理想 Bose 気体の比熱と Mellin 変換 TAKECHI Kohei∗ 平成 19 年 2 月 1 日 1 理想 Bose 気体 温度 T の熱平衡状態にある d 次元理想 Bose 気体を考える。Bose 分布関数は 1 n ¯( ) = e( −μ)/kB T (1) −1 で与えられる。 1.1 状態密度 理想気体を考えているのでエネルギー と波数 k の関係は k . 2m 2 2 = (2) ただし、これは 1 辺の長さ L の周期境界条件の下の解で、波数 k の各成分について ki = 2π ni L (i = 1, 2, . . . , d, ni ∈ N) (3) である 1 。この ni の組み合わせによって状態が決まる。全ての状態について総和をとるためには ··· n1 n2 nd という操作を行う必要がある。しかし、一般に総和の計算は面倒で難しい。そこで、(3) 式を利用 して連続極限をとり、 ··· n1 n2 → dk1 nd = L 2π V (2π)d dk2 L ··· 2π dkd L 2π dk として積分に変換する。ここで V は考えている系の体積で、V = Ld である。 エネルギーが ∼ + d である状態の数を Dd ( )d と書くと、各状態で 1 を積分すると考えて V (2π)d < 2 k2 /(2m)< ∗ https://bitbucket.org/takechi dk = Dd ( )d +d 1 実際の実験系では、周期境界条件ではなく調和振動子型のポテンシャル内に分子を閉じ込める。 1 である。Dd ( ) は状態密度と呼ばれる。k の範囲は k < +d 2m 2m 2m √ <k< +d 2 2 2 2 < 2m 2 2m 2m 2m 2 1/2 ) 1+ 2 2m <k< 2 1+ 2 <k< 2 なので、左辺の積分は半径 (2m / 2m √ <k< 2 、厚さ (m/(2 d 2 m + 2 2 2 1/2 d d ))1/2 d の d 次元球殻の体積である。d 次 元球表面積の公式を使って、 < 2 k2 /(2m)< +d 2π d/2 dk = Γ(d/2) 2m 1 Γ(d/2) 2πm = d−1 1/2 m 2 2 2 d d/2 (d−2)/2 2 d となり、 V (2π)d < 2 k2 /(2m)< dk = +d 1 V d (2π) Γ(d/2) 2πm d/2 (d−2)/2 2 d = Dd ( )d . つまり、状態密度 Dd ( ) は Dd ( ) = V (2πm)d/2 hd Γ(d/2) (d−2)/2 (4) となる 2 。この式から基底状態 = 0 で状態密度が 0 になっていることが解るが、これは連続近似 を行ったためで、実際には = 0 という状態はもちろん存在する。このままでは、基底状態につい て扱えないので、 = 0 の項だけ特別扱いをする 3 。即ち、 = 0 に存在する粒子の個数について特 別に N0 とおき、それ以外の準位に存在する粒子数を N とする。つまり N = N0 + N . 1.2 (5) 粒子数 = 0 での状態密度の縮退度を g0 とすると、(1) 式より N0 = g0 −μ/k BT e −1 . (6) 2 ここまで暗黙的に Bose 粒子のスピンを 0 としてきたが、粒子がスピン σ を持つ場合は、状態密度は (4) 式に 2σ + 1 をかけたものになる。 3 ただし、d = 2 のときは、D ( = 0) = 0 なので、特別扱いする必要はない。 2 2 N については状態密度 Dd ( ) を使って、次の積分 ∞ N = d Dd ( )¯ n( ) (7) 0 により求められる。これが、温度 T 、体積 V 、化学ポテンシャル μ が与えられたとき 0 < に入る 粒子の個数である。 注意すべきなのは、理想 Bose 気体を考える場合、普通 μ が一定ではないということだ。実験系 で与えるのは μ ではなく粒子数 N で、N 一定の下で μ がどう変化するのかを見る。つまり、(5) 式と (7) 式を満たすように μ を調整するのである。 N を計算していくと、 ∞ N = d 0 V (2πm)d/2 hd Γ(d/2) 1 (d−2)/2 e( −μ)/kB T −1 (8) ここで α=− x= μ kB T kB T とおく 4 と N =V =V 2πm h2 d/2 (kB T ) 2πmkB T h2 d/2 1 Γ(d/2) ∞ dx 0 x(d−2)/2 ex+α + 1 d/2 Fd/2 (α) となる。