身体への刺激が脳機能を支える メカニズム

2015年4月10日 セミナー(約1時間)
身体への刺激が脳機能を支える
メカニズム
堀田晴美
東京都健康長寿医療センター研究所
自律神経機能研究室
高齢に伴う認知症有病率の増加
30
%
25
20
15
男性
女性
10
5
0
65-69
70-74
75-79
80-84 85歳以上
長寿科学辞典 (2003)より
脳の構成要素
神経細胞
脳の重さと血流量は、体重の何%?
100%
その他
脳
80%
60%
40%
20%
0%
重さ
血流量
2%
15%
脳には血管が豊富にある
Nakamura (1990)
認知症では脳血流量が著しく低下する
ml/100g/分
60
50
脳血流量
脳血管性認知症
40
30
20
10
0
老年正常者
脳血管性認知症
赫と北村(1988)
認知症の進行に伴い脳血流が低下する
ml/100g/分
60
アルツハイマー型認知症
50
脳血流量
40
30
20
10
0
老年正常者
I
II
III
赫と北村(1988)
認知症では、大脳皮質や海馬で脳血流低下が著しい
軽症例
進行例
多い
脳の血流
少ない
老人研 ポジトロン医学研究施設
マイネルト核
正常
大脳皮質
アルツハイマー型認知症
海馬
100 µm
Whitehouse et al. (1982) Science 215:1237
前脳基底部コリン作動性神経細胞数と認知機能との相関
前脳基底部コリン作動性
神経細胞数(103)
正常者
アルツハイマー
アルコール依存症
コルサコフ症
パーキンソン病
認知機能テストの点数 (MMS)
Schliebs & Arendt (2006) J Neural Transm 113: 1625
認知機能テスト (MMSE)
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
今年は何年ですか.
いまの季節は何ですか.
今日は何曜日ですか.
今日は何月何日ですか.
(5点)
ここはなに県ですか.
ここはなに市ですか.
ここはなに病院ですか.
ここは何階ですか.
ここはなに地方ですか.(例:関東地方)
(2点)
物品名3個(相互に無関係)
験者は物の名前を1秒間に1個ずつ言う.その後,被験者に繰り返させる.
正答1個につき1点を与える.3個すべて言うまで繰り返す(6回まで).
何回繰り返したかを記せ 回
(3点)
100から順に7を引く(5回まで),あるいは「フジノヤマ」を逆唱させる. (5点)
3で提示した物品名を再度復唱させる.
(3点)
(時計を見せながら)これは何ですか.
(鉛筆を見せながら)これは何ですか.
次の文章を繰り返す.
「みんなで,力を合わせて綱を引きます」
(3段階の命令)
「右手にこの紙を持ってください」
「それを半分に折りたたんでください」
「机の上に置いてください」
(次の文章を読んで,その指示に従ってください)
「目を閉じなさい」
(何か文章を書いてください)
(裏面)
(次の図形を書いてください)
(裏面)
(2点)
(1点)
(3点)
さい
(1点)
(1点)
1. 前脳基底部コリン作動系のはたらき
2. コリン作動系を活性化するには?
3. 歩くと認知機能が高まるのはなぜか?
4. 老齢でも効果があるか?
5. 歩けない場合は?
1. 前脳基底部コリン作動系のはたらき
2. コリン作動系を活性化するには?
3. 歩くと認知機能が高まるのはなぜか?
4. 老齢でも効果があるか?
5. 歩けない場合は?
前脳基底部刺激でアセチルコリンが放出される
電気刺激
大脳皮質
海馬
中隔
マイネルト核
アセチル
コリン採取
マイネルト核
ラットの脳
**
**
アセチルコリン
放出
*
1.5
1.0
pmol/
10分
0.5
0
0
50
100
200
500
刺激電流 (µA)
modified from review of Sato & Sato (1992) Neurosci Res
前脳基底部刺激で脳血流が増加する
電気刺激
大脳皮質
400
mV
脳血流
300
海馬
中隔
マイネルト核
150
mmHg
50
血圧
マイネルト核
200µA,50Hz,10s
ラットの脳
**
%
*
150
*
脳血流
*
100
0
50
100
200
刺激電流 (µA)
500
modified from review of Sato & Sato (1992) Neurosci Res
マイネルト刺激による脳血流の増加
刺激なし
刺激あり
脳血流
グルコース
利用率
Sato A & Sato Y (1995) Alzhimer Dis Assoc Disord 9:28
rat (halothane)
5mm
ネコ
ラット
マウス
大脳皮質の微小血管はマイネルト核刺激で拡張する
刺激
なし
刺激
あり
*
100
6
刺激あり
80
平均直径 (µm)
400 血管あたりの数
刺激なし
60
40
20
0
2
4
6
8 10
内径 (µm)
12
14
16
18
Hotta et al. (2004) Neurosci Lett 358:103 rat (urethane)
20<
5
4
3
2
1
0
刺激なし 刺激あり
多光子励起顕微鏡を用いたin vivoイメージング研究
刺激前
刺激中
10μm
二光子励起
顕微鏡
NBM刺激
電気刺激装置
Cont.
