「強い農業」へ農協改革の岩盤崩し 安倍1強体制「急がば回れ」

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「強い農業」へ農協改革の岩盤崩し
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安倍 1 強体制「急がば回れ」の逐条的な憲法改正論
昨年末の衆院選で勝利し意気揚々だった安倍首相
だが、過激派イスラム国による日本人人質殺害事件
が暗い影を落としていると言われたが、事実はそう
ではないらしい。むしろ人質事件をもって「国民の
生命と財産を守る任務を全うするには(憲法 9 条)
改正が必要」と持論の憲法改正に意欲を示し、岩盤
崩しの農業改革では牙城 JA 全中改革をもって「強
い農業」へ成長戦略を有言実行、海外投資家のアベ
ノミクス「変革日本」期待を繋ぎ止めた。
人質事件を契機に憲法改正に意欲を示す首相
ある官邸関係筋は、
「安倍首相は意外と気持ちの切
り替えが早く、塞ぎ込んでしまうほど柔な人物では
ない」と打ち明ける。
「読売新聞」が 6-7 日実施した世論調査では、内
閣支持率が前回調査から 5pt 上昇の 58%。人質事件
の政府対応も「適切だった」が 55%で「そうは思わ
ない」の 32%を上回った。
また、共同通信社(6-7 日)調査でも内閣支持率
が 54.2%と前回調査を 1.4pt 上回り、人質事件に対
する政府の対応について「評価する」
、「ある程度評
価する」を合わせて 60.8%と安倍首相の自信を後押
しする結果である。
むしろ、安倍首相はこの人質事件に関して 2 月 3
日の参院予算員会で「国民の生命と財産を守る任務
を全うするためには(憲法 9 条)改正が必要」と語
り、憲法 9 条改正に改めて意欲を示した。その余勢
を駆って 4 日には、自民党の船田元・憲法改正推進
本部長と会談し、憲法改正の国会発議とその賛否を
問う国民投票の時期を協議した。
安倍首相はこの席で、
「来夏の参院選後が常識だろ
う」(ある政界筋)との考えを明らかにした。ただ、
同日の参院予算委員会では「憲法改正は国民的な議
論と理解の深まりが必要だ。「(衆参両院の)憲法調
査会で議論が深まることを期待したい」と慎重な姿
勢を示している。
参院では現在、憲法改正推進勢力は 3 分の 2 に届
かない。そこで首相は、来年の参院選における改正
推進勢力で 3 分の 2 を確保するよう、自民党で単独
過半数獲得に向けて意気軒高である。
憲法 9 条が本丸という認識は変わらないが、
「急
がば回れ」とばかりに改正テーマとして、
「緊急事態
条項、環境権、財政規律条項から手をつけ、1 回き
りではなく何度も改正を続けていく逐条的改正の段
取りを考えている」(同政界筋)という。
これは公明党が 9 条改正に繋がる憲法改正にも
ともと慎重であったことへの配慮である。一方、維
2015/2/16
新の党には秋波を送り、橋下徹最高顧問(大阪市長)
が進める「大阪都構想」に賛意を示している。橋本
最高顧問は嬉しくてしょうがない。出来ることは何
でもする」と憲法改正への協力姿勢を旗幟鮮明にし
た。
ある官邸筋は、
「首相は在任中に憲法改正を強行
しないという見方もあったが、どうもそれは違うよ
うだ」と打ち明ける。安倍首相の政治家としての原
点は、一貫して憲法改正であり、首相は憲法改正を
政権のタイムスケジュールに置いているとされる。
公明党とは消費税再引き上げ時の軽減税率導入と
バーターとして「16 年夏の衆参ダブル選辞さず」の
構えとも指摘される。16 年 9 月の自民党総裁選で再
選された後、内閣改造・自民党役員人事を断行して
さらに基盤固めに踏み込む。この人事との関連で注
目されるのが、ポスト安倍の「後継者」問題である。
その点で「読売新聞」
(2 月 5 日付)斉藤十郎元
