日米株、米減益リスクに「内需」シフト

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株式会社ジャパンエコノミックパルス
Japan Economic Pulse Co., Ltd.
日米株、米減益リスクに「内需」シフト
資源安効果や緩和継続、米国は中小型株逃避も
日米株は 4 月 8 日から本格化する米国企業決算発
表での「減益ショック」が重石となるが、未然ヘッ
ジ対応として内需株シフトが注目されよう。すでに
米国株市場では米雇用統計の大幅悪化を受けた利上
げ遅延観測とあいまって、ドル高・資源安・世界減
速の影響が相対的に限られる中小型株への逃避が散
見されている。かたや日本株は調整ドル安がリスク
となるが、資源安の累積効果や日銀の緩和姿勢持続、
賃上げ+物価下落、円安一服などがプラス材料とな
り得る内需関連株が物色テーマとして着目される。
減益警戒の米株、ドル高・資源安メリット物色も
「米国企業の 1-3 月決算や 4-6 月の収益見通し
では減益が大きなリスクとなるが、一方でドル高や
資源下落が業績支援材料となる個別物色も見られて
いる」――。
ある外資系証券の関係者はこのような指摘を行う。
実際に直近 5 日間における S&P500 の業種別パフォ
ーマンスでは、決算警戒と米雇用統計悪化を受けた
利上げ遅延期待という好悪材料が入り混じるなかで、
上昇率の上位に不動産サービス、レジャー用品、ア
ルミ、基礎化学品、自動車部品・装置、百貨店、金
属・ガラス容器、タイヤ・ゴム――などが並んでい
る。こうしたセクターの物色材料としては、利上げ
遅延と基本的な緩和環境の継続、ドル高による購買
力増強と寒波一服による消費回復期待、ドル高・資
源素材の下落による仕入れコスト低下(採算改善)な
どが着目されている。
同時に今後の決算発表では、ドル高が多国籍企業
や輸出企業、原油急落が資源エネルギー会社の悪材
料として警戒されるなか、ドル高・資源安の影響が
軽微であったり、逆にメリットを受けている中小型
株へのシフトが見られ始めた。中小型株の代表指数
であるラッセル 2000 は直近 5 日間に+1.62%の上昇
率となり、S&P500 の+0.95%や、決算悪化が懸念
されるフィラデルフィア半導体株指数の-0.24%を
大きくアウトパフォームしている。
おりしも 6 日には FRB のハト派(金融緩和支持派)
であるダドリーNY 連銀総裁が、
「初回利上げ後の金
融引き締めの軌道は低いものになる」と語る一方、
「米国経済に現在、見られる弱さは、主に一時的な
状況によるもの」と発言した。FRB による緩和姿勢
がしばらく維持されながら、先行き寒波反動や資源
急落の累積効果などで米国の内需が持ち直していく
と、内需敏感・流動性敏感の中小型株には支援材料
となりやすい。内需に関しては 3 月の雇用統計は下
振れとなったものの、遅行指標である平均賃金は着
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2015/4/8
実に改善していた。
ヘッジファンドなどの短期筋の動向を示す先物ポ
ジションでも、これまで利上げ警戒などでヘッジ売
りや空売り仕掛けが進んできた中小型株に買い戻し
が見られ始めた。米インターコンチネンタル取引所
の投機的なラッセル 2000 の先物ポジション(非商業
部門、ICE)では、最新 3 月 31 日週に-1 万 6839 枚
のネット・ショートとなっている。3 月 10 日週の-
4 万 0743 枚や昨年 9 月 30 日週の-7 万 2860 枚など
を直近ショートのピークとして売り持ちが減少。昨
年 6 月以来の低水準となっており、これまで先行し
て米国の成長減速や FRB 利上げなどを織り込む先物
売りが一服となっている。
米国の多国籍企業や輸出企業、資源エネルギー会
社などの決算悪化リスクに対し、内需系の中小型株
の打たれ強さを示唆する形で、中小型株のラッセル
2000 を大型株の S&P500 で割った相対倍率は、昨年
11 月をボトムにジワリと「ラッセル優位」に転換し
てきた。足元では昨年 6 月以来の高水準を回復する
という、セクター・ローテーションの回転が機能し
ている。
日本株にとって、米国の大型株が下落することは
悪材料となるものだ。その反面、米国の内需の底堅
さは日本の外需株を下支えするほか、ドル高による
米国の多国籍企業や輸出企業の競争力低下は、裏表
での円安が日本企業を世界シェア争いで優位にさせ
る。過去にラッセル 2000/S&P500 の相対倍率が底入
れ反転した局面では、外国人投資家による日本株の
買い越しが増加するという相関性が繰り返されてき
た。
米金融決算は改善期待、日本も内需は抵抗力
また、減益ショックが警戒される米決算発表では、
ドル高や資源安の影響が限られる金融機関の収益も
抵抗力が注目されている。すでに米ウォールストリ