関数 Fs (α) は Bose-Einstein 積分と呼ばれ、 Fs (α) ≡ 1 Γ(s) ∞ dx 0 xs−1 ex+α − 1 (9) で定義される。 熱的 de-Broglie 波長 h2 2πmkB T λ(T ) = を用いると N = V Fd/2 (α) λ(T )d と書ける。 4α の代わりに z = e−µ/kB T と定義する流儀もある。 3 (10) 1.2.1 Bose-Einstein 積分 Fs (α) は、 Fs (α) = 1 Γ(s) 1 = Γ(s) ∞ dxxs−1 0 ∞ ∞ dxxs−1 0 1 e−nα Γ(s) n=1 e−n(x+α) n=1 ∞ ∞ = e−(x+α) 1 − e−(x+α) dxxs−1 e−nx 0 t = nx とおくと ∞ = 1 1 e−nα s Γ(s) n=1 n ∞ = n=1 e ∞ dtts−1 e−t 0 −nα (11) ns と変形できる。Fs (α) を α で微分すると ∞ dFs (α) −ne−nα = dα ns n=1 ∞ =− e−nα ns−1 n=1 = −Fs−1 (α) を得る。Fs (α) の定義から Fs (α) は常に正であることが解るので、Fs (α) は α に対して単調減少な 関数である。 d = 3 として、F3/2 (α) をプロットしたグラフを図 1 に示す。 α の定義域は (0, ∞) なので、Fs (α) は α → 0 で最大値となる。そこで α → 0 での Fs (α) を見て みると、 ∞ lim Fs (α) = α→0+ 1 = ζs s n n=1 (12) となり、Riemann の ζ 関数となる。ζ 関数は上記表式を見れば解るように、1 < s では収束するが、 s ≤ 1 では発散する 5 。 1.2.2 Bose-Einstein 凝縮 (10) 式にこれを適用すれば、d > 2 においては α を 0 にしても N は V Fd/2 (0) λ(T )d V ζd/2 = λ(T )d Nmax = よりも大きくはなれないことが解る。 5 解析接続を考えなければ。 4 3 2.5 F3/2 (α) 2 1.5 1 0.5 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 α 図 1: F3/2 (α)((11) 式で n = 106 までの総和を計算) ここで、N について考えると、 N = N0 + N = V g0 + Fd/2 (α) eα − 1 λ(T )d である。前述のように、この式を粒子数 N を決める式としてではなく、N 一定の条件を満たす化 学ポテンシャル μ を決める式として見る。 温度 T を下げていくと、α が大きくなり、N は小さくなってしまうため、μ を小さくすること で N = N となるように調整する。 しかし、d > 2 においては α → 0 で Fd (α) が最大値に達してしまうので、μ をいくら調整して も、N の方に N だけの粒子が入らなくなる。そのときの温度を Tc と書くと、 N= V ζd/2 λ(Tc )d (13) である。N0 の方は α → 0 で無限大なので、N に入りきれなくなった粒子は N0 に入ることにな り、 = 0 という 1 つの準位に O(N ) のマクロな粒子数が入ることになる。これが Bose-Einstein 凝縮である。 5 T < Tc において N0 は、(5) 式を使って N0 (T ) = N − N (T ) V ζd/2 λ(T )d λ(Tc )d V =N− ζd/2 λ(T )d λ(Tc )d =N− =N 1− d/2 T Tc (14) という綺麗な表式となる。 1.3 エネルギー 同様にしてエネルギーも積分 ∞ E= d Dd ( ) n ¯( ) 0 によって求められる。 ∞ E= d 0 V (2πm)d/2 hd Γ(d/2) 1 d e( −μ)/kB T −1 これは (8) 式と比べると のべき以外は全く同じであるので、Γ 関数の性質 Γ(z + 1) = zΓ(z) など を使うと E= V dkB T F(d+2)/2 (α) λ(T )d 2 を得る。