刺激前
刺激中
人工呼吸器
深さ30-400 µmの合成写真
体温調節装置
マイネルト核刺激は内部の細動脈を拡張させる
diameter (µm)
0
10
diameter (%)
15
20
100
0
surface
I
(6)
50
(6)
**
200
(6)
**
250
**
(5)
350
**
(5)
400
**
(5)
450
(5)
500
(4)
550
600
depth
depth
(∝m)
(µm)
**
**
**
**
**
**
(3)
*
(3)
*
control
**
(5)
**
300
**
(6)
**
150
V
(5)
**
100
II/III
110
*
*
stim.
Hotta et al. (2013) J Cereb Blood Flow Metab 33:1440
mouse (urethane)
マイネルト核の賦活は, 皮質投射線維密度に応じて
層特異的な細動脈拡張をおこす
I
cortex
II/III
V
VI
NBM
Blood flow changes due to occlusions at different levels
of cortical angioarchitecture
Downstream Vessels
Nishimura et al. (2007) PNAS 104:365
rat (urethane)
大脳皮質における層状脱落
正常
変性
II-III層の神経細胞が消失
水谷俊雄(1994) 脳の老化とアルツハイマー病
より改変
4動脈結紮後の海馬での遅発性神経細胞死
3日
7日
7d
5日
5d
1000
4分
800
損傷神経
細胞数
∗
600
400
8分
6分
∗∗
∗
∗
∗
∗
200
0
結紮なし
1
2
3
4
∗
∗
5
∗
∗
6
7
結紮後の日数
Kagitani et al. (2000) Jpn J Physiol
アセチルコリン受容体刺激薬で脳血管閉塞の影響が軽くなる
∗
100
%
脳血流
20
10
0
∗
800
正常神経
細胞数
400
0
正常
Kagitani et al. (2000) Jpn J Physiol
薬なし
薬あり
結 紮
間欠的一側総頸動脈結紮
間欠的一側総頸動脈結紮
%
150
100
50
0
マイネルト核刺激
結紮, 60 分
結紮, 60 分
対照
結紮
損傷ニューロン数
減少
刺激なし
刺激あり
増加
Hotta et al. (2002) Jpn J Physiol 52: 383 rat (halothane)
神経成長因子(NGF)
Levi-Montalcini (1909~2012)
1986年ノーベル生理学・医学賞
神経成長因子を発見(1951年)
大脳皮質のNGF-様 免疫活性
刺激なし
マイネルト核刺激(5時間後)
Hotta et al. (2009) Neurosci Res
マイネルト核刺激はNGF分泌を増加させる
細胞外液中のNGFの採取
緩衝液, 2 µl/分
NGF 濃度
pg/ml
40
* * *
30
2 cm
20
10
2 mm
サンプル
600
分
500
400
300
200
100
100分毎
0
-100
0
マイネルト核刺激, 100分
Hotta et al. (2007) J Physiol Sci 57: 383
rat (halothane)
刺激によるNGF反応はアセチルコリン受容体遮断薬で消失する
ムスカリン受容体遮断薬
60
40
40
20
20
20
0
0
0
200
*
*
*
*
*
*
*
*
500
400
300
200
0
100
0
0
0
-100
50
500
50
400
50
300
100
200
100
100
100
0
*
*
150
*
*
*
*
*
*
*
*
500
分
*
*
150
##
400
#
300
200
*
*
200
200
%
150
*
0
*
-100
pg/ml
40
*
*
*
*
100
ニコチン受容体遮断薬
60
-100
脳血流
NGF 濃度
コントロール
刺激
Hotta et al. (2009) Neurosci Res
コリン作動性神経は脳血流とNGFを増やして脳をまもる
神経細胞保護
血管拡張
NGF分泌
大脳皮質・海馬
NGF
ニコチン受容体
ムスカリン受容体
アセチルコリン
アセチルコリン
血管
NGF-産生
神経細胞
前脳基底部
コリン作動性
神経細胞
1. 前脳基底部コリン作動系のはたらき
2. コリン作動系を活性化するには?
3. 歩くと認知機能が高まるのはなぜか?
4. 老齢でも効果があるか?
5. 歩けない場合は?
