第2回

生物活性物質の化学
質問などがある人は,下記アドレスまで
メールでアポイントを取った上で,
質問に来てください。
[email protected]
専門が異なるみなさんへ
異分野の話は,よくわからず,
つまらないかもしれません...
自分の専門とは違う分野から受
ける刺激こそ真に革新的であり,
若い皆さんの成長を促します。
大いなる知的好奇心,自由な想
像力を育み,新しい世界を創り
出してください。
内因性の生物活性物質
について
生物から得られる有機化合物
一次代謝産物
生物個体の維持,増殖,再生産に必須で生物界に
普遍的に存在している有機化合物
タンパク質,アミノ酸,脂質,核酸など
二次代謝産物
すべての生物に含まれることはなく,生物の共通
の生命現象に直接関与しない有機化合物
アルカロイド,抗生物質など
生物活性物質の整理
生合成経路による分類
生合成とは,生体内で簡単な化合物から複雑な化合物
が作られること。構造が大きく異なる化合物同士が,
同じ生合成経路で合成された類縁体であることもある。
生物活性や機能による分類
生物活性とは,毒や薬などの化学物質の生体に対する
作用のこと。構造が大きく異なる化合物同士が,類似
の生物活性を示すこともある。
機能から見た生物活性物質の分類
内因性物質
自分の体内で作り出される
ホルモン,サイトカイン,神経伝達物質など
外因性物質
他の生物由来で,生体内で重要な働きをする
ビタミン,抗生物質,生物毒など
内因性物質の伝達様式
受容体
血管
傍分泌
自己分泌
内因性リガンド(生体情報伝達物質)
内分泌
様々な細胞が,互いにコミュニケーショ
ンをとりつつ全体として調和した体制
(恒常性)を維持するための情報分子と
して機能する化合物
ホルモン
1902年 W. Bayliss と E. Starling が命名
ギリシア語の horman(刺激する)が語源
生体内の特定の内分泌器官で作られ,血液を介し
て標的器官に到達し,特有の作用を発揮する物質
1849年 A. Berthold
オンドリの精巣を切除
切除した精巣を腹部に戻す
トサカが小さくなった
トサカが正常な個体と
同じ大きさに戻った
精巣で作られたある物質がトサカ
まで移動して作用することを示唆
植物ホルモン
植物によって生産される生長調整物質で,
低濃度で植物の生理過程を調整する物質
オーキシン(細胞の伸長作用) ジベレリン(茎の伸長作用)
CO2H
Cl
CO2H
H
O
CO
N
H
N
H
インドール-3-酢酸
OH
HO
H
O
CO
OH
HO
CO2H
CO2H
A1
A3
アブシジン酸
エチレン
(生長阻害,休眠誘導)
(果実の熟成促進,落葉作用)
OH
O
CO2H
H
H
C C
H
H
生物検定(バイオアッセイ)
生物やその一部に与える影響(生物活性)の度合
によって,生物活性物質の有無や量,その活性を
検定すること。
1. 操作が簡便(少ない手間,短時間)
2. 再現性が高い(データの信頼性)
3. 特異性が高い(他の化学物質の影響を受けない)
4. 微量で検出できる(天然試料には限りがある)
5. 定量性がある(生物活性の強さが投与量に比例)
オーキシンの生物検定の例
切断
筒状切片
シャーレに移す
葉鞘
それぞれの
長さを測定
マカラスムギ
幼苗
切
片
の
長
さ
対象
試験区
(蒸留水のみ)
(様々な濃度のオーキシン溶液)
mm
9
8
7
6
5
0.01
0.1
オーキシンの濃度
1 ppm (µg/mL)
動物ホルモン
甲状腺ホルモン
成長や分化の促進,基礎代謝の
維持,鳥類の換羽,爬虫類の脱
皮,両生類の変態
I
HO
I
I
(H)
O
CO2H
NH2
チロキシン
I
性ホルモン:男女の二次性徴
OH
OH
H
H
H
H
H
H
O
HO
テストステロン
(男性)
エストラジオール
(女性)
プロスタグランジン
アラキドン酸から生合成される。わずかな構造の違いで
多彩な生理活性を示す。様々な細胞で合成され,
その近傍の細胞に働き,速やかに分解される。
O
HO
COOH
HO
OH
COOH
HOOC
HO
E2
OH
F2α
HO
O
COOH
COOH
O
OH
作用
促進的
抑制的
H2
O
O
OH
D2
HO
血小板凝集 気管支収縮 子宮収縮 血管収縮
H2
D2
F2α
E2
E2, F2α
I2
F2α
E2, I2
OH
I2
血圧
D2, F2α
A2, E2, I2
昆虫ホルモン
昆虫の特定器官から分泌され,微量で昆虫の
変態や休眠などの現象を支配する化学物質
脱皮ホルモン (MH)
幼若ホルモン (JH)
昆虫や甲殻類の脱皮や変態を引
OH
き起こす
昆虫において,幼虫の形質を維
持させる
OH
CO2CH3
HO
AT
