マーケットの底 流 を読 む 株式会社ジャパンエコノミックパルス Japan Economic Pulse Co., Ltd. スイス批判でサプライズ策「自制」機運 リスク回避を緩和、原油や賃金復調で緩和競争も一服 スイス中銀が 1 月 15 日、スイス・フランの対ユー ロ相場の上限撤廃を突如発表して以降、世界の中央 銀行などによるサプライズ政策が相次いでいるが、 スイス中銀の「根回しなき」突発対応と市場混乱に は各国当局から批判がなされている。少なくとも先 進国ではサプライズ政策への自制ムードがあり、金 融資本市場ではリスク回避の緩和や市場変動率(ボ ラティリティー)の安定要因として注視されよう。 同時に原油反発や米英などでの賃金復調を受けて、 世界的な金融緩和競争も一服となっている。 政策不透明性がリスク回避と変動率上昇を招く 「スイス中銀のサプライズ的な政策変更と市場混 乱の誘発に関しては IMF のみならず、米国や欧州の 政策当局からも猛烈な批判と抗議がなされている」 ――。 日本の財務省幹部はこのように打ち明ける。実際 に IMF のラガルド専務理事は 1 月 15 日、スイス中銀 による上限撤廃の直後に行われた米 CNBC テレビの インタビューで、 「事前通告を受けず驚いた」と述べ るとともに、中央銀行や国際金融当局者の間では「コ ミュニケーションが必要だ」と不快感をにじませた。 その後、1 月 19 日には「なぜこのような決定に至っ たのか理解できる」とスイス中銀を擁護しながらも、 「私の理解ではごくごく少数の人間しか知らされて いなかった」、 「この極めて不安定な動きが、長く忘 れられることを望む」などと語り、今後の混乱回避 にクギを刺している。 もともと意表をつくサプライズ策は、昨年 10 月末 の日銀による追加緩和策が先べんをつけた。年明け からはスイス中銀と前後する形で、各国中銀から予 想外の政策変更が続出。インド中銀は1月 15 日に緊 急利下げを実施し、シンガポール通貨庁(MAS)は1 月 28 日、通貨取引バンドの傾斜を緩やかにする金融 緩和を断行した。最近では 2 月 12 日にスウェーデン 中銀が政策金利をマイナスに引き下げ、予想外の国 債購入策(量的緩和)を打ち出している。 いずれも世界的な通貨安競争や金融緩和競争に乗 り遅れまいとする焦燥感や、政策効果を最大限に発 揮させるという狙いなどにより、サプライズ策が断 行されてきた。しかし、スイス中銀の教訓のほか、 ギリシャ債務問題などで世界の金融資本市場に不安 定化のリスクがある中で、 「少なくとも日米欧などの G7 を中心とした先進国では、政策協調と連携強化の 締め直しが行われている」 (前出の財務省幹部)とい う。 スイス中銀のサプライズ策以降、国際金融の各種 [email protected] 2015/2/23 市場では「政策の予測可能性低下」や「スイス中銀 発の市場混乱を受けた損失拡大」 、「政策当局の市場 との対話に対する不信感」などを受けて、リスク回 避の動きが広がった。それが流動性の低下や市場変 動率(ボラティリティー)の上昇を招き、米銀大手 からは予期せぬ市場リスクに備えて、外国為替取引 の手数料を引き上げる動きまで見られている。こう したリスク回避の負の連鎖は 1 月以降、安全逃避に よる先進国の国債逃避(金利は低下)や原油などの 資源相場下落、世界的なデフレ懸念による国債シフ トと株式忌避、各国の金利低下とリスク回避による 円高――という共振連鎖を助長させてきた。 しかし、2 月からはこうした流れに反転逆流が見 られている。その中での先進国中銀によるサプライ ズ策の自制ムードもまた、リスク回避の後退とボラ ティリティーの安定化を支援しよう。実際に米国債 市場でリスク回避の度合いを示すスワップ・スプレ ッド(スワップ金利と国債利回りの差)は、1 月 27 日に 15.51 ベーシス・ポイント(bp)と昨年 10 月 17 日以来の拡大幅を記録したあとは、縮小方向へと 転じている(=信用不安の後退)。19 日には 12.47bp まで低下する場面があり、日足・一目均衡表チャー トでは、2 月 27 日にかけて変化日を示す「雲のネジ レ(現状は 12.35-12.38 前後) 」が観測されており、 雲のネジレの下抜けを意識した一段のスプレッド縮 小と安全逃避の後退が焦点になってきた。 米仕入価格の予測、2 月に底入れ上昇 ただでさえ、2015 年の年明け以降は世界的な金融 緩和競争の中で、スイス、豪州、カナダ、ロシア、 インド、ペルー、パキスタン、トルコ、エジプト、 デンマーク、スウェーデン――などの各国中銀が相 次いで利下げを行ってきた。こうした景気刺激策は 1 月までの原油急落の累積効果とあいまって、先行 き世界経済を浮揚させていくものだ。前出の財務省 幹部によると、 「IMF は世界経済の減速リスクに警告 を発し、各国に成長戦略の発破をかけつつも、最新 の経済予測では米国や非産油国を中心として、年後 半にかけての緩やかな景気回復を見込んでいる」と いう。現状からの世界緩和競争を一服させ、為替相 場では円高歯止め要因となる。 