参院議長インタビューは興味深い。「
『ポスト安倍』
は必ず育っていく。吉田茂内閣の後は岸信介氏など
大総理が続いた」
(斉藤氏)と語っているが、けだし
名言である。ところで、
「首相にとっての意中の人は、
実は岸田文雄外相ではないか」
(ある官邸筋)といわ
れる。
2 人は当選 1 回生時代からの仲であり、宏池会(岸
田派)は伝統的に自民党内リベラルとかハト派とか
言われてきたし、総理とは立ち位置も異なるが、そ
うしたことを超えた人間的な信頼関係が厚いという。
当分、岸田外相や首相が高く評価する稲田明美
政調会長らの忠誠度を見極めつつ、谷垣禎一幹事長
や石破茂地方創生相らオールド首相候補らも取り込
みながら盤石な「安倍 1 強体制」が続きそうだ。
「佐賀の乱」で腹固めた「JA 全中」徹底抗戦
一方、ある政界筋は、
「実は、農業改革を訴えて敗
北した佐賀県知事選を安倍官邸は JA 全中の官邸へ
の『宣戦布告』と捉え、逆に JA 全中の監査・指導
権廃止など農協改革への徹底を決めた」と打ち明け
る。
結果、アベノミクス「三の矢」成長戦略の一角、
農業改革の牙城・農協改革を巡る官邸と政府 VS 自
民党農林族と JA 全中(全国農業協同組合中央会)
との戦いは、JA 全中の敗北に終わり、盤石な「安倍
1 強」体制を象徴した。
JA 全中は党農林族を味方に付け、
安倍官邸を包囲
すべく旧式戦略をとったが、安倍官邸から「誰の御
蔭でここに(国会)に舞い戻ってこられたのか」と
一喝されて農林族は萎縮した。そして、首相の毅然
たる農協改革への決意を目の当たりにして官邸にな
びいてしまった。
これは昨秋、財務省が 15 年 10 月消費税再増税の
根回しで自民党税調大物議員等へ個別攻略を試みた
が、衆院解散で水泡に帰したケースと酷似する。改
めて、抵抗勢力が自民党を押さえて官邸を包囲する
「外堀戦法」が通用しないことが証明された。
確かに、当初、佐賀県知事選で与党候補が負け
れば、農協改革は後退すると不安視された。だが、
「政権安泰を掛けた師走総選挙には、改革に抵抗す
る勢力封じ込めの狙いがあった」
(同官邸筋)という。
岩盤規制崩しで想定される抵抗勢力の炙り出しであ
る。
首相は「この道しかない」とアベノミクス改革路
線を訴えて総選挙で大勝、案の上「誰のおかげで当
選できたのか」と抵抗勢力への暗黙の圧力がかかり
続けた。
佐賀県知事選で与党候補が敗れ、農協改革に不満
を漏らす自民党農水族も結局、官邸からこう叱咤さ
れれば文句は言えなかった。
「首相自身、佐賀の乱(敗
北)を機に農協改革への思い入れが一段と強まった」
(ある官邸筋)という。
何より、農協改革は昨年 6 月の新成長戦略に盛り
込んだアベノミクス規制改革の柱であり、現状のま
までは日本の農業は「座して死を待つ」如く衰退は
避けられない。
思えば、首相が中東歴訪に向かう 1 月 16 日羽田
空港、
「農業を成長産業に変えるため、中央会には脇
役に徹していただきたい」との会見で勝負が決まっ
ていた。
むろん、
「安倍 1 強」体制の下で自民党族議員は
早めの条件闘争に軸足を移す傾向が強まっている。
今回の条件闘争は、「JA 全中の一般社団法人化後も
地域農協の総合調整機能を担う」という文言で宥和
が図られた
すでに農業従事者の平均年齢は 66 歳に達し、
耕作放棄の危機が迫る。農業の衰退を食い止めるに
は生産性の向上や経営規模の拡大が不可欠であり、
農協改革だけでは「強い農業」は実現できない。
「強い農業」への脱皮には TPP(環太平洋経済連
携協定)交渉の妥結が不可欠であり、海外輸入品と
の競争激化による自助努力が迫られる。まずは、農
協改革の断行により海外投資家のアベノミクス「変
革日本」期待は繋ぎ止められたようだ。
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