邦銀「海外攻勢」で円安メリット増大

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邦銀「海外攻勢」で円安メリット増大
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為替差益増加、緩和マネー溢出と円安・脱デフレ好循環
日本の銀行は海外展開を強化しており、海外収益
の為替差益増加などを通じた「円安メリット」が増
大しつつある。IMF は 8 日の世界金融安定報告で「日
本の銀行がアジアを中心に海外で攻勢をかけてい
る」という分析を示し、大手邦銀の総融資額に占め
る海外貸し付けの割合は 2013 年時点で約 31%と推
計した。日銀による異次元緩和マネーが、邦銀の海
外融資拡大や海外金融機関の買収などを通じて間接
的に国外へと溢出し、それに伴う円安が「海外収益
の円換算カサ上げ」や「国内での脱デフレ」を通じ
て銀行に好循環をもたらしている。
日銀緩和、間接的に海外向け貸出に波及
「2013 年入り後に銀行貸出は国内向けだけでなく、
海外店による非居住者向けも大きく増加している。
こうした海外店の貸出増加は、海外店による現地で
の資金調達(預金・CD)だけでなく、本支店勘定を
通じた国内店から海外店への貸出によってもファイ
ナンスされている。このことは、日本銀行の国債買
入れに伴うポートフォリオ・リバランスが、国内向
け貸出の増加という形に加え、海外向け貸出の増加
にもつながっていることを示唆している」――。
日銀の企画局は昨年 6 月、
「日本銀行の国債買入れ
に伴うポートフォリオ・リバランス」の効果に関し
てこのようなレビューを取りまとめている。それか
ら約 1 年後の 4 月 8 日、IMF は世界金融安定報告の
中で、
「日本と中国の大手銀行がアジアを中心に海外
で攻勢をかけている」という特集レポートを取りま
とめた。2008 年のリーマン・ショック以降、欧米勢
が本国重視の傾向を強め、アジアで事業の撤退や縮
小を進めたことなどが背景にあるとしている。
IMF によれば、国内での成長の展望が限られてい
ることもあり、日本の 3 大銀行は 2013 年に実施した
融資のうち、海外向けの占める割合を 31%超と 2009
年の 18%から増加させた。さらに IMF は「中国の銀
行が自国の顧客に追随する形で海外にオフィスや支
店を開設してきたのに対し、日本の銀行は買収によ
って海外に進出してきた」(ブルームバーグ)と指摘。
日本の銀行は 2012-14 年に海外での銀行や資産運
用会社の買収に 1 兆円超を費やしたとしている。
2013 年 4 月以降の日銀による量的質的緩和が、間
接的ながらも邦銀による海外向け融資拡大や海外金
融機関の買収を通じ、国外へと溢出している構図だ。
現在は世界的に超低金利が続いているため、海外で
の資金調達はドルベースや現地通貨ベースとなるケ
ースもあり、直接的な為替相場への影響は中立なが
ら、海外の金融機関を買収する場合、
「アジア向けな
2015/4/10
どでは円金利の大幅低下を活用し、円投ベース(円売
り・外貨転)で手当てを行うケースが多い」(メガバ
ンク幹部)という。
邦銀の海外向け貸出増加を示唆する形で、日銀統
計による国内銀行の資産・負債では「海外店の貸出」
が今年 2 月に前年比+13 兆円の 66 兆 4824 億円とな
った。円安による為替換算でのカサ上げ効果はある
ものの、異次元緩和前の 2013 年 3 月からは+22 兆
円の増加となっている。また、日銀の資金循環によ
ると、
「国内銀行の対外直接投資」はストックベース
で 2014 年 10-12 月に 9 兆 5011 億円となり、やはり
2013 年 3 月比では+2 兆円の増加となっている。
こうした海外向け投融資や対外直接投資の拡大は、
為替ヘッジや外貨調達ベースによる為替中立化の部
分があっても、円安・ドル高が進むと、決算発表で
は時価評価上、円ベースの収益で為替差益が上乗せ
されていく。海外金融機関の買収などで対外資産が
増加するなかで、円安・ドル高が進めば、単純に保
有資産の円換算額が為替評価でカサ上げされる。
IMF、国際展開で中国よりも日本の銀行評価
当面は 5 月 8 日前後から発表が始まる昨年度の銀
行決算が注目材料となるが、海外業務での収益底上
げも注目材料となりそうだ。ちなみにドル/円は日銀
集計による東京市場・中心相場ベースでの月中平均
が、決算月の今年 3 月に 120.39 円となった。昨年 3
月の 102.27 円からは+17.7%のドル高となってお
り、為替変動に関連した部門ではその分の為替差益
が期待されやすい。
過去の 3 月における前年比では、2013 年 3 月の+
14.9%や 1997 年 3 月の+15.9%、1996 年 3 月の+
16.6%を上回る大幅なドルの上昇率となっている。
