ヘッジF日本株「損失補填売り」に一巡感

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株式会社ジャパンエコノミックパルス
Japan Economic Pulse Co., Ltd.
ヘッジF日本株「損失補填売り」に一巡感
原油安、半年後に日本経済に 7 兆円の景気浮揚効果
原油安に米国株安やギリシャのユーロ離脱懸念な
ど外部環境の悪化が日本株を「ジェットコースター
相場」の波乱の日々に追い込んだが、ここに来て原
油急落に伴う巨額損失を補填すべく利益の乗ったダ
ウ平均株価や日本株、そして円売り持ちに白羽の矢
を向けたヘッジファンドの「損失補填売り」に一巡
感が抬頭、肝を冷やした激しい円高・株安調整相場
がようやく最悪期を脱したようだ。
利が乗った日本株と円に損失補填の「白羽の矢」
「原油価格の急落が米株式市場及び米国経済にと
って悪材料であるとの証拠がほとんどなく、実際、
真実はその真逆であり、過去の原油安は株価上昇に
繋がった」-。
米バロンズ誌は新年 1 月 12 日号で『The Ghost of
oil prices past(原油にまつわる亡霊)
』と題し、
こう言い切った。
確かに、米国だけでも原油下落は、アナリストが
S&P500 のエネルギー企業の昨年 10-12 月期業績予
想を 25%以上下方修正する等、企業収益見通しに負
の影響を及ぼす。
だが、
「米国は原油消費の 4 分の 1 を未だ海外から
輸入し、原油価格の下落は 1400 億ドル(約 16.4 兆
円)もの恩恵を経済にもたらし、家計は 1 世帯当た
り約 1400 ドル(約 16 万円)の恩恵を享受する」
(バ
ロンズ誌)という。
原油安のマイナス要因より、プラス要因が上回り、
米消費財販売やサービス関連企業の 2015 年の業績
が過去最高に達するとのアナリス予想を同誌は紹介
している。
確かに、アベノミクス強靭化への動きは鈍いし、
佐賀県知事選で与党候補が敗北した「佐賀の乱」に
より岩盤規制の改革牙城、農業・農協改革の後退が
懸念される。
米国では信用力の低いエネルギー会社 30 社リス
トが流布され、原油安が米シェール関連企業の破綻
を招くと信用リスクが高まりつつある。11 日には米
金融大手ゴールドマン・サックスが「半年後に 1 バ
レル 40 ドル割れ」と原油予想を引き下げた。
原油安が長期化すれば、
「米シェール企業の整理に
伴う損失が 100 億ドル規模に膨らむ」とウォール街
に懸念がくすぶる。
だが、日本株に固有の売り材料がある訳ではない。
唯一の売り方は、東京証券取引所の出来高 6 割強を
占める外国人投資家、とりわけヘッジファンドの原
油急落に伴う「損失補填売り」に他ならない。
事実、ヘッジファンドは原油急落の損失穴埋めで
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2015/1/19
利益の乗ったダウ平均株価と日本株、そして円安に
白羽の矢を向けた。ダウ平均は「サンタクロース・
ラリー」に最高値を更新した 12 月 26 日の 1 万 8103
ドルから急反落し、その後イエレン・プットで急反
発したものの原油続落と平仄を合わせ、1 月 16 日に
は安値 1 万 7243 ドルへと売り直された。
日経平均株価も 12 月 8 日高値 1 万 8030 円から原
油急落と軌を一にして 12 月 17 日安値 1 万 6673 円に
急落、その後反発して 1 万 8000 円に迫るも売り直さ
れ、1 月 16 日に 1 万 6592 円の二番底へと売り込ま
れたが、その後の反発となってヘッジファンドの損
失補填売りに一巡感が抬頭している。
10.31「ハロウィン緩和」の黒田バズーカ砲で 1
ドル=121 円台に駆け上がった円安が、ヘッジファ
ンドの損失補填の手仕舞いで 116 円へ約 5 円の円高
を強いられた。だが、14 日の海外市場での原油先物
の反発と軌を一にした 118 円に迫る円安回帰で円相
場にも底入れ感が抬頭している。
むろん、円相場が 116 円で底打ちし、115-125 円