アセチルコリンの作用を高める薬
46
cm/s
アルツハイマー型認知症
脳血流量
44
42
40
38
投与前
1ヶ月目
2ヶ月目
ドネペジル投与後
Rosengarten et al. (2006)J Neurol 253: 58
アセチルコリン作用薬で起こりうる副作用
副交感神経作用
• 心臓: 徐脈・不整脈
• 消化管: 胃酸分泌の促進・消化管運動の促進
• 呼吸器: 気管支の平滑筋収縮・粘液分泌亢進
その他
• 線条体のコリン系: パーキンソン症状
脳深部刺激療法
日大脳外科のホームページより
http://www.med.nihon-u.ac.jp/~neuro-s/neuro-s/subsupecialty/function.htm
コリン作動性神経を
活性化するには?
~薬や手術に頼らない方法~
よく歩く人は認知機能が良い
0.08
認知機能テストの得点差
0.07
0.06
0.05
0.04
0.03
0.02
0.01
0.00
基準
6分以下
6分~
12分
12分
~24分
24分以上
1日あたりの歩行時間
Weuve et al. (2004) JAMA 292: 1454
human
動物でも運動が学習能力を高める
14
12
学習テスト 10
の得点
8
6
4
2
0
対照
運動
Radák et al. (2001) Neurochem Int. 38:17, rat (conscious)
1. 前脳基底部コリン作動系のはたらき
2. コリン作動系を活性化するには?
3. 歩くと認知機能が高まるのはなぜか?
4. 老齢でも効果があるか?
5. 歩けない場合は?
歩行は大脳皮質や海馬でのアセチルコリン放出と血流を増加させる
歩行 (4 cm/s)
LDFM
脳血流
血圧
S
300
250
アセチルコリン放出
(fmol / 3min)
∗
∗
200
∗
150
100
50
0
-12 -9 -6 -3
0 3
歩行
6
9 12 15 18 min
Nakajima et al. (2003) Auton Neurosci 103: 383
rat (conscious)
前脳基底部刺激と歩行による脳血流とアセチルコリンの反応
脳血流
前脳基底
部刺激
歩行
アセチルコリン放出
%
140
250
%
130
200
%
110
120
110
105
100
100
150
100
%
140
250
130
200
120
%
110
110
105
100
100
前頭葉 頭頂葉 後頭葉
大脳皮質
150
100
海馬
data from Kurosawa et al. (1989), Cao et al. (1989), Adachi et al. (1990),
Kimura et al. (1994), Nakajima et al. (2003)
頭頂葉
海馬
大脳皮質
脳血流増加に対するアセチルコリン受容体遮断薬の効果
150
%
前脳基底部
刺激
歩行
海馬血流
大脳皮質血流
(頭頂葉)
150
100
100
*
50
*
*
50
0
0
150
150
100
100
*
50
0
*
*
50
対照
MEC
ニコチン
ATR
ムスカリン
受容体
遮断薬
受容体
遮断薬
0
対照
MEC
ATR
ニコチン
ムスカリン
受容体 受容体
遮断薬 遮断薬
data from Cao et al. (1989), Kimura et al. (1994), Nakajima et al. (2003) Hotta et al. (2009)
歩行はコリン作動系を活性化して
脳血流を増やす
遅い
(2 cm / 秒)
普通
(4 cm / 秒)
速い
(8 cm / 秒)
mV
340
海馬
血流
300
血圧
20
歩行,30秒
mmHg
Nakajima et al. (2003) Auton Neurosci 103: 383
rat (conscious)
神経細胞保護
血管拡張
NGF分泌
大脳皮質・海馬
NGF
ニコチン受容体
ムスカリン受容体
アセチルコリン
アセチルコリン
血管
NGF-産生
神経細胞
前脳基底部
歩行
コリン作動性
神経細胞
1. 前脳基底部コリン作動系のはたらき
2. コリン作動系を活性化するには?
3. 歩くと認知機能が高まるのはなぜか?
4. 老齢でも効果があるか?
5. 歩けない場合は?
