
イオンポンプは、カリウム
索に栄養を供給する。
イオン(K )、ナトリウムイ
ニューロンは、シナプスという結合部を介
、塩化物イオン
オン(Na+)
活 動 電 位と
ば、熱いコンロに触れた手をすばやく引っこめると
可欠なこうした痛みの伝達システムを備えている。
保 つ。神 経 細 胞
+
­
内の K とA の 濃 度
H 神経系は、人間の運
は高くなり、細胞外では Na +と
動 能 力をつかさどる。
神経系がひどく傷つけ
られると、麻 痺が 起こ
る場合もある。
Cl ­の濃度が高くなる。
細胞の内外でイオンの濃度勾配が
髄鞘
いった行動だ。脊椎動物の多くは、生命維持に不
濃 度を不 均 等 に
生じていても、刺激を受けていない細
軸索
細胞体
(左から右へ)
大脳皮質、脊髄神経節、
H さまざまな神経細胞:
自律神経系、嗅粘膜の感覚細胞。
p.421(21 世紀の数学)参照
スになった状態(­ 70 ∼­ 90 mV )で平
衡に達する。この状態を静止電位と呼
basics
やがて電位は、細胞の内側がマイナ
万個。神経インパ
ルス速度は、最高
で秒速 120m だ。
い落として脳の負担を軽減し
日周リズムなどの調節も、間
脳の役割だ。間脳の一部で
は、重要な体内機能を担うホ
報転送を担っている。
頭の後部に位置する小脳
は、体の動きを調節する役割
を担い、内耳と共に体の平衡
を保っている。小脳につなが
っているのが延髄だ。延髄は
H 痛みを感じた人は、体に受けるダメージを和らげようと、
普段とは違った行動をとる場合がある。
脳の性差 成人女性の脳は約 1200g で、成人男性の
脳は約 1300g だ。ただし、脳のひだ(脳回)の数は女
性の方が多い。
脳の重さ 人間の脳の重さは体重の 2 %ほどだが、使
用する血液量は全体の 20 %にのぼる。
ている。体内の水分量、体温、
部位で、脳の各部位への情
数 は1本 に 最 大1
増加する。
覚器官と大脳との仲立ちとし
て働き、不必要な情報をふる
脳の下には中脳がある。中脳
超 ま で、シナプス
では正電荷が、細胞内では負電荷が
樹状突起
間脳と呼ばれる部位は、感
は脳の交 換 台とも呼ぶべき
長さ 1μm から 1m
オンだけが細胞外へと拡散し、細胞外
を担っている。
ルモンがつくられている。間
ニュー ロン
胞中では、膜を通過できるカリウムイ
断面図
運動皮質は骨格筋を統御する。感覚皮質は見る、聞くといった感覚を処理する。
大脳連合野は情報を統合する部位で、すべての情報を集めて高次の処理を行う。
を受けるとその情報を脳と脊髄に伝達する。これに
in focus
受容器官
(レセプター)
側面図
より、体を痛みから守るための反射が起こる。例え
膜 の 内 外 のイオン
小脳
H 大脳皮質を構成する灰白質には深いしわが刻まれ、機能別にまとまって配置されている。
存在する痛点などの神経系の受容システムは、刺激
呼ぶ。
士は直接には触れあわず、2 nm ほどのわず (A ­ )などを輸送して、
樹状突起
呼吸中枢
小脳
脳幹
痛みは体が発する警告シグナルだ。皮膚に多数
してつながっている。ただし、ニューロン同 (Cl ­ )、有 機 陰 イオン
皮膚
脳下垂体
側頭葉
痛み
位 の 変 化 を、
+
前頭葉
理する。脳の外側を覆っているのが、
短くて通常は非常に細い数本の樹状突起
軸索と呼ばれる細長い突起は、他の細胞
後頭葉
右半球は直感的・視覚的な情報を処
が、周囲に向かって伸びている。
に電気的な信号(神経インパルス)
を伝達す
頭頂葉
脳は左右対称の構造を持ち、左
刺 激の受け取りと伝 達
て生じた電気的勾配を補
大脳皮質
脳の構造
的に細胞の内側が外側に比
は、例えば神経細胞の内
部と外部で荷電に差が
つかの葉に分かれ、それぞれが特定の機能
basics
ニューロンの中心をなす細胞体からは、 伝わらない。刺激の伝達は神経伝達物質と
ものを飲み込む、吐き出すと
いった反 射にかかわる神 経
H 骨髄は、灰白質と白質からできている。中央部の灰
白質は神経細胞からなり、チョウのような形をしている。
その周囲を神経繊維からなる白質が包んでいる。