レンジで定着すれば、成長率底上げと雇用・所得の
増加が期待できる。内閣府の経済財政白書(2009 年
度)では「いずれの国でも自国通貨高は景気にマイ
ナス」と明記してある。日本に限らずどこの国でも
自国通貨安は GDP を増加させ、失業率が低下する。
しかも、ここに来て円安による景気浮揚と雇用・
所得増大への具体的事例が増えてきた。パナソニッ
クが製造拠点を国内に移す方針を打ち出し、続いて
シャープやホンダ、TDK、ダイキン工業などが中
国現地生産を見直し、国内生産への回帰を強めてい
る。製造業の生産拠点の国内回帰は、安倍政権の地
方創生には格好の追い風となろう。
来期 2 桁増益に原発再稼働や賃上げ等の株高要因
原油安が中長期的に消費国経済にプラスに働くこ
とは間違いない。実際、供給過剰を嫌気して原油が
46%下落した 1986 年、米国 GDP は 2.9%増大し S&
P500 指数は 15%上昇した。
「原油安は産油国から消費国への 1 兆ドル超の所
得移転を意味する」(シティグループのエコノミス
ト)
。IMF(国際通貨基金)は原油価格が 3 割下落す
れば先進国の成長率を 0.8%底上げするとの試算を
示した。ラガルド IMF 専務理事は「原油安は総じて
世界経済にプラス」と言い切った。
世界銀行は 1 月 13 日発表の経済見通しで 2015-16
年の世界経済の成長率見通しを引き下げたが、
「原油
安は原油輸入国の経済を押し上げるため世界経済に
とっては差し引きでプラスの影響を及ぼす」と明記
した。
とりわけ 100%輸入に依存する日本経済には、半
年後に特別ボーナスとなって景気浮揚効果が発揮さ
れると期待される。昨年 11 月発表の OECD(経済協
力開発機構)エコノミック・アウトルックによれば、
日本の 2014 年の経済成長率は 0.4%だが、15 年は
0.8%に浮揚する。
日銀短観を見ても 14 年上期に比べ下期は設備投
資が上方修正され、有効求人倍率もかなり高く、小
売業販売額も回復している。消費税再増税も延期さ
れ力強くはないが景気循環は心配ない。
アベノミクスの司令塔である甘利明経済再生相は
新年 1 月 9 日の会見で、
「原油価格が 1 バレル約 100
ドルだったピーク時から 3 割下がると 4 兆円程度、
国内経済にプラス。現在は 5 割以上下がっているの
で 7 兆円ぐらいのプラスになる」と明言した。
原油安に伴う 7 兆円の景気浮揚効果は内閣府の試
算であり、昨春 4 月の消費税 8%への引き上げ分 3%
の再引き下げに匹敵する景気刺激だ。
しかも、アベノミクス強靭化へ「大筋合意」に向
けた TPP 交渉が 2 月にも「天王山」を迎え、4 月の
九電川内原発の再稼働、春闘での 2%賃上げ成就、
法人税減税による企業収益かさ上げ、来期 2 ケタ増
益見通しなど株高要因が目白押す。
すでに師走選挙後、安倍首相は経済 3 団体のトッ
プに賃上げを要請、消費税増税の影響が一巡する 4
月以降、春闘で 2%の賃上げが実現すれば個人消費
は刺激される。
原油安は日本の物価を 1%程度押し下げるから、
2%物価目標の未達に絡み追加緩和期待がくすぶり
続ける。何より、GPIF(年金積立金管理運用独立行
政法人)の国内株式比率が 25%に引き上げられ、そ
の他共済年金を加えた公的年金の日本株買い余力が
12 兆円程度と推計される。
GPIF の買い増しは 2-3 年を要しそうだが、少なく
とも 15 年中に 3-4 兆円の買い増しが期待され、日銀
は ETF(上場投資信託)購入に 3 兆円を用意してい
る。
原油安は短期的には海外投機筋の損失補填売り株
安要因となるが、中長期的には明確な景気浮揚効果
となって株高要因とされる。
いずれにせよ、マクロ経済の好転は、ミクロの企
業業績に好影響を及ぼし、日本経済及び日本株を支
えよう。来期 10%超の増益を前提にした EPS(1株
利益)1300 円、PER(株価収益率)15 倍として日経
平均は 3-4 月に向け依然として 1 万 9000 円台への上
昇が期待される。
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