(13) 式を使って V を消去すると E= = λ(Tc )d N dkB T F(d+2)/2 (α) λ(T )d ζd/2 2 d N kB T 2 T Tc d/2 F(d+2)/2 (α) . ζd/2 Tc < T のとき T が臨界温度 Tc よりも大きければ、N0 よって、(10) 式から N= 0 と見なすことができ、つまり N (15) N。 V Fd/2 (α) λ(T )d である。これと (13) 式を利用すれば V V Fd/2 (α) = ζd/2 (α) d λ(T ) λ(Tc )d Fd/2 (α) = ζd/2 Tc T d/2 (16) であることが解る。これを (15) 式に代入すると E= F(d+2)/2 (α) d N kB T 2 Fd/2 (α) という綺麗な式となる。 6 (17) T のとき T が Tc よりも十分に大きいときは、α Tc 0 である。何故なら、(10) 式におい て T → ∞ で λ(T ) → 0 なので、N 即ち粒子数 N が有限の値になるためには λ(T )d と同じオー d ダーで Fd/2 (α) が 0 に収束しなければならない。一方 Fs (α) は (11) 式で与えられるので、α 0 となる。 α 0 を (11) 式において適用すれば、 e−α Fs (α) (18) であり、s 依存がなくなる。よって、(17) 式は更に高温においては E= d N kB T 2 (19) となる。これは古典理想気体 (Maxwell-Boltzmann 分布) の内部エネルギーに一致する。 1.4 比熱 定積比熱 CV は CV = = ∂E ∂T V 1 d N kB 2 ζd/2 d+2 2 T Tc d/2 F(d+2)/2 (α) + T T Tc d/2 ∂ F(d+2)/2 (α) ∂T を計算すれば、 ∂ ∂α ∂ Fs (α) = Fs (α) ∂T ∂T ∂α ∂α = −Fs−1 (α) ∂T より CV = 1 d N kB 2 ζd/2 T Tc d/2 d+2 ∂α F(d+2)/2 (α) − T Fd/2 (α) . 2 ∂T (20) これが最も一般的な比熱の表式である。しかし、この式には α つまり化学ポテンシャル μ が入っ ているので、これを T の関数として解かなければ微分を実行できず、CV の T 依存を見ることも できない。 ただし、T < Tc および T Tc では α の T 依存性が解っているので、この範囲での定積比熱は 簡単に評価することができる。 低温 T ≤ Tc では、α → 0 なので CV = d(d + 2) N kB 4 T Tc d/2 ζ(d+2)/2 ζd/2 となる。Debye モデルあるいは Einstein モデルの固体比熱と同じく、T → 0 で CV → 0 となる。 高温極限 T Tc での振舞いは (19) 式より CV = d N kB 2 となり、古典理想気体のエネルギー等分配則に一致する。 7 Tc 直上 Tc < T かつ Tc 近傍での CV の概形を求めるのは、なかなか厄介である。Fs (α) を α で展 開することによって得ることができるが、その際に用いる数学的技巧として、Mellin 変換がある。 2 Mellin 変換 2.1 定義と逆変換 Mellin 変換 6 とは、x ∈ (0, ∞) で定義される関数 f (x) について、次の積分で与えられる変換で ある。 ∞ M[f (x)](s) ≡ g(s) = 0 ∞ = 0 dxxs−1 f (x) dx s x f (x) x (21) ただし、s は複素変数 (s = u + iv) である。逆変換は M−1 [g(s)](x) = f (x) = 1 2πi u+i∞ dsx−s g(s) (22) u−i∞ となる。ここで u について、g(u) が発散しない、という条件がある。 (22) 式の導出は、Fourier 変換によって得られる。即ち、(21) 式において x = et と変数変換をすれば、 dx = dt x なので ∞ g(s) = −∞ ∞ = dtest f (et ) dteut eivt f (et ) −∞ = F[eut f (et )](v) として、Fourie 変換に読み直せる。ここで、Fourier 変換の定義として ∞ F[f (t)](ω) = dteiωt f (t) −∞ を選んだ。この場合、逆 Fourier 変換は F −1 [f (ω)](t) = 1 2π ∞ dωe−iωt f (ω) −∞ となる。