忍び寄る「米国株」本格調整の跫音

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株式会社ジャパンエコノミックパルス
Japan Economic Pulse Co., Ltd.
忍び寄る「米国株」本格調整の跫音
「強すぎるドル」に減益転落、設備投資は大幅減
米国出張を終えた外資系証券幹部によれば、1)
「強
すぎるドル」
、2)原油安によるシェール関連設備投
資の大幅減少、3)自社株買い減少に伴う買い手不在、
4)オバマレイムダックと共和党の政策批判など政治
不安-により米国株が本格調整リスクを強めている。
公的・準公的資金による好需給を背景に快進撃を続
けた日本株だが、新年度「4 月相場」は米国株の下
落と円高再燃リスクの暗雲に波乱含みの様相を呈し
そうだ。
ヘッジファンド 4 月「米国株ショート」戦略
「(最近の)ドル高は米国の輸出を阻害する可能性
がある」-。イエレン議長は 27 日カリフォルニア州
で講演、開口一番「強すぎるドル」に警鐘を鳴らし
た。
同議長は「米国の雇用市場は大幅に改善、今後数
ヶ月の一段の改善を楽観視」、「実質 GDP は今後、数
四半期にわたり潜在成長率を一段と上回るペースで
拡大」と強気姿勢を示しつつ、
「強すぎるドル」を懸
念してみせた。
まさに、犬の尻尾(相場)が犬(ファンダメンタ
ルズ)を振り回す「リスクオン経済」の衝撃である。
実際、「増益が続いた米企業収益が『強すぎるドル』
によって 1-3 月期に減益転落リスクが高まり、米国
株の本格調整が現実味を帯びつつある」(同証券幹
部)
。
海外収益に依存するグローバル企業が米 S&P500
採用企業のうち 6 割を占める現状、
「強すぎるドル」
が国際競争力の減退とドル建て手取り額減少に拍車
をかける。ちなみにトムソン・ロイターによれば、
米主要 500 社 1-3 月期の収益予想は、101 社で利益
悪化が予想される。
もっとも、米経済は「強すぎるドル」に浸食され
ながらも依然として強弱「まだら模様」を続けてい
る。米経済を反映するように 27 日発表の米 3 月ミシ
ガン大信頼感指数(確定値)は 93.0 と予想の 92.0
(速報値 91.2)を上回り、現況指数が速報値 103.0
から 105.0 に、期待指数が 85.3 と速報値の 83.7 か
らいずれも上方修正された。
決して、直線的に米経済が減速への足取りを強め
ている訳でない。飽くまで「強すぎるドル」による
海外収益に依存するグローバル企業の減益懸念であ
る。米ウォールストリート・ジャーナル(WSJ 紙)
30 日電子版は、
「売上高の 50%超を海外で稼ぐ企業
の年初から 26 日までの株価騰落率は平均-1.8%の
下落。対照的に、売上高の 50%超を米国内で稼ぐ企
業の株価は平均+1.5%の上昇だった。S&P500 企業
[email protected]
2015/4/1
全体では平均 0.6%上昇した」と調査会社ファクト
セットの分析を紹介した。
一方、27 日発表された米 10-12 月期 GDP(確定値)
は前期比+2.2%と事前予想の+2.4%を下回った。住
宅投資や GDP の 7 割を占める個人消費
(改定値+4.2%
から+4.4%)は上方修正されたが、企業の設備投資
が下方修正された。
実際、
「堅調裡に推移してきた設備投資の 3 分の 1
を占めるシェールオイル・ガス関連設備投資が、
20-40%の大幅減少が懸念される」
(外資系証券幹部)。
米エネルギー省の統計によれば、3 月 13 日現在の米
原油在庫は 4.5 億バレルと史上最高、原油生産量は
日量 942 万バレルと過去最高にあり、過剰設備の縮
減が急がれる。
すでに、米企業経営者は成長の持続性を疑問視、
設備投資に慎重になっている。設備投資の先行指標
である米 2 月耐久財受注(3 月 25 日発表)が前月比
-1.4%と予想外の減少、事前エコノミスト予想中央
値は+0.2%、前月分は+2.8%から+2.0%に下方修正。
コア資本財(航空機を除く非国防資本財)も同-1.4%
と 6 月連続の大幅減少。
一方、
「米ダウ平均は先週(3 月 23-26 日)4 日続
