抜けなくて - タテ書き小説ネット

抜けなくて
レン太郎
タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト
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︻小説タイトル︼
抜けなくて
︻Nコード︼
N7977K
︻作者名︼
レン太郎
︻あらすじ︼
空き瓶に指を突っ込み、抜けなくなった。ただそれだけの話な
のだが││。
1
ジュースなどの空き瓶に指を突っ込み、抜けなくなった経験があ
る人も少なくないだろう。では、もしそうなってしまった場合、対
処法としてどうしたらいいのか考えてみよう。
たいがいは、指と瓶の間に石鹸水や油を流し込み、軽く引っ張れ
ば、今まで抜けなかったのが嘘のようにスルリと抜ける。これが定
説であり王道。
しかし、この方法で抜けなかった場合、どうすればいいのかわか
る人はいるだろうか。いるならば、ぜひ私に教えてほしい。
何を隠そう私も、抜けなくなってしまった一人なのだから││。
ことの発端は先程、朝の目覚めの習慣として、瓶のサイダーを一
本、飲み終えたことからはじまる。
心地良いゲップを奏で、何の気無しに、その空き瓶の穴を見てい
たら、男性の闘争本能なのかスケベ根性なのかわからないが、無性
に指を突っ込みたくなった。
最初は人差し指で試してみた。けっこう余裕でセーフだったので、
調子に乗って中指でチャレンジしてみたら、見事に抜けなくなって
しまったのだ。
だが私は慌てずに、台所にあった食器用洗剤を用い、極限まで摩
擦を軽減させ指を引っ張った。でも、抜けない。
その後も、サラダ油やボディーソープ、シャンプーにリンス、お
忍びでアダルトショップに足を運び、購入したローションに至るま
で、ありとあらゆる﹁摩擦軽減ヌルヌルグッズ﹂を試したが、びく
ともしなかった。
もうすぐ、会社に行かなくてはならないので気は焦る。だが、焦
れば焦るほど抜けなくなるような気がしたので、とりあえず笑いな
がら引っ張ってみた。やっぱり抜けない。
2
私は仕方なく、抜けない方の手をスーツのズボンに突っ込み、そ
のまま家を出て駅に向かった。
瓶の大きさで、ズボンがモッコリ。さらには手まで突っ込んでい
るので、端から見るとさぞかし滑稽な姿だろう。
好奇の目に晒されながらも、私は電車に乗り込んだ。調度ラッシ
ュ時を迎え、人混みの中に紛れれば、何とかこの卑猥な部分は隠す
ことができる。そう思っていたが、その考えは甘かった。
私の前にいたOL風の若い女性が、何やらもぞもぞと動いたかと
思えば、その直後、私を鬼の形相で睨みつけた。
そして、私の手をむんずと掴み、駅に停車したと同時にそのまま
引っ張り、私は目的の駅に着く前に引きずり降ろされてしまった。
﹁この人、痴漢です!﹂
近くにいた駅員に、女性はそう叫んだ。
私はその言葉を聞き、はっと気付いた。恐らく満員電車の中で、
ズボンの中の瓶が女性の尻を、お触りしてしまったのだろう。女性
が怒るのも無理はない。なにしろ、尻にモッコリを押し当てられて
しまったのだから。
だが、このモッコリは、仮のモッコリであって、残念ながら本来
の私のモッコリではない。話せばわかると思い、言い訳をしようと
したが、次々と駆け寄ってくる駅員に、私は直感的に﹁ヤバイ﹂と
感じた。
そして私は、逃走するべく路線上にダイブし、そのまま走り続け
た。
﹁何でこんな目に遭わなければならないのだろう﹂と思いながら。
どれくらい走っただろうか。ようやく逃げ切った私は、公園のベ
3
ンチで一休みをした。そしてふと、今だに抜けない瓶を見る。
こんなにも、ジュースの瓶が憎らしく見えたことなどなかった。
瓶を振り上げ、地面に叩き付けようとしたが、なんか痛そうだし、
怪我をして病院に行くことにでもなれば、それこそ馬鹿だ。
││病院?
そうだ病院だ。ここは恥を忍んで病院へ行き、瓶を抜いて貰えば
よいのではないか。最新医療を持ってすれば、この瓶を抜くことな
ど、宇宙の中の一秒にすぎない。
そういえば、公園の前の道を挟んだ向かい側に病院が見える。私
は、いてもたってもいられなくなり、病院という名のパラダイスを
目指し、道路に飛び出した。
だがその直後、私は木の葉のように宙を舞い、そしてアスファル
トを舐めた。そう、安全確認を怠った私は、車にはねられてしまっ
たのだ。
身体は動かず、意識は遠のき、どんな状態なのかも把握できない。
ただ、私の周りに人だかりが出来はじめていたことだけは、何とな
く雰囲気でわかった。
みんな、私の指を見てどう思っているだろう。私は瓶に指を刺し
たまま、晒しものとして死んでゆくのだろうか。そう思いながら、
意識は途絶えていった。
どれくらい眠っていたのだろう。私は、病院のベッドの上で目を
覚ました。どうやら一命は取り留めたようだが、頭をはじめ、体中
に包帯を巻き、我ながら情けない姿だった。
だが幸いなことに、私は生きているようだ。
4
不幸なことをひとつ挙げるとすれば、瓶がまだ指から抜けていな
いということだけだろうか。
︵了︶
5
PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n7977k/
抜けなくて
2012年10月18日15時58分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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