平成 27 年度 有機化学 I 小テスト 第 15 回 【問題 1】キラルな(R)-アラニン、(S)-アラニンとラセミ体のアラニンの間で異なる物性を 挙げよ。 H3C H NH2 CO2H 解答の指針:まず、ラセミ体とはどういうものか理解してほしい。ラセミ体とは光学活性 な S 体と R 体が 1:1 で混合したものである。では、なぜこのような現象が起こるのか?す なわち、S 体と R 体の物性にはほとんど違いがないことに起因する。例えば、S 体と R 体と もに付いている置換基は全て同じである。ということは、分子の極性、電荷状態などまっ たく同じと言える。したがって、沸点や融点、凝固点、などの基本的な物性は(旋光度は 除く。後で説明)まったく同じである。唯一の違いは光に対する応答性である。つまり、 キラルな化合物は光の偏光面を回転させる。またその回転の向き(右回り、左回り)は S 体、R 体のようなエナンチオマーで逆である。右回り(右旋性)の化合物にはその名称の 前に(+)をつけて表し、左回り(左旋性)の化合物にはその名称の前に(-)をつけて表 す。決して R,S と(+),(—)を混同してはいけない。R,S は不斉中心に付いている官能基 の空間的配置を表しているものであり、+と-とは関係がな い。つまり、1 つの不斉中心を持つ R 体であっても付いて いる官能基によって(+)体もあれば(-)体もある。この (+)か(—)かは旋光度を測定すればわかる。旋光度、比 旋光度については今回は詳細な説明は省くが、教科書 CH 3 H HO 2C R NH 2 CH 3 H H 2N S CO2H 175-176 ページに目を通しておいてください。存在は必ず 認識しておくように。 さて、前述したようにエナンチオマー間で異なる物性は旋光度以外はない。ではラセミ体 と比べてみるとどうであろうか?ラセミ体は1:1の混合物である。簡単いえば単一化合 物ではない。例えば結晶構造をイメージしてみよう。結晶は分子が規則的に配列したもの である。例えば「<」の記号を R 体、「>」を S 体と仮定する。それぞれ単品の結晶が綺 麗に配列したとすると、結晶構造も右向き、左向きが違うだけで物性(融点など)は同じ であることが予想される(結晶の配列は同じ)。一方、ラセミ体は R と S が1対で結晶化 CH 3 CH 3 H H するとすると全く異なる結晶になることがわかる。つまり、融点はラセミ体をキラル化合 HO 2C R NH H N S CO2H 2 2 物で異なる。もちろん、旋光度は 1:1 で混合しているため、打ち消しあう。したがって、 0 である。(光学不活性) <<<<<<<<<< R >>>>>>>>>> S <><><><><><><> Racemic 2 H 2N S CO2H R NH 2 平成 27 年度 有機化学 I 小テスト 第 15 回 >>>>>>>>>> <><><><><><><> S Racemic 2】トレオニンの考えうる全ての異性体を示せ。(エナンチオマーとジアステレオ <<<<<<<<<< 【問題 R マー) エナンチオマー ジアステレオマー ジアステレオマー HO H 3C H (S) (S) HO CO2H H 3C H NH 2 A H (S) (R) HO CO2H H 3C H NH 2 B H (R) (S) HO CO2H H 3C H (R) (R) H NH 2 C ジアステレオマー CO2H H NH 2 D ジアステレオマー エナンチオマー まず、トレオニンには2つの不斉中心が存在する。不斉中心が2つ以上ある場合の立体異 性体について理解をしてほしい。2つの異なる不斉中心にそれぞれ R と S が存在するので、 基本的に異性体の数は不斉中心の数を n 個とすると 2n 個となる(メソ体は除く;来週の範 囲)。つまり、トレオニンの場合は4つの立体異性体がある。まず、この4つを書けるよ うにしておくこと。R 配置と S 配置をそれぞれ書いていけばいいだけである。君たちなら もうできるはずです。さて、注目すべきはそれぞれの関係性についてである。上記に示し たように、トレオニンには A〜D の4種類がある。ここで、エナンチオマーの定義を思い出 してみよう。鏡に写した分子の組み合わせがエナンチオマーとなる。これは旋光度以外の 物性は全く同じ。例えば、A と D を見てみよう。鏡像面があることがわかるだろか。(頭 の中で重ねてみてください。)それぞれの不斉中心の R,S 配置が逆になっていることから もわかる。つまり、A と D はエナンチオマーの関係にある。同様に B と C もそれぞれの不 斉中心の R,S 配置が逆であるため、エナンチオマーである。 では、A と B の関係を見てみよう。一つの不斉中心の立体は同じでもう一方の立体が異 なっている。(水酸基の付け根の炭素の立体は逆で、アミノ酸の炭素は同じ)このような 関係の化合物をジアステレオマーという。ジアステレオマーはついている置換基は同じで あるが、立体が異なる立体異性体である。エナンチオマーと違い、物性は完全に異なる。 (分子全体としてみたときに置換基の空間的配置が違う!)トレオニンの立体異性体でジ アステレオマーの関係にあるのは A と B、A と C、B と D、C と D である。すべて理解して相 互の関係を示せるようにしておいてください。 学籍番号 名前
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