よって、(23) 式の両辺を v 空間から t 空間へ逆 Fourier 変換すれば 1 2π ∞ dve−ivt g(u + iv) = eut f (et ) −∞ 6 日本語では、メリン変換あるいはメラン変換と呼ばれるようだ。 8 (23) となり、 f (et ) = ∞ 1 2π −∞ u+i∞ 1 = 2π = dve−(u+iv)t g(u + iv) 1 2πi (−ids)e−st g(s) u−i∞ u+i∞ dse−st g(s) u−i∞ よって、(22) 式 f (x) = u+i∞ 1 2πi dsx−s g(s) u−i∞ を得る。 2.2 Fs (α) への応用 f (x) として、次の関数 f (x) = 1 ex − 1 を考えると、その Mellin 変換は ∞ g(s) = 0 ∞ dxxs−1 f (x) 1 −1 0 ∞ −x e = dxxs−1 1 − e−x 0 = ∞ = dxxs−1 ex ∞ e−nx dxxs−1 0 n=1 ∞ ∞ = n=1 dxxs−1 e−nx 0 t = nx とおくと ∞ = ∞ 1 s n n=1 dtts−1 e−t 0 = Γ(s)ζs である。これに、逆 Mellin 変換 (22) 式が成り立つことから f (x) = c+i∞ 1 1 = x e −1 2πi dσΓ(σ)ζσ x−σ (24) c−i∞ が得られる。ここで c は g(c) が正則となる任意の実数であり、今の場合は 1 < c であればよい。 Fs (α) の定義 (9) 式を再掲すると Fs (α) = 1 Γ(s) ∞ 0 9 dx xs x+α x e −1 である。ここで 1 = f (x + α) −1 ex+α であることに気付けば、 Fs (α) = = ∞ 1 Γ(s) 1 2πi c+i∞ dx s 1 x x 2πi 0 c+i∞ dσ c−i∞ Γ(σ)ζσ ∞ Γ(s) c−i∞ 0 dσΓ(σ)ζσ (x + α)−σ xs dx x (x + α)σ (25) という二重積分の形になることが解る。 右辺の x 積分について、x = αt と変数変換すれば ∞ 0 ∞ xs dx = x (x + α)σ dt (αt)s t (αt + α)σ 0 ∞ ts−1 = αs−σ dt (t + 1)σ 0 (26) を得る。 2.2.1 ベータ関数 (26) 式の積分 ∞ dt 0 tx−1 (t + 1)x+y はベータ関数 π/2 B(x, y) = 2 dθ sin2x−1 θ cos2y−1 θ (27) 0 と同値である 7 。これは、t = tan θ とおけば ∞ dt 0 tx−1 = (t + 1)x+y x−1 π/2 dθ 0 tan2 θ 2 tan θ 2 1 + tan θ 1 + tan2 θ π/2 =2 dθ sin θ cos θ 0 π/2 =2 sin θ cos θ x+y 2x−2 (cos θ) 2x+2y dθ sin2x−1 θ cos2y−1 = B(x, y) 0 として、示せる。ベータ関数の公式として、次の Γ 関数との関係がある。 B(x, y) = Γ(x)Γ(y) Γ(x + y) (28) 7 ベータ関数の定義としては 1 B(x, y) = 0 dttx−1 (1 − t)y−1 が最もポピュラーかもしれないが、ここでは証明の都合上、(27) 式を定義とした。なお、上式で t = sin2 θ と置けば (27) 式を得る。 10 これは、次のように証明される。先ず、Γ 関数について ∞ dttx−1 e−t Γ(x) = 0 2 t = s と置くと ∞ ds2ss2(x−1) e−s = 0 ∞ =2 dss2x−1 e−s 2 2 0 であることを使って ∞ Γ(x)Γ(y) = 4 0 dss2x−1 e−s ∞ dsds s 0 ds s 2x−1 −s e 2 0 ∞ =4 ∞ 2 2x−1 s 2y−1 −(s2 +s 2 ) e 0 s = r cos θ, s = r sin θと置くと π/2 =2 ∞ dθ sin2x−1 θ cos2y−1 θ 2 0 dr r2(x+y)−2 e−r 2 0 = B(x, y)Γ(x + y). これは、(28) 式と同値である。 