OH
HO
H
O
エクジソン
アラタ体
JH
脳
PTTH
前胸線
MH
O
H
JH-0
内分泌攪乱物質(環境ホルモン)
内分泌系に影響を及ぼすことにより,生体
に障害や有害な影響を引き起こす外因性の
化学物質
n-­‐Bu3SnCl
塩化トリブチルスズ
HO
OH
1996年
ビスフェノールA
(船底塗料)
(プラスチックの原料)
貝類のメスがオス化 エストロゲンに類似した作用
ジエチルスチルベストロール
(切迫流産防止剤として使用)
胎児期にDESの暴露を受けた女性に子 1962年
宮形成不全などの女性器障害が発生
OH
HO
フェロモン
1959年 P. Karlson, A. Butenandt
pherein (運ぶ) と horman (刺激する) に由来
同種の個体間での情報伝達に関わる
作用をする化学物質
性フェロモン,集合フェロモン,
道しるべフェロモン,
警報フェロモン,階級分化フェロモンなど
フェロモン
性フェロモン:雌(雄)が分泌して同種の雄(雌)を引きつける。
OH
カイゴガ(雌)
O
O
O
O
リンゴコカクモンハマキ(成分比1:1∼9:1の時に雄を引きつける)
集合フェロモン:集団を作って生活する動物が,その集団の
形成・維持のために体内で生産し分泌。同種の他個体を誘引。
パイオニアの雄
チャバネゴキブリ
OH
N
HO
HO
OH
匂いとして作用
H
O
HO
H
O
OH
O
Cl
H
接触的に作用
フェロモン
道しるべフェロモン
アリなどが帰巣の際に、別個体へ経路を教える目的で分泌する。
N
H
OCH3
O
匂い物質
ハキリアリ
道しるべホルモン
進行方向
警報フェロモン
階級分化フェロモン
ハチやアリなどの社会性昆
虫が外敵に対して群れとして
敵対行動を引き起こす。
ミツバチの女王蜂が分泌し,雌
の働きバチの卵巣の発達を抑制す
る。女王物質。
O
O
O
セイヨウミツバチ
O
OH
生体内の情報伝達を担う物質
内分泌系
ホルモンが担う
神経伝達系
神経伝達物質,神経調節物質が担う
神経細胞
樹状突起
軸索
核
軸索
シナプス
情報伝達の方向
樹状突起
神経伝達系
Na+
Na+チャネル
軸索
電荷の移動
シナプス小胞
アセチルコリン
Ca2+チャネル
Ca2+
シナプス間隙
アセチルコリン受容体
電荷の移動
主な神経伝達物質と作用部位
NH2
HO
HO
OH
OH
NH2
HO
HO
HO
O
アドレナリン
交感神経, 肝臓
内分泌
NH2
O
O
CH3
HO
ドーパミン
ノルアドレナリン
(中枢, 末梢神経)(中枢, 交感神経)
N
H
N
HO
NH2
γ-アミノ酪酸
アセチルコリン
(GABA)
(交感, 副交感神経)
(中枢神経)
HN
N
ヒスタミン
中枢神経, 肺
皮膚, 消化管
アセチルコリンと受容体
AChE
O
N
O
HO
N
アセチルコリン ChAT コリン
5.5Å
5.5Å
HO
O
O
N
3.6Å
伸張型
O
N
3.6Å
ムスカリン
O
N
O
H C
H
H
擬環状型
N
N
ニコチン
アゴニストとアンタゴニスト
アゴニスト
受容体と結合して生理作用を発現する(生
体の作用を強める)物質。作動薬ともいう。
アンタゴニスト
生体内の受容体分子に働いて神経伝達物質
やホルモンなど働きを阻害する(生体の作
用を弱める)物質。拮抗薬ともいう。
アセチルコリン受容体に作用する物質
ムスカリン受容体に作用する物質
アンタゴニスト(拮抗薬)
アゴニスト(作動薬)
N
HO
O
CH3
OH
Si
N
N
ヘキサヒドロ
シラジフェニ
ドール
ピレンゼピン
ニコチン受容体に作用する物質
アゴニスト(作動薬)
アンタゴニスト(拮抗薬)
NH
O
N
N
ニコチン
N
O
O
N
HO
OCH3
O
O
スキサメトニウム
N
N
HN
ピロカルピン
ムスカリン
N
O
O
N
H3C
N
O
O
CH3O
O
HO
N
ツボクラリン
サリン急性中毒
有機リン系の神経ガス
ヒトの半数致死量:28 mg/kg
(体重60kgあたり約1.5mL)
アセチルコリンエステラーゼの阻害剤として働く
サリン
OH
O
O P CH3
F
OH
OH
アセチルコリンエステラーゼ
O
F P CH3
O
不活性化
機能から見た生物活性物質の分類
内因性物質
自分の体内で作り出される
ホルモン,サイトカイン,神経伝達物質など
外因性物質
他の生物由来で,生体内で重要な働きをする
ビタミン,抗生物質,生物毒など
問題
1. 講義の感想を書け。
2. 今日の講義の中で最も興味を
持った(刺激を受けた)トピック
について,どのような点に興味を
持ったのかを説明しなさい。
3. その興味を持ったトピックと自
分の専門分野(最も興味のある分
野)との関係を説明しなさい。