ート・ジャーナル紙は 3 月 28 日、
「米投資銀行によ
うやく訪れた春」と報道。米銀の 1-3 月期決算につ
いて、
「債券、金利商品、通貨、コモディティの出来
高が急増している」、「マーケットメークを行う銀行
大手の同期の決算では、トレーディング収入の改善
が示される可能性が高い」などとしながら、
「投資家
は幾分か安堵するだろう」という前向きな見通しを
示した。
さらに同紙は 4 月 2 日、
「為替相場の乱高下、米銀
の 1-3 月期利益に追い風か」と伝えた。その中では
「今年 1-月期には、各国中央銀行の取った政策に
より外国為替市場が荒れた。しかし、同四半期の米
大手金融機関のトレーディング部門の利益は、市場
の乱高下により押し上げられた可能性がある」とい
う見方を示している。
日本株にも、米国株での「減益リスクのヘッジ」
的な金融株物色の流れが波及している。同時に日本
株は米決算の減益や調整ドル安のリスクを警戒する
形で、米国株と同じような内需シフトが目立ち始め
た。ドイツ証券は 6 日、大手建設株の投資判断を軒
並み引き上げたほか、6 日には地銀再編が個別の物
色テーマとなっている。
ただし、7 日の銀行株上昇は、日銀による 4 月 7
-8 日や 30 日の政策会合での緩和期待も買い材料と
なっている。実際には「当面の緩和見送り」による
失望リスクが排除できない。それでも日銀による緩
和スタンス継続は変わらないほか、今後の会合では
「2 年」で物価 2%目標達成という期限の延長論議が
想定されている。緩和長期化と出口の大幅遅延に、
安心感を付与させるものだ。
さらに日本経済の内需は 4 月以降、昨年の消費増
税ショックの反動、資源・素材下落の累積効果、賃
上げと物価下落による実質賃金の改善といったプラ
ス材料が相次ぐ。FRB の利上げ遅延や米当局のドル
高牽制などでドル高・円安が一服となっても、3 月
ラッセル優位
週間・対日株式投資(財務省)
米株ラッセル2000/S&P500
相対倍率
12,500
10,000
7,500
5,000
2,500
0
-2,500
-5,000
-7,500
↑
対日株式(左軸)
ラッセル/S&P(右軸)
2,750
2,550
2,350
2,150
1,950
1,750
1,550
1,350
1,150
950
750
非製造優位
↑
Dec-14
Jun-13
Dec-11
Jun-10
Dec-08
Jun-07
Dec-05
Jun-04
Dec-02
Jun-01
Dec-99
Jun-98
Dec-96
Jun-95
Dec-93
Jun-92
Dec-90
Jun-89
Dec-87
Jun-86
Dec-84
Jun-83
格差(左軸)
製造業(左軸)
非製造業(左軸)
TOPIX(右軸)
0.64
0.62
0.60
0.58
0.56
0.54
0.52
0.50
Jan-15
Sep-14
↑
May-14
日銀短観;大企業の製造業と非製造業
業況判断、非製造業-製造業の格差
TOPIX
Jan-14
Aug-13
Apr-13
Dec-12
Aug-12
Apr-12
Dec-11
Aug-11
Apr-11
Nov-10
Jul-10
Mar-10
Nov-09
Jul-09
Mar-09
Oct-08
50
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
-40
Jun-08
Feb-08
Oct-07
億円
の日銀短観・想定ドル/円レート(大企業・製造業)
である 111.81 円方向に接近しない限り、現状の 118
-120 円前後で横這い化が続くと、内需セクターに
はプラス要因となっていく。
ちょうど 3 月の日銀短観では、製造業が米国・欧
州・中国などの外需不透明感や円安持続性への疑心
暗鬼などから慎重な判断が見らえる一方、非製造業
は自信の高まりが示された。大企業の業況判断 DI
は製造業が昨年 12 月短観の 12 から 3 月も 12 と横這
いとなったのに対し、非製造業は 12 月の 17 から 19
へと+2 の上昇となっている。過去に製造業、非製
造業ともプラス化という景気回復局面で、非製造業
のほうが上回ったのは実に 1987-1991 年以来の現
象となるものだ。
しかも業種別の業況判断では、6 月予測のほうが 3
月実績よりも上昇が見込まれている非製造業として、
小売の変化幅+8、通信+6、卸売+3、対個人サービ
ス+3、その他情報通信+1 などがある。先行き外部
不透明感や円高リスクに対して、内需の打たれ強さ
の高まりが、1987-1991 年のようなバブルではない
にしても、日本株の調整下落と値固めを経ながらの
長期上昇トレンドを支援する可能性を秘めている。
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