これを (26) 式右辺の積分に使うと、 ∞ dt 0 ts−1 = B(s, σ − s) (t + 1)σ Γ(s)Γ(σ − s) = Γ(σ) となり、(25) 式に戻ると Fs (α) = 1 2πi 1 = 2πi c+i∞ dσζσ c−i∞ c+i∞ Γ(σ) s−σ Γ(s)Γ(σ − s) α Γ(s) Γ(σ) dσ ζσ Γ(σ − s)αs−σ (29) c−i∞ を得る。 2.2.2 複素積分 あとは、(29) 式を実行するだけである。これには、複素積分、即ち留数定理を用いる。図 2 に示 すような積分路 C を考えると、 1 r→∞ 2πi − Fs (α) = lim C dσ ζσ Γ(σ − s)αs−σ C:円弧 |σ| → ∞ において αs−σ → 0 であることから、 dσ ζσ Γ(σ − s)αs−σ = 0 lim r→∞ C:円弧 11 Im r Re c O C 図 2: 積分路 よって、 Fs (α) = lim r→∞ 1 2πi dσ ζσ Γ(σ − s)αs−σ C Res ζz Γ(z − s)αs−z = lim r→∞ i z=ai である。ここで、被積分関数の極を ai と書いた。以下、各極での留数を評価していく。 先ず ζ 関数については、解析接続によって σ = 1 を除く複素平面全体で正則となり、σ = 1 では 1 位の極で、留数は 1 となる。 ζσ について、解析接続を考えなくてもよい σ > 1 の領域で考えると、σ > 1, n > 2 で n+1 n dx 1 ≤ σ ≤ xσ n n n−1 dx xσ が成立し、σ > 1 で 2 1 dx 1 ≤ σ =1 σ x 1 が成立するので m+1 1 m dx 1 ≤ ≤1+ σ xσ x n=1 である。ところで ∞ 1 dx 1 = xσ σ−1 12 m 1 dx xσ なので、m → ∞ とすることで 1 1 ≤ ζσ ≤ 1 − σ−1 σ−1 が分かる。両辺に (σ − 1) をかけると 1 ≤ (σ − 1)ζσ ≤ (σ − 1) + 1 = σ となり、挟み撃ちの原理より lim (σ − 1)ζσ = 1 σ→1+0 を得る。したがって、ζσ は σ = 1 で留数 1 の 1 位の極であることが分かる 8 。 Γ 関数についても解析接続によって z = 0, −1, −2, . . . を除く複素平面全体で正則な関数として 拡張される。z = −n (n ∈ N) での留数は次のように示すことができる。 Γ(z + 1) z Γ(z + 2) = z(z + 1) Γ(z) = .. . = Γ(z + n + 1) z(z + 1) · · · (z + n − 1)(z + n) ここで、微小な正の実数 ε を用いて z = −n + ε と代入すれば Γ(1 + ε) (−n + ε)(−n + 1 + ε) · · · (−1 + ε)ε Γ(1) (−n)(−n + 1) · · · (−1)ε (−1)n = n!ε Γ(−n + ε) = となり、Laurent 展開の −1 次の係数が留数であることから Res Γ(z) = z=−n (−1)n n! である。 以上をまとめると、 ∞ Fs (α) = Γ(1 − s)αs−1 + 1 ζs−n (−α)n n! n=0 (30) を得る。ただし、s = 2, 3, . . . という整数のときは、ζ 関数と Γ 関数の極が重なるためこの式は使 えない。理想 Bose 気体を考える上では (次元 d が整数である限り)s は半整数の値にしかならない ため、ここでは考えない 9 。 8σ > 1 の実軸上しか考えていないので、正確な議論ではない。 [2] によると、s が整数のときでも (30) 式は正しいらしい。 9 文献 13 3 Tc 直上での比熱 (30) 式を用いることで、Tc < T での Tc 近傍の比熱の振る舞いを知ることができる。ただし、 (30) 式を見れば解る通り、Fs (α) は s について指数関数となっているため、一般の d 次元に対して の近似公式を書き下すのは難しい (式がどこまでも煩雑になる)。 3.1 3 次元 一般の d はとりあえず諦めて、d = 3 での Tc 直上の CV を評価してみる。 先ず、Bose-Einstein 積分の必要な値としては F3/2 (α) と F5/2 (α) である。この 2 つについて、 (30) 式を使って次のように近似する。 