落したが、決算発表に伴う自社株買い停止の買い手
不在が背景にあった。米国企業は未曽有の QE(量的
緩和)を背景に超低金利で社債を発行、調達した資
金を事業に回さず自社株買いに充当してきた。
米企業の自社株買いは 2 月に円換算 12 兆円、年間
100 兆円超という膨大な規模に達している。すでに、
米国株には割高感が強まり、旺盛な自社株買いが止
まれれば買い手不在が一気に露見されよう。
「ヘッジファンドは自社株買い減少による需給悪
化を見越し、ヘッジファンドは 4 月以降、米国株シ
ョート戦略に踏み切る」
(同証券幹部)という。
米国株下落に 115 円への円高再燃リスク
さらに、
「強すぎるドル」の弊害は、所得伸び悩み
となって 2 月住宅着工件数が前月比で前月比-17%
の 89.7 万戸と 4 年ぶりの大幅減となる等、至る所に
顕在化しつつある。むろん、4 年ぶり住宅着工件数
の大幅減は、厳冬による悪天候が主因だが、所得伸
び悩みに起因するとも指摘され、米 2 月小売売上高
が予想に反し前月比で減少、3 ヶ月連続のマイナス
も所得伸び悩みを反映していると指摘される。
一方、大統領選挙が近づくにつれ米オバマ大統領
がレイムダック化、共和党の政策批判など政治不安
が米国株の調整を後押すだろう。共和党が FRB の QE
批判など理不尽な政策批判を強めれば、景気減速と
株価調整局面にありながら格差問題からポピュリズ
ム的な拙速利上げの政治的なノイズが喧伝されかね
ない。
米主要企業は「強すぎるドル」の逆風を受け 15
年 1-3 月期に減益へ転じたが、主要日本企業(16 年
3 月期)の経常利益は 2 ケタ増益が見込まれる。
何より、日本株は公的年金や公的・準公的資金の
株式シフトによる好需給、原油安による「交易利得」
による企業業績拡大、賃上げによる消費回復、4 月
末日米首脳会談前の TPP(環太平洋経済連携協定)
合意、夏前 6-7 月の原発再稼働など好材料に支えら
れよう。
もっとも、日米ゲームチェンジ株価デ・カップリ
ングとはいえ、米国株の本格調整となれば、リスク
オフのドル高調整に伴い円相場が 1 ドル=115-116
円水準へと円高再燃が懸念される。円安一服でなく、
円高再燃となれば、日本の企業業績の下振れやデフ
レ再燃リスクなど円安・株高アベノミクス相場への
「負の影響」は避けられない。つまり、米国株が 20%
下落すれば、リスクオフの円高再燃に企業業績下振
れやデフレ再燃リスクとなって日本株にも 10%近
い下落圧力がかかりそうだ。J-pulse Briefing は 3
月 2 日付で、
「日米株価『ゲームチェンジ』属国相場
の終焉」と題し、
「日米株価ゲームチェンジと日本株
「属国相場」終焉を睨みつつ日本株 3 月相場は下値
1 万 8200 円、上値は 2014 年高値から 15 年 1 月安値
の下げ幅の倍返し 1 万 9468 円水準へ日本株上昇メガ
トレンドが続きそうだ」と記した。
案の上、日経平均は 3 月 23 日に 1 万 9778 円の高
値まで駆け上がり、米国株の 4 日続落(3 月に連れ
安を余儀なくされ 1 万 9099 円へ反落した。
1 万 9778 円は黄金分割の節目の一つに達した。
2011 年安値 8135 円から 2013 年 5 月高値 1 万 5942
円への上昇率 96%の 0.618 倍が 59.3%であり、13
年 6 月安値 1 万 2415 円から 59.3%上昇が 1 万 9777
円である。
しかし、黄金分割の節目 1 万 9777 円を付けた後、
すでに 5 日移動平均(1 万 9525 円)を下回り、今後、
25 日移動平均(1 万 9116 円)を下回ると、短期的な
『天井』を付けた可能性が一段と高まろう。
ゆうちょ銀行のリスク資産拡大や円安・原油安に
よる 8 兆円「交易利得」と企業業績拡大、公的・準
公的資金による好需給を背景に 15 年振り「2 万円相
場」肉薄の快進撃を続けた株高アベノミクス相場だ
が、米国株の本格調整リスクという暗雲が垂れ込め
波乱含みの様相を呈しよう。
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