銀行のみならず、今 3 月決算では国際型企業全般で
「前年比での為替評価額のカサ上げ効果」が注目さ
れそうだ。
現在の銀行業は国内での内需回復や脱デフレも支
援材料となっているが、最新 3 月の日銀短観では、
銀行業の業況判断 DI が+25 となり、12 月の+21 か
ら+4 の改善となった。2008 年 3 月以来の高水準を
回復したほか、大企業・製造業の「12 月、3 月とも
に+12」という横這いを大きく上回っている。
もちろん、日銀の異次元緩和を含めたアベノミク
スは銀行に対し、国債取引業務での収益減少や長期
金利の大幅低下による利ざや縮小、円安による中小
企業・地方・家計への打撃といったマイナス影響を
与えている。一方で円安・脱デフレや長期金利の低
下は、銀行に対して、1)企業業績の改善による貸出
収益の増加と与信リスクの低下、2)保有株式や不動
産の含み益増加、3)超低金利の円調達による国際競
争での優位性、4)局地的な資金需要の高まり――と
いったプラス効果をもたらしている。同時に海外展
開拡大の中での円安は決算上の為替差益を増加させ、
銀行による対外投融資や対外直接投資の拡大自体も
部分的に円安を後押しさせていく。銀行にとっては、
円安と脱デフレの共振連鎖が好循環入りにつながっ
ている。
現在の東証・銀行業指数は円安一服などもあり、
頭打ちとなっている。それでもテクニカルのフィボ
ナッチ分析では、2006 年以降の高値から 2010 年の
安値に至る下げ幅の“23.6%戻し”193.35 ポイント
の上抜けと値固めが持続(9 日終値は 209.72)。目先
は 120 カ月(10 年)移動平均の 221 や 38.2%戻しに
あたる 253 方向への上値余地が着目され始めた。世
界の銀行株との対比でも、日本の銀行株の出遅れ修
正がジワリと進捗しつつある。
なお、IMF による日本と中国の銀行比較レポート
では、
「日本の銀行が手数料収入を増やすことで海外
事業の収入源を多様化しているのに対し、中国の銀
行は中国企業の海外部門への融資による金利収入に
頼っており、拡大余地が限られる可能性がある」
(ブ
ルームバーグ)と邦銀の安定性を指摘している。
中国の銀行の場合、預金を上回るペースで融資が
230
220
210
200
190
180
170
160
150
Mar-15
Jan-15
Nov-14
Sep-14
Jul-14
May-14
Mar-14
13週線
バンド下限
円
ドル/円(右軸)
国内銀行の海外支店;貸出金
日銀マネタリーベース月中平均残高
80
70
60
50
40
30
20
10
貸出金(左軸)
マネタリーベース(右軸)
↑
貸出
増加
Jul-14
Apr-13
Jan-12
Oct-10
Jul-09
Apr-08
Jan-07
Oct-05
Jul-04
Apr-03
Jan-02
Oct-00
Jul-99
Apr-98
Jan-97
Oct-95
Jul-94
Apr-93
Jan-92
Oct-90
Jul-89
兆
円
Jan-14
Nov-13
Sep-13
Jul-13
May-13
Mar-13
Jan-13
バンド上限
120
115
110
105
100
95
90
銀行株
上値余地
東証・銀行業指数;13週移動平均線を
中央値ボリンジャーバンド、ドル/円
銀行株(左軸)
伸びており、そのギャップを埋めるためにホールセ
ール調達への依存度が高まり、通貨および負債面の
「ミスマッチ」のリスクを抱えていると分析した。
中国 4 大銀行の海外融資の預金に対する比率は平均
で過去 5 年に約 1.5 倍から 2 倍強に上昇している。
このほか、中国の銀行の海外預金に対する海外負債
の比率は 2009 年から一貫して上昇しているという。
一方で日本の銀行では低下している、とレポートは
指摘している。
今後、米 FRB による慎重なペースでの利上げとド
ル高が進むと、中国の銀行は過度なドル借り入れや
ドル調達の負担が重石となっていく。さらに中国の
銀行自らによるドル返済やドル高リスクへのヘッジ
対応が、さらなるドル高スパイラルを誘発する返り
血リスクをはらむ。かたや日本の銀行は「資金調達
面の脆弱性を減らしている」(IMF)こともあり、米利
上げやドル高の悪影響ショックは抑制される。中国
を始めとした新興国や世界経済の減速、あるいは市
場混乱などが邦銀の国際業務にも打撃リスクとなる
反面、低金利の円調達メリットが国際競争で強みを
発揮する。さらにドル高による海外収益のカサ上げ
や、海外におけるドル建て業務での利ざや改善、円
安による国内での脱デフレ後押しにつながるプラス
効果を秘めている。
270
240
210
180
150
120
90
60
30
兆
円
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