1 2 F3/2 (α) Γ − F5/2 (α) ζ5/2 − ζ3/2 α α1/2 + ζ3/2 (31) (32) 近似のオーダーが (31) 式は α の 1/2 次まで、(32) 式は 1 次までとなっていて揃っていないが、こ 1 において α1/2 α であるため、妥当であると考えられる。 これらを使って、先ず α の T 依存を解く。これには (16) 式を使って、 れは α F3/2 (α) = ζ3/2 Γ − 1 2 α1/2 + ζ3/2 ζ3/2 Tc T 3/2 Tc T 3/2 ζ3/2 √ 1− 2 π α1/2 Tc T 3/2 . √ ここで Γ(−1/2) = −2 π を使った 10 。 Tc < T での比熱 CV は (17) 式から ∂E ∂T CV = = V F5/2 (α) 3 N kB T 2 F3/2 (α) ∂ = ∂T F5/2 (α) ∂ F5/2 (α) 3 N kB +T 2 F3/2 (α) ∂T F3/2 (α) となる。 ζ5/2 + ζ3/2 α F5/2 (α) √ = F3/2 (α) ζ3/2 − 2 πα1/2 10 Γ(z) = (z − 1)Γ(z − 1) から Γ(1/2) = (−1/2)Γ(−1/2) であり、 Γ 1 2 ∞ = 0 dtt−1/2 e−t = 2 √ (第 2 等号は t = x2 と置いた)。よって Γ(−1/2) = −2 π 。 14 ∞ 0 2 dxe−x = √ π について、α1/2 の関数として Maclaurin 展開する。 a − bx2 c − dx a − bx2 c − dx ∂ ∂x ∂2 ∂x2 bdx2 − 2bcx + ad (c − dx)2 2 ad − bc2 =2 (c − dx)3 = なので a − bx2 c − dx a ad ad2 − bc2 2 + 2x+ x . c c c3 これを利用して √ 3 ζ5/2 2 πζ5/2 1/2 4πζ5/2 − ζ3/2 F5/2 (α) = + α + α. 2 3 F3/2 (α) ζ3/2 ζ3/2 ζ3/2 T 微分について ∂ 1/2 3 ζ3/2 α = √ Tc3/2 T −5/2 ∂T 4 π および ⎫ ⎧ 2 ∂ ⎨ ζ3/2 ∂ α= 1− ∂T ∂T ⎩ 4π = = 2 ζ3/2 4π 2 1− 2 3ζ3/2 4π 1− Tc T Tc T 3/2 Tc T 3/2 3/2 2 ⎬ ⎭ 3 Tc3/2 T −5/2 2 Tc3/2 T −5/2 . よって T 3 ζ5/2 ∂ F5/2 (α) = ∂T F3/2 (α) 2 ζ3/2 Tc T CV についてまとめると ⎧ ⎨ζ ζ5/2 3 5/2 C V = N kB + 1− ⎩ ζ3/2 2 ζ3/2 3 ζ5/2 + 2 ζ3/2 = 3 N kB 2 3/2 Tc T +3 3 3/2 + Tc T 2 ζ3/2 ζ5/2 − ζ3/2 4π 2 ζ3/2 ζ5/2 − ζ3/2 4π + 3 4 2 ζ3/2 ζ5/2 − ζ3/2 4π 3/2 + 2 ζ3/2 ζ5/2 − ζ3/2 4π 1− Tc T 2 ζ3/2 3 ζ5/2 − 2 ζ3/2 4π となる。これが Tc 直上での比熱の振る舞いである。 最後に、CV /N kB と T /TC の関係を図 3 に示す。 λ 型の比熱を上手く近似できていることが解る。 15 1− 3/2 Tc T Tc T 1− Tc T 3/2 + 3/2 Tc T Tc T 3/2 . 3/2 2 3/2 2 ζ3/2 2π −2 ζ5/2 ζ3/2 Tc T 3 2 CV N kB 1.5 1 0.5 0 0 2 4 T TC 6 8 10 図 3: CV 参考文献 [1] 阿部龍蔵, 熱統計力学 (裳華房, 1995) [2] J. E. Robinson, Note on the Bose-Einstein integral functions, Phys. Rev. 83, 678 (1951) [3] F. Y.-H. Wang, Specific heat of an ideal Bose gas above the Bose condensation temperature, Am. J. Phys. 72, 1193 (2004) 16
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