100
生存率(
%)
ヒト(日本人)の
生存曲線
75
男
女
50
25
0
0 10
20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120歳
100
生存率(
%)
ラット(♂)の
生存曲線
75
50
25
0
0
1
2
3歳
マイネルト核刺激による反応の加齢変化
#
%
180
140
NGF
100
#
%
140
脳血流
100
%
500
アセチルコリン
300
100
成熟
老齢
(~2歳)
data from Uchida et al. (2000) Neurosci Lett, Hotta et al. (2009) Neurosci Res
超老齢
(~3歳)
ヒトの大脳皮質のアセチルコリン受容体数の加齢変化
ニコチン受容体
受容体数
ムスカリン受容体
年齢(歳)
年齢(歳)
Nordberg et al. (1992) J Neurosci Res 31: 103
human
老齢ラットでも歩くと海馬の血流が増える
成熟ラット
海馬
血流
血圧
老齢ラット
340
mV
370
290
320
20
20
mV
mmHg
mmHg
歩行, 30秒
歩行, 30秒
(4 cm / s)
(4 cm / s)
modified from Uchida et al. (2006) J Physiol Sci
rat (conscious)
長期運動 (5-6ヶ月間)
輪回し運動量
3.5
歩行距離 (km/日)
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
成熟
老齢
歩行中の増加率 (%)
長期運動の効果
脳血流
対照
運動
アセチルコリン放出
200
150
100
対照
40
mV
老齢
歩行 4cm/s, 3 min
ニコチン
受容体
遮断薬
#
歩行中の増加率 (%)
運動
110
105
100
対照
運動
老齢
対照
運動
老齢
金井ら(2007)自律神経, rat (conscious)
前脳基底部のコリン作動性神経細胞
神経細胞のサイズ
µm2
150
運動
対照
100
*
50
0
老齢
金井ら(2007)自律神経, rat (conscious)
前脳基底部コリン作動系に及ぼす加齢と長期運動の影響
長期的効果
老化
脳血流
血管拡張
NGF分泌
NGF
NGF
受容体
アセチルコリン
放出量
アセチルコリン
コリン作動性
神経
神経細胞体
数
神経細胞体
サイズ
運動
1. 前脳基底部コリン作動系のはたらき
2. コリン作動系を活性化するには?
3. 歩くと認知機能が高まるのはなぜか?
4. 老齢でも効果があるか?
5. 歩けない場合は?
噛むと脳血流が増加する
噛まない
噛む
Momose T ら (1997)
皮膚刺激はコリン作動系を賦活して脳血流を増やす
増加率(%)
脳血流
120
大脳皮質
100
アセチルコリン
増加率(%)
120
100
増加(Hz)
前脳基底部の神経活動
10
Sato et al (1997)
Rev Physiol Biochem
Pharmacol 130: 1-328.
より作成
rat (urethane or halothane)
0
顔
手
背中
足
皮膚・関節刺激で脳血流は増加する
490
mV
大脳皮質
血流
450
血圧
10
mmHg
手の皮膚刺激
(ネコの脳)
刺
激
中
の
血
流
%
108
104
大脳皮質血流
肘関節刺激, 30秒
*
*
*
100
手の皮膚刺激
Hotta et al. (2005) Neuroreport 16:1693
cat (urethane-chrolarose)
(ブラシでこする)
肘関節刺激
皮膚刺激による大脳皮質血流の増加
脳血流
画像
差し引き
画像
右
大脳皮質
血流
Piché et al (2010)
J Physiol 588:2163
rat (urethane)
血圧
左足をブラシでこする刺激, 3分
マイネルト核を不活性化すると反応が小さくなる
GABA受容体
刺激薬投与
%
対照
130
120
右
大脳皮質
血流
*
* *
*
不活性化後
*
*
* *
*
*
**
*
* * * *
** * * * *
110
100
0
1
2
3
4
0
1
2
3
4 min
左足をブラシでこする刺激, 3分
Piché et al (2010) J Physiol 588:2163
rat (urethane)
マイネルト核刺激と皮膚刺激によるNGF分泌の増加
*
pg/ml
30
pg/ml
30
20
20
10
10
0
0
大脳皮質
NGF
対照
刺激
mecamylamine
pg/ml
30
大脳皮質
NGF
対照
20
20
10
10
0
0
刺激
刺激
mecamylamine
n.s.
pg/ml
30
n.s.
対照
*
Hotta et al.
(2014)
J Physiol Sci
64:253
rat
(halothane)
対照
刺激
fMRI
left (ipsilateral) hemisphere
cortex
大脳皮質
right (contralateral) hemisphere
%
102
100
98
brushing,
left hindlimb
brushing,
left hindlimb
マイネ
NBM
%
102
2 mm
ルト核 100
98
-20
0
20 40 60
time (sec)
80
-20
0
20 40 60
time (sec)
Hotta et al. (2014) J Physiol Sci 64:253
rats (urethane)
80
brushing,
left hindlimb
brushing,
left hindlimb
%
102
2 mm
100
98
-20
0
20
40
60
80
0
#
%
102
マイネ
NBM
ルト核
-20
*
101
100
Hotta et al. (2014)
J Physiol Sci 64:253
rats (urethane)
99
left
right
(ipsilateral)
(contralateral)
20
40
60
80
身体への刺激は、コリン作動系を活性化し脳機能を支える
神経細胞保護
血管拡張
NGF分泌
大脳皮質・海馬
NGF
ニコチン受容体
ムスカリン受容体
ACh
ACh
血管
NGF-産生
神経細胞
前脳基底部
歩行・皮膚刺激
コリン作動性
神経細胞