また、原油相場は 2 月以降、米国での生産削減な どで下げ止まりに転じているが、一方では先行きの 世界景気の持ち直しと緩やかな需要回復を織り込ん でいる側面も見逃せない。同時に世界的なデフレ懸 念の一因となっている賃金の低迷についても、米国 で 1 月の平均賃金が改善したほか、英国でも 18 日、 12 月の週平均賃金・3 カ月平均成長が前年比+2.1% となり、市場予想の+1.7%や前月修正値の+1.8% を上回る上昇を見せた。昨年 6 月の-0.1%をボトム として、2013 年 6 月以来の高水準を回復している。 歴史的に英国の賃金や金利動向は米国に先行性を 有しており、英国や米国では過去の超緩和策の累積 効果などを受けた「遅行指標」である賃金の回復が 焦点になってきた。米国では小売業世界最大手の米 ウォルマートが 19 日、米国内の店舗で働く約 50 万 人の従業員を対象に、時間当たり最低賃金を引き上 げると発表している。連邦政府が定めた最低賃金を 1.75 ドル上回る 9 ドル(約 1070 円)に引き上げ、 1 年後には 10 ドルとする計画だ。 「低賃金」との批判を受けてきたウォルマートが 時給を引き上げることで、他の米国企業への追随波 及が注目されている。その中で 24-25 日に予定され るイエレン米 FRB 議長の議会証言は、 「利上げ時期の 前倒しが示唆されないまでも、期待ほどのハト派(緩 和支持)にもならない」という警戒感が浮上してき た。18 日には 1 月 27-28 日開催分の FOMC 議事録で 利上げを急がない姿勢が示されたが、この会合は 1 17 米10年物の対国債スワップ・スプレッド 日足・一目均衡表、ユーロ/円 ↑リスク回避↑ 雲下抜け 攻防 雲 ↓ 16 15 14 13 12 2.6 2.5 2.4 2.3 2.2 2.1 2.0 1.9 1.8 1.7 1.6 ↓リスク選好↓ 11 3/25 3/12 2/27 2/16 2/3 1/21 1/8 12/26 12/15 12/2 11/19 11/6 10/24 10/13 SP(左軸) 先行スパン1 先行スパン2 米10年債(右軸) 9/30 9/17 9/4 8/22 8/11 7/29 7/16 7/3 bp 月の雇用統計と平均賃金の改善が明らかになった 2 月 6 日の以前に開催されたものだ。その後の株高や 原油下げ止まり、賃金改善などもあり、イエレン証 言では「過度なハト派期待の揺り戻し」のリスクが 注視されつつある。 おりしも米国の長期スパンでの経済成長やインフ レ動向が反映される米 30 年債金利は、週足テクニカ ルで 13 週移動平均線 2.64%を上抜けしてきた(19 日終値は 2.73%) 。このまま上抜け定着してくると、 実に 2014 年 1 月以来の現象となる。最新 2 月の米フ ィラデルフィア連銀製造業景指数では、「仕入価格」 の 6 カ月先予想が 32.2 となり、資源急落を受けた 12 月の 22.3、1 月の 26.0 という低迷を経て、昨年 9 月以来の水準を回復してきた。インフレ低下の一服 を示唆するもので、過去には 30 年債金利や 10 年債 金利の底入れと符号している。 米国の 30 年債金利はドル/円や日経平均と一定の 相関性を有しており、一旦の下限到達と緩やかな「正 常化」による下限の切り上がりは、中長期スパンで のドル高・円安と日本株の上昇トレンドを支援しよ う。 18,800 17,800 16,800 15,800 14,800 13,800 12,800 11,800 10,800 9,800 8,800 7,800 6,800 米ヘッジファンド・リサーチ社 HFRXグローバル・ ヘッジファンド指数 週足・一目均衡表、日経平均 1,370 1,330 1,290 1,250 1,210 1,170 1,130 1,090 1,050 ↑ 株高↑ ↑ 雲 ↑上抜け ↑ 雲上抜け 攻防 May-15 Dec-14 Jun-14 Dec-13 Jun-13 Jan-13 Jul-12 Jan-12 Jul-11 Feb-11 Aug-10 Feb-10 Aug-09 Mar-09 Sep-08 Mar-08 Sep-07 Apr-07 Oct-06 Apr-06 Oct-05 May-05 Nov-04 HFRX(左軸) 先行スパン1 先行スパン2 日経平均(右軸) % 円 お客様は、本レポートに表示されている情報をお客様自身のためにのみご利用するものとし、第三者への提 供、再配信を行うこと、独自に加工すること、複写もしくは加工したものを第三者に譲渡または使用させる ことは出来ません。情報の内容については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありませ ん。また、これらの情報によって生じたいかなる損害についても、当社および本情報提供者は一切の責任を 負いません。本レポートの内容は、投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、勧誘を目的とし たものではありません。投資にあたっての最終判断はお客様ご自身でお願いします。
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